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十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語
38.醤油の登場
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昼食会が終わってお茶会の時間になるとクリスタちゃんがふーちゃんとまーちゃんを呼んできて、レーニちゃんがデニスくんを呼んできて、ハインリヒ殿下がユリアーナ殿下を呼んでくる。
国王陛下は王妃殿下に語り掛けていた。
「ディーデリヒとディートリンデのお披露目を早くしたいものだな」
「まだあの子たちは小さいので、陛下の生誕の式典まではお待ちください」
「あの子たちの可愛さを私は世界中に知らしめたいのだ」
ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下のお披露目を心待ちにしている国王陛下に、王妃殿下もくすくすと笑っていた。国王陛下と王妃殿下の夫婦仲はディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下の誕生を経て、ますますよくなっているように見えた。
「エクムント様、ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を抱っこさせていただきましたよね。とても小さくて可愛かった」
「エリザベート嬢もお二方ほどではないのですが、小さかったのですよ」
「わたくしのことはいいのです」
「私にとってはこの世で一番可愛い赤ん坊でした。よく乳を飲んでふくふくとして、幸せそうに笑っていて、とても可愛かったのです」
そんなわたくしも記憶にないころのことを言われても困ってしまう。
エクムント様がそのころからわたくしのことを可愛がってくださっていたのはありがたいのだが、わたくしは物心ついたのが五歳くらいだろうか。それ以前のことはあまり覚えていなかった。
「オリヴァー殿、ナターリエ嬢、お茶をご一緒しましょう!」
「レーニ嬢、お会いできるのが待ち遠しかったです」
会場にやってきたまーちゃんとふーちゃんは、わたくしのことなど視界に入っていない。
「デニス殿、お茶を致しましょう」
「はい、ユリアーナ殿下。いつも誘ってくださって嬉しいです。私たちは親友ですね!」
ユリアーナ殿下の気持ちを全く分かっていないデニス殿の言葉も聞こえてくる。
お茶会には子どもたちも参加して、賑やかになる。
新しく来た十五歳以下の貴族たちに対して、ノエル殿下が挨拶をしている。
「わたくしの二十歳の誕生日にお越しくださってありがとうございます。この年はわたくしが待ちに待った年です。わたくしは次の春にノルベルト殿下と結婚いたします。この国に嫁いでくるものとして、今後ともよろしくお願いいたします」
ノエル殿下の挨拶に拍手が沸き起こる。ノエル殿下の隣りに立って微笑んでいるノルベルト殿下も嬉しそうにしていた。
昼食会でしっかりと昼食を食べたので、わたくしはサンドイッチやキッシュやスコーンやケーキを節制しようと心に決めているはずなのに、目の前にしてしまうと、どれも食べたくなってしまう。
ドレスのウエストがきつくなるなんてことがあってはならないのだけれど、サンドイッチもキッシュもスコーンとクロテッドクリームとジャムも、ケーキも全種類食べたくなってしまう。
テーブルを前にぎゅっと拳を握って我慢しているわたくしに、エクムント様が声を掛けてくださる。
「どれを食べますか? 取り分けましょうか?」
「わたくし、ケーキを一つだけにしますわ」
「いいのですか? もっと食べたいのではないですか?」
「い、いいのです」
この国のドレスは改革があって変わった。腰をコルセットで締め付ける裾の長いものから、少し裾の短いモダンなドレスに変わったのだ。それでも、わたくしはエクムント様に美しいと言ってもらうためにウエストは細めにしていた。
細目にしているウエストがきつくなるようなことはあってはならない。
「エクムント殿、今度の私たちの誕生日の前に視察に来るというのはどうですか?」
「視察の準備が整いましたか」
「本来ならば春の方がいいのですが、冬に子牛を産む雌もいますからね」
そういえばエクムント様はミルクティーのための乳牛をディッペル領から連れて行くための視察を両親に申し込んでいたのだった。その準備が整ったので、両親のお誕生日の前に視察の日程が組まれたようだった。
「乳を出す期間が長い乳牛とはどのようなものか、ぜひ見てみたいです」
「辺境伯領で飼育が可能かも検証してみなければいけませんからね」
「数頭辺境伯領に連れ帰りたいと思っています」
両親と話しているエクムント様が、わたくしの辺境伯領でも美味しいミルクティーを飲みたいという要望に応えようとしてくれているのだと思うと、とてもありがたく、感謝の気持ちしかない。
エクムント様の視察の日程は決まりそうだった。
「そういえば、子猫のシロとクロも大きくなったのでは?」
「もうすぐ三か月になるでしょうか。子ども部屋を抜け出そうと虎視眈々と狙っているので、子ども部屋にはドアに柵が付けられました」
「元気なようならよかったです」
「視察に来たときにぜひ会ってください」
子猫のシロとクロもかなり大きくなっていた。
ディッペル領に帰れたのは一瞬だけだったが、それでも成長の著しさに驚いたものだ。
話しているとエクムント様はサンドイッチを少しとスコーンをお皿に取っていた。わたくしはケーキ一個で我慢しようと思っていたが、どうしても違うケーキも気になってしまう。
こんなに食い気があるのに、わたくしが痩せているのは年齢のせいでしかないだろう。このままだと太ってしまいそうなので、今のうちから節制することを覚えなければいけない。
「そっちのケーキも取ってください。スコーンにはジャムをたっぷりと」
無邪気に乳母に命じているユリアーナ殿下のお皿の上に、大量に乗っているケーキやスコーンやキッシュが少し羨ましい。
それでもわたくしはミルクティーを飲むことでなんとか我慢した。
エクムント様とミルクティーを飲みながら話をする。
「エリザベート嬢が作りたいと言っていたカレーライスの香辛料がほとんど集まったのですよ」
「本当ですか?」
「ご両親のお誕生日の前の視察のときに持ってきましょうか?」
「お願いします」
この世界でカレーライスを作るのはわたくしの願いでもあった。この世界の料理は美味しいのだが、どうしても記憶があると前世の世界の料理を舌が求めてしまうのだ。
「それと、エリザベート嬢が異国の調味料に興味があるということで、辺境伯家で異国の調味料を集めていたら、商人が珍しいものをくれたのですよ」
「どのような調味料ですか?」
「大豆で作ったソースです。黒い色の液体で」
「醤油ですね!」
まさかこの世界で醤油が手に入るなんて思わなかった。
辺境伯領は本当に色んな国と交易をしているようだ。まさか醤油まで手に入るとは思わずわたくしは喜んでしまう。
「よくご存じでしたね。私も名称をあやふやにしか覚えていなかったのに」
「それも王宮の書庫で調べたんだったと思います。異国の食材に興味があったので覚えていたのです」
醤油があれば、未完成だった肉じゃがも完成させられるし、出汁と割って他の料理にも使えるだろう。
さすがに鰹節やいりこは製法を知らないので再現するのが難しい。この国で出汁と言えば、牛の骨を煮込んだ出汁か、野菜を煮込んだ出汁かなのだが、それではやはり少し違う。
こうなってくると茶碗蒸しやお刺身の可能性も生まれてくるのだ。
「醤油を辺境伯領で定期的に入手することは可能ですか?」
「できると思いますよ」
「そしたら、作ってみたい料理がたくさんあります」
夢が広がるわたくしに、エクムント様は微笑んでわたくしの言葉を聞いていてくれた。
「エリザベート嬢と一緒にいると色んなものが食べられそうです」
「わたくしもエクムント様と一緒に、新しい料理を食べてみたいのです」
この世界に持ち込まれる新しい料理。
それはわたくしの記憶の中にあっても、材料がなければ再現することができない。
それを辺境伯領の交易が材料を集めてきてくれる。
辺境伯家に嫁いだらますます様々な料理を展開できるのではないかと、わたくしはわくわくしていた。
国王陛下は王妃殿下に語り掛けていた。
「ディーデリヒとディートリンデのお披露目を早くしたいものだな」
「まだあの子たちは小さいので、陛下の生誕の式典まではお待ちください」
「あの子たちの可愛さを私は世界中に知らしめたいのだ」
ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下のお披露目を心待ちにしている国王陛下に、王妃殿下もくすくすと笑っていた。国王陛下と王妃殿下の夫婦仲はディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下の誕生を経て、ますますよくなっているように見えた。
「エクムント様、ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下を抱っこさせていただきましたよね。とても小さくて可愛かった」
「エリザベート嬢もお二方ほどではないのですが、小さかったのですよ」
「わたくしのことはいいのです」
「私にとってはこの世で一番可愛い赤ん坊でした。よく乳を飲んでふくふくとして、幸せそうに笑っていて、とても可愛かったのです」
そんなわたくしも記憶にないころのことを言われても困ってしまう。
エクムント様がそのころからわたくしのことを可愛がってくださっていたのはありがたいのだが、わたくしは物心ついたのが五歳くらいだろうか。それ以前のことはあまり覚えていなかった。
「オリヴァー殿、ナターリエ嬢、お茶をご一緒しましょう!」
「レーニ嬢、お会いできるのが待ち遠しかったです」
会場にやってきたまーちゃんとふーちゃんは、わたくしのことなど視界に入っていない。
「デニス殿、お茶を致しましょう」
「はい、ユリアーナ殿下。いつも誘ってくださって嬉しいです。私たちは親友ですね!」
ユリアーナ殿下の気持ちを全く分かっていないデニス殿の言葉も聞こえてくる。
お茶会には子どもたちも参加して、賑やかになる。
新しく来た十五歳以下の貴族たちに対して、ノエル殿下が挨拶をしている。
「わたくしの二十歳の誕生日にお越しくださってありがとうございます。この年はわたくしが待ちに待った年です。わたくしは次の春にノルベルト殿下と結婚いたします。この国に嫁いでくるものとして、今後ともよろしくお願いいたします」
ノエル殿下の挨拶に拍手が沸き起こる。ノエル殿下の隣りに立って微笑んでいるノルベルト殿下も嬉しそうにしていた。
昼食会でしっかりと昼食を食べたので、わたくしはサンドイッチやキッシュやスコーンやケーキを節制しようと心に決めているはずなのに、目の前にしてしまうと、どれも食べたくなってしまう。
ドレスのウエストがきつくなるなんてことがあってはならないのだけれど、サンドイッチもキッシュもスコーンとクロテッドクリームとジャムも、ケーキも全種類食べたくなってしまう。
テーブルを前にぎゅっと拳を握って我慢しているわたくしに、エクムント様が声を掛けてくださる。
「どれを食べますか? 取り分けましょうか?」
「わたくし、ケーキを一つだけにしますわ」
「いいのですか? もっと食べたいのではないですか?」
「い、いいのです」
この国のドレスは改革があって変わった。腰をコルセットで締め付ける裾の長いものから、少し裾の短いモダンなドレスに変わったのだ。それでも、わたくしはエクムント様に美しいと言ってもらうためにウエストは細めにしていた。
細目にしているウエストがきつくなるようなことはあってはならない。
「エクムント殿、今度の私たちの誕生日の前に視察に来るというのはどうですか?」
「視察の準備が整いましたか」
「本来ならば春の方がいいのですが、冬に子牛を産む雌もいますからね」
そういえばエクムント様はミルクティーのための乳牛をディッペル領から連れて行くための視察を両親に申し込んでいたのだった。その準備が整ったので、両親のお誕生日の前に視察の日程が組まれたようだった。
「乳を出す期間が長い乳牛とはどのようなものか、ぜひ見てみたいです」
「辺境伯領で飼育が可能かも検証してみなければいけませんからね」
「数頭辺境伯領に連れ帰りたいと思っています」
両親と話しているエクムント様が、わたくしの辺境伯領でも美味しいミルクティーを飲みたいという要望に応えようとしてくれているのだと思うと、とてもありがたく、感謝の気持ちしかない。
エクムント様の視察の日程は決まりそうだった。
「そういえば、子猫のシロとクロも大きくなったのでは?」
「もうすぐ三か月になるでしょうか。子ども部屋を抜け出そうと虎視眈々と狙っているので、子ども部屋にはドアに柵が付けられました」
「元気なようならよかったです」
「視察に来たときにぜひ会ってください」
子猫のシロとクロもかなり大きくなっていた。
ディッペル領に帰れたのは一瞬だけだったが、それでも成長の著しさに驚いたものだ。
話しているとエクムント様はサンドイッチを少しとスコーンをお皿に取っていた。わたくしはケーキ一個で我慢しようと思っていたが、どうしても違うケーキも気になってしまう。
こんなに食い気があるのに、わたくしが痩せているのは年齢のせいでしかないだろう。このままだと太ってしまいそうなので、今のうちから節制することを覚えなければいけない。
「そっちのケーキも取ってください。スコーンにはジャムをたっぷりと」
無邪気に乳母に命じているユリアーナ殿下のお皿の上に、大量に乗っているケーキやスコーンやキッシュが少し羨ましい。
それでもわたくしはミルクティーを飲むことでなんとか我慢した。
エクムント様とミルクティーを飲みながら話をする。
「エリザベート嬢が作りたいと言っていたカレーライスの香辛料がほとんど集まったのですよ」
「本当ですか?」
「ご両親のお誕生日の前の視察のときに持ってきましょうか?」
「お願いします」
この世界でカレーライスを作るのはわたくしの願いでもあった。この世界の料理は美味しいのだが、どうしても記憶があると前世の世界の料理を舌が求めてしまうのだ。
「それと、エリザベート嬢が異国の調味料に興味があるということで、辺境伯家で異国の調味料を集めていたら、商人が珍しいものをくれたのですよ」
「どのような調味料ですか?」
「大豆で作ったソースです。黒い色の液体で」
「醤油ですね!」
まさかこの世界で醤油が手に入るなんて思わなかった。
辺境伯領は本当に色んな国と交易をしているようだ。まさか醤油まで手に入るとは思わずわたくしは喜んでしまう。
「よくご存じでしたね。私も名称をあやふやにしか覚えていなかったのに」
「それも王宮の書庫で調べたんだったと思います。異国の食材に興味があったので覚えていたのです」
醤油があれば、未完成だった肉じゃがも完成させられるし、出汁と割って他の料理にも使えるだろう。
さすがに鰹節やいりこは製法を知らないので再現するのが難しい。この国で出汁と言えば、牛の骨を煮込んだ出汁か、野菜を煮込んだ出汁かなのだが、それではやはり少し違う。
こうなってくると茶碗蒸しやお刺身の可能性も生まれてくるのだ。
「醤油を辺境伯領で定期的に入手することは可能ですか?」
「できると思いますよ」
「そしたら、作ってみたい料理がたくさんあります」
夢が広がるわたくしに、エクムント様は微笑んでわたくしの言葉を聞いていてくれた。
「エリザベート嬢と一緒にいると色んなものが食べられそうです」
「わたくしもエクムント様と一緒に、新しい料理を食べてみたいのです」
この世界に持ち込まれる新しい料理。
それはわたくしの記憶の中にあっても、材料がなければ再現することができない。
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