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王子様との出会い
24.王弟殿下の末路
午前中は王子様と同じ部屋で別々の家庭教師から勉強を習って、午後は王子様とダンスや剣術などの稽古をする。
それがわたくしの毎日のカリキュラムだったが、王子様の婚約者になることが決まってから、わたくしの授業は一転した。
王子様と別室で複数の専門的な家庭教師からこの国の言葉だけでなく外国の言語を習い、算術も難しいものになり、歴史や政治の話まで習うようになってきた。
初日は全然分からないことばかりで混乱してしまって、王子様に会いたくて悲しくなってしまったが、家庭教師の先生たちは優しかった。
「辞書の使い方は覚えたと聞いています。これは外国語の簡単な辞書です」
「どうやって引くの?」
「外国語の綴りに合わせてページを開けば、我が国の言語での意味が載っています」
辞書の使い方は分かっている。
辞書がどれだけ便利なものかもわたくしは分かっていた。
辞書を与えられると、わたくしは少しでも自分で頑張ろうと思えたのだった。
「算術も難しくなってきましたが、基礎ができているので、すぐに追い付けると思います」
「わたくし、できるかしら?」
「分からないところは遠慮なく聞いてください。何度でも教えます。分からないところをそのままにして進むよりも、理解してから進んだ方が先での伸びも早いです」
先生たちの優しさに支えられて、わたくしは何とか王子様がいない寂しさに耐えながら勉強することができた。
昼食は王子様とコンラッド様とご一緒できた。
王子様は別の部屋で勉強することになったわたくしに聞いてくれた。
「フィーネ嬢、不自由はありませんか?」
「先生たちは優しいし、平気」
「午後からはダンスの日以外は、行儀作法を習うので、フィーネ嬢とまた別々になってしまいますが、頑張れますか?」
「わたくし、頑張ってみせるわ!」
午後も王子様とは過ごせないようだが、お茶の時間を心の支えに、わたくしは行儀作法の先生から喋り方から座り方、歩き方までを習った。
「フィーネ様はまだ八歳でいらっしゃいますから、覚えが早くて安心しました。今からしっかりと行儀作法を体に叩き込んでおけば、将来はどこに嫁いでも恥ずかしくない振る舞いができるでしょう」
「はい! よろしくお願いします」
行儀作法の先生も、わたくしが八歳だということを考慮して、優しく教えてくれた。
先生たちにはわたくしが将来王太子妃になるために勉強していることを教えられているようだが、誰もそのことは口にせず、ただ勉強形態が変わっただけということでわたくしの王太子妃教育は進められていた。
「先生、わたくし、剣が使えます! 剣のお稽古もしたいのですが」
「フィーネ様が剣を使えることはわたくしも聞いております。フィーネ様の剣の腕は、コンラッド様を凌ぐと言われています。剣のお稽古は週に一度だけにして、それ以外はわたくしの授業を受けていただく形でどうでしょう?」
先生はたくさん教えたいことがあるはずだった。わたくしは八歳で、行儀作法などほとんど習ったことがなくて、敬語もうまく使えない。そんなわたくしにはたくさんの課題があった。
それを譲歩して、週一回剣術の稽古をしていいと言ってくれるのだから、感謝しなければいけない。
「ありがとうございます、先生」
本当はもっとたくさん剣術の稽古をしたかったが、わたくしに足りていないものを先生は教えてくれるのだと信じて、我慢することにした。
きっと王子様は小さなころからもっとたくさん我慢して勉強してきたのだ。それで今の王子様がある。王子様に並んで恥ずかしくないようにするには、わたくしも相応の時間をかける必要があった。
お茶の時間には王子様とコンラッドお義兄様と一緒に過ごせるので、わたくしはお茶の時間を楽しみにしていた。
今日のお茶の時間には、艶々の苺がぎっしり乗ったタルトが出てきた。苺のタルトを美味しくいただいていると、侍女が来客を告げる。
「オスカー王弟殿下が殿下にお会いしたいといらっしゃっています」
「叔父上が?」
楽しかったお茶の時間が急に嫌な雰囲気に包まれる。
末の王弟殿下に関しては、王子様も会いたくないと思っているのだろうが、どうしても立場上無視するわけにはいかないので、王子様はお茶には招きたくないと思ったのか、テラスに出た。
王弟殿下と王子様がテラスで話しているのを、わたくしは耳を澄まして聞いてみる。
「アルノルトの謹慎を解いてくれるように、兄上に伝えてほしい」
「アルノルトが何をしたか覚えていないのですか? サラ嬢とフィーネ嬢を攫おうとしたのですよ?」
「まだアルノルトは分別がついていなかったのだ。我が家で教育をし直して、今では立派な王族になっている」
「王族になっている? 何を仰っているのやら。王族の義務たる国民への奉仕活動を叔父上もアルノルトもしていないことは報告されているのですよ」
はっきりと王子様がその事実を突きつけると、王弟陛下は苦い表情になっている。
「こちらで風にあたりながら冷静に話し合わないか?」
「いえ、わたしはここで結構です」
「いや、こちらに」
王弟殿下が王子様をテラスの柵の方に連れて行こうとしている。
コンラッドお義兄様が異変に気付いて、王子様に駆け寄ろうとしているが、それより先に王弟殿下が動いた。
王弟殿下は王子様を抱え上げて、テラスから落とそうとしたのだ。
わたくしは椅子を倒して立ち上がって走っていた。
王子様がテラスの柵から落とされる瞬間に、王子様の腕を掴んで、子豚の刺繍のされたポシェットから剣を取り出す。
わたくしの身長より大きな剣は、落下し始めたわたくしと王子様の体を支えるために壁に突き立てると、落下が止まった。
わたくしはテラスの柵の少し下で壁に突き立てた剣にぶら下がるようにして王子様をなんとか支えていたのだった。
わたくしに肉体強化の魔法が使えてよかったと思う。
剣を握る手も、王子様の腕を掴んだ手も、緩むことはないし、つらくもない。
「王弟殿下、なんということを! 全て見ていましたよ!」
「レオンハルトが勝手に落ちていったのだ。わたしはなにもしていない」
「そんな言い訳が通じるとは思わないことですね! レオ殿下、フィーネ嬢、すぐにお助けいたします!」
テラスの方からコンラッドお義兄様の声が聞こえて、わたくしはほっと安堵のため息をつく。
王子様はわたくしに捕まって、わたくしを信頼して見上げている。
「フィーネ嬢、助かりました。問題は、ここからどうやって降りるかなのですが」
「わたくしに考えがあるの。王子様、わたくしにしっかりと掴まれる?」
王子様の腕を引き上げて、わたくしは背負うように背中にしっかりと掴まらせる。もう片方の手が空いたわたくしは、壁に突き刺さっている剣をもう片方の手で軽く叩いた。
この剣は魔法具職人が作ったもので、わたくしの思うように形を変える。半分の長さの日本の剣になったそれを、ざくざくと壁に刺しながら、わたくしは腕の届く範囲で少しずつ壁を降りていった。
王子様はしっかりとわたくしの背中にくっついてくれているので安心である。
一番下までたどり着いて剣を壁から引き抜いたわたくしの背中から、王子様が降りてわたくしを抱き締めた。
「フィーネ嬢、ありがとうございます」
「王子様、急だったから思い切り腕を掴んでしまったけれど、痛くない?」
「平気です。あの高さから落ちていたら助からなかったでしょう」
王弟殿下がしたことは、今度こそ許されないだろう。
本当ならば事故に見せかける予定だったのだろうが、王弟殿下は王子様に要求を受け入れてもらえなくて焦るあまりに、行動に出てしまったのだろう。
「叔父上の件に関しては、わたしの方でしっかりと対処します」
王子様がそう言ってくれたので、わたくしも安心することができた。
王弟殿下は捕らえられて、国王陛下の裁きを受けることになったと後で聞いた。
裁きの結果として、息子のアルノルト様と共に、生涯謹慎の上に、国を巡回して癒しの力での奉仕を毎日行うように命じられたと聞いてわたくしは胸がすっとした。
あれだけ嫌がっていた奉仕活動をしなければいけないというのは、王弟殿下にとっても、アルノルト様にとっても屈辱だろう。しかも毎日だから、魔力を毎日使って疲れ果てることになるだろう。
王族としての籍も抜かれて、平民になった王弟殿下とアルノルト様は、今後、国のために働き続けるのだ。
王子様を事故に見せかけて殺そうとした王弟殿下の罪はそれだけ重かったのだと言えるだろう。
裁きが下されたころには、季節は春に移り変わり、日差しもぽかぽかと暖かくなって、わたくしの誕生日が近付いていた。
それがわたくしの毎日のカリキュラムだったが、王子様の婚約者になることが決まってから、わたくしの授業は一転した。
王子様と別室で複数の専門的な家庭教師からこの国の言葉だけでなく外国の言語を習い、算術も難しいものになり、歴史や政治の話まで習うようになってきた。
初日は全然分からないことばかりで混乱してしまって、王子様に会いたくて悲しくなってしまったが、家庭教師の先生たちは優しかった。
「辞書の使い方は覚えたと聞いています。これは外国語の簡単な辞書です」
「どうやって引くの?」
「外国語の綴りに合わせてページを開けば、我が国の言語での意味が載っています」
辞書の使い方は分かっている。
辞書がどれだけ便利なものかもわたくしは分かっていた。
辞書を与えられると、わたくしは少しでも自分で頑張ろうと思えたのだった。
「算術も難しくなってきましたが、基礎ができているので、すぐに追い付けると思います」
「わたくし、できるかしら?」
「分からないところは遠慮なく聞いてください。何度でも教えます。分からないところをそのままにして進むよりも、理解してから進んだ方が先での伸びも早いです」
先生たちの優しさに支えられて、わたくしは何とか王子様がいない寂しさに耐えながら勉強することができた。
昼食は王子様とコンラッド様とご一緒できた。
王子様は別の部屋で勉強することになったわたくしに聞いてくれた。
「フィーネ嬢、不自由はありませんか?」
「先生たちは優しいし、平気」
「午後からはダンスの日以外は、行儀作法を習うので、フィーネ嬢とまた別々になってしまいますが、頑張れますか?」
「わたくし、頑張ってみせるわ!」
午後も王子様とは過ごせないようだが、お茶の時間を心の支えに、わたくしは行儀作法の先生から喋り方から座り方、歩き方までを習った。
「フィーネ様はまだ八歳でいらっしゃいますから、覚えが早くて安心しました。今からしっかりと行儀作法を体に叩き込んでおけば、将来はどこに嫁いでも恥ずかしくない振る舞いができるでしょう」
「はい! よろしくお願いします」
行儀作法の先生も、わたくしが八歳だということを考慮して、優しく教えてくれた。
先生たちにはわたくしが将来王太子妃になるために勉強していることを教えられているようだが、誰もそのことは口にせず、ただ勉強形態が変わっただけということでわたくしの王太子妃教育は進められていた。
「先生、わたくし、剣が使えます! 剣のお稽古もしたいのですが」
「フィーネ様が剣を使えることはわたくしも聞いております。フィーネ様の剣の腕は、コンラッド様を凌ぐと言われています。剣のお稽古は週に一度だけにして、それ以外はわたくしの授業を受けていただく形でどうでしょう?」
先生はたくさん教えたいことがあるはずだった。わたくしは八歳で、行儀作法などほとんど習ったことがなくて、敬語もうまく使えない。そんなわたくしにはたくさんの課題があった。
それを譲歩して、週一回剣術の稽古をしていいと言ってくれるのだから、感謝しなければいけない。
「ありがとうございます、先生」
本当はもっとたくさん剣術の稽古をしたかったが、わたくしに足りていないものを先生は教えてくれるのだと信じて、我慢することにした。
きっと王子様は小さなころからもっとたくさん我慢して勉強してきたのだ。それで今の王子様がある。王子様に並んで恥ずかしくないようにするには、わたくしも相応の時間をかける必要があった。
お茶の時間には王子様とコンラッドお義兄様と一緒に過ごせるので、わたくしはお茶の時間を楽しみにしていた。
今日のお茶の時間には、艶々の苺がぎっしり乗ったタルトが出てきた。苺のタルトを美味しくいただいていると、侍女が来客を告げる。
「オスカー王弟殿下が殿下にお会いしたいといらっしゃっています」
「叔父上が?」
楽しかったお茶の時間が急に嫌な雰囲気に包まれる。
末の王弟殿下に関しては、王子様も会いたくないと思っているのだろうが、どうしても立場上無視するわけにはいかないので、王子様はお茶には招きたくないと思ったのか、テラスに出た。
王弟殿下と王子様がテラスで話しているのを、わたくしは耳を澄まして聞いてみる。
「アルノルトの謹慎を解いてくれるように、兄上に伝えてほしい」
「アルノルトが何をしたか覚えていないのですか? サラ嬢とフィーネ嬢を攫おうとしたのですよ?」
「まだアルノルトは分別がついていなかったのだ。我が家で教育をし直して、今では立派な王族になっている」
「王族になっている? 何を仰っているのやら。王族の義務たる国民への奉仕活動を叔父上もアルノルトもしていないことは報告されているのですよ」
はっきりと王子様がその事実を突きつけると、王弟陛下は苦い表情になっている。
「こちらで風にあたりながら冷静に話し合わないか?」
「いえ、わたしはここで結構です」
「いや、こちらに」
王弟殿下が王子様をテラスの柵の方に連れて行こうとしている。
コンラッドお義兄様が異変に気付いて、王子様に駆け寄ろうとしているが、それより先に王弟殿下が動いた。
王弟殿下は王子様を抱え上げて、テラスから落とそうとしたのだ。
わたくしは椅子を倒して立ち上がって走っていた。
王子様がテラスの柵から落とされる瞬間に、王子様の腕を掴んで、子豚の刺繍のされたポシェットから剣を取り出す。
わたくしの身長より大きな剣は、落下し始めたわたくしと王子様の体を支えるために壁に突き立てると、落下が止まった。
わたくしはテラスの柵の少し下で壁に突き立てた剣にぶら下がるようにして王子様をなんとか支えていたのだった。
わたくしに肉体強化の魔法が使えてよかったと思う。
剣を握る手も、王子様の腕を掴んだ手も、緩むことはないし、つらくもない。
「王弟殿下、なんということを! 全て見ていましたよ!」
「レオンハルトが勝手に落ちていったのだ。わたしはなにもしていない」
「そんな言い訳が通じるとは思わないことですね! レオ殿下、フィーネ嬢、すぐにお助けいたします!」
テラスの方からコンラッドお義兄様の声が聞こえて、わたくしはほっと安堵のため息をつく。
王子様はわたくしに捕まって、わたくしを信頼して見上げている。
「フィーネ嬢、助かりました。問題は、ここからどうやって降りるかなのですが」
「わたくしに考えがあるの。王子様、わたくしにしっかりと掴まれる?」
王子様の腕を引き上げて、わたくしは背負うように背中にしっかりと掴まらせる。もう片方の手が空いたわたくしは、壁に突き刺さっている剣をもう片方の手で軽く叩いた。
この剣は魔法具職人が作ったもので、わたくしの思うように形を変える。半分の長さの日本の剣になったそれを、ざくざくと壁に刺しながら、わたくしは腕の届く範囲で少しずつ壁を降りていった。
王子様はしっかりとわたくしの背中にくっついてくれているので安心である。
一番下までたどり着いて剣を壁から引き抜いたわたくしの背中から、王子様が降りてわたくしを抱き締めた。
「フィーネ嬢、ありがとうございます」
「王子様、急だったから思い切り腕を掴んでしまったけれど、痛くない?」
「平気です。あの高さから落ちていたら助からなかったでしょう」
王弟殿下がしたことは、今度こそ許されないだろう。
本当ならば事故に見せかける予定だったのだろうが、王弟殿下は王子様に要求を受け入れてもらえなくて焦るあまりに、行動に出てしまったのだろう。
「叔父上の件に関しては、わたしの方でしっかりと対処します」
王子様がそう言ってくれたので、わたくしも安心することができた。
王弟殿下は捕らえられて、国王陛下の裁きを受けることになったと後で聞いた。
裁きの結果として、息子のアルノルト様と共に、生涯謹慎の上に、国を巡回して癒しの力での奉仕を毎日行うように命じられたと聞いてわたくしは胸がすっとした。
あれだけ嫌がっていた奉仕活動をしなければいけないというのは、王弟殿下にとっても、アルノルト様にとっても屈辱だろう。しかも毎日だから、魔力を毎日使って疲れ果てることになるだろう。
王族としての籍も抜かれて、平民になった王弟殿下とアルノルト様は、今後、国のために働き続けるのだ。
王子様を事故に見せかけて殺そうとした王弟殿下の罪はそれだけ重かったのだと言えるだろう。
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