愛することはないと言われた花嫁ですが、夫の真実の愛を知りました

秋月真鳥

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22.わたくしの証言とギヨーム殿下に下された判決

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 証言台に立つと、わたくしは議員を見渡した。すり鉢状になっている議会の会場の一番くぼんだ部分から議員たちを見上げると、わたくしに視線が向いているのが分かる。
 伯爵夫人も、令嬢も、ギヨーム殿下の王子妃の元侍女も、この視線の中で証言をした。わたくしが怯むわけにはいかない。

「ルシアン殿下の王子妃であります、リュシア・ルミエールが証言させていただきます」

 まずは身分をはっきりと明らかにする。それに対して、議員たちから声が漏れる。

「ギヨーム殿下が見境がない方とは知っていたが王子妃殿下にまで!?」
「噂では聞いていたが、本当に王子妃殿下を襲ったのか!?」

 噂を噂で終わらせない。
 きっちりとギヨーム殿下の罪を暴くためにわたくしはここにいる。
 ちらりと国王陛下の座っている席を見れば、国王陛下はどこを見ているのか分からない虚ろな目で席に座っていた。

 わたくしの証言が国王陛下の心を動かすことができるだろうか。

「ルシアン殿下の演説によって、結婚の開放の法案が否決された後、ギヨーム殿下はわたくしの住んでいる離宮の前で女性を乱暴しようとしていました。わたくしの護衛がそれを止めに入ると、ギヨーム殿下はわたくしの護衛を人質にして、わたくしに出てくるように要求したのです」
「それで、王子妃殿下はどうされたのですか?」
「わたくしの護衛は優秀な人物で、愛する妻も子どももいて、こんなところで殺されていい人物ではないと分かっていました。わたくしは離宮の庭から出て、ギヨーム殿下に捕らえられたのです」

 議員たちの視線がわたくしに集まる。
 わたくしは唾を飲み込んで乾いた喉を潤し、口を開いた。

「わたくしの行動が軽率ではなかったとは言えません。ギヨーム殿下も脅しのつもりで、簡単には護衛を殺しはしなかったかもしれない。ルシアン殿下に助けを求めに行けばよかったのかもしれない。それでも、わたくしはギヨーム殿下ならばわたくしを手に入れるために、護衛を殺すことなどなんとも思わないかもしれないと恐れたのです」
「離宮の庭から出た王子妃殿下にギヨーム殿下は何をされましたか?」
「わたくしは担ぎ上げられて、ガゼボに押し込められました。ガゼボのベンチの上に押し倒されて、ギヨーム殿下の手がわたくしの体を這い、わたくしは乱暴されるかと覚悟をしました」

 あのときのことははっきりと覚えている。
 ギヨーム殿下はわたくしに言ったのだ。

「ギヨーム殿下はわたくしに言いました。『議会の会場で、ルシアンはお前を愛する妻と言っていた。愛する妻が他の男に穢されて、それでもルシアンは平気でいられるのかな?』と。あれは、結婚の開放の法案を否決に導いたルシアン殿下への報復でもあったのです!」

 わたくしが述べれば、ルシアン殿下が結婚の開放の法案を否決に導いた演説を思い出したのか、議員たちの視線がルシアン殿下に向いている気がする。
 わたくしが証言を続ける前に、ルシアン殿下が声を上げた。

「その続きは、わたし、ルシアン・ノワレが証言させていただきます。わたしの妻を手に入れた時点で解放されていた乱暴されそうになっていた令嬢と護衛が、自分たちではギヨーム兄上を止めることができないと、わたしのところに助けを求めに来ました。わたしは即座に妻のところに駆け付けて、ギヨーム兄上を押し退けて、妻を救い出しました」
「ギヨーム殿下は大人しく引いたのですか?」
「いいえ、護衛に剣を抜かせてわたしを殺そうとしました。わたしが剣を抜くと護衛たちは襲い掛かって来れずに、ギヨーム兄上が襲い掛かってきましたが、わたしはそれに応戦し、倒し、妻を救い出したのです」

 ルシアン殿下の証言に議員たちがざわめくのが分かった。

「王子妃殿下を襲っただけではなく、ルシアン殿下まで殺そうとしただと?」
「ルシアン殿下はこの国の第三王子。王太子となられるかもしれないお方」
「王子同士とはいえ、殺し合うなど……」

 ギヨーム殿下に対する非難が上がっているのが分かった。
 ギヨーム殿下が獣のように唸り声を上げているのが聞こえる。

「ギヨーム殿下のしたことは、全ての女性に対する侮辱と尊厳を奪う行為であり、ルシアン殿下という王子を狙った国家を転覆させかねない行為でもあったのです。そのことをよく加味して、判決をお願いします」

 最後にわたくしは述べて、証言台から降りた。
 ルシアン殿下の隣に立つと、労わるようにルシアン殿下がそっとわたくしの手を握ってくださる。
 ルシアン殿下の大きな手に手を握られて、わたくしはほっと安堵のため息をついた。

 議員たちの話し合いが行われて、判決が言い渡される。

 議長がまとまった意見を読み始めた。

「ギヨーム殿下……いいえ、ギヨーム・ノワレと呼ばせていただきます。ギヨーム・ノワレ、あなたは十年以上にわたり多数の女性に苦痛と恐怖を与え続けてきた。それは王子という地位を振りかざしての卑怯なものだった。それのみならず、王子妃殿下にまで手を出そうとして、王子暗殺を企てた。この罪は計り知れないものです」
「全部、でっちあげだ! おれはそんなことはしていない!」
「証拠が揃っています。大人しく認めなさい。ギヨーム・ノワレ、あなたは王族から除籍されます。そして、あなたを断種の上、生涯北方の監獄に収容の身とします。強制労働で稼ぐ賃金は少ないかもしれませんが、被害に遭った女性たちの慰謝料として支払われます」

 ギヨーム殿下の判決が下された。
 わたくしはルシアン殿下を見上げる。ルシアン殿下はわたくしの手を握り、頷いている。

「ルシアン殿下、ギヨーム殿下が王族ではなくなりました」
「リュシア姉様、後はデュラン兄上のみ」
「はい」

 わたくしとルシアン殿下が手を取り合って喜んでいる横で、ギヨーム殿下が兵士たちに連れられて退場させられていく。その姿を見ても国王陛下の姿に変化はなかった。

 ギヨーム殿下は口汚い言葉を吐いていたが、それもすぐに封じられて、兵士たちに連れていかれてしまった。ギヨーム殿下の席が空席となったので、デュラン殿下の姿がよく見える。
 デュラン殿下の断罪に対しては、わたくしとルシアン殿下は手を回していた。

 それは、闇の帳簿と割符をデュラン殿下の部屋から盗み出すときに、ルシアン殿下と約束をした少年である。
 その少年は、ルシアン殿下が内密に接触すると、証言してくれると約束してくれたのだ。それと同時に、自分と同じ境遇の少年や少女に証言するように説得してくれるとも言ってくれた。

 ギヨーム殿下の判決が終わって、休憩が挟まれているが、その間にルシアン殿下と約束をした少年が、少年少女を連れてくることになっている。
 その数がどれくらいになるのか、わたくしも把握していない。

 ルシアン殿下とわたくしは、休憩を取りつつも、少年少女の到着を待っていた。

 そのとき、国王陛下がふらりと立ち上がった。
 どこに行くのかと思っていたら、国王陛下がゆっくりとルシアン殿下の方に歩いてくる。
 国王陛下の席、デュラン殿下の席、ギヨーム殿下の席、ルシアン殿下の席は隣り合っているので、国王陛下が歩く距離もそれほど長くはなかった。

「ルシアン……」

 かすれた声で国王陛下がルシアン殿下の名を呼んだとき、ルシアン殿下は戸惑っていてすぐに反応できなかった。わたくしはそっとルシアン殿下の背中を押す。ルシアン殿下は国王陛下の前に出て、国王陛下の痩せて枯れ木のようになった手を握った。

「父上……」
「ルシアン……ギヨームがあんなことをしていたなど、わたしは知らなかった」
「父上、ぼくが分かるのですか?」
「ルシアン、そなたがギヨームの法案に反対演説をしていたのも、聞いていた」
「やはり、父上はあの場にいてくださったのですね」
「ルシアン、わたしはこれまでなんということをしてしまったのだろう」
「父上……」

 後悔の滲む国王陛下の声にルシアン殿下が言葉に詰まった瞬間、議会の会場のドアが開き、たくさんの少年少女が降りてくる。それを見て、ルシアン殿下は国王陛下に告げた。

「父上、今回のことは最後まで見守ってください。その上で、またお話をしましょう」
「分かった」

 まだデュラン殿下の断罪が残っている。
 国王陛下を席に戻して、ルシアン殿下は自分もわたくしの隣に戻ってきた。
 その赤みがかった紫の目が涙で滲んでいるのが分かる。

「父上がぼくの名前を呼んでくれた。ぼくと話をしてくれた」
「国王陛下のお心が動いたのですよ」

 わたくしに報告するルシアン殿下の声は感動に震えていた。
 生まれてからずっと父である国王陛下に無視され続けてきたルシアン殿下が、初めて国王陛下の視界に入った瞬間だった。
 最初はルシアン殿下の結婚の開放の法案を否決に導いた演説からかもしれない。その後でルシアン殿下がギヨーム殿下を断罪している姿を見て、国王陛下の心に再び生気が宿ったのかもしれない。

 これは、国王陛下にデュラン殿下の断罪までをしっかりと見届けてもらわなければいけない。
 わたくしもルシアン殿下も気持ちは同じだった。
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