エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
431 / 528
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語

39.本気の雪合戦

しおりを挟む
 ノエル殿下のお誕生日の晩餐会も無事に終わって、わたくしは部屋に戻っていた。クリスタちゃんとレーニちゃんも部屋に戻って順番にお風呂に入っている。
 本来ならばこの時代は頻繁にお風呂に入らなかったのかもしれないが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は著者が日本人ということもあって、毎日お風呂に入る習慣がこの国には根付いていた。それ以外にも春から新学期が始まるのも日本的である。
 この風習のおかげでわたくしは助けられていた。

 清潔が習慣付いているというのはありがたいものである。
 汗をかいたり汚れた体で寝ないで済むし、冬は寒い中薄いドレスで過ごして冷えた体を温かなたっぷりとしたお湯で温めることができる。
 踊りすぎて疲れた脚も湯船の中で揉むことができる。
 お湯の中で体を洗うのには慣れないのだが、お湯は一人ずつ取り換えられるから、毎回清潔で温かいお湯に浸かることができた。

 髪が長くて量も多いので乾かすのには一苦労なのだが、それも冬場はストーブの前で梳いてもらって乾かしたり、夏場は扇風機のようなものを使って乾かしたりする。
 日本とは湿度が全く違うので、髪が渇くのも早かった。

 その代わりに肌が渇くのでこまめに保湿をしなければいけないし、唇には保湿剤を常に塗っておかなければいけない。これは小さなころからずっとそうだった。
 お風呂の後は全身の保湿をしてパジャマに着替えるのだが、手が届かないところはクリスタちゃんに手伝ってもらって、わたくしもクリスタちゃんを手伝っていた。

 学園のシャワールームはバスタブがないので冬場は寒いのだが、それでも熱いシャワーが出るのでまだましだ。
 水道も完備されていて、熱いお湯がいつでも出ることにわたくしは本当にこの世界に生まれてよかったと思っていた。

「エリザベートお姉様、明日の朝の約束をまーちゃんとナターリエ嬢がしていましたよね」
「そうでしたね。明日も早く起きなければいけませんね」
「お姉様、わたくし、雪合戦をした記憶がないのです。ハインリヒ殿下とオリヴァー殿が本気の大人の雪合戦をするのだったら、わたくしもご一緒したいです」
「それは面白そうですが、わたくしたちが混ざったらハインリヒ殿下とオリヴァー殿は遠慮なさるのではないでしょうか」
「そうでしょうか。わたくし、言うだけ言ってみますわ」

 クリスタちゃんは雪合戦をしたい様子である。
 クリスタちゃんもまだ十五歳なので雪合戦に交じりたい気持ちは分からなくもない。それでも淑女としてそんなことをしていいのか、わたくしは迷ってしまう。
 淑女ならば殿方が雪合戦しているのを見守るのがよいのではないだろうか。

 翌朝、いつも通りに起こされて外に行けば、ハインリヒ殿下はノルベルト殿下を連れてきていた。

「ノルベルト兄上と私、オリヴァー殿とエクムント殿で組んで雪合戦をするのです」
「ハインリヒお兄様、雪合戦をなさるんですか?」
「お兄様、頑張って!」

 ユリアーナ殿下とナターリエ嬢は勝負の行方に興味津々だ。

「私とエクムント様が組んでよろしいのですか?」
「う……改めて言われると劣勢な気がしますが、クリスタ嬢にいいところを見せるのです!」
「ハインリヒ、エクムント殿に戦いを挑むのは無謀じゃないか?」
「ノルベルト兄上まで弱気にならないでください」

 エクムント様は軍人として鍛えられているし、戦略的にも優秀だろうということで、オリヴァー殿とエクムント様が組んでは、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下では敵わない雰囲気になっている。

「手加減しては面白くないですからね。本気で行きますよ」
「ますます怖い……。どうしましょう、ノルベルト兄上」
「どうしよう」

 考えているハインリヒ殿下とノルベルト殿下にクリスタちゃんが手を挙げる。

「わたくし、雪合戦をしたことがありません! ご一緒したいのです」
「クリスタ嬢が!? 私はクリスタ嬢に雪玉をぶつけるなんてできませんよ?」
「本気でやらなければ楽しくないでしょう? 気にしないでぶつけてください」

 元気に仲間に入っていくクリスタちゃんに、レーニちゃんが手を挙げた。

「それなら、わたくしとエリザベート嬢とクリスタ嬢とエクムント様で、エクムント様が指揮する女性組、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿で男性組で雪合戦をしたらどうでしょう?」

 大胆な申し出にエクムント様が興味を持つ。

「私は女性陣の指揮官として指示を出せばいいのですね?」
「そうです。男性陣とは筋力が違いますから、エクムント様が指揮官として教えてくださるのが女性陣のハンデなのです」

 それならば確かにいい勝負になりそうな気がする。
 わたくしもふーちゃんやまーちゃんやユリアーナ殿下やデニスくんやゲオルグくんが雪合戦をするのを見て興味は沸いていたし、やりたい気持ちがないわけではなかった。

「わたくし、ボール投げは意外と得意なのです」
「わたくしは乗馬が得意です」
「わたくし、近距離ならば外しませんわ」

 レーニちゃんとわたくしとクリスタちゃんのやる気を見て、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿も決めたようだった。

「それでは、勝負をしましょう」
「女性陣はエクムント殿と作戦会議を行ってください」
「私たちも作戦会議をします」

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿に頷いて、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはエクムント様と話し合いをすることになった。

「最初は茂みや柱の後ろに隠れて、雪玉を作ってください。相手が近付いてきたら、遮蔽物に隠れながら雪玉を投げてください」
「はい、そうします」
「こういうのはチームワークが大事です。一人が狙われていることに気付いたら、すぐに他の三人は助けに行ってください。助けに行くときには身を低くして、できるだけ遮蔽物に隠れて移動してください」
「はい!」

 元気よく答えて、わたくしたちは準備をする。
 わたくしとクリスタちゃんは雪の積もった薔薇の茂みの後ろに、レーニちゃんは柱の後ろに隠れた。
 始まりの合図の前から雪玉を作り出す。

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニ嬢頑張ってー!」
「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、勝ってください!」
「お姉様頑張ってー!」
「お姉様、いっぱい当ててー!」

 ふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの応援が聞こえてくる。

「わたくしが始まりの合図を出します。それでは、始め!」

 ユリアーナ殿下は凛々しく始まりの合図を出していた。

 作戦通りに隠れたままで雪玉を作っていると、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿はわたくしたちが見つけられずにいるようだ。
 雪玉がある程度の量作れると、隠れた場所から投げていく。
 わたくしたちを探していたハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿は雪玉を作っていなくて、すぐには反撃できない。
 反撃されないうちに、雪玉を抱えて別の場所に隠れる。

 それを続けていると、いつの間にかハインリヒ殿下もノルベルト殿下もオリヴァー殿も雪まみれになっていた。

「勝負ありかしら?」
「そのようですね、ユリアーナ殿下」
「勝負ありー! 女性陣の勝ちー!」

 ユリアーナ殿下が声高らかに宣言する。
 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とオリヴァー殿は悔しそうだった。

「もう少し時間を取ってもいいのではないですか?」
「まだ勝負は始まったばかりでしたよ?」
「ダメです! わたくしたちも雪合戦をしたいのです。その時間がなくなります」

 諦めきれないハインリヒ殿下とノルベルト殿下にユリアーナ殿下はきっぱりと言っていた。

 わたくしたちの雪合戦が終わると、ユリアーナ殿下とナターリエ嬢とまーちゃんの女の子組と、ふーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの男の子組の雪合戦が始まる。

「隠れるのです、ナターリエ嬢!」
「隠れて好機を探るのです」
「はい! ユリアーナ殿下、マリア様!」

 女の子組はわたくしたちの作戦を真似しているようだ。隠れながら雪玉を作り貯めて投げて、男の子組を圧倒していた。

「女性がか弱いだなんて思わないことですね」
「女性も作戦があれば戦えるのですね」

 ハインリヒ殿下とオリヴァー殿は女性陣の勝ちと、女の子組の戦いを見て痛感しているようだった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...