エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
515 / 528
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚

23.わたくしの課題

しおりを挟む
 エクムント様とわたくしのお誕生日のお茶会には、フランツ、マリア、ユリアーナ殿下、デニス殿、ゲオルグ殿、ガブリエラ嬢、ケヴィン殿、フリーダ嬢、ナターリエ嬢が参加して賑やかになった。
 ユリアーナ殿下はデニス殿に夏休みの様子を聞いていた。

「わたくしは参加できなかったのです。来年からは参加したいと思っています」
「ユリアーナ殿下、参加できずに残念でしたね。今年は私たちは初めて海に行きました。ガブリエラ嬢は海で泳げるのです」
「ガブリエラ嬢!? ガブリエラ嬢と仲良くなったのですか?」
「はい。ガブリエラ嬢は虫も捕まえられるし、木にも登れると言っていました」
「わたくし、虫は捕まえられません……。木にも登ったことがありません。海でも泳げません」
「ユリアーナ殿下は私と同じですね。来年、ガブリエラ嬢の弟のケヴィン殿も来るようなので、教えてもらいましょう」

 デニス殿がガブリエラ嬢と仲良くなっているのを複雑な気持ちで聞いているユリアーナ殿下の胸中は全く伝わっていないようで、デニス殿は無邪気に笑っている。

「ケヴィン殿……わたくしにそのガブリエラ嬢とケヴィン殿を紹介してくれませんか?」
「エクムント様の姪と甥と仰っていました。お話してみましょう」

 デニス殿が経験したことはユリアーナ殿下も経験したいようで、ガブリエラ嬢とケヴィン殿を紹介してくれるように頼むユリアーナ殿下に、デニス殿が先に立ってガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢のところに来た。
 国王陛下の娘であるユリアーナ殿下が来られたことに恐縮して、ガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢の方から挨拶がある。

「ユリアーナ殿下、ご機嫌いかがですか? わたくし、エクムント叔父様の姪のガブリエラ・キルヒマンと申します」
「エクムント叔父様の甥のケヴィン・キルヒマンです」
「同じく姪の、フリーダ・キルヒマンです」
「ガブリエラ嬢は泳げるのだと聞きました。虫も捕まえられるのだと。それに木登りも」
「木登りは忘れてくださいませ。エクムント叔父様に怒られます」
「わたくしにも泳ぎと虫の捕まえ方を教えてもらえますか?」
「もちろんです。ユリアーナ殿下はわたくしの弟妹を雪遊びに誘ってくださいますか?」
「ケヴィン殿とフリーダ嬢も雪合戦をしますか? それは嬉しいです! ご一緒しましょう!」

 最初はおずおずとしていたユリアーナ殿下だったが、雪合戦の話が出てくると目の輝きが変わってくる。ガブリエラ嬢は年上だし、デニス殿を特別に想っているわけではなさそうだとユリアーナ殿下も判断できたのだろう。
 その後は楽しそうにガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢と話していた。
 ケヴィン殿がフランツと同じ年で、フリーダ嬢がユリアーナ殿下やマリアやデニス殿と同じ年なので、仲良くできるだろう。

 子どもたちの交流を見届けてからわたくしはエクムント様と料理の評判に耳を澄ました。
 どうやら蟹クリームコロッケもカレーライスも貴族たちに受け入れられたようだ。

「贅沢に蟹をたっぷり使った料理だなんて、辺境伯も粋なことをしますね」
「シチューのような食べ物は、異国の香辛料の香りがして、ライスと一緒に食べると食が進みました」
「とても美味しかったです。辺境伯領ならではの御馳走ですね」

 評判のよさを聞いてわたくしも胸を撫で下ろしていた。

 お茶会が終わって晩餐会になると、音楽隊もやってきてダンスの音楽を奏でる。
 食堂で夕食を食べ終わって大広間に行くと、既に踊っている貴族たちもいた。

 夕食はごく普通のわたくしもご馳走と思えるメニューにしたのだが、それの評判も悪くなかったようだった。ただ、昼食のインパクトがあったので、夕食はそれほど話題に上がらなかった。

「辺境伯夫妻の功績を讃えて乾杯!」
「乾杯!」

 集まっている貴族の中でわたくしたちを讃えて乾杯する声も響いている。
 心地よい声の中でわたくしは晩餐会を終えられた。

 晩餐会が終わると辺境伯領の貴族たちは馬車で帰って、中央の貴族たちは泊って行く。
 部屋の準備も万端に整えていたので、安心だったが、それでも全ての貴族が部屋に戻るまでは大広間で見守っていなくては行けなくて、わたくしは疲れて眠くなっていた。
 全ての貴族が部屋に戻って、厨房に明日の朝食の人数を伝えて、シャワーを浴びて寝る仕度をして寝室に戻ると、どっと疲れが襲ってくる。

 ベッドに入るとエクムント様の腕に抱かれてわたくしはぐっすりと眠ってしまった。

 翌朝も早くに起きたが散歩には一緒に行けなかった。
 朝食の人数が間違いないかとか、好き嫌いはどうかとか、細かな調整があって、厨房との連絡を取り合っていたのだ。

 朝食が終わると馬車の見送りに出なければいけない。
 ハインリヒ殿下とユリアーナ殿下は辺境伯領の王族の別荘に帰っていたので、始めに見送るのはディッペル家の馬車だ。

 クリスタがわたくしの手を握って目を見詰める。

「お姉様、お疲れさまでした。とても素晴らしいパーティーでした」
「ありがとうございます、クリスタ」
「来年はわたくしは王族の別荘から参加すると思います。今年で辺境伯家に泊まるのも最後かと思うと感慨深かったです」

 クリスタはわたくしと一緒に小さなころから辺境伯家に泊まっている。それも今年で最後となるのかと思うとわたくしもしみじみとしてしまう。

「皇太子妃になっても辺境伯領に来てくださいね」
「はい、必ず」

 名残惜しそうなクリスタが馬車に乗って、ディッペル家の馬車を見送ると、リリエンタール家の馬車が到着する。

「エリザベート夫人、とても楽しいパーティーでした。ありがとうございました」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございました、レーニ嬢」
「夏休みも一緒に過ごせて楽しかったです」
「来年もいらしてくださいね」

 挨拶を終えるとレーニ嬢が馬車に乗る。リリエンタール家の馬車が出発する。
 次はキルヒマン家の馬車だった。
 ガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢がエクムント様を取り囲んでしまう。

「エクムント叔父様、来年も辺境伯領に来させてくださいね」
「私も来年は辺境伯領に行きたいです」
「わたくしは、再来年からになりますが、よろしくお願いします」
「分かったよ、ガブリエラ、ケヴィン、フリーダ。ただ、庭の木に登ってはいけないよ」

 優しく微笑むエクムント様はよき叔父の顔をしていた。

 貴族全員を見送るのにはかなり時間がかかったが、わたくしもエクムント様もやり遂げた。
 お客様が帰った後は客室に忘れ物がないかを調べさせ、客室を整えさせる。

 エクムント様は護衛たちに話をしていた。

「今回エリザベートに失礼なことを言った貴族は辺境伯家に出入り禁止とする。入ってこようとしても追い返すように」
「心得ました!」

 護衛たちが声を揃えて返事をしている。
 わたくしに、女性の仕事云々と説教をしてきた貴族は今後辺境伯家に出入り禁止となったようだ。

「辺境伯領にはまだああいう古い頭の貴族が残っていて困る」

 まだ怒りのおさまっていない様子のエクムント様に、わたくしは隣りの椅子に座ってその手を握る。

「わたくしはそんなに不快にはなりませんでしたわ。ちゃんと言い返しました」
「言い返して当然です。エリザベートは立派な対応をしました」
「でも、少しだけ考えることはあります」
「エリザベート?」
「妊娠して出産するのはどうしても女性にしかできないのは確かですし、その期間はわたくしは執務を休まねばならないでしょう」

 それを考えると、急いで妊娠しなくてもいいような気になってしまうのだ。
 わたくしはまだまだ執務を覚えている最中で、軍の勉強もカサンドラ様に教えてもらっていて、お屋敷の女主人としての仕事もエクムント様と一緒にやっているような状態だ。今やっていることで手一杯なので、妊娠など考えられないのが現状だった。

 もっと執務を覚え、軍の勉強も進み、お屋敷の女主人としての仕事も気を張らずにできるようになってからでないと、妊娠や出産は考えられない。

 わたくしにはまだまだ課題がたくさんあった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...