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11.ティエリーからのお願い
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最近はティエリーの態度がおかしくなっている気はしていたが、同僚との飲み会に連れて行ったとき、ティエリーは楽しそうにしていたし、帰り道で手を繋いで歩いていたら口付けをねだられて、サイモンはご機嫌だった。
ティエリーとの同居もそろそろ二か月になる。
同居一か月くらいでティエリーのヒートが来たが、ティエリーはこれまでにヒート促進剤を使われたことはあったが、抑制剤を使ったことがなく、ヒートの期間も安定していないようなので、いつヒートが来ても番休暇は取れるようにサイモンは準備していた。仕事も毎日自分のやったことを記録して、引継ぎがすぐにできるようにしておく。
ティエリーとの同居から二か月目の記念日に、花束でも買って帰ろうかと浮かれていたら、サイモンの携帯端末に「帰ったらお話があります」とティエリーからメッセージが入っていた。
サイモンは仕事用とプライベート用と携帯端末を二つ持っている。仕事用は最新の携帯端末だが、プライベート用は使い慣れた携帯端末を変えるのが嫌で、少し古いものを使っていた。充電池が弱っていて、すぐに充電が切れてしまうそれを、モバイルバッテリーと共に使っている。
ティエリーが携帯端末を使うことはこれまで一度もなくて、ネットショッピングもしていない様子だったのでサイモンはもしかするとヒートの兆候があったのかもしれないと期待して、数日間引きこもれるだけの食材を買って、いそいそとマンションに帰ってきた。
マンションのリビングで、ティエリーは買い換えた大きなソファに座っていた。
一時期はサイモンの部屋の椅子が定位置になっていたが、最近はソファを買い替えたせいか、ティエリーはまたリビングで過ごすようになっていた。
サイモンが帰ってきたのに気付くと、スリッパでぱたぱたと駆け寄り、両手いっぱいに持っていた食材の袋を受け取ってティエリーは冷蔵庫に食材を入れてくれた。
その間に電気ケトルで湯を沸かし、サイモンはティエリーと自分に紅茶を入れた。
紅茶のカップは婚姻届けを出したことを報告しに行った後で両親から送られてきたお祝いのお揃いのもので、きれいな薄緑のラインの白いカップでソーサーもついていた。このカップはサイモンもティエリーもお気に入りだった。
紅茶を飲みながら話をしようとティエリーの横に座ると、なんとなく体を離された気がする。密着したいのはサイモンだけだったようなので、諦めて微妙に開いた距離を気にしないようにしてサイモンはティエリーに促した。
「話ってなにかな? ヒートの兆候があった?」
「ヒートの兆候はありません」
「そう。それならいいんだけど。なに?」
問いかけると、ティエリーは言いにくそうに口を開けては閉じている。
何でも話してほしかったし、頼ってほしい。ティエリーはサイモンよりも体は大きいが、大人しくて控えめで、そういうところが好ましいのだが、ときには大胆にもなってほしい。自分にはティエリーの色んな顔を見せてほしいと思うのは、サイモンがそれだけティエリーに心傾けている証拠なのだろう。
「次のヒートは一人ですごしたいと言ったら、怒りますか?」
意を決したように口を開いたティエリーに、サイモンは戸惑ってしまう。
サイモンはティエリーのヒートを治める責任がある。ティエリーはサイモンに襲われて無理やり番にされてしまったのだし、番になったオメガは一生アルファに囚われて、番のアルファ以外を受け入れることができなくて、番を解消された場合誰にも慰めてもらうことはできなくてヒートのときには苦しんで自死を選ぶものもいるというのだ。番のアルファとしてサイモンはティエリーのヒートを治める義務があった。
それなのに、ティエリーはヒートを一人で過ごしたいと言っている。
「おれに抱かれるのはやっぱり嫌だった?」
「そんなことはありません! でも、わたしも一人で生きていけるようにならないといけないと思って……。そ、それに、ジルベルトが言っていました。ヒートで訳が分からない状態で抱かれるのは本意じゃない場合もあると」
ジルベルトと離れて二人きりで話をしていたが、こんなことを話していたのか。これはサイモンには相談できなかっただろう。
ジルベルトはオメガとして、ティエリーに番であろうともアルファを拒む権利があるのだとしっかりと教えてくれたようだった。ティエリーがそれを望むのならば仕方がない。サイモンはティエリーに無理強いをするつもりは全くなかった。
「ティエリーがそれを望むなら、おれは従うよ。何をすればいい? できればヒートの期間部屋を空けて、別の場所にいた方がいいのは分かるんだけど、それは心配だから、部屋にはいてもいい? 絶対に襲ったりしない。誓う」
「ここはサイモンの部屋でしょう? それならわたしが別の場所に行くのが当然では?」
「ティエリー、君は人身売買の被害者なんだ。人身売買組織が一応検挙されたと言っても、黒幕は国外逃亡している可能性もあるし、まだ完全には殲滅できていない。一人で別の場所に行くのはお勧めできない」
「わたしのフェロモンがサイモンの迷惑になりませんか?」
「抑制剤が効くかどうか分からないけど、おれもティエリーも抑制剤を使って緊急の抑制剤も用意しておこう」
冷静に対応しながらも、本当は離れていた方がティエリーにとっては安全だということもサイモンには分かっていた。ティエリーが心配で離れられないが、サイモンが一人でどこか別の場所でヒートが終わるまで過ごすのが一番なのだろう。
それでも、サイモンはティエリーのそばから離れる選択ができなかった。
「部屋に鍵がかかるようにしてもらったらいいとジルベルトに言われました」
「それも手配しよう」
「第二の性に特化した病院なら、体質に合った抑制剤が出してもらえるとも聞きました」
「ジルベルトに聞いて、病院の予約を取るよ」
全面的に協力するつもりではあるが、どうしてもティエリーが耐えられなくなったときには、サイモンがそばにいてあげた方がいいのではないだろうか。
ヒートのときには食事も取れないかもしれないし、サイモンが料理を作って部屋の外に置いておけばいい。
「おれの部屋にも鍵をかける。ヒートは理性を失わせるものだと言われてるから、アルファのフェロモンにティエリーが惹かれて来たときに、接触しないように」
「わたしのせいで、すみません」
「いいんだ。ティエリーの思う通りにしたい。他になにかしてほしいことはある?」
「わたしがヒートの間も変わらずに仕事に行ってください。その間にシャワーやトイレを済ませておきます」
番休暇を取らなくていいと言われたことに関しては、反論したかったがサイモンはぐっと我慢した。ティエリーがそれを望んでいるならば叶えなければいけない。
「分かったよ。番休暇は取らない。通常通りに仕事に行く。昼食を用意して置いておくのは構わないか?」
「助かります」
決まったところでサイモンはジルベルトに連絡して第二性に特化した病院の予約を取った。
第二性に特化した病院に行く日には、ティエリーもサイモンもどこかぎこちなかった。ティエリーに次のヒートは抱かれたくないと拒まれてから、サイモンはできる限りティエリーに接触しないように気を付けていた。
ヒートを一緒に過ごさなければ苦しいのが分かっているのに、それを拒むほどにティエリーはサイモンを拒絶している。無理やり番にされたのも嬉しかったと言っていたが、オメガのジルベルトと話して、人身売買組織から離れて世界が広がるにつれて、本当は酷い暴力で従わされただけだと理解してきたのかもしれない。
サイモンの方はティエリーにそばにいて、純粋なティエリーに癒されていたし、慕うように近くにいたがるティエリーを愛してしまっていたから、ティエリーからのはっきりとした拒絶はショックではあった。
それでもいつかはこんな日が来るのは間違いなかったし、ティエリーが常識を知った証拠なのだろうと喜ばなければいけないと理性は言っている。本能ではティエリーを求めて、ティエリーを自分の腕の中に閉じ込めたいのに、サイモンはじっと耐えていた。
第二性に特化した病院では血液検査をされて、フェロモンも測定された。
「クルーゾーさんはフェロモンが微弱なオメガのようですね。それがジュネさんには強く感じられるということは、お二人はフェロモンの相性が非常によくて、もしかすると運命の番なのかもしれません」
「警察署の医務室の医者にも言われました」
「運命の番に関して研究をしているのですが、治験に参加してもらえませんか?」
「それはお断りします」
これまでティエリーは売り物として酷い扱いを受けてきた。それを思い出させるようなことはさせたくないとサイモンが断れば、医者は残念そうな顔をしていた。
「ジュネさんはフェロモンに抵抗力があるようですね。大抵のオメガのフェロモンでは誘われない性質だったでしょう?」
「ヒート中のオメガと会っても、理性がなくなったことはありません。ティエリーのときだけです」
「そうすると、やはり運命の番ではないかと思うんですよね。治験に……」
「参加しません」
「残念です。そんなお二人に体質に合う抑制剤をいくつか処方してみますが、効かない可能性もありますので、それはご了承ください」
どれだけ体質に合うものでも、サイモンとティエリーは相性がよすぎてお互いのフェロモンを強く感じるようになってしまっているようなので、抑制剤も効かない可能性がある。それを聞いてサイモンはティエリーにもう一度だけ確かめた。
「本当に抑制剤でヒートを乗り切るつもりなのか?」
「はい」
二人のやり取りを聞いて医者が驚いている。
「番がいるのに、ヒートを一人で過ごすのですか?」
「ヒート期間は寝室は別にします」
「それでは危険かもしれません。これだけフェロモンの相性がいいので、寝室を別にしても、フェロモンを感じてジュネさんはラット状態になってしまうかもしれないし、クルーゾーさんはジュネさんの寝室に自分の意思ではなくても行ってしまうかもしれません」
寝室を別にするのも危険だと医者からはっきり言われた。
抑制剤を処方してもらって、サイモンとティエリーは車に乗ってマンションに帰る。マンションのティエリーの部屋にもサイモンの部屋にも鍵が取り付けられていたが、それはティエリーの腕力でも、サイモンの腕力でも、壊せそうなものだった。ティエリーも力はある方だし、サイモンはアルファで鍛えているので腕力があるので、ドアくらいひと蹴りで開けてしまえる。
「やっぱり、最初の三日間は別の場所に泊まることにする」
「ご迷惑をおかけします」
「ヒートの兆候が出たらすぐに教えてほしい。食糧だけ買い込んで置いたら、近くのホテルに泊まるよ」
本当ならば一番苦しい期間を一緒に過ごしたかった。
ティエリーを抱くことができなくても、食事を作ったり、洗濯をしたりしてティエリーを少しでも補佐したかった。
それも医者からは危険だと止められたのだから仕方がない。
ヒートが一番激しいのは最初の三日間だけなので、四日目以降はサイモンは部屋に戻ってティエリーの世話を焼こうを決めていた。
ティエリーとの同居もそろそろ二か月になる。
同居一か月くらいでティエリーのヒートが来たが、ティエリーはこれまでにヒート促進剤を使われたことはあったが、抑制剤を使ったことがなく、ヒートの期間も安定していないようなので、いつヒートが来ても番休暇は取れるようにサイモンは準備していた。仕事も毎日自分のやったことを記録して、引継ぎがすぐにできるようにしておく。
ティエリーとの同居から二か月目の記念日に、花束でも買って帰ろうかと浮かれていたら、サイモンの携帯端末に「帰ったらお話があります」とティエリーからメッセージが入っていた。
サイモンは仕事用とプライベート用と携帯端末を二つ持っている。仕事用は最新の携帯端末だが、プライベート用は使い慣れた携帯端末を変えるのが嫌で、少し古いものを使っていた。充電池が弱っていて、すぐに充電が切れてしまうそれを、モバイルバッテリーと共に使っている。
ティエリーが携帯端末を使うことはこれまで一度もなくて、ネットショッピングもしていない様子だったのでサイモンはもしかするとヒートの兆候があったのかもしれないと期待して、数日間引きこもれるだけの食材を買って、いそいそとマンションに帰ってきた。
マンションのリビングで、ティエリーは買い換えた大きなソファに座っていた。
一時期はサイモンの部屋の椅子が定位置になっていたが、最近はソファを買い替えたせいか、ティエリーはまたリビングで過ごすようになっていた。
サイモンが帰ってきたのに気付くと、スリッパでぱたぱたと駆け寄り、両手いっぱいに持っていた食材の袋を受け取ってティエリーは冷蔵庫に食材を入れてくれた。
その間に電気ケトルで湯を沸かし、サイモンはティエリーと自分に紅茶を入れた。
紅茶のカップは婚姻届けを出したことを報告しに行った後で両親から送られてきたお祝いのお揃いのもので、きれいな薄緑のラインの白いカップでソーサーもついていた。このカップはサイモンもティエリーもお気に入りだった。
紅茶を飲みながら話をしようとティエリーの横に座ると、なんとなく体を離された気がする。密着したいのはサイモンだけだったようなので、諦めて微妙に開いた距離を気にしないようにしてサイモンはティエリーに促した。
「話ってなにかな? ヒートの兆候があった?」
「ヒートの兆候はありません」
「そう。それならいいんだけど。なに?」
問いかけると、ティエリーは言いにくそうに口を開けては閉じている。
何でも話してほしかったし、頼ってほしい。ティエリーはサイモンよりも体は大きいが、大人しくて控えめで、そういうところが好ましいのだが、ときには大胆にもなってほしい。自分にはティエリーの色んな顔を見せてほしいと思うのは、サイモンがそれだけティエリーに心傾けている証拠なのだろう。
「次のヒートは一人ですごしたいと言ったら、怒りますか?」
意を決したように口を開いたティエリーに、サイモンは戸惑ってしまう。
サイモンはティエリーのヒートを治める責任がある。ティエリーはサイモンに襲われて無理やり番にされてしまったのだし、番になったオメガは一生アルファに囚われて、番のアルファ以外を受け入れることができなくて、番を解消された場合誰にも慰めてもらうことはできなくてヒートのときには苦しんで自死を選ぶものもいるというのだ。番のアルファとしてサイモンはティエリーのヒートを治める義務があった。
それなのに、ティエリーはヒートを一人で過ごしたいと言っている。
「おれに抱かれるのはやっぱり嫌だった?」
「そんなことはありません! でも、わたしも一人で生きていけるようにならないといけないと思って……。そ、それに、ジルベルトが言っていました。ヒートで訳が分からない状態で抱かれるのは本意じゃない場合もあると」
ジルベルトと離れて二人きりで話をしていたが、こんなことを話していたのか。これはサイモンには相談できなかっただろう。
ジルベルトはオメガとして、ティエリーに番であろうともアルファを拒む権利があるのだとしっかりと教えてくれたようだった。ティエリーがそれを望むのならば仕方がない。サイモンはティエリーに無理強いをするつもりは全くなかった。
「ティエリーがそれを望むなら、おれは従うよ。何をすればいい? できればヒートの期間部屋を空けて、別の場所にいた方がいいのは分かるんだけど、それは心配だから、部屋にはいてもいい? 絶対に襲ったりしない。誓う」
「ここはサイモンの部屋でしょう? それならわたしが別の場所に行くのが当然では?」
「ティエリー、君は人身売買の被害者なんだ。人身売買組織が一応検挙されたと言っても、黒幕は国外逃亡している可能性もあるし、まだ完全には殲滅できていない。一人で別の場所に行くのはお勧めできない」
「わたしのフェロモンがサイモンの迷惑になりませんか?」
「抑制剤が効くかどうか分からないけど、おれもティエリーも抑制剤を使って緊急の抑制剤も用意しておこう」
冷静に対応しながらも、本当は離れていた方がティエリーにとっては安全だということもサイモンには分かっていた。ティエリーが心配で離れられないが、サイモンが一人でどこか別の場所でヒートが終わるまで過ごすのが一番なのだろう。
それでも、サイモンはティエリーのそばから離れる選択ができなかった。
「部屋に鍵がかかるようにしてもらったらいいとジルベルトに言われました」
「それも手配しよう」
「第二の性に特化した病院なら、体質に合った抑制剤が出してもらえるとも聞きました」
「ジルベルトに聞いて、病院の予約を取るよ」
全面的に協力するつもりではあるが、どうしてもティエリーが耐えられなくなったときには、サイモンがそばにいてあげた方がいいのではないだろうか。
ヒートのときには食事も取れないかもしれないし、サイモンが料理を作って部屋の外に置いておけばいい。
「おれの部屋にも鍵をかける。ヒートは理性を失わせるものだと言われてるから、アルファのフェロモンにティエリーが惹かれて来たときに、接触しないように」
「わたしのせいで、すみません」
「いいんだ。ティエリーの思う通りにしたい。他になにかしてほしいことはある?」
「わたしがヒートの間も変わらずに仕事に行ってください。その間にシャワーやトイレを済ませておきます」
番休暇を取らなくていいと言われたことに関しては、反論したかったがサイモンはぐっと我慢した。ティエリーがそれを望んでいるならば叶えなければいけない。
「分かったよ。番休暇は取らない。通常通りに仕事に行く。昼食を用意して置いておくのは構わないか?」
「助かります」
決まったところでサイモンはジルベルトに連絡して第二性に特化した病院の予約を取った。
第二性に特化した病院に行く日には、ティエリーもサイモンもどこかぎこちなかった。ティエリーに次のヒートは抱かれたくないと拒まれてから、サイモンはできる限りティエリーに接触しないように気を付けていた。
ヒートを一緒に過ごさなければ苦しいのが分かっているのに、それを拒むほどにティエリーはサイモンを拒絶している。無理やり番にされたのも嬉しかったと言っていたが、オメガのジルベルトと話して、人身売買組織から離れて世界が広がるにつれて、本当は酷い暴力で従わされただけだと理解してきたのかもしれない。
サイモンの方はティエリーにそばにいて、純粋なティエリーに癒されていたし、慕うように近くにいたがるティエリーを愛してしまっていたから、ティエリーからのはっきりとした拒絶はショックではあった。
それでもいつかはこんな日が来るのは間違いなかったし、ティエリーが常識を知った証拠なのだろうと喜ばなければいけないと理性は言っている。本能ではティエリーを求めて、ティエリーを自分の腕の中に閉じ込めたいのに、サイモンはじっと耐えていた。
第二性に特化した病院では血液検査をされて、フェロモンも測定された。
「クルーゾーさんはフェロモンが微弱なオメガのようですね。それがジュネさんには強く感じられるということは、お二人はフェロモンの相性が非常によくて、もしかすると運命の番なのかもしれません」
「警察署の医務室の医者にも言われました」
「運命の番に関して研究をしているのですが、治験に参加してもらえませんか?」
「それはお断りします」
これまでティエリーは売り物として酷い扱いを受けてきた。それを思い出させるようなことはさせたくないとサイモンが断れば、医者は残念そうな顔をしていた。
「ジュネさんはフェロモンに抵抗力があるようですね。大抵のオメガのフェロモンでは誘われない性質だったでしょう?」
「ヒート中のオメガと会っても、理性がなくなったことはありません。ティエリーのときだけです」
「そうすると、やはり運命の番ではないかと思うんですよね。治験に……」
「参加しません」
「残念です。そんなお二人に体質に合う抑制剤をいくつか処方してみますが、効かない可能性もありますので、それはご了承ください」
どれだけ体質に合うものでも、サイモンとティエリーは相性がよすぎてお互いのフェロモンを強く感じるようになってしまっているようなので、抑制剤も効かない可能性がある。それを聞いてサイモンはティエリーにもう一度だけ確かめた。
「本当に抑制剤でヒートを乗り切るつもりなのか?」
「はい」
二人のやり取りを聞いて医者が驚いている。
「番がいるのに、ヒートを一人で過ごすのですか?」
「ヒート期間は寝室は別にします」
「それでは危険かもしれません。これだけフェロモンの相性がいいので、寝室を別にしても、フェロモンを感じてジュネさんはラット状態になってしまうかもしれないし、クルーゾーさんはジュネさんの寝室に自分の意思ではなくても行ってしまうかもしれません」
寝室を別にするのも危険だと医者からはっきり言われた。
抑制剤を処方してもらって、サイモンとティエリーは車に乗ってマンションに帰る。マンションのティエリーの部屋にもサイモンの部屋にも鍵が取り付けられていたが、それはティエリーの腕力でも、サイモンの腕力でも、壊せそうなものだった。ティエリーも力はある方だし、サイモンはアルファで鍛えているので腕力があるので、ドアくらいひと蹴りで開けてしまえる。
「やっぱり、最初の三日間は別の場所に泊まることにする」
「ご迷惑をおかけします」
「ヒートの兆候が出たらすぐに教えてほしい。食糧だけ買い込んで置いたら、近くのホテルに泊まるよ」
本当ならば一番苦しい期間を一緒に過ごしたかった。
ティエリーを抱くことができなくても、食事を作ったり、洗濯をしたりしてティエリーを少しでも補佐したかった。
それも医者からは危険だと止められたのだから仕方がない。
ヒートが一番激しいのは最初の三日間だけなので、四日目以降はサイモンは部屋に戻ってティエリーの世話を焼こうを決めていた。
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