俺は貴女に抱かれたい

秋月真鳥

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三部 番外編・後日談

四十にして惑わず 霧恵編

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 舞園霧恵、40歳。
 二人の子どもの母親にして、オメガ界のトップとも言われるモデルである。写真撮影からファッションショー、海外からもオファーが多く、妊娠・出産を終えて、子どもも小さいのでまだ海外進出までしていなかったが、それも数年内にはと噂されていた。
 モデル事務所の経営にも携わり、バーのオーナーも兼ねる、敏腕ぶりも発揮している。
 36歳で産んだ娘がもうすぐ4歳、38歳で産んだ息子がもうすぐ2歳になって、仕事復帰でテレビのトーク番組に呼ばれた霧恵は開口一番、「お綺麗ですね」と言われて妖艶に微笑んだ。

「毎年若返っていらっしゃるのかと噂されるくらい、お綺麗で、お子さんを二人もお産みになったとは信じられませんね」
「あたしの旦那さんが敏腕マネージャーで、実生活から仕事まで、ひと時も離れずサポートしてくれますからね」

 子どもたちが生まれた直ぐは、泣いて起こされるたびに、晃もきっちりと目を覚まして、霧恵の飲み物を用意してくれたり、子どもたちの着替えを用意してくれたり、授乳中は栄養を吸い取られるのでお腹が空くのに対応して夜食を用意してくれていたりした。子どもを保育園に預けて、体型を戻すためのジム通いにも付き合ってくれて、毎朝の愛犬のユリの散歩も兼ねたランニングの間は、子どもたちを公演に連れて行って見ていてくれる。

「子どもたちもお父さんが大好きで、愛し愛されてるのよ。とっても可愛いの」

 晃も含めて、長女の明、長男のゆき全員が、霧恵には可愛くてたまらなかった。

「若さの秘訣は?」
「旦那さんの料理と愛です」

 はっきりと言い切ると、スタジオ内がざわめくのも心地よい。世間的には、強いオメガの霧恵は、同じくオメガの夫と結婚して、霧恵には生えないので霧恵の方が産んだだけで、普段は夫も攻められているのではないかなどと下世話な話が出ている。それも面白がって霧恵は特に否定しなかった。
 収録が終わると、「子どものお迎えがあるから」とすぐに楽屋に引っ込んで、マネージャーの晃と合流した。収録を全部見ていた晃は、顔を真っ赤にしている。

「あのアナウンサー、霧恵さんの脚と胸ばっかり見よったで」
「それだけあたしが魅力的なのね」
「霧恵さんは魅力的やけど、俺のやし……」

 拗ねる晃を引き寄せて口付けを一つ。

「最近、ご無沙汰だったし、今夜は明ちゃんと雪ちゃんは、玲さんと松利さんに預けましょうか?」
「ほ、ほんま?」

 豊かな胸に抱き寄せて耳元に囁くと、晃の表情がぱっと明るくなった。
 子どもが生まれたら母親としてだけで、女性として求めて欲しくないタイプの女性もいるのかもしれないが、霧恵は違う。妊娠していても、子どもを産んでも、舞園霧恵という存在は、魅力的で美しい女性でありたかった。それは年を重ねても同じこと。

「50でも体型維持できるかしら」
「全力で協力させていただきます!」

 その頃には、10歳年下の晃は40歳になる。きっと40歳でも可愛いのだろうと思わずにはいられない。
 保育園に明と雪を迎えに行くと、早く帰りたい明は自分でお帰りの支度をしてリュックをさっさと背負っていた。マイペースな雪は、保育士が読んでくれる絵本に夢中だ。

「おとうちゃん、うち、はよかえりたいんやけど」
「なんか見たいテレビでもあったっけ?」
「かえってどうじょういきたいんや。ええやろ?」

 顔立ちも霧恵に雰囲気の似ている明は、気が強く、都築道場に通いたいと常々言っている。小学生からしか入れないので、まだ見学だけだが、当主の従弟の子ということで、練習にも混ぜてもらっているようだった。

「玲ちゃんと霧恵さんに似たなぁ、あんさん」
「ゆきちゃん、こっちむかへんやろか。おとうちゃんみたら、はしってくるのに」
「まだ、雪ちゃんは楽しんでるんや。あと五分もせんと終わるから、我慢してな」

 手を繋いで二歳児クラスの前で待っていると、絵本を読み終わった雪がくるりと振り向く。こちらは晃によく似た可愛い顔立ちで、晃と明の姿を見つけると真っすぐに駆けて来て、二歳児クラスの脱走防止用の柵に見事にぶつかった。

「あーもう、ちゃんとまえ、みらなあかんやろ? ゆきちゃん、いたかったやろ?」
「ちゃい! めーちゃ、おとうちゃ、ちゃいちゃい」

 額をぶつけて痛いと自己主張する雪は、涙目だった。

「雪ちゃん、気を付けないとだめよぉ?」

 柵の上から手を伸ばして抱き上げた霧恵に、雪に追いつけなかった保育士が謝る。

「タイミングよく開けられなくてすみません」
「いいえぇ、いつもこの子が脱走できないように守ってくれてるのよね。うちの犬用の柵にもよくぶつかってますから、お気になさらず」

 4歳前なのにはきはきと喋る明は恐らくアルファで、ちょっとぼーっとした雪はオメガではないかと言われているが、5歳で検査を受けてみるまでは分からないし、晃のような例もある。どちらにせよ、バース性を晃はあまり気にしていなかった。

「玲さんにお電話したから、今夜は、竹史くんと小梅ちゃんと操ちゃんのお家にお泊りよ?」
「こっちゃ? こっちゃ、ねんね?」
「そうねぇ、玲さんと松利さんが良いって言ったら、小梅ちゃんとねんねできるかもしれないわね」

 はとこ同士の小梅と明は同学年で、なぜかその小梅に雪は憧れていて、小梅の方も雪をよく可愛がってくれる。乳児のときから時々お泊りをしているし、操と竹史と小梅も霧恵の家に泊まりに来るので、お互いに慣れていた。

「おかあちゃん、なんにちおとまりしてええんや? うちも、みぃちゃんとたけちゃんとこっちゃんみたいに、いっしゅうかんおとまりしたいわぁ」
「今回は週末の三日だけよ。今日が金曜日でしょう? 今日の夜、明日の夜で、明後日の日曜日の夜にはお迎えに行くわ。月曜日から保育園でしょう?」
「みっちゅ?」
「そうよ、今日と、明日と、寝て、明後日にお迎え」

 4歳前の明と2歳前の雪にも分かりやすいように、ネイルを塗った指を曲げて数えて教える霧恵に、子どもたちは納得して、家で荷物作りを始めた。服や生活必需品は晃がチェックするのだが、どうしても持っていきたい玩具やぬいぐるみや絵本は、手提げ一つ分ならば何を入れてもいいルールにしていた。

「じぇった!」
「うーん、雪ちゃん、ぎりぎり手提げのチャックが閉まるな、合格や」
「ん!」

 ぱんぱんに手提げに車の玩具やぬいぐるみ、ブロック、絵本を詰めた雪は、チャックが閉まることを晃に確認してもらっていた。

「うちはこれだけでええ」
「明ちゃん、嵩は少なく見えて、ずっしりやな」

 明の方は手提げにぎっしりと児童書が規則正しく入れてある。紙類は重いので、それはずっしりとしていたが、自分で持ち運べる範囲というのもルールのうちだったので、明が運べるのを確認して、晃は「合格」を出した。
 衣服や歯ブラシなどが入ったリュックを背負った二人を玲の家に送り届けると、ロットワイラーのユリのドッグフードと水を足して、二人でシャワーを浴びる。

避妊具ゴムは付けなきゃダメよ?」
「分かってる。うちには可愛い明ちゃんと雪ちゃんがもうおるからな」

 三人目を望む気持ちがないわけではないが、そうなると海外進出が更に遅くなってしまう。幼い子どもを連れて海外を飛び回るのは、学業の問題も、病気の問題もあるので、できれば明が小学校に行くくらいになって、晃と留守番しておける年齢までは日本で活動を続けたかった。

「海外でも短期でしか仕事はしないつもりだけど、それでも、一週間や10日は拘束される可能性があるものね」
「でも、霧恵さんの夢やったんやろ。せやったら、俺は応援したい」
「ありがとう、晃さん」

 長い霧恵の髪を乾かしてくれる晃に礼を言って、霧恵はその体を抱き上げた。食生活の改善と、霧恵とのトレーニングで多少筋肉が付いたとはいえ、晃は細身で霧恵よりも身長が少しだけ低い。

「抱っこ……久しぶりや」
「幾つになっても、あたしが元気な限り、してあげるわよ」

 抱き上げられるのが好きな晃も、子どもの前では我慢している。定期的に発情期の来ない霧恵が、たまに自分を発情状態にして、子どもたちを預けて二人きりになるのは、自分の楽しみと、晃へのご褒美だった。
 ベッドに下ろすと、放つフェロモンの香りに誘われて、晃の中心は完全に勃ち上がって、その目も欲望に溢れている。口付けると、力が抜けて行って、跨る霧恵の思うままになるのが愛しい。
 勃ち上がった中心に避妊具を被せると、その刺激だけで感じたのか、晃の腰がびくびくと跳ねる。

「きりえしゃん、ほしい……」
「お父さんをいっぱい頑張ってる、偉い晃さんに、ご褒美を上げないとね」
「んっ、霧恵さん……」

 口付けて、ゆっくりと腰を落とし、飲み込んでいくと、晃の手が霧恵の腰を掴む。下から突き上げてくるのを、今日は胸を押さえて止めたりせず、そのまま許す。

「あっ、きりえ、さ、しゅごい……きもちいっ!」
「んぁっ、あたしも、悦いわよ、晃」
「あぁっ! でてまうっ! でるぅ!」
「イきなさい?」

 搾り取る意図を込めて中を締めると、一際大きくなった晃の中心が避妊具の中で弾けたのを感じる。一度引き抜いて、手早く避妊具を結んで捨てて、新しい避妊具を被せて、間髪を入れず飲み込んでしまう。

「ひぁっ! らめぇ! また、クるぅ!」
「本当に感じやすい身体。可愛いわ」
「ひぁぁぁっ!」

 腰を振り立てれば、絶頂の余韻の残る体はすぐに高まって、立て続けに達する。快感が過ぎるのか、涙と洟でぐしゃぐしゃになった顔に、霧恵はキスをした。
 結婚のときの約束通り、晃は霧恵をずっと愛してくれている。

「愛してるわ、晃」

 絶頂し続けて、喘ぎ声しか上げられなくなった晃の避妊具を何度も取り換えて、最後は出せないのにドライでまで達させて、霧恵はたっぷりと晃を味わい、楽しんだのだった。
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