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八章 エリザベートの学園入学
18.別々の客間
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夏休みが終わってもわたくしはすぐに王都に帰るわけではなかった。
辺境伯領に行くのだ。辺境伯領ではエクムント様のお誕生日がある。
エクムント様は今年で二十四歳になる。
二十四歳と言えばわたくしの生きていた前世では新卒二年目の年齢である。それでカサンドラ様が出先まで付いてくることなく、辺境伯領の中だけで指導するようになっているのだからエクムント様は成長されているのだろうと思う。
わたくしの父など十九歳でディッペル公爵家を継いで、二十歳のときにはわたくしが生まれているのだ。
わたくしも十八歳になって学園を卒業したら辺境伯領に嫁ぐのだが、それが早すぎるという感覚はなかった。
やはりわたくしはこの世界での感覚が強く、前世のことはおぼろげなようなのだ。
誰かが考え出して作り上げた世界だとしても、この世界は複雑に様々な思惑が絡み合っているし、物語の中に出てこなかったこともたくさんわたくしは経験した。物語の大筋が変わっているのも実感している。
『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は既に違う物語になっているのだ。
そもそも、クリスタちゃんがクリスタ・ノメンゼンではなく、クリスタ・ディッペルになっているところからして全く違う。
クリスタちゃんが学園に入学するところから始まる『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』のことはもうわたくしは気にしなくていいのかもしれない。
少しだけ気になっていたのは、クリスタちゃんと同じ寮で親友的なポジションになるミリヤム嬢のことだった。ミリヤム嬢の動きが今後どうなっていくのかはわたくしには分からない。原作通りに進んでいるのだとしたら、ミリヤム嬢は『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』のクリスタちゃんのように破天荒で礼儀知らずの女の子ということになる。
主人公の目線で物語を追い駆けていると気にならないのだが、この世界に入って貴族の社会を知ってしまうと原作のクリスタちゃんやミリヤム嬢の不作法はどうしても受け入れられなくなってしまう。
クリスタちゃんをディッペル家で引き取って教育を受けさせたのは大正解だと思っているし、わたくしの努力のおかげか、クリスタちゃんの努力のおかげか、学園でハインリヒ殿下と出会ってノルベルト殿下との確執を治めて婚約者として抜擢されるはずのクリスタちゃんは、既にハインリヒ殿下の婚約者となることが決まっている。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下の間の確執もなく、ノルベルト殿下は隣国の王女であるノエル殿下と婚約して、将来は大公になることを決めている。
わたくしは辺境伯に嫁ぐことが決まっていて、今のところ何の憂いもない。
エクムント様のお誕生日に着るドレスをどれにするか悩むくらいのことしか困っていない。
「お母様、わたくし、去年のドレスも入るかと思ったのですが、胸がきつい気がするのです」
「エリザベートも胸が大きくなってきたのですね」
それほど膨らみを感じるわけではないが、わたくしは若干胸が膨らんできている気がしていた。クリスタちゃんの方が胸は大きい気がするが、それは気にしてはいけない。
「わたくしも胸がきついですわ」
「ドレスを誂えなければいけませんね。仕立て職人を呼びましょう」
わたくしとクリスタちゃんはモダンスタイルのドレスを誂えることになった。エクムント様のお誕生日に間に合うように、仕上げは大急ぎでお願いする。
「わたし、しゃこうかいにデビューしたいです」
「フランツ、あなたはまだ四歳なのですよ。後二年は待ちましょうね」
「レーニじょうをエスコートしたいのです!」
四歳のふーちゃんもエクムント様のお誕生日に出たがっていた。
リリエンタール侯爵は産後間もないので、まだ政務に復帰しないだろうがレーニちゃんはどうするのだろう。レーニちゃんも辺境伯領までは来られないのだろうか。
ディッペル家でレーニちゃんを預かってノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典に出席させたが、あれは国の大きな式典だったからこそリリエンタール侯爵もわたくしたちにお願いしたのだと分かっている。それにしてもレーニちゃんがいないのは少し寂しい気がしていた。
「フランツ、レーニ嬢はリリエンタール侯爵が赤ちゃんが生まれたばかりなので今回は来ませんよ」
「レーニじょうとわたし、あえないの!?」
「残念ながら」
「レーニじょうとあいたいの。おとうさま、おかあさま、あわせてください」
必死に頼んでいるふーちゃんに両親は優しく言い聞かせている。
「レーニ嬢はエリザベートのお誕生日にディッペル家に泊まってもらいましょう」
「そのときに会えるよ」
「エリザベートおねえさまのおたんじょうび……」
「わたくちもあえる?」
「マリアも会えますよ」
わたくしのお誕生日にはレーニちゃんがディッペル家に泊まってくれると分かってわたくしは少し寂しさが薄れていた。
辺境伯領への旅は馬車と列車を乗り継いで行われた。
ふーちゃんもまーちゃんも列車での移動に慣れていて、窓に張り付いて外を見たり、列車の中で静かに絵本を読んだりして過ごしていた。
ふーちゃんはほとんどの文字が読めるようになっていたし、まーちゃんは文字が少し読めるようになっていた。
「えーおねえたま、これ、マリアの『ま』」
「そうですね。マリア、とても上手ですよ」
「これは、マリアの『り』」
やはり興味があるのは自分の名前のようで、自分の名前の文字をまーちゃんは一番に覚えていた。
「クリスタおねえさま、えほんをよむので、きいていてください」
「はい、フランツ。聞かせてください」
指で文字を辿りつつ、ふーちゃんはつっかえながらも自分の大好きな列車の絵本をクリスタちゃんに読んで聞かせていた。
辺境伯領につくと、エクムント様とカサンドラ様と一緒に食卓に着く。
遅い昼食を食べながら、エクムント様とカサンドラ様に御挨拶をする。
「エクムント様、今回もわたくし、エクムント様の婚約者として頑張りますので、よろしくお願いします」
「昼食会も、お茶会も、晩餐会も付き合わせてしまうので、疲れさせてしまうかもしれません。先に謝っておきます」
「エクムント様のお誕生日ですもの。婚約者のお誕生日を祝うのは当然です」
「エリザベート嬢はしっかりしているので助かります」
例え昼食会や晩餐会で何も食べられないままにお皿が下げられてしまっても、わたくしは耐える決意をしていた。貴族社会では女性は小鳥のように小食なのが美徳だとされているが、国一番のフェアレディと呼ばれた母の教育方針では、出されたものを食べない方が失礼に当たると教えられている。
わざと食事を残すような教育はされて来ていないので、料理のお皿に手を付けないまま下げられてしまうのはつらいところがあった。
それでも、貴族社会では挨拶が何よりも大事と分かっているので、エクムント様の婚約者として隣りに立って共に挨拶をできるのはわたくしの誇りでもあった。
昼食を食べ終わると客間に案内される前に確認された。
「エリザベート嬢とクリスタ嬢のお部屋を分けなくていいですか?」
「そうでした。エリザベートとクリスタもそんな年頃になっていましたね」
「今年から分けていただきましょうか」
両親はわたくしとクリスタちゃんは別の部屋にするようにお願いしている。それを聞いてショックを受けているのはふーちゃんとまーちゃんだった。
「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさま、べつのへやなの!?」
「わたくちといっちょじゃないの?」
「エリザベートもクリスタも大人になってきているのです。ディッペル家でも部屋は別でしょう?」
「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまといっしょがいい!」
「いっちょがいい!」
涙目になってわたくしとクリスタちゃんの脚にしがみ付いてくるふーちゃんとまーちゃんの髪をわたくしとクリスタちゃんは優しく撫でる。
「寝るときや着替えのとき以外は一緒の部屋にいますよ」
「できるだけ同じ部屋にいましょうね」
「やくそくだよ、エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま!」
「いっちょにいてね?」
こんなに弟妹に慕われているのだと思うと可愛さしかないが、わたくしもクリスタちゃんも成長して来ていて、両親と同じ部屋というのも難しい年頃になったのだと実感する。
案内された客間は、クリスタちゃんと二人で使うには広すぎるくらいだった。
着替えや眠るとき以外は両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に合流するようにしようとわたくしとクリスタちゃんは決めていた。
辺境伯領に行くのだ。辺境伯領ではエクムント様のお誕生日がある。
エクムント様は今年で二十四歳になる。
二十四歳と言えばわたくしの生きていた前世では新卒二年目の年齢である。それでカサンドラ様が出先まで付いてくることなく、辺境伯領の中だけで指導するようになっているのだからエクムント様は成長されているのだろうと思う。
わたくしの父など十九歳でディッペル公爵家を継いで、二十歳のときにはわたくしが生まれているのだ。
わたくしも十八歳になって学園を卒業したら辺境伯領に嫁ぐのだが、それが早すぎるという感覚はなかった。
やはりわたくしはこの世界での感覚が強く、前世のことはおぼろげなようなのだ。
誰かが考え出して作り上げた世界だとしても、この世界は複雑に様々な思惑が絡み合っているし、物語の中に出てこなかったこともたくさんわたくしは経験した。物語の大筋が変わっているのも実感している。
『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は既に違う物語になっているのだ。
そもそも、クリスタちゃんがクリスタ・ノメンゼンではなく、クリスタ・ディッペルになっているところからして全く違う。
クリスタちゃんが学園に入学するところから始まる『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』のことはもうわたくしは気にしなくていいのかもしれない。
少しだけ気になっていたのは、クリスタちゃんと同じ寮で親友的なポジションになるミリヤム嬢のことだった。ミリヤム嬢の動きが今後どうなっていくのかはわたくしには分からない。原作通りに進んでいるのだとしたら、ミリヤム嬢は『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』のクリスタちゃんのように破天荒で礼儀知らずの女の子ということになる。
主人公の目線で物語を追い駆けていると気にならないのだが、この世界に入って貴族の社会を知ってしまうと原作のクリスタちゃんやミリヤム嬢の不作法はどうしても受け入れられなくなってしまう。
クリスタちゃんをディッペル家で引き取って教育を受けさせたのは大正解だと思っているし、わたくしの努力のおかげか、クリスタちゃんの努力のおかげか、学園でハインリヒ殿下と出会ってノルベルト殿下との確執を治めて婚約者として抜擢されるはずのクリスタちゃんは、既にハインリヒ殿下の婚約者となることが決まっている。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下の間の確執もなく、ノルベルト殿下は隣国の王女であるノエル殿下と婚約して、将来は大公になることを決めている。
わたくしは辺境伯に嫁ぐことが決まっていて、今のところ何の憂いもない。
エクムント様のお誕生日に着るドレスをどれにするか悩むくらいのことしか困っていない。
「お母様、わたくし、去年のドレスも入るかと思ったのですが、胸がきつい気がするのです」
「エリザベートも胸が大きくなってきたのですね」
それほど膨らみを感じるわけではないが、わたくしは若干胸が膨らんできている気がしていた。クリスタちゃんの方が胸は大きい気がするが、それは気にしてはいけない。
「わたくしも胸がきついですわ」
「ドレスを誂えなければいけませんね。仕立て職人を呼びましょう」
わたくしとクリスタちゃんはモダンスタイルのドレスを誂えることになった。エクムント様のお誕生日に間に合うように、仕上げは大急ぎでお願いする。
「わたし、しゃこうかいにデビューしたいです」
「フランツ、あなたはまだ四歳なのですよ。後二年は待ちましょうね」
「レーニじょうをエスコートしたいのです!」
四歳のふーちゃんもエクムント様のお誕生日に出たがっていた。
リリエンタール侯爵は産後間もないので、まだ政務に復帰しないだろうがレーニちゃんはどうするのだろう。レーニちゃんも辺境伯領までは来られないのだろうか。
ディッペル家でレーニちゃんを預かってノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典に出席させたが、あれは国の大きな式典だったからこそリリエンタール侯爵もわたくしたちにお願いしたのだと分かっている。それにしてもレーニちゃんがいないのは少し寂しい気がしていた。
「フランツ、レーニ嬢はリリエンタール侯爵が赤ちゃんが生まれたばかりなので今回は来ませんよ」
「レーニじょうとわたし、あえないの!?」
「残念ながら」
「レーニじょうとあいたいの。おとうさま、おかあさま、あわせてください」
必死に頼んでいるふーちゃんに両親は優しく言い聞かせている。
「レーニ嬢はエリザベートのお誕生日にディッペル家に泊まってもらいましょう」
「そのときに会えるよ」
「エリザベートおねえさまのおたんじょうび……」
「わたくちもあえる?」
「マリアも会えますよ」
わたくしのお誕生日にはレーニちゃんがディッペル家に泊まってくれると分かってわたくしは少し寂しさが薄れていた。
辺境伯領への旅は馬車と列車を乗り継いで行われた。
ふーちゃんもまーちゃんも列車での移動に慣れていて、窓に張り付いて外を見たり、列車の中で静かに絵本を読んだりして過ごしていた。
ふーちゃんはほとんどの文字が読めるようになっていたし、まーちゃんは文字が少し読めるようになっていた。
「えーおねえたま、これ、マリアの『ま』」
「そうですね。マリア、とても上手ですよ」
「これは、マリアの『り』」
やはり興味があるのは自分の名前のようで、自分の名前の文字をまーちゃんは一番に覚えていた。
「クリスタおねえさま、えほんをよむので、きいていてください」
「はい、フランツ。聞かせてください」
指で文字を辿りつつ、ふーちゃんはつっかえながらも自分の大好きな列車の絵本をクリスタちゃんに読んで聞かせていた。
辺境伯領につくと、エクムント様とカサンドラ様と一緒に食卓に着く。
遅い昼食を食べながら、エクムント様とカサンドラ様に御挨拶をする。
「エクムント様、今回もわたくし、エクムント様の婚約者として頑張りますので、よろしくお願いします」
「昼食会も、お茶会も、晩餐会も付き合わせてしまうので、疲れさせてしまうかもしれません。先に謝っておきます」
「エクムント様のお誕生日ですもの。婚約者のお誕生日を祝うのは当然です」
「エリザベート嬢はしっかりしているので助かります」
例え昼食会や晩餐会で何も食べられないままにお皿が下げられてしまっても、わたくしは耐える決意をしていた。貴族社会では女性は小鳥のように小食なのが美徳だとされているが、国一番のフェアレディと呼ばれた母の教育方針では、出されたものを食べない方が失礼に当たると教えられている。
わざと食事を残すような教育はされて来ていないので、料理のお皿に手を付けないまま下げられてしまうのはつらいところがあった。
それでも、貴族社会では挨拶が何よりも大事と分かっているので、エクムント様の婚約者として隣りに立って共に挨拶をできるのはわたくしの誇りでもあった。
昼食を食べ終わると客間に案内される前に確認された。
「エリザベート嬢とクリスタ嬢のお部屋を分けなくていいですか?」
「そうでした。エリザベートとクリスタもそんな年頃になっていましたね」
「今年から分けていただきましょうか」
両親はわたくしとクリスタちゃんは別の部屋にするようにお願いしている。それを聞いてショックを受けているのはふーちゃんとまーちゃんだった。
「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさま、べつのへやなの!?」
「わたくちといっちょじゃないの?」
「エリザベートもクリスタも大人になってきているのです。ディッペル家でも部屋は別でしょう?」
「エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまといっしょがいい!」
「いっちょがいい!」
涙目になってわたくしとクリスタちゃんの脚にしがみ付いてくるふーちゃんとまーちゃんの髪をわたくしとクリスタちゃんは優しく撫でる。
「寝るときや着替えのとき以外は一緒の部屋にいますよ」
「できるだけ同じ部屋にいましょうね」
「やくそくだよ、エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま!」
「いっちょにいてね?」
こんなに弟妹に慕われているのだと思うと可愛さしかないが、わたくしもクリスタちゃんも成長して来ていて、両親と同じ部屋というのも難しい年頃になったのだと実感する。
案内された客間は、クリスタちゃんと二人で使うには広すぎるくらいだった。
着替えや眠るとき以外は両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋に合流するようにしようとわたくしとクリスタちゃんは決めていた。
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