運命の恋 ~抱いて欲しいと言えなくて~

秋月真鳥

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僕が抱かれるはずがない! ~運命に裏切られるなんて冗談じゃない~

運命に裏切られるなんて冗談じゃない 10

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 結婚式はラクランが無事に出産を終えてからということで、準備を進めていた。
 冷静になって考えてみれば、エルドレッドの真心を疑い、携帯電話を盗み見て、挙句に抱けと押し倒したなど、恋人を全く信じていない最低の行動だった。深く反省して、それらのことについて謝罪すれば、エルドレッドは気にしていないとからりと笑って済ませてくれる。
「僕の携帯のロック番号、ノーヒントで当てられるのはジェイムズくらいだもの。ジェイムズに見られて困るようなものは何も入れてないよ。それに、そんなに聡明なひとが、僕のことに関しては冷静な判断ができなくなって、空回りしちゃうなんて、それだけ惚れられてるのかと思ったら、嬉しいくらいだよ」
 犯罪統計を専門として、心理学も学んだ聡明で冷静なジェイムズが、エルドレッドとのことに関してだけは取り乱す。大人でかっこ良くて自立した立派な男性が、エルドレッドを失いそうになるだけで泣いてしまうなんて、可愛くてならないというのが彼の主張だった。

「か、可愛いとか、僕みたいな厳つくて逞しいのに言うことじゃないよ」
「ジェイムズは可愛くてかっこいいよ。僕ができないことをしてくれる」

 抱かれることを妥協できないエルドレッドに、自分の方が年上で、それまで女性を抱いていた矜持があるのに抱いてもいいと体を預ける。自分が自立できていない子どもであることで結婚を躊躇うエルドレッドを受け入れて結婚してくれる。
 それがエルドレッドには何よりも嬉しかったのだと言ってくれた。

「信用されてるんだね、僕は」
「共同研究者なのに、兄さんの住んでた部屋に入らなかったり、兄さんの年下の婚約者に誤解がないように挨拶に来たり、誠実なひとだって、分かっているよ」

 そういうところも愛してると囁かれ、情けない姿も、空回りも、可愛いと言えてしまう年下の恋人に、ジェイムズは頭が上がらない思いだった。出会ったときは白皙の美少年で、ジェイムズの言葉に傷付き、目を潤ませていたこともあったのに、いつからこんなに包容力のある男になったのだろう。

「僕の運命が君で良かった」

 自分が変わるのが怖くてアメリカに逃げても、短期留学という形で追いかけて来てくれて、再会してからもジェイムズの心を溶かすように誠実に愛し甘やかしてくれたエルドレッド。

「運命じゃなくても、出会っていたら君を愛したには違いないけどね」
「僕だってそうだよ、ジェイムズ」

 隠していた不安も打ち明けて、穏やかに語り合える今があることを、ジェイムズはエルドレッドに感謝した。
 無事にラクランが男の子を出産したのは秋のことで、ラクランの体調が落ち着くのを待って、年明けのエルドレッドの21歳の誕生日に合わせてジェイムズとエルドレッドは結婚式を挙げた。
 まだ寒い時期だったので、身内だけで教会で式を挙げた後に、ハワード家の屋敷で披露宴を開く。ヘイミッシュとスコットが腕を振るってくれた料理に舌鼓をうち、ハワード家の身内とジェイムズだけの小規模な披露宴だった。

「これで僕もハワード家の一員か」
「歓迎するわよ、ジェイムズさん」

 23歳のときに初めてラクランと出会ったときには、貴族の家系で遠い存在のように思っていたが、7年後にはその一員となるなんて想像もしていなかった。タキシードを着たエルドレッドの美しさに見惚れていると、飲み物を持って来てくれて、隣りに座って、耳元で囁かれる。

「今日のジェイムズ、凄くかっこ良くて、可愛くて、そそる」
「え、エルドレッド!」

 耳まで真っ赤になったジェイムズに、エルドレッドは悪戯っぽく微笑む。出会ったときと同じ笑みに、ジェイムズも照れながらも微笑み返した。
 二人でも広すぎるくらいのマンションなのに、ラクランが理人と暮らすために別の場所を探したのは、グランドピアノを入れるためだったらしい。新婚のジェイムズとエルドレッドは、ヘイミッシュとスコットの勧めもあって、そのままマンションに住むことにした。
 ピアノを続けてはいるエルドレッドだが、理人のように本格的にではないので、電子ピアノだけはリビングに設置してあった。
 式を終えて家に戻って、シャワーを浴びてリビングで一息つく。ベビーベッドでスヤスヤと眠っていたラクランと理人の息子は小さく、可愛らしかった。

「ちょっとだけ、子ども欲しくなったかも」

 空腹とオムツが汚れたので泣いた以外は、ご機嫌だった赤ん坊を思い出して、ぽつりと呟けば、エルドレッドが身を乗り出してくる。

「作っちゃう?」
「……結婚したんだし、作っても、いけないことはないと思うよ」

 妊娠や出産について、あまり乗り気ではなかったジェイムズが、気持ちをかえたことにエルドレッドは嬉しそうに抱き付いてくる。

「なんで、ジェイムズはそんなに僕の嬉しいことばかり言ってくれるの? 自分を変えるって簡単なことじゃないのに、ジェイムズは本当にカッコいい」

 それに、可愛い。
 耳元で囁かれて、ぼっと耳が熱くなった。きっと顔は真っ赤だろう。子どもを作ろうなどと、誘うようなことを自分から口にするなんて。

「愛してる」

 ほの赤い唇が、熱っぽく、真摯にジェイムズを口説く言葉を漏らす。その吐息を交わすように口付けて、もどかしく寝室に雪崩れ込む。部屋着を脱がせ合って、シーツの上で素肌になれば、エルドレッドがジェイムズを優しくベッドに倒して、首筋に、さこつに、甘く歯を立てた。
 じんと痺れるような快感が走って、目が潤むジェイムズは、胸の尖りをかりりと噛まれて、胸をそらすようにして体を跳ねさせた。

「ひっ! んぁぁっ!」
「ここ、すっかり感じるようになっちゃって」
「き、みが、なんども、さわるから……ひんっ!?」

 指先で摘まれると、快感が走って腰に熱が集まる。何度もエルドレッドを受け入れた後孔は、すっかりとそれに慣れて、エルドレッドの与える快感に濡れるようになっていた。
 少しずつ産めるように体が変わっているのだとすれば、既にジェイムズの準備は整っているのかもしれない。
 発達した丸い大臀筋を割って、双丘の狭間、後孔に指を這わせるエルドレッドに、もう違和感も覚えない。指を差し込まれて内壁を擦られれば、後孔はエルドレッドの指を締め付け、胎の奥から甘い疼きが生まれる。

「エルドレッド、気持ちいい……あぁっ、もっと!」

 もっと明確な快感が欲しくて誘うように揺れる腰を、エルドレッドの手が掴む。指を引き抜かれて、押し当てられた屹立の熱さに、ジェイムズは目眩がした。

「ゴム、つけてないけど、いい?」
「んっ、んんっ!」

 体を交わすときに、毎回エルドレッドはジェイムズの意思を確かめてくれる。最初の時以外はできるだけ避妊具は付けてもらっていたが、それすらも焦れったくて、声も出せずにジェイムズはこくこくと頷いて了承の意を示した。先走りの滑りと、ジェイムズ自身の滑りを借りて、エルドレッドの熱い中心がジェイムズの中に入ってくる。
 ずりずりと内壁を擦り上げながら、最奥まで至るそれに、ジェイムズは爪先を丸めて必死に快感に耐えた。蠢く中は、今にも絶頂しそうになっている。

「うごく、よ?」
「んっ……うぁっ! あぁぁっ!」

 激しく腰を打ち付けられて、最奥までゴリゴリと擦られて、ジェイムズは中での絶頂を迎える。引き絞るような内壁の動きに、エルドレッドも追い上げられているようだった。

「あっ、だめぇっ、イって、なか、あぁっ! イってる……ひぁぁっ!」
「ごめん、とまれない」

 荒い息で、絶頂が近いのか動きを止められないエルドレッドに、ジェイムズは高みから降りられずに、立て続けに達して、快感の波に飲まれる。
 中にエルドレッドの熱い迸りを感じて、ジェイムズはまた達していた。

「僕も若い頃はこんなだったっけ……」

 一度で済むはずもなく、何度も注がれて、バスルームで後始末をしてベッドに倒れ込んだジェイムズは、流石にぐったりとしていた。ミネラルウォーターのペットボトルを開けたエルドレッドが、体を支えて口元にそれを添えて、飲ませてくれる。一気に三分の一くらいを飲み干して、ジェイムズは自分が渇いていたことを知った。

「そんなに情熱的に誰かを愛したの?」

 特に嫉妬するでもなく、くすくすと笑いながら問いかけるエルドレッドは、答えを察している気がする。どちらかといえば面倒くさがりのジェイムズは、そんなに深く激しく愛した相手などいなかった。そのせいで、女性とは関係を持ったことがあったが、長続きした覚えがない。

「妬かないの?」
「僕が出会う前のことに妬いても仕方ないでしょ。出会ってからは僕しかいなかったんだから、それでいいの」

 自信家で、優しくて、世話焼きで、美しくて、可愛い伴侶。

「君で良かったよ、本当に」

 しみじみと呟いたジェイムズを、エルドレッドは背中から抱き締めて、そのうなじに顔を埋めた。
 運命はもう、ジェイムズを裏切らない。
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