エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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三章 バーデン家の企みを暴く

24.八歳のお誕生日

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 わたくしのお誕生日のお茶会には、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下も招待されていた。ハインリヒ殿下に久しぶりに会えるということで、クリスタちゃんはいそいそとリボン造花の髪飾りを用意していた。
 デボラがクリスタちゃんの髪を丁寧にブラシで梳かして、編んでいく。わたくしの髪は空色のリボンでハーフアップにしてもらった。
 空色のドレスを着たわたくしと、オールドローズのドレスを着たクリスタちゃん。
 準備ができると、部屋のドアがノックされた。

「エクムント様!?」
「カサンドラ様から、エリザベートお嬢様をエスコートするように言われてきました」
「わたくしをエスコートしてくださるのですか?」

 白い手袋を付けたエクムント様の手がわたくしの手を取る。手を組んで祈るような姿をしてクリスタちゃんがそれをじっと見ている。
 部屋から階段を降りて大広間に行くまで、エクムント様はわたくしをエスコートしてくださった。カサンドラ様に言われたとしても、お誕生日にエクムント様にエスコートしてもらえるなんて幸せすぎる。
 うっとりとしていると、大広間で両親が待っていてくれる。母はウエストを細く絞っていないがふんわりとしたドレスがとても美しい。

「本日は我が娘、エリザベートの誕生日に来てくださってありがとうございます」
「この度、我が妻、テレーゼが第二子を妊娠していることをご報告したいと思います」
「わたくしのお腹には今、大事な命が育まれています。この命を無事産むためなら何でもするつもりです」
「辺境伯領からカサンドラ様の主治医だったパウリーネ先生が来てくださっています。パウリーネ先生は婦人科の専門医。パウリーネ先生の研究もディッペル領は支援していこうと思っております」

 わたくしのお誕生日だが、母の嬉しい知らせを公にできるのは本当に幸せなことだった。
 弟妹が産まれるというのはわたくしにとってもとても嬉しいことだ。

「わたくし、お姉様になります。とても幸せです」

 クリスタちゃんが水色のお目目をきらめかせていた。

「エリザベート嬢、クリスタ嬢、おめでとう」
「ありがとうございます、カサンドラ様」
「パウリーネ先生を紹介してくださってありがとうございます!」

 お祝いをしてくださるカサンドラ様にわたくしもクリスタちゃんもお礼を言う。
 キルヒマン侯爵夫妻もそばに来てお祝いしてくれた。

「おめでとうございます、エリザベート様、クリスタ様」
「ディッペル公爵と公爵夫人がずっと第二子を望んでいたのは知っています」
「授かることができて本当によかったですね」

 両親にもお祝いをしてくれるキルヒマン侯爵夫妻に、わたくしは頭を下げて「ありがとうございます」とお礼を言った。

 クリスタちゃんはまだ立食形式のお茶会で立って食べられないので、端のテーブルのところに移動すると、ダリアの花が飾られているテーブルがあった。
 ピンクのダリアと紫のダリアだ。

「お誕生日おめでとうございます、エリザベートお嬢様。去年と同じで申し訳ないのですが、お祝いにダリアを贈らせていただきました」
「このテーブルはエクムント様が用意してくださったのですか?」
「クリスタお嬢様とエリザベートお嬢様は座ってお茶をなさるので」

 粋な計らいにわたくしは喜びで胸がいっぱいだった。
 お誕生日のお茶会の大広間までエクムント様にエスコートしていただけて、テーブルにはエクムント様からのお誕生日のダリアの花が飾られている。なんて素晴らしいお誕生日なのだろう。

「エクムント様、お茶を一緒にいかがですか?」
「私でよろしいのですか?」
「ぜひ」

 テーブルは広くてクリスタちゃんがハインリヒ殿下を誘ってきても問題ないくらいではある。

「わたくし、ハインリヒ殿下にお声をかけます」
「行ってらっしゃい、クリスタ」
「ノルベルト殿下もご一緒でいいかしら?」
「椅子には座れると思いますよ」

 クリスタちゃんがハインリヒ殿下とノルベルト殿下を呼んでいる間、わたくしはエクムント様と二人きりでお茶をする。
 エクムント様はいつもの軍服だが、格好良くて見惚れてしまう。

「エリザベートお嬢様がもう八歳なんて信じられません」
「エクムント様の中では、わたくしは抱っこされていた赤ん坊のままなのですか?」
「あの頃のエリザベートお嬢様も可愛かったですが、今もとてもお可愛らしい」
「エクムント様はわたくしのことをどう思っていますか?」

 返答は分かりきっていたけれど、一度聞いてみたかったことを口にすると、エクムント様が困っている。

「赤ん坊の頃から知っていますからね。どうしても可愛いと思ってしまいます」

 まだまだわたくしは妹枠から抜けられないようだった。
 もっと大きくなって、大人になれば、エクムント様もわたくしを意識してくださるかもしれない。

「エクムント、エリザベート嬢にお茶に誘われたのかな?」
「光栄なことにお茶に誘っていただきました」
「エリザベート嬢はエクムントをお気に入りのようだからな」

 カサンドラ様から声をかけられてわたくしの心臓が跳ねる。エクムント様への恋心にカサンドラ様は気付いておられるのだろうか。
 全てお見通しの上で、カサンドラ様の手の平の上で踊っているような気がして、わたくしは何とかこの状況を脱却できないかと考えていた。

「ザワークラウトの実験は進んでおりますか?」
「辺境伯領では食べ慣れないものだから最初は抵抗があったようだが、軍は上官が見本を示すと従うもの。上官に食べるように命じると、全員残さず食べるようになった」
「いい結果が出るといいのですが」
「ザワークラウトを食べている船と、食べていない船で壊血病が出るか調べるつもりだ。結果が出るまでには三ヶ月から半年はかかるかな」

 三ヶ月から半年といえば、もうわたくしの弟か妹も生まれている時期ではないだろうか。弟か妹が産まれれば、その子にディッペル公爵家の後継を譲って、エクムント様との婚約を果たしたいのだが、それもカサンドラ様のお心一つということになる。

 この国の唯一の公爵家と辺境伯家に繋がりができるということは、政治的な意味でも大きな事業になるのだが、カサンドラ様はそれに気付いておられるのだろうか。

 初めは政略結婚でも構わない。
 わたくしの両親も父が母に好意を抱いてキルヒマン侯爵家に手を回したとはいえ、政略結婚には違いない。
 政略結婚乃後に生まれる愛もあるのだと両親を見てわたくしは学んでいる。

 エクムント様も、自分が好きになる相手は結婚する相手だと言っていた。

 エクムント様の視界に入るためには、まずは婚約するしかないのだ。
 わたくしはそれを果たせるか、まだ自信がなかった。

 エクムント様がカサンドラ様に連れられて席を立つと、クリスタちゃんがハインリヒ殿下とノルベルト殿下を連れてやってきた。ハインリヒ殿下に手を取られて、クリスタちゃんは頬を薔薇色に染めている。

「お姉様がエクムント様にエスコートされていたでしょう? 羨ましいって言ったら、ハインリヒ殿下がしてくださったの」
「これくらいでよければいつでもします」
「ありがとうございます、ハインリヒ殿下」

 頬を染めて嬉しそうにしているクリスタちゃんとハインリヒ殿下の仲は順調に進んでいるようだ。これは原作通りだが、原作と違うのはもうクリスタちゃんが公爵家の養子になっていて、ハインリヒ殿下の婚約者となるのに相応しい身分を持っているということだった。

 わたくしに弟妹がいるなんていうことも、原作には書かれていなかった。

 確かに運命は変わっている。
 それを実感する。

 このままならばわたくしは辺境に追放されるのではなくて、辺境伯領に嫁ぐことができるのではないだろうか。
 それは王家の血を引くわたくしが辺境伯領と王家と公爵家を繋ぐというとても大きな誉れを受けることになる。

 政略結婚でも構わない。
 わたくしはエクムント様と結ばれたかった。
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