エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
313 / 528
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

20.オリヴァー殿の詩の解釈

しおりを挟む
 翌日は早朝にふーちゃんとまーちゃんが起こしに来た。
 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんが洗面を終えて着替えて廊下に出ると、可愛いシャツと半ズボンのふーちゃん、袖なしのワンピースのまーちゃんが廊下で待っていた。

「お散歩に行きましょう!」
「いいおてんきですよ!」

 元気いっぱいのふーちゃんとまーちゃんに連れられて、お屋敷を出る前に全員日除けの上着を着て帽子を被って、庭に行った。
 辺境伯家の庭にはブーゲンビリアやハイビスカス、アラマンダやプルメリアが咲き乱れている。
 南国の美しい花々を見ながら庭を歩いていると、まーちゃんの帽子が飛ばされた。

「あ! おぼうし!」

 走って取りに行くまーちゃんの前に現れたのは、オリヴァー殿だった。

「この水色の帽子はあなたのですか?」
「は、はい。わたくしのです」
「オリヴァー殿、ありがとうございます。マリア、この方が昨日お話ししたオリヴァー・シュタール殿です」
「初めまして、オリヴァー・シュタールと申します。辺境伯家に招かれるのは初めてで、せっかくなのでお庭を見せていただいていたところです」
「こんな早朝に来られるとは思いませんでした」
「辺境伯から朝食のお誘いを受けたのです。それにしても、気合を入れて早く来すぎてしまいました」

 苦笑しているオリヴァー殿から帽子を受け取って、まーちゃんはオリヴァー殿を見上げている。

「せがたかいのですね」
「辺境伯領の民は中央の方々よりも長身ですからね。辺境伯もとても背が高いです」
「エリザベートおねえさまと、ハインリヒでんかとおなじとしなのですよね?」
「そうです。私は春生まれなので、ハインリヒ殿下より少し早く十五歳になって、社交界デビューもしましたが」

 オリヴァー殿に見惚れるようにして話しているまーちゃんにわたくしが促す。

「マリア、自分の名前を名乗るのですよ」
「そうでした。わたくしは、マリア・ディッペルです」
「私はフランツ・ディッペルです」
「初めまして。ディッペル家の方々とお知り合いになれて嬉しいです」

 微笑んで優雅に一礼するオリヴァー殿にまーちゃんは釘付けである。ふーちゃんも挨拶はしていたが、気持ちはレーニちゃんの方に向いている気がする。

「きのう、エリザベートおねえさまがいっていました。へんきょうはくりょうでがくえんにかようかたはすくないのだと」
「よくご存じですね、マリア様。辺境伯領は軍人の多い領地です。学園に通うよりも士官学校に通うものの方がずっと多いのです。それに中央とは一時期独立派によって、辺境伯領は隔絶していました。中央の学園に通うものは非常に少ないでしょうね」
「しかんがっこうとは、どのようなところですか? へんきょうはくりょうにあるのですか?」
「士官学校は王都にもあって、エクムント様はそちらの士官学校を卒業されましたが、辺境伯領にもあります。ほとんどの貴族の子息は士官学校に入学して、軍人になるのです」

 それは辺境伯領が軍備を大事とする辺境ならではのことなのかもしれない。
 学園に通う辺境伯領の方が少ない理由も、これで分かった。

「隣国との関係も良好ですし、今後はエクムント様は貴族の子息令嬢に士官学校ではなく王都の学園に通うように促すのかもしれません。私は軍人になりたいとは思っていなかったので、学園で学べてとても有意義です」

 オリヴァー殿の言葉に、オリヴァー殿が本当に学園が好きなのだというのが伝わってくる。話を聞きながらわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんは、オリヴァー殿と辺境伯家のお屋敷に入った。

 辺境伯家のお屋敷に入ると、オリヴァー殿はエクムント様に挨拶に行く。

「お招きいただきありがとうございます。オリヴァー・シュタールです」
「エリザベート嬢の学友だと聞いています。よく来てくれました、オリヴァー殿」
「エクムント様にはお茶会で何度かお会いしていますが、今年からは私も社交界デビューしたので、お誕生日の昼食会と晩餐会にもぜひ出席させていただきたいと思っております」
「シュタール侯爵家は辺境伯領においても大事な家です。辺境伯家とこれからも仲良くしていただきたいところです」

 挨拶が終わったところで、わたくしたちは食堂に移動した。
 食堂では朝食の準備がされている。
 朝食はパンとサラダと卵とソーセージだった。食後のデザートにたっぷりと果物が用意されていて、それは好きなだけ取り分けていい形式になっていた。

「朝から来てもらったのは、食堂からの景色をオリヴァー殿にお見せしたかったのです。食堂からは庭がよく見えます」
「少し庭を拝見させていただきましたが、とてもよく整った美しい場所だと思いました」

 食堂の大きな窓からは庭の花々がよく見える。

「朝が一番花が美しいのですよ。昼からは暑さに負けて萎れてしまいます」

 エクムント様が指し示す窓の外を見てみると、ブーゲンビリアやハイビスカス、アラマンダやプルメリアの花々が見える。
 うっとりと見ていると、まーちゃんがテーブルで苦戦していた。

「くだものがっ! とれません!」

 まーちゃんは子ども用の高い椅子を使っているが、そこから降りるとテーブルの上に乗っている果物に手が届かないのだ。果物が大好きなまーちゃんはレギーナが手伝うのを待たずにテーブルに手を伸ばしている。

「どれをお取りしましょうか?」
「いいのですか? ぜんぶ、すこしずつおねがいします」
「分かりました。全種類お取りしますね」

 そこへ声をかけてくださったのはオリヴァー殿だった。
 わたくしもクリスタちゃんも両親も助けに行こうと思っていたのだが、レギーナの仕事を奪うわけにはいかないと躊躇していたのだ。レギーナは部屋の端で控えていたので、まーちゃんの行動にすぐに気付けなかった。

「申し訳ありません、オリヴァー様」
「構いませんよ。私にも年の離れた妹がいます。慣れています」

 謝るレギーナに、オリヴァー殿は気にせずにまーちゃんのお皿に山盛りの果物を取り分けてくれた。
 まーちゃんは自分の席にまでオリヴァー殿に持って来てもらって、椅子によじ登ってフォークで果物を突き刺して美味しそうに食べている。

「オリヴァー殿、ありがとうございました」
「いいえ、困っている幼い方がいたらお助けするのは当然のことです」
「オリヴァーどの、このくだもの、とてもおいしいです。ありがとうございます」

 わたくしがお礼を言えば、オリヴァー殿は当然のことだと言い、まーちゃんも果物を食べながらお礼を言っていた。

 朝食が終わると、食堂のソファに移動して寛いだ雰囲気でフルーツティーやミントティーを飲む。辺境伯領には新鮮な牛乳があまりないようなので、ミルクティーを飲むのは難しそうだし、それよりも冷やされたフルーツティーやミントティーの方が喉を爽やかにした。

「オリヴァー殿は詩の解釈ができると聞いています。私は不器用な軍人で、芸術を解さないので詩がよく分からないのですが、オリヴァー殿はどうやって詩を解釈しているのですか?」
「私はノエル殿下の詩も、クリスタ様の詩も、フランツ様の詩も、根底にあるのは人生に対する圧倒的な明るい感情だと思っております。人生はこんなにも素晴らしく楽しいのだと謳歌している詩なのです」
「人生を、謳歌している?」
「そうです。授業だからといって真面目に考えすぎずに、楽観的に明るく軽く考えることが重要なのです。例え悲しい詩であってもその根底には人生を謳歌している気持ちが現れているので、深刻に考えることはないのです」

 こんな風に説明されると、エクムント様も詩に対する心構えが変わってきたようだ。

「そうなのですね。私はつい書かれている通りに読み取ろうとして真剣に考え込んでしまって、根底に流れるものまで思い付きませんでした」
「詩は歓びです。生きることの素晴らしさを詠っているのです。そう考えて読むと、全く違った視点になると思います」
「オリヴァー殿に話を聞けてよかった。これならば、私も詩のことが少しは分かりそうです」

 エクムント様も詩について前向きになっている様子を見ると、オリヴァー殿を紹介してよかったと思う。
 ノエル殿下の詩がこの国の上流階級の嗜みとなると、わたくしとエクムント様が全く理解できないのでは困ってしまうと思ってはいたのだ。

「オリヴァー殿、後で私の詩を聞いてください」
「喜んでお聞きします、フランツ様」

 オリヴァー殿がノエル殿下の詩の解釈をしていることを知って、ふーちゃんは自分の詩を聞かせたくてたまらなくなってしまったようだ。
 クリスタちゃんもうずうずしているのが見て取れる。

 これまでは詩のことはよく分からないと諦めていたわたくしも、困惑せずにふーちゃんとクリスタちゃんの詩を聞けそうな気がしていた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...