愛することはないと言われた花嫁ですが、夫の真実の愛を知りました

秋月真鳥

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26.ルシアン様からのプロポーズ

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 ルシアン様が国王陛下となってから、また忙しい日々が始まった。
 議会を開いて、これまでのギヨーム殿下とデュラン殿下が国民に課していた重税を変更し、使い込まれた国の財産を取り戻す政策を考えていかなければいけなかった。それと同時にギヨーム殿下の被害者への賠償と、デュラン殿下が行っていた奴隷取引の被害者の救出も考えなければいけない。
 やらなければいけないことはたくさんあった。
 わたくしもできる限りルシアン様をお支えすることにした。

 ルシアン様は内政に力を入れているので、わたくしは外交面でルシアン様を支えることにした。幸い、王子妃教育でわたくしは周辺諸国の言語や歴史は学んでいて身についていた。
 隣国に帰ったデュラン殿下の元王子妃の王女殿下と連携を取って、奴隷として売られた子どもたちの足跡を追いつつ、わたくしは周辺諸国との関係改善に努めていった。
 ギヨーム殿下とデュラン殿下が政治を操っていた時期に、デュラン殿下が国際法を破って奴隷取引をしていたことは周辺諸国にも知れ渡っているので、まずその対処からしなければいけなかった。
 国際法を見直し、隣国と共に二度と国際法が破られることのないように誓約書を書きつつ、国際法で足りない部分を話し合っていく。隣国のデュラン殿下の元王子妃の王女殿下も協力してくれた。

 忙しくしている間にも、わたくしの結婚式のドレスやルシアン様のタキシード、結婚指輪などが出来上がってきていた。
 執務の合間を縫って、わたくしとルシアン様はそれを確認した。

 わたくしのドレスは胸で切り替えがあって、そこから下はすとんとストレートに床まで落ちているデザインのものを誂えてもらっていた。わたくしは背も高くない小柄な方だし、体付きも華奢なのでそちらの方が似合うのだ。ヴェールも最高の織りのものを準備してもらって、長く垂らすようにしている。
 ドレスにもヴェールにも銀糸の刺繍が入っていた。
 ルシアン様の衣装はクラシックなタキシードだが、襟や裾や袖口に銀糸で刺繍が入っていて、さりげなく飾ってある。長身で体付きも逞しいルシアン様がタキシードを着ていると堂々としてとても格好よかった。

 指輪は常につけていられるシンプルなものを選んでいたが、裏側に小さなサファイアの粒を埋め込むことにした。サファイアの中でも紫色のパープルサファイアというものを選んで、ルシアン殿下の目と似た色合いにした。

「リュシア、あの、結婚式では……」
「はい、ルシアン様?」
「リュシアに口付けをさせてもらおうと思っています。いいですね?」

 真剣な表情で聞かれてしまって、わたくしは耳まで赤くなってしまった。
 結婚式で口付けを交わすのは当然のことなのだし、わたくしとルシアン様はもう夫婦なのである。口付けをしてもおかしくはないのだが、それを真剣に問いかけてくるあたり、ルシアン様にわたくしは本当に大事にされているのだと実感する。

「もし、何か嫌なことを思い出して抵抗があるとか、ぼくにはまだ唇を許したくないということなら……」
「ルシアン様!」
「は、はい?」
「わたくしはルシアン様の妻なのですよ。嫌なわけないではないですか。嫌なことを思い出すってどういうことですか?」
「リュシアはギヨーム兄上に……」
「何もされていません! ルシアン様が初めてです!」

 こんなところまでルシアン様は優しく配慮してくださる。呆れながらも嬉しく思い、わたくしは微笑んでルシアン様の腕を引っ張った。わたくしが腕を引っ張るので屈んでくれたルシアン様の頬に、そっと口付ける。

「お慕いしています、ルシアン様」
「ぼくも愛しています、リュシア」

 ルシアン様に抱き締められて、わたくしはとても幸せな気分だった。

 やり直しの結婚式までには、わたくしはルシアン様と打ち合わせをしなければいけなかった。
 一応、わたくしたちはもう結婚式を挙げているので、国を挙げての結婚式は行えない。

「招待客はどうしましょう」
「わたくしの家族と義父上だけでいいのではないですか?」

 わたくしは小規模な結婚式で構わないと思うのだが、ルシアン様は気にしているようだった。

「リュシアとの初めての結婚式も参列者がいなくてとても寂しいものでした。今回はちゃんとやり直した方がいいのではないですか?」
「大事なのは参列者ではありません。ルシアン様がわたくしのことを愛してくださって、わたくしとルシアン様が望む形で結婚式を挙げることです」

 確かに最初の結婚式は参列者もいなくてとても寂しいものだった。
 だからといって、やり直しの結婚式に無理に参列者を集めるつもりはない。
 家族だけでひっそりと結婚式ができればいいと思っている。

「わたくしとルシアン様と、お父様とお母様とお兄様と、義父上がいればいいではないですか」
「そうですね。リュシアはぼくよりも強い気がします」
「ルシアン様がいてくださるから強くあれるのです」

 微笑みかけると、ルシアン様もわたくしに微笑みかけてくれた。

「結婚したとき、ぼくは十六歳で成人してもおらず、兄上たちの言うなりになるしかできなくて、リュシアの望むような結婚式もできず、リュシアには寂れた離宮に住んでもらうことになって、苦労もかけました」
「わたくしはルシアン様と一緒だったら幸せでした」
「リュシアには兄上たちのせいで危ない目に遭わせるかもしれないと思って、最初は距離を置こうとしていました」

 あのときのことはわたくしもしっかりと覚えている。
 ルシアン様はわたくしを遠ざけようとしていて、わたくしを「愛さない」と言ったり、「結婚しなければよかった」と言ったりして、わたくしは深く傷付いて、ルシアン様との離縁まで考えた。

「リュシアに離縁してほしいと言われたとき、ぼくは自分のしていたことを後悔しました。リュシアのことをこんなにも愛しているのに、ぼくは……」
「ルシアン様」

 震えて俯くルシアン様の手をわたくしは握り締める。ルシアン様の手は大きくて温かかった。

「わたくしはルシアン様と結婚したことを後悔していません。ルシアン様のあのときに結婚できたからこそ、ルシアン様が一人で兄君たちと戦おうとしているのを助けることができました」
「リュシアは髪まで犠牲にして……」
「そのことも後悔していません。あのときには必要だったのだと思っています」

 わたくしの髪は少し伸びていたが、まだ肩を超すくらいだった。その髪を撫でるルシアン様にわたくしは目を閉じて優しい手つきにうっとりと身を任せる。

「リュシアがいたからこそ、ぼくは国王になれました。リュシアは結婚の開放の法案に反対する演説の原稿を一緒に考えてくれて、ギヨーム兄上に襲われても気丈に耐え、デュラン兄上に髪を要求されても毅然とした態度で対処し、二人を追い詰める手助けをしてくれました。ぼくが十六歳のときにリュシアと結婚していなければ、ぼくの今はありません」
「ルシアン様、そう言っていただけると嬉しいです」
「リュシア、結婚式をやり直しましょう。今度こそ、正しくぼくたちは結婚するのです」

 誰に強制されたわけでもなく、わたくしとルシアン様はお互いの気持ちを確認して、お互いに想い合って結婚する。
 それがやっと遂げられる日が来るのだ。

「ルシアン様、わたくしと……」
「リュシア、待ってください、それはぼくに言わせてください」
「はい」

 ルシアン様に遮られて、わたくしはルシアン様の言葉を待つ。
 ルシアン様は深呼吸して言葉を紡いだ。

「リュシア、ぼくと結婚してください」
「はい、ルシアン様。嬉しいです」

 プロポーズからやり直しをする。
 ルシアン様はそう言っていた。
 わたくしはその日、ルシアン様から改めてプロポーズを受けたのだった。
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