運命の恋 ~抱いて欲しいと言えなくて~

秋月真鳥

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愛してるは言えない台詞 〜つき〜

Paper Moon 4

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 急速に強引にことを進め過ぎたのかもしれない。
 成人しているとはいえ、連月の方が5歳も年下で、路彦は大人で、男性で、抱かれる立場に今までなかった。それを初めて抱いたのだから、戸惑いもするだろう。
 落ち着くまでの期間が必要なのかもしれないと、連月からは連絡をしなかった。すると、路彦からも全く連絡はない。
 毎日のように「何時に帰りますか?」とか「冴ちゃんのお迎えは終わりましたか?」とかメールが来ていたのが嘘のようで、黙り込んだ携帯電話に、連月はため息が絶えなかった。
 結局、冴が熱を出して、どうしても仕事が抜けられなくてお迎えを頼むまで、路彦と連月は二週間近く会わなかった。仕事終わらせて、大急ぎで家に戻ると路彦は入れ違いに帰ろうとする。

「お帰りなさい、冴ちゃん、インフルエンザだって。薬は飲ませて、今プリン食べさせたから。残りのプリンは冷蔵庫に入れておいて」
「うつらんように、冴が治るまで来たらあかんけど、治ったら、また来て?」

 コートの袖を摘まんで上目遣いに見た路彦は、戸惑っているような表情で、こんなにも会いたかった連月とは違うらしい。バイクに乗って走り去る背中を見送ってから、マスクをしてリビングに入ると、冴がソファで毛布に包まっていた。

「さえ、インフルエンザなのです。うつったら、ししょーにも、みちひこさんにも、めいわくをかけます」
「さぁちゃんのことが迷惑なはずないやろ?」
「うつってたらどうすればいいですか? みちひこさん、ひとりでおねつでくるしみませんか?」

 ヘーゼルの瞳を潤ませてしょんぼりとしている冴の髪を、連月は撫でた。

「路彦さんはそんな小さい男やないよ」

 本当に優しいひと。小さな連月にも応援と希望をくれたひと。
 家に連れて来て、冴に会わせても大丈夫だと確信を持てたのは、おぼろげながらも過去の記憶があったからだった。
 案の定インフルエンザは路彦にうつってしまったし、見舞いも断られたが、連月にはうつらなかった。ブランドの冬のコレクションが近付いているので、路彦はそれに集中してほしいという。
 路彦の作品も発表されるのだから、全力で挑むつもりだったが、それはそれとして、少しは連月を頼って欲しかった。

「自分で何でも決めてしまわはるし、俺に頼ってくれへんし、ベッドではあんなにかわええのに、路彦さんは大人で、俺が子どもみたいや」

 電話口でつい口を突いて出たのは本音。
 もっと路彦を近くに感じたかった。
 路彦から連絡があったのは、冬のコレクションが終わってすぐのこと。「治りました」という簡素なメールなのに、ちゃんと連絡をくれたことに心が躍る。やはり、路彦も連月との関係を嫌がってはいないのだ。
 「迷惑かけたお詫びと、全快祝いに食事でもどうですか?」とメールを返せば、「冴ちゃんも一緒に」ということで、家での食事会になった。冴がいるのでアルコールは飲まないが、ご馳走を作ろうと買い物に行く。

「みちひこさん、おこっていませんでしたか?」
「さぁちゃんと一緒にご飯食べたいて言うてたよ」
「ししょーより、やっぱりさえがかわいいんですね」
「さぁちゃんがかわええんは、否定せんけど」

 きっと路彦は連月と冴を別のベクトルで愛してくれる。連月には可愛いお嫁さんが、冴には優しいお母さんができるのだ。嬉しくないはずはない。

「さぁちゃんのこと、めっちゃ可愛がってくれてるし、路彦さんはええお母さんにならはるわ。どないしよ、はよ赤さん欲しいなぁ」
「ししょーのうかれっぷりが、いたいです」

 連月には万年反抗期の冴だが、家に戻って路彦を待っている間は、そわそわとして落ち着かなかった。インターフォンが鳴って、玄関を開けると、走って来て路彦の脚に飛び付く。

「みちひこさんです! さえが、インフルエンザをうつしてしまってごめんなさい! さえのこと、きらいにならないでください」
「冴ちゃんは可愛いし、冴ちゃんのせいじゃないし、冴ちゃんのことは大好きだよ」

 軽々と冴を抱き上げて家に入って来る長身の路彦のかっこよさに見惚れながら、「なんや、さぁちゃんには良い顔して」などと軽口を叩いて、連月は路彦をソファに招いた。料理を作っている間、路彦は冴に特別に作ったリボンの髪飾りを着けてあげていた。
 夕食のデザートは路彦のつもりで。冴のためにシフォンケーキも作っていたが。
 夕食後に路彦に頼んで食器を片付けている間、鼻歌が自然と出る。恋人同士らしく今日は一緒に風呂にでも入って、ゆっくり愛し合いたい。久しぶりで三度目の行為。初めてのときから感じていた路彦は、二回目も乱れてくれて可愛かった。
 思い出すと股間に熱が集まるのを、深呼吸で我慢して、冴を寝かせて戻ってきた路彦に問いかける。

「さぁちゃん、寝た?」
「はい、ぐっすり」

 割烹着を脱いで路彦に腕を絡ませると、ふわりと甘い香りがした。

「一緒にお風呂に入らへん? 俺ら、そういうの、したことないやろ?」
「いえ、仕事で汗掻いたから、シャワー浴びてきちゃったんですよ」

 シャンプーの香りから察してはいたが、若干がっかりする。しかし、よく考えればこういうことをすると思って路彦が準備して来てくれたに違いない。

「こうなるのを、期待して今夜は来てくれたんやろ? お風呂は残念やけど、路彦さんが俺に抱かれたいて思うてくれるの、嬉しいわぁ」

 ベッドに招くと、恥じらいながらも路彦は抵抗せずに服を脱がされてくれる。もちもちと弾力のある豊かな大胸筋を揉みしだき、胸の尖りを摘まみ上げると、可愛く「ひゃんっ!?」と声を上げた。
 豊かな大胸筋も、引き締まった腰も、丸い大殿筋も、ギリシャ彫刻のような太ももも、全部褐色で艶のある肌で、美しくて色っぽい。胸の尖りが、ぽつりと濃い色をしているのもまた、そそられる。
 一心不乱に揉みしだいていると、路彦の中心が勃ち上がり、物欲しげに腰が揺れた。

「いやらしい雄っぱいや。こんなけしからん雄っぱいで、今まで誰にも抱かれたことないやなんて、信じられへんわ」
「あっ……俺、なんか、誰も……んんっ!」

 胸の尖りに歯を立てて、脚を開かせて腰が浮くほどに膝を曲げる。潤んだ琥珀色の路彦の目にも見えるようにしながら、連月は双丘の狭間、後孔に舌を這わせた。

「ここも、綺麗にしてくれてはるんやろ?」
「やぁっ!? だめぇっ! そんなとこ、きたな、いぃっ!?」
「路彦さんの体はどっこも汚くなんてあらへんで」

 ふっと息を吹きかけると、路彦が腰を捻って逃げようとする。その中心を握れば、抵抗が緩んだ。先走りを指先で伸ばすようにして、ぐちゅぐちゅと扱きながら、尖らせた舌先では後孔を突いて舐め溶かす。

「いやぁ……どうじ、だめっ……おかしく、なるぅっ!」
「おかしくなって? 俺に溺れて?」

 もうとっくに連月は路彦に溺れておかしくなっている。連月ばかりが溺れさせられては叶わない。
 舌を引き抜いて、後孔に切っ先を宛がうと、こくりと路彦の喉仏が期待に動いたのが分かった。

「ぜぇんぶ、俺のもんや」

 誰にも渡さない。
 腰を掴んで押さえつけるように挿入すると、路彦がしなやかに背を反らせて喘いだ。
 事後にはゴムを捨てて、ほとんど意識を飛ばしている路彦の身体を清めて、シーツも替える。175センチと連月は決して小さいわけではないのだが、190センチ近くある路彦を抱き上げることは、舞台や演技のために体を鍛えていても難しい。
 抱き上げてお風呂まで連れていければ、一緒に入ることも可能なのだろうが、なかなか難しい。

「なぁ、路彦さん、俺、やさしぃするで? 路彦さんを大事にする」

 だから自分のものになって欲しい。
 何度「俺のもんや」と宣言して、路彦が頷いても、朝になるとつれない素振りをする。

「路彦さんて、ツンデレなん? 恥ずかしがってるん?」

 眠っている路彦の胸をふにふにと突きながら、連月は問いかけ続けた。
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