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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
16.謀略のお茶会の後で
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お茶会の終わりに、ミリヤム嬢は持って来ていたトランクの中から寄木細工の美しい木の箱を取り出した。上の部分がスライドして開くようになっている気の箱の中には、柘植の櫛と椿油が入った小瓶が入っている。
「わたくしの故郷の特産品です。寄木細工は木に着色したのではなくて、それぞれ違う色の木を使っています。柘植の櫛と椿油は以前にノエル殿下とエリザベート様とクリスタ様が興味を持ってくださったので、今日、お土産に持ってきました」
模様のようになっている寄木細工はとても美しいし、柘植の櫛も椿油も欲しいと思っていたのでわたくしはありがたく受け取る。箱はわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下の分あった。
「レーニ様にもプレゼントしようと思っておりますが、それはお誕生日のときがいいでしょうか? わたくし、リリエンタール家のお誕生日に招かれるなんて夢のようです」
わたくしがお誕生日に招いたときも、レーニちゃんのお誕生日に招かれるだろうと言ったときにも、ミリヤム嬢は驚いていたが遠慮するようなことはなかった。ノエル殿下という強い後ろ盾を得て自信がついて来ているのだろう。
最初に話しかけたときには、同級生に苛められて涙を堪えていたが、今回はそんなこともなく堂々と受け答えしていたし、陰口を叩かれてもそれを受け流すだけの余裕があった。
「荷物を預けていると思ったら、こんな素敵なプレゼントがあったのですね。見てください、寄木細工が花のようで美しいです」
「柘植の櫛も椿油も、気になっていたので嬉しいです」
「わたくしの寄木細工とノエル殿下の寄木細工とクリスタの寄木細工は、模様が違うのですね」
わたくしのはひし形を敷き詰めた花のようになっており、クリスタちゃんは細長いひし形を組み合わせて鞠のような柄になっており、ノエル殿下はハート形を敷き詰めて花のようになっている。
美しい寄木細工の箱に入った柘植の櫛と椿油にわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下ははしゃいでいた。
「わたくし、私的な場ではエリザベート嬢のことを『エリザベートちゃん』、クリスタ嬢のことを『クリスタちゃん』、レーニ嬢のことを『レーニちゃん』と呼ぶことにしましたの」
あ、その話題が来てしまった。
確かにこの場にはわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下とミリヤム嬢しかいない。給仕もいるのだが、使用人は基本的に存在しないものとして扱うようにというのが貴族の教えだった。
「ミリヤム嬢のことも、『ミリヤムちゃん』とお呼びしていいですか?」
「そんな、畏れ多いことで御座います」
「さすがにわたくしのことを『ノエルちゃん』と呼べないのは分かっています。とてもとても呼んで欲しいけれど。『ノエルちゃん』って可愛い呼び方じゃないですか?」
「可愛いですが、ノエル殿下は殿下です」
「そうですわよね。ここで権力を発動して、無理矢理に『ノエルちゃん』と呼ばせるのも間違っていると分かっています。ですから、わたくしの方からだけ、『ミリヤムちゃん』と呼ぶことを許して欲しいのです」
「許すも何も、ノエル殿下の思いのままにされてください」
恐縮しているミリヤム嬢に、ノエル殿下はその手を取って黒い目を見て語り掛ける。
「身分は違うかもしれませんが、わたくしたちは同じ学園に通う学友で、ミリヤム嬢はわたくしの将来にまで渡るかもしれない、大事な友人です。聞いておきたかったのです」
「ノエル殿下……そんなにもわたくしのことを気遣ってくださってありがたいことです。どうぞ、呼んでくださいませ」
ノエル殿下とミリヤム嬢の間で話がまとまったようなので安心していると、クリスタちゃんがミリヤム嬢に話しかける。
「わたくし、私的な場ではお姉様に『クリスタちゃん』と呼ばれていますの。それが可愛くて素敵で、大好きです。わたくしもミリヤム嬢のことを私的な場では『ミリヤムちゃん』とお呼びしていいですか?」
「とても嬉しいです。わたくしからは畏れ多くてお呼びできませんが、どうか、クリスタ様の思うようにしてくださいませ」
こうなったらわたくしもミリヤム嬢のことを『ミリヤムちゃん』と呼ばなければ不自然になってくるのではないだろうか。
ノエル殿下が無言で微笑んで圧をかけて来ている気がする。
「わたくしも、よろしいですか?」
「喜んで、エリザベート様」
結局わたくしもミリヤム嬢のことを『ミリヤムちゃん』と呼ぶことになった。
こうなるとレーニちゃんも私的な場ではミリヤムちゃんを『ミリヤムちゃん』と呼ぶことになるのではないだろうか。
これだけミリヤムちゃんがわたくしの中で大きな存在になるなんて、考えてもみなかった。
原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』ではミリヤムちゃんは、クリスタちゃんの親友でわたくしと敵対する相手だったから警戒していたが、そんな必要は全くなかったのだ。
ミリヤムちゃんも仲良くなれたことについて、わたくしは安心していた。
お茶会が終わって学園の寮に戻ると、招待状が届いていた。
レーニちゃんからのお誕生日のパーティーへの招待状だ。
わたくしとクリスタちゃんの分があって、ディッペル家の両親にも招待状は届いているだろう。
礼儀として招待状は一通一通手書きで書かなければいけないというのがあるので、わたくしとクリスタちゃんの招待状の内容は若干違う。
印刷技術がそれだけ一般的ではないというのもあるのだろうが、一通一通手書きをするのはかなり面倒くさい。前世の記憶が朧気にあるのでわたくしは、印刷技術に頼りたくなってしまうが、印刷には技術と道具が必要で、どうしても気軽には使えないのだ。
「レーニちゃんのお誕生日に招かれるのは初めてです。ドレスはどれを着ていきますか、お姉様?」
「最近、ずっとエクムント様から頂いた布で作ったドレスばかり着ていますから、別のドレスを着ましょうか」
クリスタちゃんと話しながら、わたくしはある違和感に気付いていた。
ミリヤムちゃんがわたくしのお誕生日会やレーニちゃんのお誕生日会に招かれると知って、遠慮しなかった理由についてだ。
両親がお金を積んででも学園に入学させたミリヤムちゃんは、実は子爵家でありながらそれなりに裕福なのではないだろうか。だから、ドレスの心配をすることがなかったのかもしれない。
わたくしたちにくれた寄木細工の箱も見事だったし、柘植の櫛も椿油も上等なものだと分かっていた。ミリヤムちゃんの実家はそういうものを特産品として栄えているのかもしれない。
ミリヤムちゃんはこれからノエル殿下のお気に入りとして色々なパーティーに誘われるだろう。そのときにミリヤムちゃんが困らないだけの資金が実家にあるということは、それだけでものすごく有利なことである。
ローゼン寮の同級生たちや上級生もそれを妬んでいたのかもしれない。
ミリヤムちゃんについてわたくしはもっと深く知りたいと思っていた。
レーニちゃんからの招待状には、わたくしへのメッセージと共に、問いかけも混じっていた。
「辺境伯をお誘いした方がいいのでしょうか……リリエンタール家は大きな侯爵家ですし、エクムント様をお誘いしても問題はなさそうですが」
わたくしに聞いているということは、レーニちゃんも迷っているということなのだろう。
エクムント様がレーニちゃんのお誕生日に来るとなると、わたくしは純粋にエクムント様に会える日が多くなって嬉しいのだが。
「クリスタちゃんには何か書かれていましたか?」
「わたくしは、普通にお誘いだけでした」
「ハインリヒ殿下をお誘いするかをクリスタちゃんに聞くのはおかしいですからね」
ハインリヒ殿下はこの国の皇太子で気軽に声をかけていい相手ではない。それでも、ノエル殿下のお茶会でご一緒しているので、そのときに話をしてみるくらいのことはレーニちゃんにもできるだろう。
問題はエクムント様である。エクムント様は普段は辺境伯領にいて、辺境伯領を治めていらっしゃる。
エクムント様には声をかけにくいというのがあるので、婚約者のわたくしに聞いてみたといったところなのだろう。
「エクムント様とわたくしはお会いしたいですし、エクムント様も中央の貴族との仲は良好にしておきたいはず」
休みは今日までで、明日からは学園の授業がまた始まる。お茶会のときにわたくしはレーニちゃんにエクムント様をお誘いしてみてはどうかと答えようと思っていた。
「わたくしの故郷の特産品です。寄木細工は木に着色したのではなくて、それぞれ違う色の木を使っています。柘植の櫛と椿油は以前にノエル殿下とエリザベート様とクリスタ様が興味を持ってくださったので、今日、お土産に持ってきました」
模様のようになっている寄木細工はとても美しいし、柘植の櫛も椿油も欲しいと思っていたのでわたくしはありがたく受け取る。箱はわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下の分あった。
「レーニ様にもプレゼントしようと思っておりますが、それはお誕生日のときがいいでしょうか? わたくし、リリエンタール家のお誕生日に招かれるなんて夢のようです」
わたくしがお誕生日に招いたときも、レーニちゃんのお誕生日に招かれるだろうと言ったときにも、ミリヤム嬢は驚いていたが遠慮するようなことはなかった。ノエル殿下という強い後ろ盾を得て自信がついて来ているのだろう。
最初に話しかけたときには、同級生に苛められて涙を堪えていたが、今回はそんなこともなく堂々と受け答えしていたし、陰口を叩かれてもそれを受け流すだけの余裕があった。
「荷物を預けていると思ったら、こんな素敵なプレゼントがあったのですね。見てください、寄木細工が花のようで美しいです」
「柘植の櫛も椿油も、気になっていたので嬉しいです」
「わたくしの寄木細工とノエル殿下の寄木細工とクリスタの寄木細工は、模様が違うのですね」
わたくしのはひし形を敷き詰めた花のようになっており、クリスタちゃんは細長いひし形を組み合わせて鞠のような柄になっており、ノエル殿下はハート形を敷き詰めて花のようになっている。
美しい寄木細工の箱に入った柘植の櫛と椿油にわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下ははしゃいでいた。
「わたくし、私的な場ではエリザベート嬢のことを『エリザベートちゃん』、クリスタ嬢のことを『クリスタちゃん』、レーニ嬢のことを『レーニちゃん』と呼ぶことにしましたの」
あ、その話題が来てしまった。
確かにこの場にはわたくしとクリスタちゃんとノエル殿下とミリヤム嬢しかいない。給仕もいるのだが、使用人は基本的に存在しないものとして扱うようにというのが貴族の教えだった。
「ミリヤム嬢のことも、『ミリヤムちゃん』とお呼びしていいですか?」
「そんな、畏れ多いことで御座います」
「さすがにわたくしのことを『ノエルちゃん』と呼べないのは分かっています。とてもとても呼んで欲しいけれど。『ノエルちゃん』って可愛い呼び方じゃないですか?」
「可愛いですが、ノエル殿下は殿下です」
「そうですわよね。ここで権力を発動して、無理矢理に『ノエルちゃん』と呼ばせるのも間違っていると分かっています。ですから、わたくしの方からだけ、『ミリヤムちゃん』と呼ぶことを許して欲しいのです」
「許すも何も、ノエル殿下の思いのままにされてください」
恐縮しているミリヤム嬢に、ノエル殿下はその手を取って黒い目を見て語り掛ける。
「身分は違うかもしれませんが、わたくしたちは同じ学園に通う学友で、ミリヤム嬢はわたくしの将来にまで渡るかもしれない、大事な友人です。聞いておきたかったのです」
「ノエル殿下……そんなにもわたくしのことを気遣ってくださってありがたいことです。どうぞ、呼んでくださいませ」
ノエル殿下とミリヤム嬢の間で話がまとまったようなので安心していると、クリスタちゃんがミリヤム嬢に話しかける。
「わたくし、私的な場ではお姉様に『クリスタちゃん』と呼ばれていますの。それが可愛くて素敵で、大好きです。わたくしもミリヤム嬢のことを私的な場では『ミリヤムちゃん』とお呼びしていいですか?」
「とても嬉しいです。わたくしからは畏れ多くてお呼びできませんが、どうか、クリスタ様の思うようにしてくださいませ」
こうなったらわたくしもミリヤム嬢のことを『ミリヤムちゃん』と呼ばなければ不自然になってくるのではないだろうか。
ノエル殿下が無言で微笑んで圧をかけて来ている気がする。
「わたくしも、よろしいですか?」
「喜んで、エリザベート様」
結局わたくしもミリヤム嬢のことを『ミリヤムちゃん』と呼ぶことになった。
こうなるとレーニちゃんも私的な場ではミリヤムちゃんを『ミリヤムちゃん』と呼ぶことになるのではないだろうか。
これだけミリヤムちゃんがわたくしの中で大きな存在になるなんて、考えてもみなかった。
原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』ではミリヤムちゃんは、クリスタちゃんの親友でわたくしと敵対する相手だったから警戒していたが、そんな必要は全くなかったのだ。
ミリヤムちゃんも仲良くなれたことについて、わたくしは安心していた。
お茶会が終わって学園の寮に戻ると、招待状が届いていた。
レーニちゃんからのお誕生日のパーティーへの招待状だ。
わたくしとクリスタちゃんの分があって、ディッペル家の両親にも招待状は届いているだろう。
礼儀として招待状は一通一通手書きで書かなければいけないというのがあるので、わたくしとクリスタちゃんの招待状の内容は若干違う。
印刷技術がそれだけ一般的ではないというのもあるのだろうが、一通一通手書きをするのはかなり面倒くさい。前世の記憶が朧気にあるのでわたくしは、印刷技術に頼りたくなってしまうが、印刷には技術と道具が必要で、どうしても気軽には使えないのだ。
「レーニちゃんのお誕生日に招かれるのは初めてです。ドレスはどれを着ていきますか、お姉様?」
「最近、ずっとエクムント様から頂いた布で作ったドレスばかり着ていますから、別のドレスを着ましょうか」
クリスタちゃんと話しながら、わたくしはある違和感に気付いていた。
ミリヤムちゃんがわたくしのお誕生日会やレーニちゃんのお誕生日会に招かれると知って、遠慮しなかった理由についてだ。
両親がお金を積んででも学園に入学させたミリヤムちゃんは、実は子爵家でありながらそれなりに裕福なのではないだろうか。だから、ドレスの心配をすることがなかったのかもしれない。
わたくしたちにくれた寄木細工の箱も見事だったし、柘植の櫛も椿油も上等なものだと分かっていた。ミリヤムちゃんの実家はそういうものを特産品として栄えているのかもしれない。
ミリヤムちゃんはこれからノエル殿下のお気に入りとして色々なパーティーに誘われるだろう。そのときにミリヤムちゃんが困らないだけの資金が実家にあるということは、それだけでものすごく有利なことである。
ローゼン寮の同級生たちや上級生もそれを妬んでいたのかもしれない。
ミリヤムちゃんについてわたくしはもっと深く知りたいと思っていた。
レーニちゃんからの招待状には、わたくしへのメッセージと共に、問いかけも混じっていた。
「辺境伯をお誘いした方がいいのでしょうか……リリエンタール家は大きな侯爵家ですし、エクムント様をお誘いしても問題はなさそうですが」
わたくしに聞いているということは、レーニちゃんも迷っているということなのだろう。
エクムント様がレーニちゃんのお誕生日に来るとなると、わたくしは純粋にエクムント様に会える日が多くなって嬉しいのだが。
「クリスタちゃんには何か書かれていましたか?」
「わたくしは、普通にお誘いだけでした」
「ハインリヒ殿下をお誘いするかをクリスタちゃんに聞くのはおかしいですからね」
ハインリヒ殿下はこの国の皇太子で気軽に声をかけていい相手ではない。それでも、ノエル殿下のお茶会でご一緒しているので、そのときに話をしてみるくらいのことはレーニちゃんにもできるだろう。
問題はエクムント様である。エクムント様は普段は辺境伯領にいて、辺境伯領を治めていらっしゃる。
エクムント様には声をかけにくいというのがあるので、婚約者のわたくしに聞いてみたといったところなのだろう。
「エクムント様とわたくしはお会いしたいですし、エクムント様も中央の貴族との仲は良好にしておきたいはず」
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