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王子様との出会い
15.クラヴィス伯爵夫妻のご厚意
馬車で到着したクラヴィス伯爵の王都のタウンハウスはとても豪華で広かった。
エルネスト子爵家は王都にタウンハウスなど持っていないので、クラヴィス伯爵家がどれだけ裕福かよく分かる。
王子様とコンラッド様と通された応接室には、わたくしたちの両親もいて、お姉様もわたくしも驚いてしまった。
「お父様、お母様、どうしてここに?」
「お母様、お父様……会いたかったの」
わたくしのお誕生日で会ったばかりではあるが、わたくしはまだ六歳なのである。両親に会えるのは嬉しい。飛びついて行くと、お父様がわたくしを抱っこしてくれた。
「フィーネ、元気だったかな?」
「とっても元気だったの。あ、でも、今日、ちょっとけがをしちゃった」
もうすっかり良くなっている手首をさすると、お父様の薄茶色の目が心配そうにわたくしの手元を覗き込んでくる。
「王子様がいやしてくれて、もう治ったのよ」
「血が出たのか?」
「うん、かなり」
「それは痛かったね。癒されても痛かったのには変わりない。治ってよかった」
わたくしの気持ちを受け止めてくれるお父様に、わたくしは必死になって自分が痛かったことなど気にしていなかったことに気付いた。あのときは興奮状態だったので痛みを感じなかったが、今になって思うと、たくさん血が出て怖かった。
涙ぐんでいると、コンラッド様がわたくしに謝ってくれる。
「緊急事態だったので魔法でブレスレットを壊しましたが、フィーネ嬢を傷付けてしまって申し訳ありませんでした」
「ううん、コンラッド様のせいじゃないの。悪いのはアルノルト様……」
元凶はアルノルト様だと小さく呟くと、両親の視線がわたくしの方に向いている。何が起きたか知りたいのだろう。
それに関してはお姉様が説明してくれた。
「末の王弟殿下のご子息のアルノルト様が、偽物の近衛兵を王宮に忍び込ませてわたくしたちを攫おうとしたのです。フィーネの魔法を封じるために魔法具のブレスレットまで使って。そのブレスレットをコンラッド様が壊したときに、フィーネは怪我をしてしまったのです」
「大事なご令嬢を傷付けてしまって申し訳ありませんでした」
「フィーネとサラの安全のために仕方がなかったのでしょう」
「フィーネの傷も消えています。大丈夫ですね、フィーネ?」
「はい」
謝るコンラッド様に、両親が納得した表情で言うのに、わたくしも頷いた。
それから応接室にクラヴィス伯爵夫妻が入ってきた。クラヴィス伯爵夫妻は両親と同じくらいの年齢で、優しそうな顔をしていた。
「エルネスト子爵夫妻、あなた方のご令嬢のサラ嬢をわたしたちの養子として迎えたいと思っています」
「わたくしたちは、娘を幼いころに亡くしています。幸い、その後二人の息子に恵まれましたが、娘のことが忘れられないのです」
「娘のこととサラ嬢のことは切り離して考えますが、わたしたちがもう一度、娘の親になりたいという気持ちを汲んではくれないでしょうか?」
クラヴィス伯爵夫妻の言葉に、驚いているのはお姉様だった。
全くそんな話は聞いていなかったのだろう。
「わたくしが養子に行くのですか? お父様、お母様、どうしてですか?」
「サラ、よく聞きなさい。高貴な方がお前を奥方に望んでおられるのだ」
「わたくしは結婚などしません。わたくしに結婚など早すぎます」
お姉様はまだ十七歳。この国の成人年齢は十八歳なので、お姉様が結婚できるのは十八歳になってからだ。
躊躇っているお姉様に、コンラッド様が声をかけた。
「サラ嬢と結婚したいと思っているのは、わたしなのです」
「コンラッド様!?」
「フィーネ嬢がレオ殿下の学友となってから、サラ嬢と共に過ごしてきました。ずっとサラ嬢のことは好ましいと思っていたのですが、今日、サラ嬢が偽物の近衛兵に捕らえられているところを見て、わたしは冷静ではいられなかった。それで、フィーネ嬢に怪我をさせてしまうようなことをしてしまいました」
そうだったのか。
コンラッド様はお姉様を助けたくて焦ってしまって、わたくしが怪我をしたのか。それで両親に謝っていた。
理解すると、わたくしは手首の怪我をそれほど怖くなくなっていた。
「わたしは公爵家の嫡男で、煩わしいことがたくさんあると思います。それを少しでも減らすために、クラヴィス伯爵家に養子に入って、わたしと婚約して、しかるべきときが来たら結婚してほしいのです」
コンラッド様がお姉様に告白した!
わたくしはあまりのことに椅子から立ち上がっていた。
お姉様は信じられないように薄茶色の目を見開いている。その目に涙が滲んでくるのをわたくしは見上げていた。
「わたくしでいいのですか?」
「あなたがいいのです、サラ嬢」
コンラッド様の言葉に、お姉様は心を決めたようだった。
「クラヴィス伯爵夫妻、養子の件、お受けいたします」
お姉様の返事に、わたくしは飛び上がって喜んだ。
これでお姉様はコンラッド様と婚約して結婚ができる。
「クラヴィス伯爵夫妻、どうか娘をよろしくおねがいします」
「養子になったとしても、エルネスト子爵家との縁が切れるわけではありません。ぜひ、我が家と交流を持ちましょう」
「ありがとうございます」
こうしてお姉様の養子の件は決まって、お姉様はコンラッド様と婚約することになった。
お兄様も文官の試験に合格したので、秋からは王都で暮らすことになる。
お姉様はコンラッド様と婚約して、お兄様は文官として働くことが決まって、わたくしはとても幸せな気分になっていた。
問題は、お姉様がクラヴィス伯爵家に住むことになると、わたくしがどうなるかだった。
わたくしは恥ずかしながら半泣きになって王子様に白状する。
「わたくし、まだ一人で眠ることができないの……。お姉様がいなかったら……」
お風呂も一人では上手に入れない。一人で眠ることもできない。まだ小さな六歳のわたくしに王子様がクラヴィス伯爵夫妻に提案してくれる。
「サラ嬢はクラヴィス伯爵邸から王宮に通うことになりますが、フィーネ嬢も一緒に暮らすことはできませんか?」
「こんなかわいいお嬢さんと一緒に暮らしていいのですか?」
「王宮までは馬車で送らせます。フィーネ嬢、わたくしたちのタウンハウスで暮らしてくれますか?」
一人で暮らすことを思うと泣き出しそうになっていたわたくしにかけられた優しい言葉に、わたくしの目からぽろりと涙が一粒零れる。その涙を王子様がハンカチで拭ってくれた。
「わたくしも一緒でいいのですか?」
「サラ嬢……いいえ、娘になるのだからサラと呼ばせてもらいましょう。サラの妹ならば歓迎しますよ」
「毎日王宮に通うことになりますが、朝食と夕食は一緒に食べましょうね」
「はい! よろしくおねがいします!」
お姉様と引き離されることはないと分かったわたくしは安堵していた。
クラヴィス伯爵夫妻が申し出てくれたのはそれだけではなかった。
「サラの兄君のアデル殿もよろしければこのタウンハウスで暮らしてもらうのはどうでしょう?」
「そこまでしていただいていいのですか!?」
「フィーネ嬢はお兄様と暮らしたいのではないですか?」
「暮らしたいです!」
わたくしに話を振られて、わたくしは元気よく答える。それに対してクラヴィス伯爵夫妻は大らかに頷いた。
「ぜひ、アデル殿もこちらで滞在していただきましょう」
「タウンハウスは部屋だけはたくさんあります。実は、サラとの話を国王陛下と王妃殿下から聞かされてから、部屋を用意していたのです」
これからわたくしはお姉様だけではなく、お兄様とも一緒に暮らせるようになる。
そのことはわたくしにとっては何よりも嬉しいことだった。
「ありがとうございます、クラヴィス伯爵夫妻」
「わたしたちはサラの義父母になったのです。よければ、伯父様、伯母様と呼んでもらえますか?」
「伯父様、伯母様……」
呼んでみると新鮮な響きにわたくしは胸がどきどきしてくる。
借金を背負った時点で、両親は家族から縁を切られていたので、わたくしは伯父や伯母と呼べる相手がいなかった。
「ようしになるのは、離れることじゃなくて、新しい家族ができることなのね!」
感激するわたくしに、お姉様も両親も微笑んでいた。
エルネスト子爵家は王都にタウンハウスなど持っていないので、クラヴィス伯爵家がどれだけ裕福かよく分かる。
王子様とコンラッド様と通された応接室には、わたくしたちの両親もいて、お姉様もわたくしも驚いてしまった。
「お父様、お母様、どうしてここに?」
「お母様、お父様……会いたかったの」
わたくしのお誕生日で会ったばかりではあるが、わたくしはまだ六歳なのである。両親に会えるのは嬉しい。飛びついて行くと、お父様がわたくしを抱っこしてくれた。
「フィーネ、元気だったかな?」
「とっても元気だったの。あ、でも、今日、ちょっとけがをしちゃった」
もうすっかり良くなっている手首をさすると、お父様の薄茶色の目が心配そうにわたくしの手元を覗き込んでくる。
「王子様がいやしてくれて、もう治ったのよ」
「血が出たのか?」
「うん、かなり」
「それは痛かったね。癒されても痛かったのには変わりない。治ってよかった」
わたくしの気持ちを受け止めてくれるお父様に、わたくしは必死になって自分が痛かったことなど気にしていなかったことに気付いた。あのときは興奮状態だったので痛みを感じなかったが、今になって思うと、たくさん血が出て怖かった。
涙ぐんでいると、コンラッド様がわたくしに謝ってくれる。
「緊急事態だったので魔法でブレスレットを壊しましたが、フィーネ嬢を傷付けてしまって申し訳ありませんでした」
「ううん、コンラッド様のせいじゃないの。悪いのはアルノルト様……」
元凶はアルノルト様だと小さく呟くと、両親の視線がわたくしの方に向いている。何が起きたか知りたいのだろう。
それに関してはお姉様が説明してくれた。
「末の王弟殿下のご子息のアルノルト様が、偽物の近衛兵を王宮に忍び込ませてわたくしたちを攫おうとしたのです。フィーネの魔法を封じるために魔法具のブレスレットまで使って。そのブレスレットをコンラッド様が壊したときに、フィーネは怪我をしてしまったのです」
「大事なご令嬢を傷付けてしまって申し訳ありませんでした」
「フィーネとサラの安全のために仕方がなかったのでしょう」
「フィーネの傷も消えています。大丈夫ですね、フィーネ?」
「はい」
謝るコンラッド様に、両親が納得した表情で言うのに、わたくしも頷いた。
それから応接室にクラヴィス伯爵夫妻が入ってきた。クラヴィス伯爵夫妻は両親と同じくらいの年齢で、優しそうな顔をしていた。
「エルネスト子爵夫妻、あなた方のご令嬢のサラ嬢をわたしたちの養子として迎えたいと思っています」
「わたくしたちは、娘を幼いころに亡くしています。幸い、その後二人の息子に恵まれましたが、娘のことが忘れられないのです」
「娘のこととサラ嬢のことは切り離して考えますが、わたしたちがもう一度、娘の親になりたいという気持ちを汲んではくれないでしょうか?」
クラヴィス伯爵夫妻の言葉に、驚いているのはお姉様だった。
全くそんな話は聞いていなかったのだろう。
「わたくしが養子に行くのですか? お父様、お母様、どうしてですか?」
「サラ、よく聞きなさい。高貴な方がお前を奥方に望んでおられるのだ」
「わたくしは結婚などしません。わたくしに結婚など早すぎます」
お姉様はまだ十七歳。この国の成人年齢は十八歳なので、お姉様が結婚できるのは十八歳になってからだ。
躊躇っているお姉様に、コンラッド様が声をかけた。
「サラ嬢と結婚したいと思っているのは、わたしなのです」
「コンラッド様!?」
「フィーネ嬢がレオ殿下の学友となってから、サラ嬢と共に過ごしてきました。ずっとサラ嬢のことは好ましいと思っていたのですが、今日、サラ嬢が偽物の近衛兵に捕らえられているところを見て、わたしは冷静ではいられなかった。それで、フィーネ嬢に怪我をさせてしまうようなことをしてしまいました」
そうだったのか。
コンラッド様はお姉様を助けたくて焦ってしまって、わたくしが怪我をしたのか。それで両親に謝っていた。
理解すると、わたくしは手首の怪我をそれほど怖くなくなっていた。
「わたしは公爵家の嫡男で、煩わしいことがたくさんあると思います。それを少しでも減らすために、クラヴィス伯爵家に養子に入って、わたしと婚約して、しかるべきときが来たら結婚してほしいのです」
コンラッド様がお姉様に告白した!
わたくしはあまりのことに椅子から立ち上がっていた。
お姉様は信じられないように薄茶色の目を見開いている。その目に涙が滲んでくるのをわたくしは見上げていた。
「わたくしでいいのですか?」
「あなたがいいのです、サラ嬢」
コンラッド様の言葉に、お姉様は心を決めたようだった。
「クラヴィス伯爵夫妻、養子の件、お受けいたします」
お姉様の返事に、わたくしは飛び上がって喜んだ。
これでお姉様はコンラッド様と婚約して結婚ができる。
「クラヴィス伯爵夫妻、どうか娘をよろしくおねがいします」
「養子になったとしても、エルネスト子爵家との縁が切れるわけではありません。ぜひ、我が家と交流を持ちましょう」
「ありがとうございます」
こうしてお姉様の養子の件は決まって、お姉様はコンラッド様と婚約することになった。
お兄様も文官の試験に合格したので、秋からは王都で暮らすことになる。
お姉様はコンラッド様と婚約して、お兄様は文官として働くことが決まって、わたくしはとても幸せな気分になっていた。
問題は、お姉様がクラヴィス伯爵家に住むことになると、わたくしがどうなるかだった。
わたくしは恥ずかしながら半泣きになって王子様に白状する。
「わたくし、まだ一人で眠ることができないの……。お姉様がいなかったら……」
お風呂も一人では上手に入れない。一人で眠ることもできない。まだ小さな六歳のわたくしに王子様がクラヴィス伯爵夫妻に提案してくれる。
「サラ嬢はクラヴィス伯爵邸から王宮に通うことになりますが、フィーネ嬢も一緒に暮らすことはできませんか?」
「こんなかわいいお嬢さんと一緒に暮らしていいのですか?」
「王宮までは馬車で送らせます。フィーネ嬢、わたくしたちのタウンハウスで暮らしてくれますか?」
一人で暮らすことを思うと泣き出しそうになっていたわたくしにかけられた優しい言葉に、わたくしの目からぽろりと涙が一粒零れる。その涙を王子様がハンカチで拭ってくれた。
「わたくしも一緒でいいのですか?」
「サラ嬢……いいえ、娘になるのだからサラと呼ばせてもらいましょう。サラの妹ならば歓迎しますよ」
「毎日王宮に通うことになりますが、朝食と夕食は一緒に食べましょうね」
「はい! よろしくおねがいします!」
お姉様と引き離されることはないと分かったわたくしは安堵していた。
クラヴィス伯爵夫妻が申し出てくれたのはそれだけではなかった。
「サラの兄君のアデル殿もよろしければこのタウンハウスで暮らしてもらうのはどうでしょう?」
「そこまでしていただいていいのですか!?」
「フィーネ嬢はお兄様と暮らしたいのではないですか?」
「暮らしたいです!」
わたくしに話を振られて、わたくしは元気よく答える。それに対してクラヴィス伯爵夫妻は大らかに頷いた。
「ぜひ、アデル殿もこちらで滞在していただきましょう」
「タウンハウスは部屋だけはたくさんあります。実は、サラとの話を国王陛下と王妃殿下から聞かされてから、部屋を用意していたのです」
これからわたくしはお姉様だけではなく、お兄様とも一緒に暮らせるようになる。
そのことはわたくしにとっては何よりも嬉しいことだった。
「ありがとうございます、クラヴィス伯爵夫妻」
「わたしたちはサラの義父母になったのです。よければ、伯父様、伯母様と呼んでもらえますか?」
「伯父様、伯母様……」
呼んでみると新鮮な響きにわたくしは胸がどきどきしてくる。
借金を背負った時点で、両親は家族から縁を切られていたので、わたくしは伯父や伯母と呼べる相手がいなかった。
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