末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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四章 キスがしたい十五歳

22.短期留学の後半

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「我が国では、ハーブや果物がよく育ちます。フルーツティーと言いますと、紅茶にフルーツを入れたものや、紅茶にフルーツの香りを付けたものを想像されるかもしれませんが、我が国のフルーツティーはドライフルーツやローズヒップなどを水出しか、お湯出しで飲むのが普通です」

 ドライフルーツやローズヒップなどだけで、紅茶の茶葉を使わないフルーツティーは僕は聞いたことがなかった。
 甘くいい香りのする赤いフルーツティーを試飲させてもらうと、爽やかな甘みと酸っぱさが心地よい。喉の渇きが潤った。

「ミントティーだけでなく、ハーブティーも我が国は有名です。フルーツティーもハーブティーも、茶葉を使っていないので、カフェインが入っていなくて、刺激が少ないという利点があります」

 案内のひとに連れられて隣国の特産品の説明をしてもらった三日目。
 お茶に添えられたお茶菓子に僕の手は伸びなかった。
 何となく食べたいと思わないのだ。

 お腹は空いている。

 朝ご飯は、失礼にならないように出された分は食べたのだが、パンとスープとスクランブルエッグと果物で、普段僕が食べている量の三分の一くらいしかなかった。
 アルマスもヘンリッキも気にせずにお代わりしていたが、僕はお代わりする気力がない。
 フルーツティーもミントティーも美味しいと思うのだが、どうしても頭の中を過るのはロヴィーサ嬢のことだ。

「とても美味しいですね、ロヴィーサ嬢。どれを買って帰りますか?」
「エドヴァルド殿下、俺はアルマスなんだが」
「あ! いけない! つい」

 ロヴィーサ嬢が隣りにいるのが当たり前なので、僕はアルマスにロヴィーサ嬢と呼び掛けて話しかけてしまった。
 恥ずかしくて埋まりたくなりつつ、三日目は終わった。

 四日目は隣国の高等学校に行って、生徒たちと一緒に歴史の授業を受けた。
 僕とアルマスとヘンリッキだけが制服ではないので目立ってしまうが、短期留学生ということで受け入れられていた。
 勉強をしている間も、足元にマンドラゴラ兵団が竹串を構えて警戒している。僕とヘンリッキとアルマスはマンドラゴラ兵団に守られていた。

 五日目の魔窟の見学の日に、僕は久しぶりに頭がくらくらとしていた。微熱があるときの体調だと分かっていたが、これくらいなら慣れているので大丈夫だろうと判断して見学に参加することにする。
 何も言っていないが、ヘンリッキもアルマスも僕の体調不良には気付いている気がしていた。

 僕はこの五日間、ほとんど食事を取っていない。個人的に取り分けられたものは一応食べているのだが、普段食べている量とは比べ物にならない。
 この国は最初は食べきれるだけの量を出して、後からお代わりをするのが普通のようだが、最初の少量の皿に乗せられた料理だけを食べて、お代わりをしない僕に、ヘンリッキもアルマスも気付いていないはずがない。

「ロヴィーサ嬢……」

 恋しくて僕は片耳に付けたイヤリングに指を触れる。
 こんなことで呼ぶつもりはなかったが、僕はロヴィーサ嬢と離れてかなり消耗していた。

 魔窟の見学は、マンドラゴラ兵団が普段よりも警戒して僕とヘンリッキとアルマスの周囲を取り巻いていた。案内のひともマンドラゴラ兵団に阻まれて若干遠い位置にいる。
 魔窟を見下ろす丘に立って、案内のひとが説明をする。

「我が国では魔窟は年に二回、春と秋に大掃除をしております。それ以外で魔窟からモンスターが出てきた場合には、冒険者ギルドと警備兵が協力して対処します」

 話を聞きながら僕はぼんやりとしていた。
 熱が上がって来たのかもしれない。

「エドヴァルド殿下、大丈夫ですか?」
「少し休憩をさせてください」

 ヘンリッキとアルマスが僕の様子に気付いて、敷物を出して僕を座らせて水筒から飲み物を飲ませてくれる。冷えたミントティーに喉は潤ったが、頭はまだくらくらとしている。

「温度差がありますからね。暑さに当てられたのかもしれませんね」

 案内のひとは僕が自国と隣国の気温の差で体調を崩したのではないかと心配してくれている。

「今日の工程はここまでにして帰りましょうか」

 案内のひとが言った瞬間、マンドラゴラ兵団に緊張が走った。

「びぎゃ!」
「びょえ!」
「ぎょわ!」

 魔窟の中からモンスターが出てきている。鳥の翼を持った猪のようなモンスターは、魔窟から出て周辺を伺っていた。

「皆様、お逃げください!」

 案内のひとが声をかけるのと、鳥の翼を持った猪のようなモンスターが飛び上がるのとは同時だった。
 マンドラゴラ兵団が竹串を構えて一気にモンスターに飛びかかる。モンスターはマンドラゴラ兵団を振り払っているが、翼を狙われて地面に降りてきた。
 モンスターから逃げ出したいが、僕は走る気力がない。

「ヘンリッキ、アルマス、逃げて」
「エドヴァルド殿下を置いて逃げられません」
「エドヴァルド殿下、一緒に逃げるぞ!」

 僕を引きずって逃げようとするヘンリッキとアルマスだが、二人の力で僕を連れたまま走るのは難しい。案内のひとは僕とヘンリッキとアルマスを守るために囮になる決心をしたようだ。
 王子である僕と、公爵家の子息であるヘンリッキと、伯爵家の子息でこの国の騎士号までもらっているアルマスが、少しでも怪我をすれば、国際問題になりかねない。
 モンスターの前に走り出る案内のひとに、僕は怪我をして欲しくなかった。

 片耳に付けているイヤリングに触れる。
 今こそ使うときだと分かっていた。

「ロヴィーサ嬢、僕を助けてください!」

 僕の声が響いた瞬間、白い光が辺りを包み込み、つむじ風が起きて、風の中からロヴィーサ嬢が現れる。ロヴィーサ嬢は普段着にエプロン姿だった。

「エド殿下、どうなさったのですか?」
「魔窟からモンスターが出たのです! マンドラゴラ兵団が戦ってくれていますが、マンドラゴラ兵団が食べられてしまうかもしれません」

 それだけではない。囮になろうと前に出た案内のひとも危ない。
 僕の簡単な説明で、すぐに理解したロヴィーサ嬢はモンスターに向かって駆け出す。
 飛び上がろうとしたモンスターをマンドラゴラ兵団が翼にびっしりと取り付いて飛ばせないようにしている中、ロヴィーサ嬢の飛び蹴りがモンスターの背中に決まった。

 ぼぎっ! というとても鈍い音がしてモンスターが血泡を吐いて倒れる。

「エプロンをしてきてよかったです。捌きましょうね」

 大振りのナイフで止めを刺したロヴィーサ嬢はモンスターを捌いて肉に変えてしまった。

「エド殿下、顔色が悪いです。体調がよくないのですか?」
「実は、あまり食べられていないのです」

 万年栄養失調だったときのように、僕は食べないと体調を崩す体質だったようだ。正直にロヴィーサ嬢に言えば、ロヴィーサ嬢がマジックポーチから香辛料や調理用具を取り出して、魔窟の前に火を焚いて、捌いたばかりのモンスターの肉を調理してくれた。
 マジックポーチから取り出したパンにローストビーフのように焼いたモンスターの肉を挟んだサンドイッチを、僕は頬張る。粒マスタードのソースが利いていてとても美味しい。

「ヘンリッキ様とアルマス様もよろしければどうぞ」
「それではいただきます」
「エドヴァルド殿下が食べられていなくて心配していたところでした。ロヴィーサ様が来てくださってよかったです」

 ヘンリッキもアルマスもロヴィーサ嬢のサンドイッチを食べていた。

「どこのどなたか存じませんが、お助けいただきありがとうございます」
「わたくしは、隣国のミエト公爵家の当主、ロヴィーサ・ミエトです。エドヴァルド殿下の婚約者です」
「それは知らないとはいえ失礼を致しました。国王陛下にお伝えいたしましょう」
「いいえ、わたくしが来たことは誰にも伝えないでください。そうですね……モンスターは『赤毛のマティルダ』という隣国の冒険者が倒したことにしてください」

 モンスターが出たとはいえ、隣国にミエト家の当主が来てモンスターを倒したとなると、面倒な話になってしまう。それをロヴィーサ嬢は避けようとしているのだ。

「よろしいのですか?」
「そうしてください。僕からもお願いします」

 僕もロヴィーサ嬢の意向に従うつもりだった。
 ロヴィーサ嬢は僕が魔法石で送り届けて、また僕だけ隣国に戻って来た。

 ロヴィーサ嬢の料理を食べられて、僕は残りの二日も元気に過ごせそうな気がしていた。
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