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三章 マウリ様と過ごす高等学校二年目
6.マウリ様の新しい家庭教師
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王都からマウリ様に新しい家庭教師が来ることになった日、わたくしも高等学校が休みで子ども部屋で到着を待っていた。住み込みで暮らす家庭教師の先生は男性で、王都の貴族の子息と聞いている。
高等学校よりも更に上の研究課程まで終えた先生だということでマウリ様はがちがちに緊張していた。元々マウリ様は人懐っこい方ではない。カールロ様にあんなに早く懐いたのが奇跡のようで、それ以外の大人には最初はラント家の乳母のサイラさんや家庭教師のリーッタ先生すらも警戒して泣き喚いていた。
わたくしのスカートに必死にしがみ付いてぷるぷると体を震わせているマウリ様の背中を撫でて、わたくしは少しでも落ち着かせようとする。馬車の到着は昼食後で、マウリ様にとっては最悪のタイミングだった。
「ようこそおいでくださいました、スティーナ・ヘルレヴィです」
「俺はカールロ・マイヤラだ。父上と母上の紹介と聞いている」
スティーナ様とカールロ様が挨拶したのは、灰色の髪とオレンジ色の目の気難しそうな男性だった。表情は厳しく、顔立ちは怖い。わたくしのスカートにへばりついているマウリ様が「ひゃ!」と息を飲んだのが分かった。
家庭教師の先生が来るので頑張って起きていたマウリ様は、昼食後のこの時間は普段は眠っているので、かなり機嫌も悪くなっている。
「サロモン・シルヴェンです。ご子息はまだ5歳と聞いている。私は子どもの扱いに慣れていなくて、失礼があるかもしれないが、そのときには教えてください」
子どもの扱いに慣れていない!?
マウリ様のために選ばれた家庭教師なのにそんなことがあるのかとわたくしは驚いてしまった。マウリ様は既に半泣きになっている。
「マウリ・ヘルレヴィ様ですね。私が今日から家庭教師として本性の制御や勉強を教えます」
「いや……」
「は?」
「いーやー! アイラさまー! こわいー!」
今まで自然にマウリ様の前ではわたくしもサイラさんもリーッタ先生もわたくしの両親もスティーナ様もカールロ様もヨハンナ様も、膝を曲げて目線を合わせて優しく話しかけていた。サロモン先生は全くそんなことに気付かずに仁王立ちしたままなので、マウリ様は下から見上げた厳しいお顔に怯えてしまったようだった。
「マウリ様、わたくしが抱っこしますから、サロモン先生にご挨拶しましょうね」
「びぇ……まー、いやなの……こわぁい……」
泣いているマウリ様を抱き締めて宥めていると、頭がこくりこくりと揺れてくる。
「眠いだけかもしれません。サロモン先生にお会いするためにお昼寝を我慢していたんです。少し眠ったら落ち着くかもしれません」
わたくしが言うと、サロモン先生は眉間に皺を寄せる。
「この年代の子どもにはお昼寝が必要なのですか?」
「そうなのです。幼年学校に入る年まではお昼寝をする子がほとんどです。しなくなる子もいますが、マウリ様はお昼寝をしています」
「知らなかった……実は研究課程を出たばかりで、家庭教師としての仕事は初めてなのです」
マウリ様の前で仁王立ちで挨拶をした辺りから、この先生は大丈夫なのかと不安を覚えていたが、サロモン先生は家庭教師自体が初めてだという話だった。若い先生だとは思ったが、研究課程を卒業してすぐとは知らなかった。
「どうしてマイヤラ家の大公殿下夫妻はサロモン様に依頼されたのでしょう」
不安がつい口に出てしまったわたくしに、サロモン先生が暗い表情で答える。
「私の本性がグリフォンだからでしょうな」
ドラゴンという強い本性を持つマウリ様の家庭教師となるには、本性が強い方でないといけないとマイヤラ家の大公殿下夫妻は考えたようだった。その結果として、シルヴェン家のグリフォンの本性を持つサロモン先生が選ばれた。
「グリフォンだったら、家を継ぐ立場にあるのでは?」
問いかけるスティーナ様にサロモン先生が答える。
「私は特に家を継ぎたいと思っておりませんので。グリフォンは姉もそうです。私は王家の家庭教師になるつもりだったのです」
その前段階として、ヘルレヴィ家のドラゴンのマウリ様の家庭教師として経験を積んで来いというのがシルヴェン家の思惑のようだった。グリフォンのサロモン先生をマウリ様の家庭教師にしたいマイヤラ家の考えと、家庭教師としての経験を積ませたいシルヴェン家の思惑が噛み合ってサロモン先生はここにいる。
泣き疲れて眠ってしまったマウリ様を子ども部屋のベッドに寝かせて、わたくしとヨハンナさんの二人係でサロモン先生にマウリ様のことをお話しした。
「マウリ様はとても優しくて怖がりで、ちょっぴり泣き虫な男の子です。まだ5歳なので当然の成長過程だと思われます」
「膝を折って目線を合わせてくださらないと、マウリ様は上から物を言われているようでとても怯えてしまいます」
「膝を折って……そうか、私は背が高かったのですね」
見上げるほど背の高いサロモン先生はカールロ様のように筋骨隆々としていないが、ひょろりとして、カールロ様よりも身長は大きいだろう。灰色の髪をばさばさに垂らした長身の大人の男性に声をかけられてはマウリ様は怯えて泣いてしまう。
「マウリ様はリーッタ先生のような女性の家庭教師を想像していたのでしょうね」
「リーッタ先生とは?」
「ラント家の家庭教師です。女性で優しくとても聡明な方です」
話を聞いていて、サロモン先生はがっくりと肩を落としていた。
「私は不器用で、子どもと触れ合うのが苦手なのです。勉強が好きだから教師の道を目指しましたが、高等学校の教師になりたいと言っても両親は聞いてくれず、いつか王族の家庭教師になるのだと言われて、初めにとヘルレヴィ家に送り込まれました」
大の大人が肩を落としているのは情けなくもあるが、サロモン先生から恐ろしい印象はわたくしの中では消えていた。
「おやつの時間になったら、マウリ様が起きてきますから、そのときにもう一度挨拶から始めてください」
わたくしが言うと、サロモン先生は不安そうにしている。
「あんな小さな男の子を私が教えられるのか不安でなりません。ヨハンナ様、あなたはマウリ様の乳母で一番マウリ様の世話をしている。どうか、私に子どもとの接し方を教えていただけませんか?」
何も知らない先生であることには不安を覚えていたけれど、サロモン先生はヨハンナ様に教えを乞う精神があるようで安心する。勉強や本性の制御などの知識に関しては問題はないのだろうから、後は実際に子どもと触れ合う経験だけだ。
「マウリ様はグリーンドラゴンの本性をお持ちです。グリーンドラゴンは植物や生命力を司る、争いを好まない平和なドラゴンです。その本性の通り、マウリ様は穏やかで少し臆病なところのある男の子です」
「私はすっかり怖がられてしまった……」
「5歳の男の子らしく、好奇心は旺盛ですので、マウリ様の興味を持つことを提示してみることから始めてみてはいかがでしょう?」
まずはマウリ様と仲良くなること。それが達成されなければサロモン先生はマウリ様と授業をすることも敵わない。ヨハンナ様の言葉をよく聞いて、サロモン先生はメモをとっている。
「マウリ様はどんなものが好きですか?」
「列車や動物のことに関しては興味があります。魔物と幻獣に関しても少し興味がおありですが、魔物の項目では怖がって本を閉じていました。マンドラゴラや植物のことに関しては非常に興味があって、畑仕事は毎朝熱心に行っています」
「畑仕事を? 公爵家の御子息が?」
畑仕事をしていることについて驚くサロモン先生にわたくしがヨハンナ様に変わって説明をした。
「スティーナ様の体調を回復させるために、わたくしたち、ラント領でマンドラゴラを育てたのです。それが大成功して、ヘルレヴィ領でも領地のひとたちがマンドラゴラの栽培を行えないか、研究しているところです」
「それは興味深いですね。私もぜひ研究に加えて欲しいです」
顔立ちは厳めしく、表情もあまり動かないサロモン先生だが、わたくしやヨハンナ様の話をよく聞いてくれる。畑仕事も馬鹿にしたりせず興味を持って自分も加えて欲しいと言ってくれている。
マウリ様と仲良くなれるきっかけはあるのではないかとわたくしは思ったのだが、起き出してきたマウリ様はサロモン先生の顔を見た瞬間、泣き出してしまった。
「ごわいよー!」
「マウリ様! お手洗いに行きましょう!」
下半身が濡れて来ている気配にヨハンナ様が素早くマウリ様をお手洗いに連れて行く。お手洗いに行って着替えたマウリ様はわたくしのスカートに隠れるようにして顔を埋めていた。
「何が怖いのですか?」
「わしさんで、ライオンさんなの……」
ぐずぐずと洟を啜りながら小さく呟くマウリ様に、サロモン先生がにゅっと顔を出した。膝を曲げているが、ちょっとマウリ様との距離が近すぎる。
「びぎゃあああああ!」
「マウリ様!?」
マンドラゴラのような悲鳴を上げてわたくしに飛び付いてきたマウリ様を抱っこすると、サロモン先生がマウリ様に目線を合わせて問いかけた。
「鷲の頭に、ライオンの身体、鷲の翼が見えますか?」
「う、うぇ! みえるぅ! ごわいー!」
泣きながら答えるマウリ様にサロモン先生は驚いているようだ。
「私の本性を感じ取って怖がっているのですね。確かに大きさ的に今の状態だと、ドラゴンのマウリ様よりも私のグリフォンの方が力が強いかもしれない。ちゃんと自分の危機が分かるんですね」
褒めてくれているのだろうが、表情が伴っていないのでマウリ様は褒められている気分になっていないのだろう、まだ泣き顔である。
「グリフォン、知ってますか?」
「グリフォン?」
「図鑑で見てみましょうか」
早速図鑑を取り出したサロモン先生が開いたページの鷲の頭にライオンの身体、鷲の翼を持つ幻獣をマウリ様は指さした。
「これ!」
「そうです、これです。初めまして、グリフォンです」
「えっと、まー、ドラゴンです」
奇妙な挨拶を交わして、マウリ様は涙で潤んだ目でじっとサロモン先生を見つめている。
二人が仲良くなるまでには、もう少し時間がかかりそうだったが、仲良くなれそうな気配はわたくしは感じ取っていた。
高等学校よりも更に上の研究課程まで終えた先生だということでマウリ様はがちがちに緊張していた。元々マウリ様は人懐っこい方ではない。カールロ様にあんなに早く懐いたのが奇跡のようで、それ以外の大人には最初はラント家の乳母のサイラさんや家庭教師のリーッタ先生すらも警戒して泣き喚いていた。
わたくしのスカートに必死にしがみ付いてぷるぷると体を震わせているマウリ様の背中を撫でて、わたくしは少しでも落ち着かせようとする。馬車の到着は昼食後で、マウリ様にとっては最悪のタイミングだった。
「ようこそおいでくださいました、スティーナ・ヘルレヴィです」
「俺はカールロ・マイヤラだ。父上と母上の紹介と聞いている」
スティーナ様とカールロ様が挨拶したのは、灰色の髪とオレンジ色の目の気難しそうな男性だった。表情は厳しく、顔立ちは怖い。わたくしのスカートにへばりついているマウリ様が「ひゃ!」と息を飲んだのが分かった。
家庭教師の先生が来るので頑張って起きていたマウリ様は、昼食後のこの時間は普段は眠っているので、かなり機嫌も悪くなっている。
「サロモン・シルヴェンです。ご子息はまだ5歳と聞いている。私は子どもの扱いに慣れていなくて、失礼があるかもしれないが、そのときには教えてください」
子どもの扱いに慣れていない!?
マウリ様のために選ばれた家庭教師なのにそんなことがあるのかとわたくしは驚いてしまった。マウリ様は既に半泣きになっている。
「マウリ・ヘルレヴィ様ですね。私が今日から家庭教師として本性の制御や勉強を教えます」
「いや……」
「は?」
「いーやー! アイラさまー! こわいー!」
今まで自然にマウリ様の前ではわたくしもサイラさんもリーッタ先生もわたくしの両親もスティーナ様もカールロ様もヨハンナ様も、膝を曲げて目線を合わせて優しく話しかけていた。サロモン先生は全くそんなことに気付かずに仁王立ちしたままなので、マウリ様は下から見上げた厳しいお顔に怯えてしまったようだった。
「マウリ様、わたくしが抱っこしますから、サロモン先生にご挨拶しましょうね」
「びぇ……まー、いやなの……こわぁい……」
泣いているマウリ様を抱き締めて宥めていると、頭がこくりこくりと揺れてくる。
「眠いだけかもしれません。サロモン先生にお会いするためにお昼寝を我慢していたんです。少し眠ったら落ち着くかもしれません」
わたくしが言うと、サロモン先生は眉間に皺を寄せる。
「この年代の子どもにはお昼寝が必要なのですか?」
「そうなのです。幼年学校に入る年まではお昼寝をする子がほとんどです。しなくなる子もいますが、マウリ様はお昼寝をしています」
「知らなかった……実は研究課程を出たばかりで、家庭教師としての仕事は初めてなのです」
マウリ様の前で仁王立ちで挨拶をした辺りから、この先生は大丈夫なのかと不安を覚えていたが、サロモン先生は家庭教師自体が初めてだという話だった。若い先生だとは思ったが、研究課程を卒業してすぐとは知らなかった。
「どうしてマイヤラ家の大公殿下夫妻はサロモン様に依頼されたのでしょう」
不安がつい口に出てしまったわたくしに、サロモン先生が暗い表情で答える。
「私の本性がグリフォンだからでしょうな」
ドラゴンという強い本性を持つマウリ様の家庭教師となるには、本性が強い方でないといけないとマイヤラ家の大公殿下夫妻は考えたようだった。その結果として、シルヴェン家のグリフォンの本性を持つサロモン先生が選ばれた。
「グリフォンだったら、家を継ぐ立場にあるのでは?」
問いかけるスティーナ様にサロモン先生が答える。
「私は特に家を継ぎたいと思っておりませんので。グリフォンは姉もそうです。私は王家の家庭教師になるつもりだったのです」
その前段階として、ヘルレヴィ家のドラゴンのマウリ様の家庭教師として経験を積んで来いというのがシルヴェン家の思惑のようだった。グリフォンのサロモン先生をマウリ様の家庭教師にしたいマイヤラ家の考えと、家庭教師としての経験を積ませたいシルヴェン家の思惑が噛み合ってサロモン先生はここにいる。
泣き疲れて眠ってしまったマウリ様を子ども部屋のベッドに寝かせて、わたくしとヨハンナさんの二人係でサロモン先生にマウリ様のことをお話しした。
「マウリ様はとても優しくて怖がりで、ちょっぴり泣き虫な男の子です。まだ5歳なので当然の成長過程だと思われます」
「膝を折って目線を合わせてくださらないと、マウリ様は上から物を言われているようでとても怯えてしまいます」
「膝を折って……そうか、私は背が高かったのですね」
見上げるほど背の高いサロモン先生はカールロ様のように筋骨隆々としていないが、ひょろりとして、カールロ様よりも身長は大きいだろう。灰色の髪をばさばさに垂らした長身の大人の男性に声をかけられてはマウリ様は怯えて泣いてしまう。
「マウリ様はリーッタ先生のような女性の家庭教師を想像していたのでしょうね」
「リーッタ先生とは?」
「ラント家の家庭教師です。女性で優しくとても聡明な方です」
話を聞いていて、サロモン先生はがっくりと肩を落としていた。
「私は不器用で、子どもと触れ合うのが苦手なのです。勉強が好きだから教師の道を目指しましたが、高等学校の教師になりたいと言っても両親は聞いてくれず、いつか王族の家庭教師になるのだと言われて、初めにとヘルレヴィ家に送り込まれました」
大の大人が肩を落としているのは情けなくもあるが、サロモン先生から恐ろしい印象はわたくしの中では消えていた。
「おやつの時間になったら、マウリ様が起きてきますから、そのときにもう一度挨拶から始めてください」
わたくしが言うと、サロモン先生は不安そうにしている。
「あんな小さな男の子を私が教えられるのか不安でなりません。ヨハンナ様、あなたはマウリ様の乳母で一番マウリ様の世話をしている。どうか、私に子どもとの接し方を教えていただけませんか?」
何も知らない先生であることには不安を覚えていたけれど、サロモン先生はヨハンナ様に教えを乞う精神があるようで安心する。勉強や本性の制御などの知識に関しては問題はないのだろうから、後は実際に子どもと触れ合う経験だけだ。
「マウリ様はグリーンドラゴンの本性をお持ちです。グリーンドラゴンは植物や生命力を司る、争いを好まない平和なドラゴンです。その本性の通り、マウリ様は穏やかで少し臆病なところのある男の子です」
「私はすっかり怖がられてしまった……」
「5歳の男の子らしく、好奇心は旺盛ですので、マウリ様の興味を持つことを提示してみることから始めてみてはいかがでしょう?」
まずはマウリ様と仲良くなること。それが達成されなければサロモン先生はマウリ様と授業をすることも敵わない。ヨハンナ様の言葉をよく聞いて、サロモン先生はメモをとっている。
「マウリ様はどんなものが好きですか?」
「列車や動物のことに関しては興味があります。魔物と幻獣に関しても少し興味がおありですが、魔物の項目では怖がって本を閉じていました。マンドラゴラや植物のことに関しては非常に興味があって、畑仕事は毎朝熱心に行っています」
「畑仕事を? 公爵家の御子息が?」
畑仕事をしていることについて驚くサロモン先生にわたくしがヨハンナ様に変わって説明をした。
「スティーナ様の体調を回復させるために、わたくしたち、ラント領でマンドラゴラを育てたのです。それが大成功して、ヘルレヴィ領でも領地のひとたちがマンドラゴラの栽培を行えないか、研究しているところです」
「それは興味深いですね。私もぜひ研究に加えて欲しいです」
顔立ちは厳めしく、表情もあまり動かないサロモン先生だが、わたくしやヨハンナ様の話をよく聞いてくれる。畑仕事も馬鹿にしたりせず興味を持って自分も加えて欲しいと言ってくれている。
マウリ様と仲良くなれるきっかけはあるのではないかとわたくしは思ったのだが、起き出してきたマウリ様はサロモン先生の顔を見た瞬間、泣き出してしまった。
「ごわいよー!」
「マウリ様! お手洗いに行きましょう!」
下半身が濡れて来ている気配にヨハンナ様が素早くマウリ様をお手洗いに連れて行く。お手洗いに行って着替えたマウリ様はわたくしのスカートに隠れるようにして顔を埋めていた。
「何が怖いのですか?」
「わしさんで、ライオンさんなの……」
ぐずぐずと洟を啜りながら小さく呟くマウリ様に、サロモン先生がにゅっと顔を出した。膝を曲げているが、ちょっとマウリ様との距離が近すぎる。
「びぎゃあああああ!」
「マウリ様!?」
マンドラゴラのような悲鳴を上げてわたくしに飛び付いてきたマウリ様を抱っこすると、サロモン先生がマウリ様に目線を合わせて問いかけた。
「鷲の頭に、ライオンの身体、鷲の翼が見えますか?」
「う、うぇ! みえるぅ! ごわいー!」
泣きながら答えるマウリ様にサロモン先生は驚いているようだ。
「私の本性を感じ取って怖がっているのですね。確かに大きさ的に今の状態だと、ドラゴンのマウリ様よりも私のグリフォンの方が力が強いかもしれない。ちゃんと自分の危機が分かるんですね」
褒めてくれているのだろうが、表情が伴っていないのでマウリ様は褒められている気分になっていないのだろう、まだ泣き顔である。
「グリフォン、知ってますか?」
「グリフォン?」
「図鑑で見てみましょうか」
早速図鑑を取り出したサロモン先生が開いたページの鷲の頭にライオンの身体、鷲の翼を持つ幻獣をマウリ様は指さした。
「これ!」
「そうです、これです。初めまして、グリフォンです」
「えっと、まー、ドラゴンです」
奇妙な挨拶を交わして、マウリ様は涙で潤んだ目でじっとサロモン先生を見つめている。
二人が仲良くなるまでには、もう少し時間がかかりそうだったが、仲良くなれそうな気配はわたくしは感じ取っていた。
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