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番外編
フリーダの幸福な日々
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姉のルイーゼが亡くなってからは、フリーダはその死を悼むためだけに生き延びているようなものだった。月命日にはルイーゼのお墓に行って花を供える。墓石の前に立つたびにフリーダは涙が止まらなかった。
涙も涸れ果てようとした三年後、フリーダはルイーゼの墓の前で運命的な出会いを果たす。倒れ込むようにして墓石に縋っていたのはルイーゼの息子のミヒャエルだった。
生前ルイーゼが可愛がっていたミヒャエルは、ルイーゼそっくりでずっと気にはしていた。力になれることがあれば何でもしたい。ミヒャエルがアルトゥロとの間に子どもができたかもしれないと悩んでいるのを立ち聞きしてしまったフリーダはミヒャエルに問いかけた。
「ミヒャエル様ではありませんか。こんなところでコートも着ずに。体を冷やしますよ」
「叔母上……き、聞いていましたか!?」
「聞こえてしまいました。アルトゥロとの子がお腹にいるかもしれないというのは、本当なのですか?」
「叔母上……どんな謗りを受けても構いません。僕は、この子だけは無事に産みたいのです」
ミヒャエルは女性としては長身のフリーダのコートが着れるくらい痩せて弱っていた。まだ18歳のミヒャエル一人だけで子どもを産み育てるのは難しいだろう。
「わたくしに任せてはくれませんか?」
「え? 叔母上に? 叔母上は僕を軽蔑していないのですか?」
申し出るとミヒャエルが戸惑っているのが分かる。それを押し切るだけの情熱がフリーダの中にわいてくるのを感じていた。
ミヒャエルのお腹にいるのはアルトゥロの子ども。つまり、ルイーゼの息子とフリーダの息子が結ばれたわけで、これは実質ルイーゼとフリーダが結ばれたことにはならないだろうか。
真剣にそんなことを考えていたので、フリーダは自分がおかしなことを言っている自覚はない。
「軽蔑など致しません。アルトゥロが若さのままにしでかしてしまったことは取り返しがつきませんが、わたくしの息子とお姉様の息子との間に赤ん坊が生まれることはとても素晴らしいことです」
「す、素晴らしいこと、なのですか?」
「アルトゥロに知られることなく安全に赤ん坊を産みたいのですね?」
「そうです。僕には頼れる場所はどこにもなくて、カードを使えば履歴でアルトゥロに知られてしまうし」
アルトゥロはあれでいて結構な子どもだ。体だけは大きいが考えの及ばないところが多々ある。母屋に入るなとフリーダが命じれば、疑うことなく素直に従ってしまうだろう。
「車に乗ってくださいませ。わたくしの屋敷のお姉様の部屋をミヒャエル様のためにお空けします」
「アルトゥロと同じ敷地内ではないですか。すぐに露見しますよ?」
「アルトゥロには絶対に母屋に入らないように言い聞かせます。元々わたくしのことを鬱陶しく思っているようだから、母屋に近付こうともしないでしょう」
こうしてフリーダはミヒャエルを保護して子どもを産む助けをすることに成功した。子どもが生まれるまでの期間、姉のルイーゼそっくりのミヒャエルがルイーゼの部屋にいてくれて、寛いでくれているのを見るたびに心が満たされた。ルイーゼは病で命を落としてしまったが、ミヒャエルは生きている。ミヒャエルの存在が近くにあることが、フリーダの救いになった。
生まれて来た赤ん坊はまた、ミヒャエルにそっくりの金髪に白い肌に金色と水色の目で、しかも女の子だった。赤ん坊を抱いて泣くミヒャエルにフリーダは声をかける。
「ミヒャエル様、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
「ありがとうございます。叔母上の助けがなければ産むことはできなかった。どうか叔母上が名づけの親になってくださいませんか?」
名前を付けるとなってフリーダはたった一つの名前しか浮かばなかった。
「お姉様にそっくり……お姉様のお名前をいただいて、ルイーゼと名付けましょう」
「ルイーゼ……母上の名前ですね。叔母上、理由は言えませんが、僕はここを出て行かなくてはなりません。ルイーゼをどうかよろしくお願いします」
「産後すぐに動いてはいけません。落ち着いてから。大丈夫です、わたくしがルイーゼのことは命を懸けて守ります」
男性の妊娠なのでお腹を切らなくては産めなかったミヒャエルは、麻酔をかけて痛みをなくしての帝王切開だったが、それでも体に負担が大きいことには変わりない。どこかへ行ってしまおうとするミヒャエルをフリーダは引き留めた。
その数か月後、ミヒャエルは一度家を出たがすぐにアルトゥロを連れて戻って来た。
フリーダはミヒャエルからルイーゼが前世の記憶を持っていたことを語られた。姉のルイーゼが浮世離れしていたのはそのせいだったのかと理解する。
孫のルイーゼは順調に大きくなっていた。
ミルクをたくさん飲んで、オムツが汚れると泣いて教えてくれて、着替えさせてミルクを飲ませるとぐっすりと眠る。健康的なルイーゼの成長を見ているのがフリーダにとっては何よりの楽しみだった。
悩みがあるとすれば、一つだけ。ルイーゼに自分のことを何と呼ばせるかだった。
フリーダは19歳でアルトゥロを産んでいる。ミヒャエルが孫のルイーゼを産んだのはアルトゥロがまだ18歳だったとき。そのときにはフリーダはまだ37歳だったのだ。フリーダが母親でもおかしくない年齢である。
「ルイーゼ、あなたはわたくしを何と呼んでくれるでしょう?」
ふわふわの金色の髪を撫でていると、ルイーゼがベビーベッドの上で目を開けて、フリーダを見つけるとにっこりと微笑む。愛らしい笑顔にフリーダは胸が満たされる気がしていた。
1歳を超えて喋り始めたルイーゼは、ミヒャエルがフリーダを「叔母上」と呼ぶのを真似しているようだった。
「おばーえ! おばーえ!」
「はいはい、わたくしのことですね」
「ルイーゼ、叔母上はルイーゼにとってはお祖母様なのだから、おかしいよ」
「いいのです、ルイーゼがわたくしを呼んでくれることが嬉しいのです」
ミヒャエルは間違いを正そうとするが、愛らしく拙く呼ばれるだけでフリーダは天にも昇る心地になる。
「すみません、僕が叔母上と呼ぶから」
「気にしないでくださいませ。ルイーゼ、上手に呼べていい子ですね」
「るー、じょーじゅ!」
「とても上手ですよ」
手放しでルイーゼが可愛がるし、夜はアルトゥロとミヒャエルの時間を作るために乳母がルイーゼを見ているところを、フリーダが奪って行って自分の部屋にベビーベッドを置いて一緒に寝ることもしばしばだった。
それでルイーゼがフリーダに懐かないはずがない。
「フリーダ、ですよ」
「ふーおばーえ!」
「叔母上ではなくて……そうですね、叔母様の方がいいかもしれません」
「ふーおばたま!」
教え込んでいるとアルトゥロからは白い目で見られるがそんなことは全く気にしない。アルトゥロはアルトゥロなりに父親としてルイーゼに関わろうと努力しているのだが、フリーダがルイーゼを溺愛しているがためにあまりルイーゼに近寄れなくなってきた。
「ぱっぱ、らっこ!」
「おいで、ルイーゼ」
「ぱっぱ、ぼさぼさ!」
美容室に行くのが嫌で自分で髪を切っているアルトゥロは前髪は上手に切れるのだが、後ろや横が上手く切れずに長く伸びている。手を伸ばして髪の毛をくしゃくしゃにされて、アルトゥロは苦笑していた。
ルイーゼが3歳になった頃に、ミヒャエルから相談があった。
「ルイーゼを幼稚園に入れた方がいいと叔母上は思われますか?」
「家で面倒を見られるから、それではいけませんか?」
「ルイーゼが学校に入学する前に、集団行動を覚えていた方がいいと思うのです」
そうは言われても、フリーダはルイーゼのいない日中を過ごすのが信じられない。朝の十時から昼の二時までと言われても、その数時間だけでもルイーゼと離れているのがつらくてたまらなかった。
「せめて、4歳。4歳の秋からにしませんか?」
初夏生まれのルイーゼは学年で誕生日の遅い子どもになってしまう。3歳で入園してしまうと体の小ささや幼さがまだ顕著に目立つ時期なので、もう一年入学を遅らせたいという要望はミヒャエルにも響いたようだった。
「叔母上が負担でないならば、4歳からの入園にしましょう」
なんとかルイーゼと過ごせる日々を伸ばせたとフリーダは安心していた。話し合いが終わって部屋に帰ると、ルイーゼがフリーダの化粧鏡の前に座っていた。
「ルイーゼ?」
声をかけるとびくりと震えて振り返らない。
そっと肩に手をかけて振り返らせると、顔中にフリーダのブランド物の口紅を塗りたくっていた。
「ごめんなたい……きれいきれいちたかったの……」
「可愛いお顔が真っ赤ですよ。顔を洗いに行きましょうね」
「フリーダおばたま、おこってなぁい?」
「怒らなくてもルイーゼは自分が悪いことをしたと分かったでしょう?」
優しく言えばルイーゼの色違いの目からぽろぽろと涙が零れる。石鹸でよく洗って口紅を落とした後で、フリーダは車にルイーゼを乗せて買い物に行った。女の子のための玩具を売っている売り場で、本当に使っても子どもの肌に優しいお化粧ごっこセットを買う。
「これならば、ルイーゼのものですから、好きに使って構いません」
「フリーダおばたま、ちめにぬりぬりするのもある?」
「マニキュアもありますが、色が少ないかもしれませんね。欲しい色があるのですか?」
「ぱっぱのおめめと、まっまのおめめのいろ」
ルイーゼのお願いは可愛いもので、フリーダはルイーゼに選ばせてマニキュアの紫と水色を買い足した。
おやつには二人で厨房に立ってクッキングをする。小さなエプロンを着けたルイーゼは踏み台に乗って、一生懸命パンケーキの生地を混ぜる。火傷をしないように気を付けてフリーダが手を貸して焼いて、出来上がったパンケーキにはルイーゼが思う存分フルーツと生クリームを飾り付ける。
「ぱっぱ、まっま、おやつ、るーがちくった!」
「ルイーゼのおやつか、美味しそうだな」
「アルトゥロ、甘いものは苦手だったんじゃないか?」
「ルイーゼのパンケーキは別だ」
ミヒャエルとアルトゥロの前にお皿を持って行って、ルイーゼは目を輝かせて二人が食べるのを見ていた。
フリーダの幸福な日々は続く。
涙も涸れ果てようとした三年後、フリーダはルイーゼの墓の前で運命的な出会いを果たす。倒れ込むようにして墓石に縋っていたのはルイーゼの息子のミヒャエルだった。
生前ルイーゼが可愛がっていたミヒャエルは、ルイーゼそっくりでずっと気にはしていた。力になれることがあれば何でもしたい。ミヒャエルがアルトゥロとの間に子どもができたかもしれないと悩んでいるのを立ち聞きしてしまったフリーダはミヒャエルに問いかけた。
「ミヒャエル様ではありませんか。こんなところでコートも着ずに。体を冷やしますよ」
「叔母上……き、聞いていましたか!?」
「聞こえてしまいました。アルトゥロとの子がお腹にいるかもしれないというのは、本当なのですか?」
「叔母上……どんな謗りを受けても構いません。僕は、この子だけは無事に産みたいのです」
ミヒャエルは女性としては長身のフリーダのコートが着れるくらい痩せて弱っていた。まだ18歳のミヒャエル一人だけで子どもを産み育てるのは難しいだろう。
「わたくしに任せてはくれませんか?」
「え? 叔母上に? 叔母上は僕を軽蔑していないのですか?」
申し出るとミヒャエルが戸惑っているのが分かる。それを押し切るだけの情熱がフリーダの中にわいてくるのを感じていた。
ミヒャエルのお腹にいるのはアルトゥロの子ども。つまり、ルイーゼの息子とフリーダの息子が結ばれたわけで、これは実質ルイーゼとフリーダが結ばれたことにはならないだろうか。
真剣にそんなことを考えていたので、フリーダは自分がおかしなことを言っている自覚はない。
「軽蔑など致しません。アルトゥロが若さのままにしでかしてしまったことは取り返しがつきませんが、わたくしの息子とお姉様の息子との間に赤ん坊が生まれることはとても素晴らしいことです」
「す、素晴らしいこと、なのですか?」
「アルトゥロに知られることなく安全に赤ん坊を産みたいのですね?」
「そうです。僕には頼れる場所はどこにもなくて、カードを使えば履歴でアルトゥロに知られてしまうし」
アルトゥロはあれでいて結構な子どもだ。体だけは大きいが考えの及ばないところが多々ある。母屋に入るなとフリーダが命じれば、疑うことなく素直に従ってしまうだろう。
「車に乗ってくださいませ。わたくしの屋敷のお姉様の部屋をミヒャエル様のためにお空けします」
「アルトゥロと同じ敷地内ではないですか。すぐに露見しますよ?」
「アルトゥロには絶対に母屋に入らないように言い聞かせます。元々わたくしのことを鬱陶しく思っているようだから、母屋に近付こうともしないでしょう」
こうしてフリーダはミヒャエルを保護して子どもを産む助けをすることに成功した。子どもが生まれるまでの期間、姉のルイーゼそっくりのミヒャエルがルイーゼの部屋にいてくれて、寛いでくれているのを見るたびに心が満たされた。ルイーゼは病で命を落としてしまったが、ミヒャエルは生きている。ミヒャエルの存在が近くにあることが、フリーダの救いになった。
生まれて来た赤ん坊はまた、ミヒャエルにそっくりの金髪に白い肌に金色と水色の目で、しかも女の子だった。赤ん坊を抱いて泣くミヒャエルにフリーダは声をかける。
「ミヒャエル様、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
「ありがとうございます。叔母上の助けがなければ産むことはできなかった。どうか叔母上が名づけの親になってくださいませんか?」
名前を付けるとなってフリーダはたった一つの名前しか浮かばなかった。
「お姉様にそっくり……お姉様のお名前をいただいて、ルイーゼと名付けましょう」
「ルイーゼ……母上の名前ですね。叔母上、理由は言えませんが、僕はここを出て行かなくてはなりません。ルイーゼをどうかよろしくお願いします」
「産後すぐに動いてはいけません。落ち着いてから。大丈夫です、わたくしがルイーゼのことは命を懸けて守ります」
男性の妊娠なのでお腹を切らなくては産めなかったミヒャエルは、麻酔をかけて痛みをなくしての帝王切開だったが、それでも体に負担が大きいことには変わりない。どこかへ行ってしまおうとするミヒャエルをフリーダは引き留めた。
その数か月後、ミヒャエルは一度家を出たがすぐにアルトゥロを連れて戻って来た。
フリーダはミヒャエルからルイーゼが前世の記憶を持っていたことを語られた。姉のルイーゼが浮世離れしていたのはそのせいだったのかと理解する。
孫のルイーゼは順調に大きくなっていた。
ミルクをたくさん飲んで、オムツが汚れると泣いて教えてくれて、着替えさせてミルクを飲ませるとぐっすりと眠る。健康的なルイーゼの成長を見ているのがフリーダにとっては何よりの楽しみだった。
悩みがあるとすれば、一つだけ。ルイーゼに自分のことを何と呼ばせるかだった。
フリーダは19歳でアルトゥロを産んでいる。ミヒャエルが孫のルイーゼを産んだのはアルトゥロがまだ18歳だったとき。そのときにはフリーダはまだ37歳だったのだ。フリーダが母親でもおかしくない年齢である。
「ルイーゼ、あなたはわたくしを何と呼んでくれるでしょう?」
ふわふわの金色の髪を撫でていると、ルイーゼがベビーベッドの上で目を開けて、フリーダを見つけるとにっこりと微笑む。愛らしい笑顔にフリーダは胸が満たされる気がしていた。
1歳を超えて喋り始めたルイーゼは、ミヒャエルがフリーダを「叔母上」と呼ぶのを真似しているようだった。
「おばーえ! おばーえ!」
「はいはい、わたくしのことですね」
「ルイーゼ、叔母上はルイーゼにとってはお祖母様なのだから、おかしいよ」
「いいのです、ルイーゼがわたくしを呼んでくれることが嬉しいのです」
ミヒャエルは間違いを正そうとするが、愛らしく拙く呼ばれるだけでフリーダは天にも昇る心地になる。
「すみません、僕が叔母上と呼ぶから」
「気にしないでくださいませ。ルイーゼ、上手に呼べていい子ですね」
「るー、じょーじゅ!」
「とても上手ですよ」
手放しでルイーゼが可愛がるし、夜はアルトゥロとミヒャエルの時間を作るために乳母がルイーゼを見ているところを、フリーダが奪って行って自分の部屋にベビーベッドを置いて一緒に寝ることもしばしばだった。
それでルイーゼがフリーダに懐かないはずがない。
「フリーダ、ですよ」
「ふーおばーえ!」
「叔母上ではなくて……そうですね、叔母様の方がいいかもしれません」
「ふーおばたま!」
教え込んでいるとアルトゥロからは白い目で見られるがそんなことは全く気にしない。アルトゥロはアルトゥロなりに父親としてルイーゼに関わろうと努力しているのだが、フリーダがルイーゼを溺愛しているがためにあまりルイーゼに近寄れなくなってきた。
「ぱっぱ、らっこ!」
「おいで、ルイーゼ」
「ぱっぱ、ぼさぼさ!」
美容室に行くのが嫌で自分で髪を切っているアルトゥロは前髪は上手に切れるのだが、後ろや横が上手く切れずに長く伸びている。手を伸ばして髪の毛をくしゃくしゃにされて、アルトゥロは苦笑していた。
ルイーゼが3歳になった頃に、ミヒャエルから相談があった。
「ルイーゼを幼稚園に入れた方がいいと叔母上は思われますか?」
「家で面倒を見られるから、それではいけませんか?」
「ルイーゼが学校に入学する前に、集団行動を覚えていた方がいいと思うのです」
そうは言われても、フリーダはルイーゼのいない日中を過ごすのが信じられない。朝の十時から昼の二時までと言われても、その数時間だけでもルイーゼと離れているのがつらくてたまらなかった。
「せめて、4歳。4歳の秋からにしませんか?」
初夏生まれのルイーゼは学年で誕生日の遅い子どもになってしまう。3歳で入園してしまうと体の小ささや幼さがまだ顕著に目立つ時期なので、もう一年入学を遅らせたいという要望はミヒャエルにも響いたようだった。
「叔母上が負担でないならば、4歳からの入園にしましょう」
なんとかルイーゼと過ごせる日々を伸ばせたとフリーダは安心していた。話し合いが終わって部屋に帰ると、ルイーゼがフリーダの化粧鏡の前に座っていた。
「ルイーゼ?」
声をかけるとびくりと震えて振り返らない。
そっと肩に手をかけて振り返らせると、顔中にフリーダのブランド物の口紅を塗りたくっていた。
「ごめんなたい……きれいきれいちたかったの……」
「可愛いお顔が真っ赤ですよ。顔を洗いに行きましょうね」
「フリーダおばたま、おこってなぁい?」
「怒らなくてもルイーゼは自分が悪いことをしたと分かったでしょう?」
優しく言えばルイーゼの色違いの目からぽろぽろと涙が零れる。石鹸でよく洗って口紅を落とした後で、フリーダは車にルイーゼを乗せて買い物に行った。女の子のための玩具を売っている売り場で、本当に使っても子どもの肌に優しいお化粧ごっこセットを買う。
「これならば、ルイーゼのものですから、好きに使って構いません」
「フリーダおばたま、ちめにぬりぬりするのもある?」
「マニキュアもありますが、色が少ないかもしれませんね。欲しい色があるのですか?」
「ぱっぱのおめめと、まっまのおめめのいろ」
ルイーゼのお願いは可愛いもので、フリーダはルイーゼに選ばせてマニキュアの紫と水色を買い足した。
おやつには二人で厨房に立ってクッキングをする。小さなエプロンを着けたルイーゼは踏み台に乗って、一生懸命パンケーキの生地を混ぜる。火傷をしないように気を付けてフリーダが手を貸して焼いて、出来上がったパンケーキにはルイーゼが思う存分フルーツと生クリームを飾り付ける。
「ぱっぱ、まっま、おやつ、るーがちくった!」
「ルイーゼのおやつか、美味しそうだな」
「アルトゥロ、甘いものは苦手だったんじゃないか?」
「ルイーゼのパンケーキは別だ」
ミヒャエルとアルトゥロの前にお皿を持って行って、ルイーゼは目を輝かせて二人が食べるのを見ていた。
フリーダの幸福な日々は続く。
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