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十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
4.レーニちゃんの解決方法
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翌日のお茶会の後で、わたくしはノエル殿下にお願いをした。
「お茶会の後で少しお時間をいただけませんか? ノエル殿下のお知恵をお借りしたいのです」
相談があると言えば、ノエル殿下はハインリヒ殿下とノルベルト殿下に先に帰ってもらって、サンルームに残って下さった。
「エリザベートちゃん、どうしたのですか? わたくしにできることならば何でも致しますわ」
サンルームにはわたくしとノエル殿下とクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんだけになっている。わたくしはレーニちゃんの方を見た。レーニちゃんが頷いてノエル殿下にラルフ殿からの手紙を見せる。
「ホルツマン家のラルフ殿がわたくしにホルツマン家に嫁げと言って来るのです。わたくしはホルツマン家は愛してくれなかった前の父の実家ですし、いい印象は抱いておりません。お断りして、話しかけてこないように言えば、今度は手紙を書いて来て……」
本当に迷惑そうなレーニちゃんに手紙の中身を検めて、ノエル殿下がレーニちゃんに問いかける。
「レーニちゃんはいないのですか?」
「誰がですか?」
「婚約したいと思うような方です」
その問いかけにレーニちゃんは俯いて首を振っている。
「わたくしはどの殿方もわたくしを愛さないのではないかと思っているのです。前の父に嫌われていたのが原因かもしれません」
「親しくやり取りをしている殿方などいないのですか?」
「それは……ディッペル家のフランツ殿……ふーちゃんと呼んで親しくさせていただいているのですが、ふーちゃんはわたくしにマメにお手紙をくれます。ふーちゃんはわたくしがディッペル家に行くと迎えてくれて、たくさんお話をしてくれます。前にラルフ殿に絡まれたときに助けてくれたのもふーちゃんでした」
ふーちゃんの話をしているときにレーニちゃんの表情が明るくなっているのにノエル殿下も気付かれたのだろう。ノエル殿下はとんでもないことを言いだした。
「いいではないですか。フランツ殿……わたくしも可愛いのでふーちゃんと呼ばせていただきますね、ふーちゃんと婚約すれば!」
「えぇ!? ふーちゃんはまだ六歳なのですよ!?」
「わたくしの兄上は生まれたときから結婚が決まっています。姉上も幼いときに婚約しました。ふーちゃんが六歳でも政略結婚なのだから、問題はありませんわ」
「ふーちゃんはこんなに早く婚約していいのでしょうか?」
「それはそれとして、ディッペル家とリリエンタール家は共に公爵家でつり合いが取れます。公爵家の婚約者ができたと言えば、ラルフ殿は二度と口出しをしてこられないに決まっています」
ノエル殿下の大胆な計画にレーニちゃんは戸惑っているようだが、わたくしは賛成だった。ふーちゃんがどれだけレーニちゃんを好きかは、幼い頃からエクムント様を大好きなわたくしは、よく気持ちが分かるのだ。
それに、レーニちゃんがリリエンタール家の後継者を降りたのも、ディッペル家に嫁ぐ準備をするためだったのを思い出した。あのときはふーちゃんは三歳だったので婚約の話は出て来なかったが、レーニちゃんが迷惑をしていて、婚約者が必要なのだとすれば、ふーちゃん以外に相応しい相手はいない。
「わたくしは物心ついたときからエクムント様が好きでした。今もエクムント様が好きです。ふーちゃんのレーニちゃんへの気持ちも、変わることがないものだと思います」
わたくしが言葉を添えると、レーニちゃんはじっとわたくしとクリスタちゃんを見ていた。
「わたくし、ふーちゃんとの婚約は考えていましたがふーちゃんが小さすぎるかと思っていたのです。わたくしはエリザベートお姉様とクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんが大好きで、家族になれないかと思っていたのです。ふーちゃんと婚約することでエリザベートお姉様とクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと家族になることができるのだったら、今はそれで十分です」
いつかはふーちゃんのことを好きと思える日が来るかもしれない。
その日までは家族としての愛情で、ふーちゃんが大きくなったらそれが恋愛感情に変わるかもしれない。
レーニちゃんの言葉にわたくしも希望を持つ。
「今週末、ディッペル家に一度帰ってお父様とお母様に話をしてみましょう。ふーちゃんにも意志を聞かなければいけません」
「わたくしも今週末リリエンタール家に帰ります」
ノエル殿下の鶴の一声でわたくしたちの方針は決まってしまった。
六歳で婚約とは少し早いかもしれないが、政略結婚ならばあり得ることだ。何より、リリエンタール家は公爵家となったのだから、ディッペル家が縁を持ちたいことは確かなのだ。
週末まで授業を受けて、寮に外泊届を出して、わたくしとクリスタちゃんはディッペル家に、レーニちゃんはリリエンタール家に帰った。
普段は長期休暇しか帰ってこないわたくしとクリスタちゃんが帰って来て、ふーちゃんもまーちゃんも大喜びだった。
帰ったのは昼過ぎだったので、お茶の時間に両親とふーちゃんとまーちゃんが集まって、わたくしはクリスタちゃんと共にノエル殿下とレーニちゃんと話したことを報告した。
「リリエンタール家のレーニ嬢がホルツマン家のラルフ殿に付きまとわれているのです。婚約をして欲しいと。付きまとわないように言ったら、手紙を送ってきたそうです」
「レーニ嬢はラルフ殿と婚約するつもりは全くないのです。元の父親の出身の家であるホルツマン家には関わりたくないと言っています」
「ノエル殿下に相談したら、レーニ嬢とフランツを婚約させてはどうかと言われました。フランツはまだ六歳ですが聡明でレーニ嬢のことを慕っています。手紙もやり取りをしています。レーニ嬢も異性として愛することはまだできないけれど、ディッペル家のわたくしたちと家族になれるのならばと、婚約に前向きです」
「レーニ嬢はディッペル家に嫁ぐ準備のためにリリエンタール家の後継者を退きました。早いかもしれませんが、お父様、お母様、レーニ嬢とフランツの婚約を考えてはくれませんか?」
わたくしとクリスタちゃんの言葉に両親はふーちゃんを見詰めていた。
話しの内容が分かったのか、口出しはしなかったがふーちゃんは身を乗り出して目を輝かせている。
「フランツ、あなたはどう思いますか?」
「わたし、レーニじょうがだいすきです。レーニじょうとこんやくしたいです」
「フランツ、公爵家同士の婚約は、国の一大事業となるから破棄することはできないのだよ?」
「わたしのきもちはかわりません。レーニじょうがずっとすきです。レーニじょうにもずっとすきだというおてがみをおくっています」
ふーちゃんの意思は固いようだ。それならば大丈夫なのではないかとわたくしは思う。姉としてわたくしはふーちゃんに味方してあげたかった
「わたくしは八歳で婚約しましたが、後悔しておりません。エクムント様は優しく、わたくしは八歳以前からエクムント様を慕っていて、今もお慕いしております。フランツもわたくしと似ているのではないかと思っています。フランツもきっと後悔することはないでしょう」
「エリザベートがそこまで言うのならば」
「公爵家同士の婚約だから国王陛下に認めてもらわねばならない。フランツ、それは分かるかな?」
「はい、わたし、こくおうへいかにみとめてもらえるようにがんばります」
「フランツが頑張るのではなくて、私がリリエンタール家と交渉をするのだけれどね」
公爵家同士の婚約は破棄できないことも、ふーちゃんが小さいことも両親は心配しているが、それでもふーちゃんの意思は変わらなかった。
両親はリリエンタール公爵家に手紙を書くことになった。
「エリザベート、クリスタ、明日も休みでしたね」
「明日、リリエンタール公爵家に伺う旨を書いている。一緒に来てくれるか?」
「はい、参ります」
「フランツのためです、行きます」
両親がやっと乗り気になってくれたのでわたくしもクリスタちゃんも嬉しかった。
ふーちゃんはお茶会が終わると、大喜びでわたくしとクリスタちゃんに話しかけて来た。
「ずっとレーニじょうがすきでした。レーニじょうががくえんににゅうがくして、ほかにすきなかたができないかしんぱいでした」
「フランツはレーニ嬢に好きと言われているのですか?」
「わたしのしをよんで、おてがみをよんで、レーニじょうは、わたしのことがだいすきだといってくれます」
それが弟に対するような気持だと教えてしまったらきっとふーちゃんはショックを受けるだろう。わたくしはエクムント様に妹のようにしか思われていないことを知ったときにはショックは受けなかったが、地味に落ち込んだので、ふーちゃんに真実は伝えないことにした。
「レーニじょうにおてがみをかきます。レーニじょうはリリエンタールけにいるのでしょう?」
「フランツ、明日会うのですから直接渡したらどうですか?」
「そうですね、エリザベートおねえさま。あした、ちょくせつわたします」
浮かれているふーちゃんは飛び跳ねて自分の部屋に駆け込んでいった。その背中を見送って、それまで無言だったまーちゃんが口を開く。
「おにいさまは、ずっとレーニじょうしかめにはいっていませんでしたからね」
「マリアにも分かりますか?」
「おにいさまったら、わたくしがいるのに、レーニじょうがいるとずっとレーニじょうにしかはなしかけません」
「マリアはフランツに話しかけて欲しかったのですか?」
「はい……ちょっとさびしかったです」
賢いとはいえまーちゃんもまだ四歳なのだ。話しの輪の外にいることに気付いてしまえば寂しいに違いない。
「フランツはもっと周囲に気を付けられる紳士になってもらわねば困りますね」
「可愛い妹を寂しがらせてはいけませんね」
わたくしとクリスタちゃんで言えば、まーちゃんはわたくしとクリスタちゃんの手をぎゅっと握っていた。
まーちゃんにしてみれば、一歳と少し年上の兄であるふーちゃんが婚約してしまうのは、置いて行かれたような気分になるのかもしれない。
これまでまーちゃんに好きなひとがいるという話は聞いたことがない。わたくしやふーちゃんのように小さな頃から一筋で大好きなひとがいるということの方が珍しいのかもしれない。
まーちゃんの恋するひとはどのようなひとなのか。
楽しみなような、怖いような、姉として複雑なような気分になっていた。
「お茶会の後で少しお時間をいただけませんか? ノエル殿下のお知恵をお借りしたいのです」
相談があると言えば、ノエル殿下はハインリヒ殿下とノルベルト殿下に先に帰ってもらって、サンルームに残って下さった。
「エリザベートちゃん、どうしたのですか? わたくしにできることならば何でも致しますわ」
サンルームにはわたくしとノエル殿下とクリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんだけになっている。わたくしはレーニちゃんの方を見た。レーニちゃんが頷いてノエル殿下にラルフ殿からの手紙を見せる。
「ホルツマン家のラルフ殿がわたくしにホルツマン家に嫁げと言って来るのです。わたくしはホルツマン家は愛してくれなかった前の父の実家ですし、いい印象は抱いておりません。お断りして、話しかけてこないように言えば、今度は手紙を書いて来て……」
本当に迷惑そうなレーニちゃんに手紙の中身を検めて、ノエル殿下がレーニちゃんに問いかける。
「レーニちゃんはいないのですか?」
「誰がですか?」
「婚約したいと思うような方です」
その問いかけにレーニちゃんは俯いて首を振っている。
「わたくしはどの殿方もわたくしを愛さないのではないかと思っているのです。前の父に嫌われていたのが原因かもしれません」
「親しくやり取りをしている殿方などいないのですか?」
「それは……ディッペル家のフランツ殿……ふーちゃんと呼んで親しくさせていただいているのですが、ふーちゃんはわたくしにマメにお手紙をくれます。ふーちゃんはわたくしがディッペル家に行くと迎えてくれて、たくさんお話をしてくれます。前にラルフ殿に絡まれたときに助けてくれたのもふーちゃんでした」
ふーちゃんの話をしているときにレーニちゃんの表情が明るくなっているのにノエル殿下も気付かれたのだろう。ノエル殿下はとんでもないことを言いだした。
「いいではないですか。フランツ殿……わたくしも可愛いのでふーちゃんと呼ばせていただきますね、ふーちゃんと婚約すれば!」
「えぇ!? ふーちゃんはまだ六歳なのですよ!?」
「わたくしの兄上は生まれたときから結婚が決まっています。姉上も幼いときに婚約しました。ふーちゃんが六歳でも政略結婚なのだから、問題はありませんわ」
「ふーちゃんはこんなに早く婚約していいのでしょうか?」
「それはそれとして、ディッペル家とリリエンタール家は共に公爵家でつり合いが取れます。公爵家の婚約者ができたと言えば、ラルフ殿は二度と口出しをしてこられないに決まっています」
ノエル殿下の大胆な計画にレーニちゃんは戸惑っているようだが、わたくしは賛成だった。ふーちゃんがどれだけレーニちゃんを好きかは、幼い頃からエクムント様を大好きなわたくしは、よく気持ちが分かるのだ。
それに、レーニちゃんがリリエンタール家の後継者を降りたのも、ディッペル家に嫁ぐ準備をするためだったのを思い出した。あのときはふーちゃんは三歳だったので婚約の話は出て来なかったが、レーニちゃんが迷惑をしていて、婚約者が必要なのだとすれば、ふーちゃん以外に相応しい相手はいない。
「わたくしは物心ついたときからエクムント様が好きでした。今もエクムント様が好きです。ふーちゃんのレーニちゃんへの気持ちも、変わることがないものだと思います」
わたくしが言葉を添えると、レーニちゃんはじっとわたくしとクリスタちゃんを見ていた。
「わたくし、ふーちゃんとの婚約は考えていましたがふーちゃんが小さすぎるかと思っていたのです。わたくしはエリザベートお姉様とクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんが大好きで、家族になれないかと思っていたのです。ふーちゃんと婚約することでエリザベートお姉様とクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと家族になることができるのだったら、今はそれで十分です」
いつかはふーちゃんのことを好きと思える日が来るかもしれない。
その日までは家族としての愛情で、ふーちゃんが大きくなったらそれが恋愛感情に変わるかもしれない。
レーニちゃんの言葉にわたくしも希望を持つ。
「今週末、ディッペル家に一度帰ってお父様とお母様に話をしてみましょう。ふーちゃんにも意志を聞かなければいけません」
「わたくしも今週末リリエンタール家に帰ります」
ノエル殿下の鶴の一声でわたくしたちの方針は決まってしまった。
六歳で婚約とは少し早いかもしれないが、政略結婚ならばあり得ることだ。何より、リリエンタール家は公爵家となったのだから、ディッペル家が縁を持ちたいことは確かなのだ。
週末まで授業を受けて、寮に外泊届を出して、わたくしとクリスタちゃんはディッペル家に、レーニちゃんはリリエンタール家に帰った。
普段は長期休暇しか帰ってこないわたくしとクリスタちゃんが帰って来て、ふーちゃんもまーちゃんも大喜びだった。
帰ったのは昼過ぎだったので、お茶の時間に両親とふーちゃんとまーちゃんが集まって、わたくしはクリスタちゃんと共にノエル殿下とレーニちゃんと話したことを報告した。
「リリエンタール家のレーニ嬢がホルツマン家のラルフ殿に付きまとわれているのです。婚約をして欲しいと。付きまとわないように言ったら、手紙を送ってきたそうです」
「レーニ嬢はラルフ殿と婚約するつもりは全くないのです。元の父親の出身の家であるホルツマン家には関わりたくないと言っています」
「ノエル殿下に相談したら、レーニ嬢とフランツを婚約させてはどうかと言われました。フランツはまだ六歳ですが聡明でレーニ嬢のことを慕っています。手紙もやり取りをしています。レーニ嬢も異性として愛することはまだできないけれど、ディッペル家のわたくしたちと家族になれるのならばと、婚約に前向きです」
「レーニ嬢はディッペル家に嫁ぐ準備のためにリリエンタール家の後継者を退きました。早いかもしれませんが、お父様、お母様、レーニ嬢とフランツの婚約を考えてはくれませんか?」
わたくしとクリスタちゃんの言葉に両親はふーちゃんを見詰めていた。
話しの内容が分かったのか、口出しはしなかったがふーちゃんは身を乗り出して目を輝かせている。
「フランツ、あなたはどう思いますか?」
「わたし、レーニじょうがだいすきです。レーニじょうとこんやくしたいです」
「フランツ、公爵家同士の婚約は、国の一大事業となるから破棄することはできないのだよ?」
「わたしのきもちはかわりません。レーニじょうがずっとすきです。レーニじょうにもずっとすきだというおてがみをおくっています」
ふーちゃんの意思は固いようだ。それならば大丈夫なのではないかとわたくしは思う。姉としてわたくしはふーちゃんに味方してあげたかった
「わたくしは八歳で婚約しましたが、後悔しておりません。エクムント様は優しく、わたくしは八歳以前からエクムント様を慕っていて、今もお慕いしております。フランツもわたくしと似ているのではないかと思っています。フランツもきっと後悔することはないでしょう」
「エリザベートがそこまで言うのならば」
「公爵家同士の婚約だから国王陛下に認めてもらわねばならない。フランツ、それは分かるかな?」
「はい、わたし、こくおうへいかにみとめてもらえるようにがんばります」
「フランツが頑張るのではなくて、私がリリエンタール家と交渉をするのだけれどね」
公爵家同士の婚約は破棄できないことも、ふーちゃんが小さいことも両親は心配しているが、それでもふーちゃんの意思は変わらなかった。
両親はリリエンタール公爵家に手紙を書くことになった。
「エリザベート、クリスタ、明日も休みでしたね」
「明日、リリエンタール公爵家に伺う旨を書いている。一緒に来てくれるか?」
「はい、参ります」
「フランツのためです、行きます」
両親がやっと乗り気になってくれたのでわたくしもクリスタちゃんも嬉しかった。
ふーちゃんはお茶会が終わると、大喜びでわたくしとクリスタちゃんに話しかけて来た。
「ずっとレーニじょうがすきでした。レーニじょうががくえんににゅうがくして、ほかにすきなかたができないかしんぱいでした」
「フランツはレーニ嬢に好きと言われているのですか?」
「わたしのしをよんで、おてがみをよんで、レーニじょうは、わたしのことがだいすきだといってくれます」
それが弟に対するような気持だと教えてしまったらきっとふーちゃんはショックを受けるだろう。わたくしはエクムント様に妹のようにしか思われていないことを知ったときにはショックは受けなかったが、地味に落ち込んだので、ふーちゃんに真実は伝えないことにした。
「レーニじょうにおてがみをかきます。レーニじょうはリリエンタールけにいるのでしょう?」
「フランツ、明日会うのですから直接渡したらどうですか?」
「そうですね、エリザベートおねえさま。あした、ちょくせつわたします」
浮かれているふーちゃんは飛び跳ねて自分の部屋に駆け込んでいった。その背中を見送って、それまで無言だったまーちゃんが口を開く。
「おにいさまは、ずっとレーニじょうしかめにはいっていませんでしたからね」
「マリアにも分かりますか?」
「おにいさまったら、わたくしがいるのに、レーニじょうがいるとずっとレーニじょうにしかはなしかけません」
「マリアはフランツに話しかけて欲しかったのですか?」
「はい……ちょっとさびしかったです」
賢いとはいえまーちゃんもまだ四歳なのだ。話しの輪の外にいることに気付いてしまえば寂しいに違いない。
「フランツはもっと周囲に気を付けられる紳士になってもらわねば困りますね」
「可愛い妹を寂しがらせてはいけませんね」
わたくしとクリスタちゃんで言えば、まーちゃんはわたくしとクリスタちゃんの手をぎゅっと握っていた。
まーちゃんにしてみれば、一歳と少し年上の兄であるふーちゃんが婚約してしまうのは、置いて行かれたような気分になるのかもしれない。
これまでまーちゃんに好きなひとがいるという話は聞いたことがない。わたくしやふーちゃんのように小さな頃から一筋で大好きなひとがいるということの方が珍しいのかもしれない。
まーちゃんの恋するひとはどのようなひとなのか。
楽しみなような、怖いような、姉として複雑なような気分になっていた。
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