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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
50.式典後の昼食会
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国王陛下の生誕の式典が無事に終わると、クリスタちゃんは着替えて両親の部屋に向かった。両親の部屋のソファセットに軽食と紅茶が用意されている。
「ハインリヒ殿下が用意してくれたものだよ」
「昼食会も晩餐会も全く料理に手を付けられなかったでしょう。クリスタ、お疲れ様。お上がりなさい」
両親に促されてクリスタちゃんは上品にフォークを持ってキッシュを食べ、サンドイッチとケーキを食べ、紅茶を飲んでいた。
わたくしは昼食会も晩餐会もなんとか料理を食べることができたが、あの素晴らしい料理をクリスタちゃんが一口も食べられなかったと思うと、わたくしだけ食べてしまって申し訳なくなっていた。
「クリスタ、大変でしたね」
「お腹は空いたけど、歌の披露と詩の披露、どちらもやり遂げられて、王族として認められたようで安心しましたわ」
「クリスタは立派な淑女で、ハインリヒ殿下の婚約者です」
わたくしが言えばクリスタちゃんは無邪気に微笑んでいた。
食事が終わるとクリスタちゃんとわたくしは部屋に戻って順番にお風呂に入って眠る。
目覚めて朝食を食べに両親の部屋に行ったクリスタちゃんとわたくしに、両親が一通の手紙を見せてくれた。
「クリスタとエリザベートは冬休みで学園がお休みだよね」
「ハインリヒ殿下から昼食会のお誘いが来ていますよ」
「お茶会ではなく、昼食会のお誘いですか?」
「ハインリヒ殿下はクリスタだけを招待しているのですか?」
「いいえ、クリスタとエリザベートです。わたくしとお父様はマリアとフランツが待っているので、ディッペル公爵領に帰ります」
「昼食会にはエクムント殿も招待されているようだよ。ハインリヒ殿下とクリスタ、エクムント殿とエリザベートで楽しんでくるといい」
ハインリヒ殿下に誘われた昼食会がどのようなものかわたくしには想像できるような気がしていた。
きっとそれを促したのはエクムント様に違いない。
両親は朝食を食べると馬車と列車を乗り継いでディッペル公爵領に帰ってしまったが、わたくしとクリスタちゃんは残って部屋で過ごしながら昼食会を待っていると、昼食会の前にハインリヒ殿下とエクムント様が迎えに来てくださる。
「クリスタ嬢、一緒に食堂に行きましょう」
「はい、ハインリヒ殿下」
「エリザベート嬢、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、エクムント様」
それぞれに手を引かれて食堂に行くと、そこにはノルベルト殿下とノエル殿下もいた。
食堂で席に着くと、料理が運ばれて来る。
その料理は、国王陛下の生誕の式典で出された昼食会の料理と全く同じだった。
「エクムント殿に相談したのです。毎回クリスタ嬢は王宮の料理を食べられない。それでは王宮の行事が苦痛になるのではないかと」
「私がエリザベート嬢のために、私のお誕生日の料理を昼食会を開いて振舞ったとお話したら、ハインリヒ殿下もそうしたいと仰って」
「エクムント殿からいい話を聞きました。クリスタ嬢、遠慮なく食べてください。私も食べます。ノエル殿下とノルベルト兄上も食べられなかっただろうから招待しました。エクムント殿とエリザベート嬢は同じ料理ですみません」
「わたくしのことは気にしないでください。クリスタ、よかったですね」
「私が言い出したことですから、私のことはお気になさらず」
やはり想像通りだった。
ハインリヒ殿下はクリスタちゃんのために国王陛下の生誕の式典の昼食会を再現してくださったのだ。
その陰にはエクムント様が助言役としていてくださった。想像通りのことだったが、クリスタちゃんは想像していなかったのか、水色の目を輝かせている。
「フォアグラと野菜のテリーヌ、肉団子入りのコンソメスープ、白身魚のムニエル、子羊の香草焼き、デザートの林檎のシュトゥルーデル……全部食べたかったものですわ」
「ゆっくり食べてくださいね」
「はい、味わって食べます。ハインリヒ殿下、ありがとうございます」
目を輝かせて頬を薔薇色に染めているクリスタちゃんは本当に嬉しそうだった。
わたくしも昨日と同じメニューになるが美味しかったのは確かなのでありがたくいただく。
「わたくし、いつも王家が主催の式典では何も食べられないことが多いので、こうして食べられるのは嬉しいですわ」
「僕も早く気付いてノエル殿下に昼食会を開けばよかったですね。エクムント殿は本当にこういうところの気遣いができる」
「エクムント殿が婚約者のエリザベート嬢は幸せですわ」
「その通りだと思います」
ノエル殿下とノルベルト殿下に言われてわたくしは胸がドキドキする。エクムント様の顔を見れば優しく微笑んでいた。
こんなにも気遣いができて優しくて、素晴らしい相手が婚約者でわたくしは誇らしい。
姿勢を正して食事を続けるわたくしをエクムント様もまた食事に集中し始めていた。
エクムント様以外は未成年なので、飲み物は紅茶と葡萄ジュースである。それでもエクムント様が文句を言うようなことはなかった。
クリスタちゃんもノエル殿下も、デザートまで綺麗に食べ終えた。
デザートのシュトゥルーデルとは薄いパイ生地で林檎を巻いた、この国のケーキだ。
パイの食感と煮た林檎の甘酸っぱさがよく合う。
わたくしも全部食べ終えてエクムント様のお皿を見ると、完食されていた。
「とても美味しかったですわ。王宮の調理人はやはり一流ですね」
「クリスタ嬢がそのことを知っていてくれるのは嬉しいです。料理長にもクリスタ嬢が喜んでいたことを伝えましょう」
「食べられないお皿が下げられていくのはとても悲しかったのです。今日はゆっくりと食べられてとても満足でした」
素直に十二歳らしく感想を言うクリスタちゃんにハインリヒ殿下も微笑んでいる。
「この食事会を計画してよかったです。また何かあったときには、晩餐会までは再現できなくても昼食会くらいは再現して、一緒に食事をしましょう」
「はい、ハインリヒ殿下」
「クリスタ嬢が王族になったことで嫌な思いをするようなことは少しでも避けたかったのです」
「お気持ちが嬉しいです」
ハインリヒ殿下もクリスタちゃんが喜んでいることに満足している様子だし、この昼食会は大成功だったのだろう。
昼食会が終わると、わたくしとクリスタちゃんはエクムント様とハインリヒ殿下に部屋まで送ってもらって、部屋で荷物を纏めた。
冬休みなのでディッペル家に帰ることができる。わたくしもクリスタちゃんも学園に入学してからは護衛と一緒に自分たちだけで王都とディッペル家を往復していたので、帰るのに不安はない。
ハインリヒ殿下もエクムント様もわたくしたちの部屋に入ることはなく、迎えに来たときも、送って下さったときも、廊下で挨拶をする。
これが真の紳士なのだとわたくしはエクムント様とハインリヒ殿下の教育の行き届いているところを見た気がした。
ディッペル家に帰るとふーちゃんとまーちゃんが飛びついてきた。
わたくしがふーちゃんを抱き締め、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締める。
「ただいま帰りましたわ、フランツ、マリア」
「会いたかったですわ」
「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、おかえりなさい」
「わたくしもあいたかったです」
しっかりと抱き締め合ってからわたくしとクリスタちゃんは着替えるために部屋に戻った。部屋で着替えていると、クリスタちゃんの呟きが聞こえる。
「ミリヤムちゃんに会いたいですわ」
「ミリヤムちゃんのことをわたくしも考えていたのです」
ミリヤムちゃんは王家の式典に出られる身分ではないし、そういう年齢でもない。
クリスタちゃんがミリヤムちゃんのことを思い出したのは、ドレスや服を洗濯に出すために荷物から取り出すときに、ミリヤムちゃんが洗濯物の出し方も上級生に教えてもらえなかったというのを聞いたことが頭を過ったからだろう。
ペオーニエ寮ではわたくしは安心してドレスも洗濯に出せているが、ミリヤムちゃんが苛められていた頃にはそんなことはとてもできなかったのではないだろうか。
シャワーを浴びるために持って行った服も濡らされたり、インクで汚されたりしたと聞いていた。
今は苛めはなくなっているだろうが、ミリヤムちゃんはローゼン寮で孤立しているのは確かだ。
できる限りミリヤムちゃんのそばにいて孤独ではないのだと思わせたいと感じていた。
「ハインリヒ殿下が用意してくれたものだよ」
「昼食会も晩餐会も全く料理に手を付けられなかったでしょう。クリスタ、お疲れ様。お上がりなさい」
両親に促されてクリスタちゃんは上品にフォークを持ってキッシュを食べ、サンドイッチとケーキを食べ、紅茶を飲んでいた。
わたくしは昼食会も晩餐会もなんとか料理を食べることができたが、あの素晴らしい料理をクリスタちゃんが一口も食べられなかったと思うと、わたくしだけ食べてしまって申し訳なくなっていた。
「クリスタ、大変でしたね」
「お腹は空いたけど、歌の披露と詩の披露、どちらもやり遂げられて、王族として認められたようで安心しましたわ」
「クリスタは立派な淑女で、ハインリヒ殿下の婚約者です」
わたくしが言えばクリスタちゃんは無邪気に微笑んでいた。
食事が終わるとクリスタちゃんとわたくしは部屋に戻って順番にお風呂に入って眠る。
目覚めて朝食を食べに両親の部屋に行ったクリスタちゃんとわたくしに、両親が一通の手紙を見せてくれた。
「クリスタとエリザベートは冬休みで学園がお休みだよね」
「ハインリヒ殿下から昼食会のお誘いが来ていますよ」
「お茶会ではなく、昼食会のお誘いですか?」
「ハインリヒ殿下はクリスタだけを招待しているのですか?」
「いいえ、クリスタとエリザベートです。わたくしとお父様はマリアとフランツが待っているので、ディッペル公爵領に帰ります」
「昼食会にはエクムント殿も招待されているようだよ。ハインリヒ殿下とクリスタ、エクムント殿とエリザベートで楽しんでくるといい」
ハインリヒ殿下に誘われた昼食会がどのようなものかわたくしには想像できるような気がしていた。
きっとそれを促したのはエクムント様に違いない。
両親は朝食を食べると馬車と列車を乗り継いでディッペル公爵領に帰ってしまったが、わたくしとクリスタちゃんは残って部屋で過ごしながら昼食会を待っていると、昼食会の前にハインリヒ殿下とエクムント様が迎えに来てくださる。
「クリスタ嬢、一緒に食堂に行きましょう」
「はい、ハインリヒ殿下」
「エリザベート嬢、お迎えに上がりました」
「ありがとうございます、エクムント様」
それぞれに手を引かれて食堂に行くと、そこにはノルベルト殿下とノエル殿下もいた。
食堂で席に着くと、料理が運ばれて来る。
その料理は、国王陛下の生誕の式典で出された昼食会の料理と全く同じだった。
「エクムント殿に相談したのです。毎回クリスタ嬢は王宮の料理を食べられない。それでは王宮の行事が苦痛になるのではないかと」
「私がエリザベート嬢のために、私のお誕生日の料理を昼食会を開いて振舞ったとお話したら、ハインリヒ殿下もそうしたいと仰って」
「エクムント殿からいい話を聞きました。クリスタ嬢、遠慮なく食べてください。私も食べます。ノエル殿下とノルベルト兄上も食べられなかっただろうから招待しました。エクムント殿とエリザベート嬢は同じ料理ですみません」
「わたくしのことは気にしないでください。クリスタ、よかったですね」
「私が言い出したことですから、私のことはお気になさらず」
やはり想像通りだった。
ハインリヒ殿下はクリスタちゃんのために国王陛下の生誕の式典の昼食会を再現してくださったのだ。
その陰にはエクムント様が助言役としていてくださった。想像通りのことだったが、クリスタちゃんは想像していなかったのか、水色の目を輝かせている。
「フォアグラと野菜のテリーヌ、肉団子入りのコンソメスープ、白身魚のムニエル、子羊の香草焼き、デザートの林檎のシュトゥルーデル……全部食べたかったものですわ」
「ゆっくり食べてくださいね」
「はい、味わって食べます。ハインリヒ殿下、ありがとうございます」
目を輝かせて頬を薔薇色に染めているクリスタちゃんは本当に嬉しそうだった。
わたくしも昨日と同じメニューになるが美味しかったのは確かなのでありがたくいただく。
「わたくし、いつも王家が主催の式典では何も食べられないことが多いので、こうして食べられるのは嬉しいですわ」
「僕も早く気付いてノエル殿下に昼食会を開けばよかったですね。エクムント殿は本当にこういうところの気遣いができる」
「エクムント殿が婚約者のエリザベート嬢は幸せですわ」
「その通りだと思います」
ノエル殿下とノルベルト殿下に言われてわたくしは胸がドキドキする。エクムント様の顔を見れば優しく微笑んでいた。
こんなにも気遣いができて優しくて、素晴らしい相手が婚約者でわたくしは誇らしい。
姿勢を正して食事を続けるわたくしをエクムント様もまた食事に集中し始めていた。
エクムント様以外は未成年なので、飲み物は紅茶と葡萄ジュースである。それでもエクムント様が文句を言うようなことはなかった。
クリスタちゃんもノエル殿下も、デザートまで綺麗に食べ終えた。
デザートのシュトゥルーデルとは薄いパイ生地で林檎を巻いた、この国のケーキだ。
パイの食感と煮た林檎の甘酸っぱさがよく合う。
わたくしも全部食べ終えてエクムント様のお皿を見ると、完食されていた。
「とても美味しかったですわ。王宮の調理人はやはり一流ですね」
「クリスタ嬢がそのことを知っていてくれるのは嬉しいです。料理長にもクリスタ嬢が喜んでいたことを伝えましょう」
「食べられないお皿が下げられていくのはとても悲しかったのです。今日はゆっくりと食べられてとても満足でした」
素直に十二歳らしく感想を言うクリスタちゃんにハインリヒ殿下も微笑んでいる。
「この食事会を計画してよかったです。また何かあったときには、晩餐会までは再現できなくても昼食会くらいは再現して、一緒に食事をしましょう」
「はい、ハインリヒ殿下」
「クリスタ嬢が王族になったことで嫌な思いをするようなことは少しでも避けたかったのです」
「お気持ちが嬉しいです」
ハインリヒ殿下もクリスタちゃんが喜んでいることに満足している様子だし、この昼食会は大成功だったのだろう。
昼食会が終わると、わたくしとクリスタちゃんはエクムント様とハインリヒ殿下に部屋まで送ってもらって、部屋で荷物を纏めた。
冬休みなのでディッペル家に帰ることができる。わたくしもクリスタちゃんも学園に入学してからは護衛と一緒に自分たちだけで王都とディッペル家を往復していたので、帰るのに不安はない。
ハインリヒ殿下もエクムント様もわたくしたちの部屋に入ることはなく、迎えに来たときも、送って下さったときも、廊下で挨拶をする。
これが真の紳士なのだとわたくしはエクムント様とハインリヒ殿下の教育の行き届いているところを見た気がした。
ディッペル家に帰るとふーちゃんとまーちゃんが飛びついてきた。
わたくしがふーちゃんを抱き締め、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締める。
「ただいま帰りましたわ、フランツ、マリア」
「会いたかったですわ」
「エリザベートおねえさま、クリスタおねえさま、おかえりなさい」
「わたくしもあいたかったです」
しっかりと抱き締め合ってからわたくしとクリスタちゃんは着替えるために部屋に戻った。部屋で着替えていると、クリスタちゃんの呟きが聞こえる。
「ミリヤムちゃんに会いたいですわ」
「ミリヤムちゃんのことをわたくしも考えていたのです」
ミリヤムちゃんは王家の式典に出られる身分ではないし、そういう年齢でもない。
クリスタちゃんがミリヤムちゃんのことを思い出したのは、ドレスや服を洗濯に出すために荷物から取り出すときに、ミリヤムちゃんが洗濯物の出し方も上級生に教えてもらえなかったというのを聞いたことが頭を過ったからだろう。
ペオーニエ寮ではわたくしは安心してドレスも洗濯に出せているが、ミリヤムちゃんが苛められていた頃にはそんなことはとてもできなかったのではないだろうか。
シャワーを浴びるために持って行った服も濡らされたり、インクで汚されたりしたと聞いていた。
今は苛めはなくなっているだろうが、ミリヤムちゃんはローゼン寮で孤立しているのは確かだ。
できる限りミリヤムちゃんのそばにいて孤独ではないのだと思わせたいと感じていた。
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