そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

文字の大きさ
56 / 151
二章 ご寵愛されてます

26.ソフィアとシリル様

しおりを挟む
 わたくしとアレクサンテリ陛下とソフィアとシリル様のお茶会が始まった。
 場所は皇宮本殿のお茶室。
 部屋の暖炉には火がつけられていて、室内はとても暖かい。
 給仕がわたくしたちのカップに紅茶を注いで、部屋の隅に控える。
 紅茶のカップを持ち上げながら、アレクサンテリ陛下が最初に口を開いた。

「シリルとソフィアは昨日は踊ったのか?」
「いいえ、踊っておりません」
「ソフィア嬢に断られたのです。何度お誘いしても、つれない素振りで」

 結局ソフィアとシリル様は踊らなかったようだ。
 ソフィアは簡単には誘いに乗るような娘と思われていないようで、わたくしは安心する。
 シリル様は顔立ちは整っているし、体付きもしっかりしているので、女性に人気があるだろうとは思うのだが、どうしてソフィアに拘るのだろう。

「シリル様は、結婚も婚約も拒んでおられると聞きました。どうして急にソフィアをダンスに誘ったのですか?」

 わたくしが問いかけると、シリル様は真面目な表情になった。

「わたしの婚約者は十年前に病で亡くなりました。元々体が弱く、成人までは生きられないだろうと言われていた女性でした。彼女が一人のままで死にたくないと願ったので、わたしは婚約に応じました。正直なところ彼女に対して恋心はありませんでした」
「それでは、なぜ結婚や婚約を拒んでいたのですか?」
「わたしは、本当に自分が愛した相手と結婚したいと思っていたのです。侯爵家の次男ともなると、それは難しいことです。なので、亡くなった婚約者のことを理由にしていました」

 シリル様は亡くなった婚約者のことを想っていたわけではなかった。本当に愛した相手と結婚したいと思っていた。
 それに関して、ソフィアが紅茶を一口飲んで、低い声で問いかける。

「それが、どうしてわたくしなのですか?」
「実はソフィア嬢のことは聞いていました。皇帝陛下にも怖じずに意見する女性で、姉君の妃殿下がディアン家の後継者となるはずだったのに、妃候補として召し上げられたので、学園で首席を取って、ディアン家の後継者として相応しい人物になろうとしていることを」

 滑らかに喋るシリル様にわたくしもだが、ソフィアも驚いているようだった。
 身内のひいき目だけでなく、ソフィアはとても美しいのだ。スタイルもいいし、わたくしのように背も高すぎないでちょうどいい。
 レナン殿もわたくしよりもソフィアと婚約したがっていたようだが、わたくしはレナン殿のような相手をソフィアの婚約者にするつもりはなかった。
 わたくしの婚約者であることすらも許せない気持ちだったが我慢していたのだ。

「わたくしの見た目ではなく、中身を知っていて声をかけたのですか?」
「確かにソフィア嬢はとても美しかった。そのことよりも、わたしは姉君のためならば皇帝陛下にも怖じずに意見ができて、ディアン家の後継者となるために努力もしているというソフィア嬢の姿に心惹かれたのです」
「それならば、そうと言ってくださればよかったのに」
「まず、踊ってみてどんな方かを知りたかったのです。それから飲み物でも飲みながら、ゆっくりお話しできたらと思っていました」

 話をするきっかけとしてダンスに誘ったのだったら、シリル様の行動の意味も分かる。
 ソフィアとシリル様の話を聞いていると、この二人にはすれ違っていたところがあったようだし、しっかりと話をした方がよさそうな雰囲気がある。

「シリル様は侯爵家のご令息で、ソフィアは伯爵家になったとはいえ、やっと家計が立ち直ったディアン家の娘です。帝都でお育ちのシリル様がディアン伯爵家の領地で暮らせるのですか?」

 貴族同士の付き合いとなってくると、自然と結婚を前提としたものになる。わたくしはそのつもりでシリル様に問いかけたが、シリル様は真剣なまなざしでソフィアを見つめていた。

「わたしは皇帝陛下の遊び相手となるために帝都にいたことが多いですが、それ以外の時期はロセル侯爵家の領地にいました。ロセル侯爵家は贅沢や華美を美徳としません。領民との触れ合いを大事にして、領民と共に生きている家です。ディアン伯爵家も領民のことを考えている家だと思っています。そうでなければ、領民の女性の社会進出を考えられないでしょう」

 ロセル侯爵家についてはわたくしは詳しくは知らないが、広大な領地を持っていることだけは知識として知っている。ロセル侯爵家がその領地で善政を布いていることも、わたくしは聞き及んでいた。

「シリルはソフィアと結婚したいと思っているのか?」

 アレクサンテリ陛下の単刀直入な問いかけに、シリル様は少し考えてから答えた。

「まだ分かりません。分かりませんが、そうなればいいとは思います。皇帝陛下に認められて、妃殿下の生家であるディアン伯爵家にだったら、両親も婿入りすることは反対しないでしょう」
「まだ分からないとはどういう意味ですか?」
「ソフィア嬢とまだしっかりと交流を持っていないからです。わたしはソフィア嬢のことを知りたい。その上で結婚を決めたいのです」

 シリル様の言葉にソフィアが問いかけ、それにシリル様が答えている。
 この国の貴族は学園に入学する十二歳くらいから婚約をし始めて、学園を卒業する十八歳ころくらいから結婚をする。シリル様が二十七歳で結婚していないというのは、少し遅いのだが、事情があったので仕方がないと思われているのだろう。

「わたしには兄と姉がいます。姉は嫁いでいますが、わたしは姉のことをとても愛していました。姉君のために皇帝陛下にも意見ができるソフィア嬢とは分かり合えるところがあるのではないかと思うのです」
「わたくしはディアン伯爵家の後継ぎなのです。相応しい相手を見つけなければいけないと思っています」
「それがわたしではいけませんか?」
「シリル様は、帝都を離れて平気なのですか?」

 真剣なシリル様にソフィアも真剣になってきている。
 現在、シリル様はアレクサンテリ陛下の側近として働くために帝都に住んでいるのだろう。ソフィアの婿になれば、帝都を離れ、アレクサンテリ陛下の側近の座も退かなければいけない。

「その覚悟はあります」

 はっきりと答えたシリル様の目に、嘘はなさそうだった。

「シリルは本気のようだな。ソフィアはシリルと話してみてどう思った?」
「わたくしは……こんないいお話はないとは思いますが、本当にディアン伯爵家でいいのかとは思います」
「ソフィアの気持ちを聞いているつもりなのだが」
「気持ちは……まだ分かりません。貴族の結婚とはそのようなものでしょう?」

 シリル様にはソフィアに対する気持ちがあるのに、ソフィアの方は家格や身分のことを考えていい縁談だとは思っているようだが、気持ちはないようだ。
 アレクサンテリ陛下に確かめられて、ソフィアはどこまでも平静に答えている。

「シリルはそれで構わないのか?」
「貴族は婚約、結婚してから愛を築く者もいます。わたしが努力していけばいいだけの話でしょう」

 シリル様も前向きに考えているようだ。
 これはディアン伯爵家にとってもいい話なのではないだろうか。

「ロセル侯爵家とディアン伯爵家に、わたしから話を通しておこう」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
「お願いいたします」

 ソフィアが幸せになれるかどうかは分からない。
 アレクサンテリ陛下の側近を務められるような方を婿に迎えられれば、ディアン伯爵家は安泰であることは間違いなかった。
 それに、婚約してからソフィアの気持ちがシリル様に向くようになるかもしれない。

 アレクサンテリ陛下が認めたということは、これは皇帝陛下に認められた婚約ということになる。どこからも文句は出ないだろう。

 ソフィアが幸せになれるように。
 わたくしは祈らずにはいられない。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...