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後編 (受け視点)
10.生き残ったミヒャエル
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王太子殿下のディーデリヒが高校卒業と同時に付き合っていた学友と結婚を発表した。国中が式典で賑わっている中、母屋の屋敷のミヒャエルは焦っていた。
「こんなはずじゃなかった……アルトゥロがディーデリヒ王太子殿下と結婚するはずだったのに」
英雄譚ではアルトゥロは高校卒業後にディーデリヒと結婚して、次期国王の配偶者となると記されている。妊娠している期間も、娘のルイーゼを産み落としてからも、ミヒャエルは母のルイーゼの記した書記を手放すことなく、ずっと読み続けていた。英雄譚に歪みを出してしまったのはミヒャエルの存在なのだろうか。
絶対にアルトゥロがミヒャエルを殺す場面だけは、歪めてはならない。アルトゥロがミヒャエルを殺せなければ、ミヒャエルは隣国の魔法使いの依り代となって、魂は失われて肉体だけが乗っ取られ、魔王となってこの国を滅ぼしてしまうのだ。
この国が滅べば、アルトゥロも娘のルイーゼも未来がない。そうならないためにも、ミヒャエルは間違いなくアルトゥロに殺されることが必要だった。
隣国からはきな臭い噂が流れてくる。
「隣国は遂に憑依魔法を完成させたようですね」
娘のルイーゼにミルクを飲ませていたフリーダが言うのに、ミヒャエルは椅子に座ったままでその話を聞いていた。ミルクを飲み終わったルイーゼは、オムツが濡れているのを取り換えられて、ベビーベッドに寝かされている。
暖かく柔らかなタオルケットを体にかけられて、お腹をしばらく撫でられているとルイーゼは大人しく眠りについたようだ。保温ポットからフリーダが紅茶をカップに注いでミヒャエルの分も準備してくれる。添えられた焼き菓子の包装を剥がして齧りながら、ミヒャエルはフリーダに問いかけた。
「隣国の大魔法使いはもう動き出しているのですか?」
「依り代を探しているという噂を聞きます。この国を滅ぼそうと狙っているのだと」
国という枠組みが滅んだところで人々には変わりはないのかもしれないが、隣国の支配を受ける生活と、この国の王政と議会制に守られる生活とどちらがいいと市井の人々が思っているかはミヒャエルには分からない。
ただ、大魔法使いの求める依り代は自分であって、ミヒャエルが乗り移られた瞬間にアルトゥロがミヒャエルを殺せば、何の問題もなくこの国は守られる。アルトゥロは大魔法使いを魔王にする前に倒した英雄として祀り上げられて、次期国王の配偶者となるはずだった未来は変わってしまったが、それでも国王の信頼厚い人物として取り立てられることには変わりないだろう。
「依り代は印があると聞いていますが、そういえば、お姉様も、ミヒャエル様も目の色が違いましたわね」
「僕は母に似たので」
「まさか、ミヒャエル様が依り代なんてこと、絶対にありませんね」
笑い飛ばしてしまうフリーダに、ミヒャエルは真実を告げなかった。母のルイーゼは生まれてきた息子の目の色が金と水色だったときに、この運命は変えられないのだと悟ったのだと言っていた。ルイーゼは病で命を落とし、ミヒャエルは19歳でアルトゥロに殺されて死ぬ。変えられない運命を知った母のルイーゼは、延命治療を希望せず、死ぬ瞬間までミヒャエルのそばにいてくれた。
「母は僕と一緒に過ごすために延命治療を受けなかったのです。叔母上にはつらい思いをさせてしまいました」
「ミヒャエル様、あなたが謝ることではありません」
「娘のこと、どうかよろしくお願いします」
手を握って必死に言えば、フリーダが不思議そうな顔をしている。
「自分が死んでしまうようなことを言わないでくださいませ。縁起でもないですわ」
「叔母上には本当にお世話になりました」
「ミヒャエル様、どうしても出て行かねばならないのですか? わたくしはどれだけミヒャエル様がこのお屋敷にいても構いません。嬉しいだけです」
子どもを産んでしまったのだからできるだけ早くこの場所を離れるべきだし、娘のルイーゼとも別れがたくならないようにしたいのだが、フリーダはミヒャエルを引き留めてくる。出て行かなければいけないと思いつつも、後ろ髪引かれてしまって、ミヒャエルはアルトゥロが大学に入学する日まで母屋に滞在してしまった。
英雄譚に書かれた日、ミヒャエルの通っていた大学に行く準備を整えていると、ベビーベッドで娘のルイーゼが泣いていた。抱き上げてあやすと、ルイーゼはきゃっきゃと笑う。
「外見は完全に僕に似てるのに、笑い方はアルトゥロに似てるんだね。アルトゥロは顔がいいから、君も将来美人になるかもしれない」
話しかけて抱き締めてミヒャエルは目を閉じる。ミルクの香りのする小さなルイーゼは可愛くて、愛しくて、ベビーベッドに降ろすのが躊躇われた。フリーダを呼んでルイーゼを預けて、ミヒャエルは大学に向かった。一年近く部屋から出ていなかったので、足が鈍っている。大学までは車で送り届けてもらったが、校内を歩くのは少し苦しかった。すぐに疲れて息が切れてしまうミヒャエルだが、もうすぐ自分が死ぬことを考えれば、それももう終わりになるのだと必死に歩く。
校舎の中を抜けて中庭に差し掛かったところで、ミヒャエルはアルトゥロの姿に気付いた。気分が悪くなるほどの臭気が渦巻いて、ミヒャエルを乗っ取ろうとしているのが分かる。空が曇って来ているのもミヒャエルを狙う隣国の大魔法使いの気配が近付いてきているからだろう。
「ミヒャエル! 今までどうしてたんだ? 身体は平気なのか?」
「アルトゥロ、ときが来た」
抱き締めようと腕を伸ばしてくるアルトゥロの胸を押し返し、ミヒャエルは告げた。アルトゥロがミヒャエルの胸元に触れたような気がするが、それを気にしている場合ではない。
「攻撃の魔法の使い方は分かるね? 憑依してすぐの魔王は体が馴染むまで魔法を使えない。その間に確実に仕留めるんだ」
「ミヒャエル、俺はあなたを殺さない!」
「殺すんだ、アルトゥロ! そのために僕は生きて来た。今日このとき、君に殺されるために、19年、僕は生きて来たんだ」
この期に及んで運命に逆らおうとするアルトゥロだが、ミヒャエルが大魔法使いに憑依されてしまえば殺す以外の選択肢はなくなるだろう。生臭い風が吹き、臭気が辺りを覆い尽くしている。
脳内に直接響くような掠れた声に、ミヒャエルは目を閉じた。
『我が依り代、遂に憑依魔法は完成した。さぁ、地獄を始めよう』
強い風がミヒャエルの周りを吹き荒れているようだが、その中心にいるミヒャエルにはほとんど影響がない。これで終わるのだと閉じた目に、娘のルイーゼの姿が浮かんだ。最後に見せた笑顔はどこかアルトゥロの表情と似ていた気がする。
アルトゥロがミヒャエルに笑いかけたことがあっただろうか。いつも気難しく怒ったような顔ばかりしていた気がする。最後に笑い顔が見たかったが、それも無理なようだ。
黒い霧に包まれて、その霧が体内に侵入して来ようとしたとき、ミヒャエルの胸元でぱきんっと何かが砕ける音がした。
『憑依、できない、だと……』
「え!? ど、どういう、こと!?」
ミヒャエルの身体を覆い尽くしていた黒い霧がミヒャエルの体から離れていく。何が起きているか分からないままのミヒャエルの前で、アルトゥロが攻撃したのはミヒャエルではなくその霧の方だった。空を切り裂く魔法によって、霧が密集した靄のようなものが真っ二つに切り裂かれて霧散していく。
『依り代に宿れない……消滅してしまう!? いやだぁー!? 死にたくない! しにた……』
靄が消えていく。
これはいったいどういうことなのだろう。
唖然として突っ立っているミヒャエルを、アルトゥロが抱き締めてくる。アルトゥロが抱き締めるべきはミヒャエルではなくディーデリヒのはずだが、ディーデリヒは既に他の相手と結婚しているのでそれはそれで不倫になってしまうとか、ミヒャエルが全く違うことを考えていると、アルトゥロの顔が間近にあった。
やはり、英雄は顔もいい。
「どうして、僕は生きているんだ!?」
「さっき抱き締めたときに、ミヒャエルの胸ポケットにこれを入れたんだ」
疑問を口にすれば、アルトゥロはミヒャエルのシャツの胸を探って、胸ポケットから小さな飾りのようなものを取り出す。それがディーデリヒの付けていたピアスだとミヒャエルが教えてもらうのは後のこと。
「役に立ったみたいだな。よかったよ」
「助かった、ディーデリヒ」
「お兄さんと幸せに」
駆け寄って来たディーデリヒは砕けた飾りを見て笑顔で妙なことを言って来る。
「幸せにって……僕と幸せにって、どういうこと?」
「俺とミヒャエルのことをディーデリヒは応援してくれてるんだ」
「は!? ディーデリヒ王太子殿下と結婚するのは、君のはずなんだよ?」
「その予言は外れたな。俺がミヒャエルを殺す予言も外れた」
もう訳が分からない。
母上、こんなの英雄譚に書いてありません。僕はどうすればいいんですか?
亡くなった母のルイーゼにミヒャエルは取り縋って助けを求めたい気分だった。
「どうして? 僕は今日死ぬはずだったのに」
「死ななかっただろ? これからは俺と生きていくんだ」
「そんな……死なない未来なんて、考えたことない」
死なない未来を考えたことのないミヒャエルにアルトゥロは無茶苦茶なことを言う。
「ここから先の予言なんてないんだろう? 誰でも明日のことなんて分からないんだよ。何の保証もない自由な未来を生きていこう?」
英雄譚の通りに生きて来た。それが実現される日をずっと待っていた。それがまさか覆るなんて予想外過ぎて、ミヒャエルは両眼から涙を零していた。悲しいとかつらいとか嬉しいとかそういう感情はなく、ただただショックだった。
「ミヒャエル、俺と生きていこう」
零れる涙に口付けながら言うアルトゥロに、ミヒャエルが言えたのは一言だけ。
「君、家に帰ったら、自分のしたことを後悔するからね?」
ディーデリヒと結婚する未来を捨てて、ミヒャエルとの間に子どもができたと聞いたらアルトゥロはどんな顔をするだろう。
英雄譚にはこの先は書かれていないので、ミヒャエルは予測もできなかった。
「こんなはずじゃなかった……アルトゥロがディーデリヒ王太子殿下と結婚するはずだったのに」
英雄譚ではアルトゥロは高校卒業後にディーデリヒと結婚して、次期国王の配偶者となると記されている。妊娠している期間も、娘のルイーゼを産み落としてからも、ミヒャエルは母のルイーゼの記した書記を手放すことなく、ずっと読み続けていた。英雄譚に歪みを出してしまったのはミヒャエルの存在なのだろうか。
絶対にアルトゥロがミヒャエルを殺す場面だけは、歪めてはならない。アルトゥロがミヒャエルを殺せなければ、ミヒャエルは隣国の魔法使いの依り代となって、魂は失われて肉体だけが乗っ取られ、魔王となってこの国を滅ぼしてしまうのだ。
この国が滅べば、アルトゥロも娘のルイーゼも未来がない。そうならないためにも、ミヒャエルは間違いなくアルトゥロに殺されることが必要だった。
隣国からはきな臭い噂が流れてくる。
「隣国は遂に憑依魔法を完成させたようですね」
娘のルイーゼにミルクを飲ませていたフリーダが言うのに、ミヒャエルは椅子に座ったままでその話を聞いていた。ミルクを飲み終わったルイーゼは、オムツが濡れているのを取り換えられて、ベビーベッドに寝かされている。
暖かく柔らかなタオルケットを体にかけられて、お腹をしばらく撫でられているとルイーゼは大人しく眠りについたようだ。保温ポットからフリーダが紅茶をカップに注いでミヒャエルの分も準備してくれる。添えられた焼き菓子の包装を剥がして齧りながら、ミヒャエルはフリーダに問いかけた。
「隣国の大魔法使いはもう動き出しているのですか?」
「依り代を探しているという噂を聞きます。この国を滅ぼそうと狙っているのだと」
国という枠組みが滅んだところで人々には変わりはないのかもしれないが、隣国の支配を受ける生活と、この国の王政と議会制に守られる生活とどちらがいいと市井の人々が思っているかはミヒャエルには分からない。
ただ、大魔法使いの求める依り代は自分であって、ミヒャエルが乗り移られた瞬間にアルトゥロがミヒャエルを殺せば、何の問題もなくこの国は守られる。アルトゥロは大魔法使いを魔王にする前に倒した英雄として祀り上げられて、次期国王の配偶者となるはずだった未来は変わってしまったが、それでも国王の信頼厚い人物として取り立てられることには変わりないだろう。
「依り代は印があると聞いていますが、そういえば、お姉様も、ミヒャエル様も目の色が違いましたわね」
「僕は母に似たので」
「まさか、ミヒャエル様が依り代なんてこと、絶対にありませんね」
笑い飛ばしてしまうフリーダに、ミヒャエルは真実を告げなかった。母のルイーゼは生まれてきた息子の目の色が金と水色だったときに、この運命は変えられないのだと悟ったのだと言っていた。ルイーゼは病で命を落とし、ミヒャエルは19歳でアルトゥロに殺されて死ぬ。変えられない運命を知った母のルイーゼは、延命治療を希望せず、死ぬ瞬間までミヒャエルのそばにいてくれた。
「母は僕と一緒に過ごすために延命治療を受けなかったのです。叔母上にはつらい思いをさせてしまいました」
「ミヒャエル様、あなたが謝ることではありません」
「娘のこと、どうかよろしくお願いします」
手を握って必死に言えば、フリーダが不思議そうな顔をしている。
「自分が死んでしまうようなことを言わないでくださいませ。縁起でもないですわ」
「叔母上には本当にお世話になりました」
「ミヒャエル様、どうしても出て行かねばならないのですか? わたくしはどれだけミヒャエル様がこのお屋敷にいても構いません。嬉しいだけです」
子どもを産んでしまったのだからできるだけ早くこの場所を離れるべきだし、娘のルイーゼとも別れがたくならないようにしたいのだが、フリーダはミヒャエルを引き留めてくる。出て行かなければいけないと思いつつも、後ろ髪引かれてしまって、ミヒャエルはアルトゥロが大学に入学する日まで母屋に滞在してしまった。
英雄譚に書かれた日、ミヒャエルの通っていた大学に行く準備を整えていると、ベビーベッドで娘のルイーゼが泣いていた。抱き上げてあやすと、ルイーゼはきゃっきゃと笑う。
「外見は完全に僕に似てるのに、笑い方はアルトゥロに似てるんだね。アルトゥロは顔がいいから、君も将来美人になるかもしれない」
話しかけて抱き締めてミヒャエルは目を閉じる。ミルクの香りのする小さなルイーゼは可愛くて、愛しくて、ベビーベッドに降ろすのが躊躇われた。フリーダを呼んでルイーゼを預けて、ミヒャエルは大学に向かった。一年近く部屋から出ていなかったので、足が鈍っている。大学までは車で送り届けてもらったが、校内を歩くのは少し苦しかった。すぐに疲れて息が切れてしまうミヒャエルだが、もうすぐ自分が死ぬことを考えれば、それももう終わりになるのだと必死に歩く。
校舎の中を抜けて中庭に差し掛かったところで、ミヒャエルはアルトゥロの姿に気付いた。気分が悪くなるほどの臭気が渦巻いて、ミヒャエルを乗っ取ろうとしているのが分かる。空が曇って来ているのもミヒャエルを狙う隣国の大魔法使いの気配が近付いてきているからだろう。
「ミヒャエル! 今までどうしてたんだ? 身体は平気なのか?」
「アルトゥロ、ときが来た」
抱き締めようと腕を伸ばしてくるアルトゥロの胸を押し返し、ミヒャエルは告げた。アルトゥロがミヒャエルの胸元に触れたような気がするが、それを気にしている場合ではない。
「攻撃の魔法の使い方は分かるね? 憑依してすぐの魔王は体が馴染むまで魔法を使えない。その間に確実に仕留めるんだ」
「ミヒャエル、俺はあなたを殺さない!」
「殺すんだ、アルトゥロ! そのために僕は生きて来た。今日このとき、君に殺されるために、19年、僕は生きて来たんだ」
この期に及んで運命に逆らおうとするアルトゥロだが、ミヒャエルが大魔法使いに憑依されてしまえば殺す以外の選択肢はなくなるだろう。生臭い風が吹き、臭気が辺りを覆い尽くしている。
脳内に直接響くような掠れた声に、ミヒャエルは目を閉じた。
『我が依り代、遂に憑依魔法は完成した。さぁ、地獄を始めよう』
強い風がミヒャエルの周りを吹き荒れているようだが、その中心にいるミヒャエルにはほとんど影響がない。これで終わるのだと閉じた目に、娘のルイーゼの姿が浮かんだ。最後に見せた笑顔はどこかアルトゥロの表情と似ていた気がする。
アルトゥロがミヒャエルに笑いかけたことがあっただろうか。いつも気難しく怒ったような顔ばかりしていた気がする。最後に笑い顔が見たかったが、それも無理なようだ。
黒い霧に包まれて、その霧が体内に侵入して来ようとしたとき、ミヒャエルの胸元でぱきんっと何かが砕ける音がした。
『憑依、できない、だと……』
「え!? ど、どういう、こと!?」
ミヒャエルの身体を覆い尽くしていた黒い霧がミヒャエルの体から離れていく。何が起きているか分からないままのミヒャエルの前で、アルトゥロが攻撃したのはミヒャエルではなくその霧の方だった。空を切り裂く魔法によって、霧が密集した靄のようなものが真っ二つに切り裂かれて霧散していく。
『依り代に宿れない……消滅してしまう!? いやだぁー!? 死にたくない! しにた……』
靄が消えていく。
これはいったいどういうことなのだろう。
唖然として突っ立っているミヒャエルを、アルトゥロが抱き締めてくる。アルトゥロが抱き締めるべきはミヒャエルではなくディーデリヒのはずだが、ディーデリヒは既に他の相手と結婚しているのでそれはそれで不倫になってしまうとか、ミヒャエルが全く違うことを考えていると、アルトゥロの顔が間近にあった。
やはり、英雄は顔もいい。
「どうして、僕は生きているんだ!?」
「さっき抱き締めたときに、ミヒャエルの胸ポケットにこれを入れたんだ」
疑問を口にすれば、アルトゥロはミヒャエルのシャツの胸を探って、胸ポケットから小さな飾りのようなものを取り出す。それがディーデリヒの付けていたピアスだとミヒャエルが教えてもらうのは後のこと。
「役に立ったみたいだな。よかったよ」
「助かった、ディーデリヒ」
「お兄さんと幸せに」
駆け寄って来たディーデリヒは砕けた飾りを見て笑顔で妙なことを言って来る。
「幸せにって……僕と幸せにって、どういうこと?」
「俺とミヒャエルのことをディーデリヒは応援してくれてるんだ」
「は!? ディーデリヒ王太子殿下と結婚するのは、君のはずなんだよ?」
「その予言は外れたな。俺がミヒャエルを殺す予言も外れた」
もう訳が分からない。
母上、こんなの英雄譚に書いてありません。僕はどうすればいいんですか?
亡くなった母のルイーゼにミヒャエルは取り縋って助けを求めたい気分だった。
「どうして? 僕は今日死ぬはずだったのに」
「死ななかっただろ? これからは俺と生きていくんだ」
「そんな……死なない未来なんて、考えたことない」
死なない未来を考えたことのないミヒャエルにアルトゥロは無茶苦茶なことを言う。
「ここから先の予言なんてないんだろう? 誰でも明日のことなんて分からないんだよ。何の保証もない自由な未来を生きていこう?」
英雄譚の通りに生きて来た。それが実現される日をずっと待っていた。それがまさか覆るなんて予想外過ぎて、ミヒャエルは両眼から涙を零していた。悲しいとかつらいとか嬉しいとかそういう感情はなく、ただただショックだった。
「ミヒャエル、俺と生きていこう」
零れる涙に口付けながら言うアルトゥロに、ミヒャエルが言えたのは一言だけ。
「君、家に帰ったら、自分のしたことを後悔するからね?」
ディーデリヒと結婚する未来を捨てて、ミヒャエルとの間に子どもができたと聞いたらアルトゥロはどんな顔をするだろう。
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