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十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
5.決闘騒ぎ
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この学園の中で一番身分の高い方といえばハインリヒ殿下で、次がノルベルト殿下だろう。
それから、わたくし、クリスタちゃん、レーニちゃんの公爵家の娘たち。それに続くのが侯爵家の貴族たちだが、ここまでくると数が多くなって誰が何番かなどと順位が付けられなくなってくる。
わたくしは学園でも高い地位にある。学園の生徒は平等だとは言われているが、それは建前上でペオーニエ寮は王族と公爵家と侯爵家、リーリエ寮は侯爵家と伯爵家、ローゼン寮は伯爵家とわずかな子爵家と男爵家の出身者で、きっちりと身分で分かれてくる。
ペオーニエ寮の生徒の方が基本的にリーリエ寮の生徒よりも身分が高く、リーリエ寮の生徒の方が基本的にローゼン寮の生徒よりも身分が高い。
例外があるとすれば、途中で陞爵された場合と、辺境伯領の貴族が学園に入学してきた際くらいだった。
途中で陞爵されると身分が変わってくる。それに辺境伯領の貴族はどうしても中央の貴族と比べて身分を低く見られがちなのだ。
オリヴァー殿はシュタール家が辺境伯家を支えていることや、事業を任されていることから、ペオーニエ寮でもいいはずなのに、リーリエ寮だった。こういう例外があるが、基本的に身分は寮できっちりと分かれていた。
そうなると、学園でもめ事があった際に、教師が手を出せない場合には、わたくしやクリスタちゃんやレーニちゃん、それに、ハインリヒ殿下やノルベルト殿下と交流のあるオリヴァー殿のところに持ち込まれるのだった。
「婚約者を侮辱されたとして、決闘をしようとしている男子生徒がいます。リーリエ寮の男子生徒です」
「婚約者を侮辱されたのなら、決闘を申し込むこともあるでしょうね」
「それが、申し込まれたのは女子生徒なのです」
その日、わたくしの元に持ち込まれた揉め事はそのようなものだった。ペオーニエ寮所属の女子生徒が放っておけずにわたくしの部屋まで相談に来たのだ。
女子生徒が男子生徒の婚約者を侮辱した。婚約者を侮辱された男子生徒はその女子生徒に決闘を申し込んだ。
男子生徒と女子生徒で授業が違うように、女子生徒は銃の扱い方など習っていないし、決闘もできるわけがない。
それを分かっていながら男子生徒は女子生徒に決闘を申し込んだのか。
「そのお話、もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
わたくしの言葉に、揉め事を止めに来た女子生徒は詳しく話してくれた。
そもそも、男子生徒の婚約者が、女子生徒の婚約者と親しくしていたらしい。それに嫉妬した女子生徒が、男子生徒の前で婚約者のことを悪し様に罵った。それを聞いた男子生徒は激昂し女子生徒に決闘を申し込んだ。
「女子生徒は受けたのですか?」
「お受けできませんと答えましたが、男子生徒は納得せずに、決闘の日時を告げて立ち去ったのです」
詳細を教えてくれた女子生徒に礼を言って、わたくしはクリスタちゃんを見た。クリスタちゃんは座っていた椅子から立ち上がった。
「放っておけばいいのではないですか?」
「わたくしもそうしたいのはやまやまなのです」
しかし、そういうわけにもいかない。
学園に通う一環として、そういう揉め事の仲裁に入るのも貴族の嗜みとして組み込まれているのだ。
先生に話せばいいだけのことかもしれないが、貴族の身分が高くなってくると、先生も気軽に口を出せなくなってくる。
わたくしは名前を聞いていた女子生徒のところに行ってみることにした。
女子生徒はペオーニエ寮の生徒で、寮の部屋はすぐ近くだった。クリスタちゃんが仕方なく同行してくれる。
「今日、決闘を申し込まれたようですね」
「エリザベート様、わたくしは悪くないのです。元はといえば、あちらの婚約者の方が、わたくしの婚約者を誘惑するような真似をしたのです」
「何をされたのですか?」
「二人でわたくしにもあの男子生徒にも内緒で、お芝居に行ったのです」
問題はそこではなかった。
「それをその男子生徒は知っていたのですか?」
「知らなかったからこそ、教えてあげたのです。あなたの婚約者は、あなたというものがありながら、他の男性を誘う尻軽だと」
言い方が悪すぎる。けれど、婚約者を誘惑されたのならば、女子生徒の怒りももっともだった。
これは悪いのは女子生徒でも男子生徒でもなくて、お互いの婚約者なのではないだろうか。
「決闘に行くつもりですか?」
「わたくしはそんな野蛮なことは致しません」
「それでは、わたくしが命じます。決闘の場所に行ってください。あなたの婚約者と一緒に」
それだけを告げると、次は男子寮に移る。男子寮の中にまでは女子生徒は入っていけないのだが、ロビーで話をすることはできる。件の男子生徒を呼んで今度はその男子生徒に話を聞いた。
「決闘を申し込んだようですね」
「あれはあっちが私の婚約者を酷く言ったからです」
「自分の婚約者が、あなたというものがありながら、他の男性と出かけたというのは聞きましたか?」
「聞きました。それで、かっとなってしまったところもあります」
素直に言う男子生徒にわたくしは少し考える。
「決闘を辞める気はないのですね?」
「エリザベート様が止めるならばやめます」
「いえ、止めません。それよりも、その決闘の場に婚約者を連れて行ってください」
話を終えてわたくしはクリスタちゃんと決闘の時間までに学園で一番身分の高い先生に相談に言っていた。
決闘の時間になると、指定された中庭に男子生徒とその婚約者、女子生徒とその婚約者が来ていた。
野次馬が取り囲む中、わたくしは連れてきた学園で一番身分の高い先生に任せることにする。
「婚約者の二人は前に出なさい。あなたたちが原因でこの決闘が起こされたのだと分かっていますか?」
その問いかけに、男子生徒の婚約者も女子生徒の婚約者も顔を青くしている。
「わたくしたちは、両親に命じられて婚約をしただけです」
「本当は彼女と婚約したかったのです」
その言葉に怒りを抑えきれなかったのは男子生徒だった。
「そっちの家から申し込まれたので受けたのに、そんなことを言うのですか?」
女子生徒も怒りを湛えた瞳で静かに婚約者を見ている。
「わたくしの方から婚約を破棄して差し上げますわ。そんな男はいりません」
婚約破棄を言い渡された女子生徒の婚約者は顔を紙のように白くして女子生徒に縋る。
「あなたと婚約を破棄されたら、あなたの家からの援助はどうなりますか!?」
「全て借金として取り立てます」
「私もこんな婚約者はいらない。婚約は破棄させてもらう」
「それは……」
「借金だらけの男でも、愛があれば大丈夫でしょう?」
婚約破棄を言い渡している男子生徒と女子生徒を、先生が穏やかに諫める。
「家と家同士の婚約はそんなに簡単に破棄はできませんよ。まずはご両親と相談してみてください」
「先生は誰の味方なんですか!?」
「私は愚弄されたのですよ!」
「それは分かっています。そのうえで対処を考えるのです。一度過ちを犯した婚約者は、二度と過ちを犯さないようになるかもしれないじゃないですか。許すことも必要です。どうしても許せない場合には、まずはご両親に相談してみてください」
婚約は簡単には破棄できない。それは家と家との約束なので当然だ。物語のように簡単にはいかないのだ。
先生が生徒たちを帰らせているのを見ながらわたくしはどっと疲れが出てきてしまった。
前世ではこんないざこざのあるロマンス小説を読んでいた気がするが、実際に立ち会ってみると面倒くさいことこの上ない。
「クリスタちゃん、疲れましたわ」
「お姉様、今日はお疲れさまでした」
学園の中でも身分が高いということは、これだけ面倒を抱えなければいけないということである。将来は辺境伯領に嫁いでから、同じように貴族のいざこざを治めることになるかもしれない。その練習なのだからと、先生たちもある程度は生徒に任せている気がする。
「あの男子生徒と、女子生徒の婚約者で決闘をさせてしまえばよかったではないですか」
「決闘をしたものは学園を退学になりますよ」
「退学になってしまえばいいのですよ」
クリスタちゃんの言うことも一理あるがわたくしは、できれば決闘などという血生臭いことはしてほしくなかった。
「エクムント様だったら今回のようなことはどうやって治めるのでしょう」
エクムント様に会って聞いてみたい気がしていた。
それから、わたくし、クリスタちゃん、レーニちゃんの公爵家の娘たち。それに続くのが侯爵家の貴族たちだが、ここまでくると数が多くなって誰が何番かなどと順位が付けられなくなってくる。
わたくしは学園でも高い地位にある。学園の生徒は平等だとは言われているが、それは建前上でペオーニエ寮は王族と公爵家と侯爵家、リーリエ寮は侯爵家と伯爵家、ローゼン寮は伯爵家とわずかな子爵家と男爵家の出身者で、きっちりと身分で分かれてくる。
ペオーニエ寮の生徒の方が基本的にリーリエ寮の生徒よりも身分が高く、リーリエ寮の生徒の方が基本的にローゼン寮の生徒よりも身分が高い。
例外があるとすれば、途中で陞爵された場合と、辺境伯領の貴族が学園に入学してきた際くらいだった。
途中で陞爵されると身分が変わってくる。それに辺境伯領の貴族はどうしても中央の貴族と比べて身分を低く見られがちなのだ。
オリヴァー殿はシュタール家が辺境伯家を支えていることや、事業を任されていることから、ペオーニエ寮でもいいはずなのに、リーリエ寮だった。こういう例外があるが、基本的に身分は寮できっちりと分かれていた。
そうなると、学園でもめ事があった際に、教師が手を出せない場合には、わたくしやクリスタちゃんやレーニちゃん、それに、ハインリヒ殿下やノルベルト殿下と交流のあるオリヴァー殿のところに持ち込まれるのだった。
「婚約者を侮辱されたとして、決闘をしようとしている男子生徒がいます。リーリエ寮の男子生徒です」
「婚約者を侮辱されたのなら、決闘を申し込むこともあるでしょうね」
「それが、申し込まれたのは女子生徒なのです」
その日、わたくしの元に持ち込まれた揉め事はそのようなものだった。ペオーニエ寮所属の女子生徒が放っておけずにわたくしの部屋まで相談に来たのだ。
女子生徒が男子生徒の婚約者を侮辱した。婚約者を侮辱された男子生徒はその女子生徒に決闘を申し込んだ。
男子生徒と女子生徒で授業が違うように、女子生徒は銃の扱い方など習っていないし、決闘もできるわけがない。
それを分かっていながら男子生徒は女子生徒に決闘を申し込んだのか。
「そのお話、もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
わたくしの言葉に、揉め事を止めに来た女子生徒は詳しく話してくれた。
そもそも、男子生徒の婚約者が、女子生徒の婚約者と親しくしていたらしい。それに嫉妬した女子生徒が、男子生徒の前で婚約者のことを悪し様に罵った。それを聞いた男子生徒は激昂し女子生徒に決闘を申し込んだ。
「女子生徒は受けたのですか?」
「お受けできませんと答えましたが、男子生徒は納得せずに、決闘の日時を告げて立ち去ったのです」
詳細を教えてくれた女子生徒に礼を言って、わたくしはクリスタちゃんを見た。クリスタちゃんは座っていた椅子から立ち上がった。
「放っておけばいいのではないですか?」
「わたくしもそうしたいのはやまやまなのです」
しかし、そういうわけにもいかない。
学園に通う一環として、そういう揉め事の仲裁に入るのも貴族の嗜みとして組み込まれているのだ。
先生に話せばいいだけのことかもしれないが、貴族の身分が高くなってくると、先生も気軽に口を出せなくなってくる。
わたくしは名前を聞いていた女子生徒のところに行ってみることにした。
女子生徒はペオーニエ寮の生徒で、寮の部屋はすぐ近くだった。クリスタちゃんが仕方なく同行してくれる。
「今日、決闘を申し込まれたようですね」
「エリザベート様、わたくしは悪くないのです。元はといえば、あちらの婚約者の方が、わたくしの婚約者を誘惑するような真似をしたのです」
「何をされたのですか?」
「二人でわたくしにもあの男子生徒にも内緒で、お芝居に行ったのです」
問題はそこではなかった。
「それをその男子生徒は知っていたのですか?」
「知らなかったからこそ、教えてあげたのです。あなたの婚約者は、あなたというものがありながら、他の男性を誘う尻軽だと」
言い方が悪すぎる。けれど、婚約者を誘惑されたのならば、女子生徒の怒りももっともだった。
これは悪いのは女子生徒でも男子生徒でもなくて、お互いの婚約者なのではないだろうか。
「決闘に行くつもりですか?」
「わたくしはそんな野蛮なことは致しません」
「それでは、わたくしが命じます。決闘の場所に行ってください。あなたの婚約者と一緒に」
それだけを告げると、次は男子寮に移る。男子寮の中にまでは女子生徒は入っていけないのだが、ロビーで話をすることはできる。件の男子生徒を呼んで今度はその男子生徒に話を聞いた。
「決闘を申し込んだようですね」
「あれはあっちが私の婚約者を酷く言ったからです」
「自分の婚約者が、あなたというものがありながら、他の男性と出かけたというのは聞きましたか?」
「聞きました。それで、かっとなってしまったところもあります」
素直に言う男子生徒にわたくしは少し考える。
「決闘を辞める気はないのですね?」
「エリザベート様が止めるならばやめます」
「いえ、止めません。それよりも、その決闘の場に婚約者を連れて行ってください」
話を終えてわたくしはクリスタちゃんと決闘の時間までに学園で一番身分の高い先生に相談に言っていた。
決闘の時間になると、指定された中庭に男子生徒とその婚約者、女子生徒とその婚約者が来ていた。
野次馬が取り囲む中、わたくしは連れてきた学園で一番身分の高い先生に任せることにする。
「婚約者の二人は前に出なさい。あなたたちが原因でこの決闘が起こされたのだと分かっていますか?」
その問いかけに、男子生徒の婚約者も女子生徒の婚約者も顔を青くしている。
「わたくしたちは、両親に命じられて婚約をしただけです」
「本当は彼女と婚約したかったのです」
その言葉に怒りを抑えきれなかったのは男子生徒だった。
「そっちの家から申し込まれたので受けたのに、そんなことを言うのですか?」
女子生徒も怒りを湛えた瞳で静かに婚約者を見ている。
「わたくしの方から婚約を破棄して差し上げますわ。そんな男はいりません」
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「それは……」
「借金だらけの男でも、愛があれば大丈夫でしょう?」
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「家と家同士の婚約はそんなに簡単に破棄はできませんよ。まずはご両親と相談してみてください」
「先生は誰の味方なんですか!?」
「私は愚弄されたのですよ!」
「それは分かっています。そのうえで対処を考えるのです。一度過ちを犯した婚約者は、二度と過ちを犯さないようになるかもしれないじゃないですか。許すことも必要です。どうしても許せない場合には、まずはご両親に相談してみてください」
婚約は簡単には破棄できない。それは家と家との約束なので当然だ。物語のように簡単にはいかないのだ。
先生が生徒たちを帰らせているのを見ながらわたくしはどっと疲れが出てきてしまった。
前世ではこんないざこざのあるロマンス小説を読んでいた気がするが、実際に立ち会ってみると面倒くさいことこの上ない。
「クリスタちゃん、疲れましたわ」
「お姉様、今日はお疲れさまでした」
学園の中でも身分が高いということは、これだけ面倒を抱えなければいけないということである。将来は辺境伯領に嫁いでから、同じように貴族のいざこざを治めることになるかもしれない。その練習なのだからと、先生たちもある程度は生徒に任せている気がする。
「あの男子生徒と、女子生徒の婚約者で決闘をさせてしまえばよかったではないですか」
「決闘をしたものは学園を退学になりますよ」
「退学になってしまえばいいのですよ」
クリスタちゃんの言うことも一理あるがわたくしは、できれば決闘などという血生臭いことはしてほしくなかった。
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