可愛いあの子は男前

秋月真鳥

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十章 奏歌くんとの十年目

30.奏歌くんの独占欲と庇護

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 週末に篠田家で奏歌くんのお誕生日パーティーが開かれた。
 クーラーのきいたリビングで、やっちゃんと美歌さんが腕を振るった晩ご飯をご馳走になる。タコのカルパッチョと、生ハムを乗せた洋風ちらし寿司と、茄子とトマトとズッキーニとエリンギの焼き野菜のメニューに私は目を輝かせていた。
 ちらし寿司は一人分ずつ小さめのお重に入っていて、薔薇のように飾られた生ハムと錦糸卵、ころころと小さな四角に切られたチーズとアボカドが彩もよく、イクラも乗せられていて、とても美味しそうだった。
 焼き野菜は私の好物なのでしっかりと食べさせてもらう。タコのカルパッチョは、梅肉がアクセントになっていてさっぱりして美味しかった。
 晩ご飯を食べ終わったところで、ケーキが運ばれて来る。
 大きなケーキは焼き立てのアップルパイだった。

「これに、アイスクリームを添えて食べるのが美味しいんだ」
「この時期に林檎ってあるの?」
「リンゴジャムを使ったんだよ」

 奏歌くんが話しながら私のお皿のアップルパイの横にアイスクリームを添えてくれる。アップルパイを食べると、私好みの味に、何か覚えがあるようで私はフォークを止めた。

「これ、なんだろう。食べたことがある」
「カスタードの代わりにクリームチーズを使ったんだ。そっちの方がさっぱりするからね。海瑠さんはチーズが好きだし」
「クリームチーズか!」

 クリームチーズはチーズケーキにも使われているし、私の大好物だった。そこまで考えて奏歌くんはアップルパイを準備してくれたのだろうか。

「かなくんのお誕生日なのに自分でアップルパイ作っちゃうからな」
「僕が作りたかったんだからいいんだよ。ちらし寿司とかは母さんとやっちゃんが全部作ってくれたよね。ありがとう」

 自分のお誕生日なのに自分でケーキを用意する奏歌くんに苦笑しているやっちゃんだった。
 ケーキを食べ終わると紅茶やコーヒーを飲みながらリビングで寛ぎの時間になる。私は茉優ちゃんに聞いてみたいことがあって、茉優ちゃんの近くに座った。

「茉優ちゃんはやっちゃんに血を分けてもらったのよね?」
「はい。安彦さんとずっと一緒にいたかったから、血を分けてもらったわ」

 血を分けるには茉優ちゃんはまだ年が若すぎるのではないかとやっちゃんはものすごく心配したようだが、美歌さんが説得してくれて茉優ちゃんは念願かなってやっちゃんの正式な伴侶となることができた。

「血を分けると老いるのが遅くなるけど、成長途中の人間はある程度の年になるまではちゃんと成長するらしいってことを、美歌お母さんが言ってくれたの」
「茉優ちゃんはこの年で老いが止まったりはしないのね」
「そうみたいです。この年で止まっても困らないんですけどね」

 今年の秋には18歳になる茉優ちゃんは肉体的にも成熟の兆しを見せている。女の子の17歳といえばこの国の法律ではもう結婚しても許される年なのだから、やっちゃんも頑固に断り続けることはできなかったのだろう。

「血を分けてもらってから、何か変わった?」

 私の問いかけに、茉優ちゃんが問い返す。

「もしかして、海瑠さんも血を分けてもらったの?」
「そうなのよ。それ以降ダンスのキレが良くなったり、声の伸びが良くなったり、血を吸われても気が遠くなるようなことがなくなったから、元が人間の茉優ちゃんはどうなのか知りたくて」

 本題に入ると茉優ちゃんは頷きながら聞いてくれて、答えをくれた。

「前より暗いところで物がよく見えるようになったの。血を吸われても貧血気味になることもなくなったし、食事の量も増えたかなって思ってた」
「他に変化はない?」
「体育があまり得意じゃなかったけど、前よりも体力がついて動けてる感じがするの」

 やはり吸血鬼が血を分けるということに関しては、深い意味合いがあったようだ。相手を伴侶にするために、吸血鬼に近付けるような効果があるのだろう。

「奏歌、あなた、海瑠さんに血を分けたの?」
「分けたよ。僕と海瑠さんは十八歳年の差があるから、ワーキャットがどれだけ生きるのか分からないけど、僕より先に海瑠さんが死んじゃったらすごく悲しいから、お願いしたんだ」

 この件に関して美歌さんもやっちゃんも、奏歌くんから何も聞いていないようだった。追及されても奏歌くんは堂々と答えている。

「そうか、かなくんもそういうことを気にする年になったのか」
「血を分けるって、自分の伴侶にすることなのよ。海瑠さんにその話はした?」
「ちゃんとしたよ!」

 奏歌くんは奏歌くんなりに考えて私に血を分けてくれたし、それは私も了承済みだったので、気にしている美歌さんに私も言葉を添える。

「ちゃんと奏歌くんは話してくれましたよ。私は奏歌くんしか人生の伴侶として考えられないし、奏歌くんもそうだから、大丈夫です」
「それならいいけど。ちゃんと私には相談してよね」
「ごめん、母さん。止められるかと思ったんだ」

 思春期の奏歌くんは美歌さんという母親に相談するのをあまり好ましくないと思う時期なのかもしれない。美歌さんは相談しても反対はしなかったと思うのだが、奏歌くんの中では抵抗感があったのだろう。
 奏歌くんから血を分けられたことは、篠田家での奏歌くんのお誕生日お祝いの日に明らかにされた。私が言いだしていなかったら、奏歌くんは内緒にしておくつもりだったのだろうか。
 奏歌くんの言葉が頭を過る。

――海瑠さん、ありがとう。僕の子どもっぽい独占欲に付き合ってくれて。

 あのとき奏歌くんは「独占欲」という言葉を使った。
 奏歌くんにとってこのことが内緒にしておきたい事実だったのならば、私は妙に胸がドキドキしてしまった。
 翌日も休みで、朝から奏歌くんと私はマンションの部屋で過ごしていた。
 猫の姿になった私を奏歌くんが膝の上に頭を乗せさせて、ブラッシングしてくれる。気持ちよくてだらしなくお腹を見せてしまう私のお腹側も、奏歌くんは丁寧にブラッシングしてくれていた。

「血を分けた話は、もしかして内緒にしておきたかったの?」

 目を閉じてブラッシングする手に身を任せていると、奏歌くんの手が止まる。

「ちょっとだけね」

 奏歌くんにとっては血を分けたことは、母親の美歌さんにも叔父のやっちゃんにも内緒にしたかったことのようだった。

「僕だけが知ってる海瑠さんの事実とか、ちょっと優越感にひたれるでしょう?」
「奏歌くんだけが知ってること、多分いっぱいあると思うけどな」
「それでも、僕と海瑠さんとの将来の約束は、大事なものだから」

 血を分けることが吸血鬼の伴侶になることならば、私と奏歌くんにとってはその儀式はとても大事なものだった。内緒にしておきたかったという奏歌くんの気持ちも分かる。

「言っちゃってごめんね」
「いいよ。口止めしなかったし、そのうちに分かることだからね」

 私が口を滑らせた件に関して、奏歌くんは少しも腹を立てていなかった。寛容な理由を聞いて見たくて奏歌くんに問いかける。

「分かっちゃうの?」
「吸血鬼同士だと、血を分けたひとは、その吸血鬼のオーラが纏わりついてて、他の吸血鬼や人外に狙われなくなるんだ」
「あ、それでか!」

 茉優ちゃんに血を分けたことをやっちゃん自身が奏歌くんに言うわけがないし、奏歌くんは何で気付いたのだろうと思っていたがそういう仕組みがあったわけだ。
 奏歌くんに血を分けてもらったことによって、私は奏歌くんのオーラに守られている状態になっている。他の吸血鬼や人外に狙われなくなるという事実は、私にとってとても嬉しいものだった。

「私は奏歌くんに守られてるんだね」
「うん。僕のオーラは、人間にも牽制になると思うんだ。海瑠さんが妙な相手に付き纏われることもなくなると思うよ」

 ストーカーや勘違い男、セクハラ男に出会ってきた経験のある私からしてみれば、奏歌くんのオーラに守られているということはとてもありがたい。
 16歳の奏歌くんに守られている。
 まだ16歳だが、吸血鬼同士の間に生まれた奏歌くんは、とても血の濃い強い吸血鬼で、私はその庇護下に入ったことで安心していた。
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