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六章 ハインリヒ殿下たちとの交流

26.雪遊び

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 リリエンタール侯爵家の客間にわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんが泊まるのに、レーニちゃんも一緒に泊まりたいと言ってくれた。

「エリザベートお姉様と、クリスタちゃんと、同じお部屋で眠りたいんです」
「お泊り会ね、とても楽しそうだわ」
「ふーちゃんとまーちゃんが夜に泣くかもしれないけれどいいでしょうか?」
「それは気にしませんわ。デニスも夜によく泣いているから」

 ふーちゃんとまーちゃんがいるので、客間にはヘルマンさんとレギーナが交代でいることになる。貴族の子どもなので子どもだけで過ごすことは難しいが、それでもレーニちゃんが部屋にお泊りするのはとても楽しい出来事だった。

 お風呂に入るときには、湯船にたっぷりとお湯を張って、バスルームのタイルが冷たくないようにバスルームが湯気で満たされるようにマルレーンがしてくれる。湯船に浸かって体を洗うのも、前世の記憶からすると少し違和感がないわけではなかったけれど、この世界では生まれたときからそうなのでもう慣れている。
 湯船で体を洗って髪も洗って、湯船のお湯で流して、少し泡が残っているがそれをバスタオルで拭きとるのがこの世界のお風呂だ。
 夏場は冷たいシャワーだけで終わらせるのだが、冬場は湯船に浸からなければ寒くてとても体や髪が洗えない。

 湯船のお湯は一人入るたびに入れ替えるので、清潔といえば清潔なのだろう。

 クリスタちゃんとレーニちゃんと順番でお風呂に入って、ふーちゃんとまーちゃんはヘルマンさんとレギーナにお風呂に入れてもらう。
 お風呂から出るとストーブの近くで髪を乾かして、ブラシで髪を梳いて、寝る準備をする。

 持って来ていたパジャマに着替えると、レーニちゃんもパジャマを着て客間に来ていた。
 大人用のダブルベッドにクリスタちゃんとレーニちゃんとわたくしと三人で眠ることにする。

「わたくし、ドキドキして眠れないかもしれません」
「わたくしはすぐに眠ってしまいそうだわ。長旅で疲れてしまったもの」
「わたくしもすぐに眠気が来そうです」

 ベッドに横になって布団に入ると、レーニちゃんがもぞもぞと動いている。クリスタちゃんは欠伸を噛み殺し、わたくしも眠さで瞼が落ちて来る。

「明日は雪遊びをしませんか? ふーちゃんとまーちゃんも一緒に」
「雪遊びは素敵ですね……ふぁ」
「わたくし、手袋もマフラーも持ってきましたわ」

 クリスタちゃんもだがわたくしも荷物の中に手袋とマフラーを入れている。ふーちゃんとまーちゃんはまだお手手が小さいのでミトン型の手袋だが、わたくしとクリスタちゃんは指が五本ある手袋を持っていた。
 明日は早く起きて庭を散歩したい。
 考えている間にわたくしは眠ってしまったようだ。

「ねぇね、ねぇね」
「まーちゃん、どうしたのですか?」
「まんま!」

 翌朝、顔を叩かれて目を開けると、まーちゃんがわたくしの顔を覗き込んでいた。
 時刻はまだ朝方のようで薄暗い。
 布団から出るととても寒いので、わたくしはまーちゃんを布団の中に抱き込んだ。抱き込まれてまーちゃんが「きゃー!」と言って喜んでいる。

「お姉様、もう朝ですか?」
「エリザベートお姉様、早起きですね」
「まーちゃんがお腹が空いて起きてしまったみたいなのです」
「ヘルマンさんかレギーナはいないのかしら?」

 クリスタちゃんが探すと、ヘルマンさんがすぐに部屋に戻って来た。

「マリア様、ベビーベッドから脱走したのですか!?」
「お腹が空いてわたくしを起こしたのです」
「申し訳ありません、わたくしがお手洗いに行っている間に」
「お手洗いは生理現象ですもの。行くのは仕方ないですわ。それにしても、まーちゃんはベビーベッドから自分で出られるのですね」

 まーちゃんの身体能力の高さにわたくしは驚いてしまった。
 もう普通のベッドで寝かせた方がまーちゃんには安全なのかもしれない。

 ふーちゃんも体が大きくなって、子ども用のベッドで眠るようになっていた。まーちゃんは少し時期は早いが子ども用のベッドに移るときが来ているのかもしれない。

「せっかく早起きしたのですから、庭をお散歩しましょう」

 レーニちゃんに促されて、わたくしとクリスタちゃんは着替えてコートを着てマフラーを巻いて手袋を付けた。ふーちゃんとまーちゃんも着替えさせてもらって、コートを着せてもらって、マフラーを巻いて手袋を付けていた。

 庭に出ると一面の銀世界だ。
 庭の木々にも、花壇にも、雪が積もっている。
 門に向かう道は雪かきがされていた。

「雪だるまを作ったことがありますか?」
「ありません」
「雪兎も作れるのですよ」

 レーニちゃんが雪だるまと雪兎の作り方を教えてくれる。

「雪だるまはある程度の大きさの雪玉を作って、それを転がして大きくしていくのです。大きさの違う二つの雪玉ができたら、小さい方を大きい方の上に乗せます」
「雪兎はどうするのですか?」
「板の上に雪を盛って、半分に切った瓜のような形にします。そこに目を木の実で、耳を葉っぱでつければ出来上がりです」

 教えてもらって、わたくしとクリスタちゃんは雪だるまを作ってみた。
 わたくしが大きな雪玉を転がして作って、クリスタちゃんが小さい雪玉を作る。二つ重ね合わせると、雪だるまが出来上がった。

「おねえたま、なぁに?」
「ねぇね、なぁに?」
「雪だるまですよ」
「雪で作っただるまさんです」

 不思議そうに雪だるまを突いているふーちゃんとまーちゃんにわたくしとクリスタちゃんで説明する。
 クリスタちゃんは花壇のレンガの上に雪兎を作っていた。長い丸を半分に切ったような形に、レーニちゃんが取って来てくれた葉っぱと赤い木の実がつけば、雪兎が完成する。

「可愛い! 溶けてしまうのがもったいないです」
「溶けるのはどうしようもないですね。お昼には日が差して雪も溶けてきます」
「これを取っておく方法はないのかしら」
「雪だるまと雪兎は取っておけませんが、絵に描いて記録に残しておくことはできますよ」
「それだわ!」

 雪だるまと雪兎を惜しむクリスタちゃんはレーニちゃんに助言をもらって、子ども部屋に戻ってから一生懸命絵を描いていた。クリスタちゃんの足元ではふーちゃんとまーちゃんが鉄の列車のおもちゃで遊んでいる。

「とびあがひらきまつ!」
「ぽっぽ! ぽっぽ!」

 ドアが開くのが楽しいようで、何度も開け示しているふーちゃんとまーちゃんはすっかりと鉄の列車のおもちゃの虜になっていた。

 少し遊ぶと朝食の時間になったが、レーニちゃんのお父様は特別に子ども部屋で朝食を取っていいと言ってくれた。

「今回だけですよ」
「デニスも一緒なのですね。お父様、ありがとうございます」

 わたくしとクリスタちゃんがソファに座って、ヘルマンさんとレギーナがソファに座るふーちゃんとまーちゃんについて、レーニちゃんもソファに座って、子ども部屋で朝食にする。
 レーニちゃんのお父様はデニスくんにミルクを飲ませていた。
 その様子を見ながら朝食が食べられるのは本当に嬉しかった。

 お腹がいっぱいになると早起きをしたふーちゃんとまーちゃんは眠くなって少し午前睡をすることになって、その間わたくしとクリスタちゃんはレーニちゃんの部屋に遊びに行かせてもらった。
 レーニちゃんの部屋は片付いていて、赤毛のお人形がベッドの脇に座らせてあった。

「折り紙を教えてあげる約束でしたね」
「覚えていてくださったのね、クリスタちゃん、エリザベートお姉様」
「アイリスを折りたかったのですよね」

 クリスタちゃんが持ってきた綺麗な色紙を使って、クリスタちゃんとわたくしでレーニちゃんにアイリスの折り方を教える。
 レーニちゃんは慣れていないので最初は苦戦していたが、元々手先が器用なのですぐにアイリスの折り方を覚えてしまった。
 アイリスだけでなく、薔薇や百合の折り方も教えて、わたくしとクリスタちゃんはレーニちゃんと遊んだ。

 楽しい日々はすぐに過ぎてしまう。
 わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはディッペル公爵家に帰る日が来ていた。
 小雪のちらつく中、レーニちゃんが門までお見送りに来てくれている。

「とても楽しかったです、レーニちゃん。また遊びましょう」
「レーニちゃん、次はわたくしのお誕生日にいらしてね」
「わたくしも楽しかったです。エリザベートお姉様、クリスタちゃん、また遊びましょう」

 約束をするように手を握り合ってから、わたくしは馬車に乗り込む。

「おねえたま、すち! おねえたま、またね!」

 ふーちゃんが一生懸命レーニちゃんに言っているのも、わたくしは微笑ましく見守っていた。
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