龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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五章 在位百周年

1.在位百周年

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 龍王、百二十歳の生誕祭は盛大に祝われた。
 この日が龍王の在位百周年の日になったのだ。
 正確にはこの日に龍王になったわけではないのだが、生誕祭で共に祝うことで国民の喜びを大きくすると共に、国の負担を軽くしようという考えなのだ。
 前龍王が在位百年に満たないくらいで亡くなってしまったので、在位百年となってもまだ二十歳前後のような瑞々しい姿の龍王に国民は沸き上がった。
 ヨシュアも変わらずラバン王国では二十代前半と言われるような外見のままだった。

 若く美しいままの龍王と王配が国民の前に姿を現して手を振ると歓声が上がる。

「龍王陛下万歳!」
「王配陛下万歳!」
「お二人の御代が長く続かんことを!」

 在位百周年に来て、龍王は王宮医師から妙なことを告げられた。

「龍王陛下の子種は完全になくなったのではなくて、数が減ってしまっただけなのかもしれません」

 病で龍王が子種をなくしたのは五歳のときだったが、それから百十五年、医学もそれなりに進歩したらしい。その中で分かってきたのが、龍王のかかった病が完全に子種をなくすのではないかもしれないということだった。

「同じ病にかかったものの中で、子どもができたという症例があるのです」
「だからなんなのだ?」
「龍王陛下に妾妃を持っていただいて、お子を作ってみていただきたいのです」

 王宮医師の言葉は瞬く間に王宮どころか国中に広がって、龍王に女性の妾妃を持たせて、子どもができるか実験してみようという話にまでなっていた。

「わたしは王配以外を愛するつもりはない。後継者は梓晴の子の誰かに決めると宣言している。それを今更覆す方が争いになる。わたしは持てたとしても実子を持つつもりはない」

 実子を持つとしても、子種が少なくなっているので頻繁に妾妃と交わらなければいけないだろう。ヨシュアと交わる時間が減るだけではなくて、妾妃など心を許していないものと体を交わす気は龍王には全くなかった。

「王配陛下のことも最初は『愛するつもりはない』と仰いましたが、今ではこんなに睦まじいではないですか」
「その話はしなくていい! そもそもわたしには愛する王配がいるのだ。王配を横にして失礼だと思わないのか」
「王配陛下は龍王陛下の実の御子を見てみたくはありませんか?」

 進めてくる四大臣家の当主にヨシュアが顔を顰めている。

「できるかどうか分からないのに、龍王陛下が妾妃に時間を取られるようなことは効率的ではないし、龍王陛下は後継者を梓晴殿下の御子と決めていらっしゃる。実子ができるということは後々の争いの元ができるということでもある。わたしは反対だ」

 しっかりとヨシュアも反対の意を示してくれたが、在位百周年で祝いに来ていた国の中には、美しい娘を準備してきた国もあった。

「この娘は王家の血を引いております。龍王陛下に相応しいと思われます」
「この娘は国一番の美貌を誇ると言われております。龍王陛下にいかがでしょう」

 龍王に子種があるかもしれない可能性が出てきたというだけでこれだけ面倒になってくるのかと龍王はげっそりとする。

「わたしには必要ない。縁を結びたければ宰相家か四大臣家に言うのだな」
「龍王陛下の妾妃になるために連れてきたのです」
「どうか受け入れてくださいませ」

 幼いころの病で子種をなくしたと言われていた龍王に、子種が少なくなって子どもができにくくなっただけで子種は僅かだが存在しているかもしれないという可能性が出て来ただけでこの大騒ぎである。
 在位百周年の宴を終えた龍王は疲れた顔で青陵殿に戻った。

 宴の間もほとんど飲み食いしていないので、喉が渇いていたしお腹も空いている。
 それに気付かないヨシュアではなかった。

「何か軽く食べてから休もうか。おれも酒ばかりでお茶が飲みたい」
「ありがとうございます、ヨシュア。ギデオン、ゴライアス、食事の用意をするように厨房に伝えて、茶を入れてくれ」

 ネイサンとデボラは引退していて、息子のギデオンとゴライアスが龍王とヨシュアの侍従となっていた。兄のギデオンが侍従頭で、弟のゴライアスがその補佐になっている。
 ネイサンからしっかりと習っているので、ギデオンもゴライアスもお茶を入れるのはとても上手だった。

 香茶に牛乳とハチミツを入れたものを龍王が、何も入れないものをヨシュアが飲む。好みは年月が経っても変わってはいない。
 厨房が用意した軽い食事を食べながらヨシュアが龍王に言う。

星宇シンユーの発情期ほど激しいものではないのだけれど、おれの妖精としての発情期が来そうな感気配がする」
「わたしの発情期もそろそろではないかと思っているのですが」
ぎょくを賜ったから、発情期も重なってくるだろうとは思ったけれど、その通りになりそうだな」

 龍王はヨシュアに玉を捧げている。魂で繋がるようになった二人は、同じ時を生きるようになって寿命も同じになり、ヨシュアには龍王の水の加護の力が、龍王にはヨシュアの魔力が宿るようになった。魂が結ばれているので発情期も同じ時期になるようだ。
 元々性欲の薄い妖精のヨシュアにとっては、生まれてから百四十一年目にして初めての発情期である。どういうことになるのかはヨシュア自身も予測もできていないだろう。

「発情期の間は休みをもらって二人ですごしましょう」
「そうできるといいんだが」
「そうしてみせます。邪魔はさせません」

 強い意志で龍王は告げるのだが、ヨシュアは心配事がありそうだった。

「発情期にかこつけて、星宇に女性を宛がって、閉じ込めるようなことをしそうな気がするんだよな」
「閉じ込められても、わたしはヨシュアの元に行きます。ヨシュア以外を抱くことはあり得ません」
「そうだといいんだが、星宇に実子を持ってほしい奴らが暴走しないとも限らない」

 発情期で理性が飛んでいたとしても、龍王が求めるのはヨシュアだけであるという自信があった。ヨシュア以外と部屋に閉じ込められたとしても、間違いが起こることは決してない。元より龍王はヨシュア以外愛していないし、ヨシュア以外から触れられるのは気持ち悪いとまで思っていた。

「アイザック、イザヤ、龍王陛下から目を離すな。影となってずっとお側にいろ」
「心得ました、王配陛下」
「王配陛下のお心のままに」

 イザークとシオンはまだ魔術騎士団に残っていたが、副団長と補佐に昇級していて、イザークの息子であるアイザックとイザヤが今は龍王とヨシュアの護衛についていた。二人ともイザークとラバン王国の魔術師の女性との間に生まれたが、イザークと妻は志龍ジーロン王国に居を構えて暮らしている。子どもたちはラバン王国に訪ねて行ったことはあっても、志龍王国を故郷と思って暮らしているようだ。シオンは志龍王国の龍族の女性と結婚した。

 時が経って変わったものもあるが、龍王とヨシュアの関係は何も変わらない。
 相変わらず愛し合っているし、睦み合う回数も変わっていない。

「ヨシュア、今日は式典で頑張ったのでご褒美をください」

 甘えた声を出す龍王に、ヨシュアは食べ終わった皿を片付けさせて手を差し出す。

「湯殿に行くか」
「髪を洗ってくださいね」

 変わったことといえば、龍王とヨシュアの髪が腰を超すくらいまで長くなったことくらいだろうか。長い髪がお互いに好きなので、伸ばすようにお互いに言っていたらその長さに落ち着いたのだ。

「髪を洗ってあげるよ。体も洗ってあげようか?」
「嬉しいです、ヨシュア」

 手を取られて湯殿まで導かれて龍王はヨシュアと共に脱衣所で重い衣装を脱いで裸になる。
 湯あみをして、出て来るとギデオンとゴライアスが脱衣所で待っていてくれて龍王の着替えを手伝ってくれた。

「星宇、おいで」

 両腕を広げられて、龍王はヨシュアの腕に身を任せ、抱き上げられて部屋まで運ばれた。
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