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四章 新しい家族との高等学校三年目
28.マウリ様とミルヴァ様のお誕生日にダンスを
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マンドラゴラの種植えはわたくしとマウリ様とミルヴァ様とハンネス様とフローラ様とヨハンナ様とサロモン先生で行った。スティーナ様はエミリア様にお乳を上げたりしなければいけないし、カールロ様にはその分領主の仕事がある。お二人は畑仕事に出て来ることはほとんどなくなっていたが、力持ちのマウリ様とミルヴァ様に、大人のヨハンナ様とサロモン先生が加わると頼もしさしかなかった。
畝を作った畑にわたくしとマウリ様とヨハンナ様で種を植えていって、ミルヴァ様とハンネス様とフローラ様が水をかける。サロモン先生は植える種を分別して渡してくれたり、植えた場所にプレートを挿して何を植えたか分かるようにしてくれていた。
わたくしがヘルレヴィ家に来て三年、作った畑はかなりの広さになっていた。
マンドラゴラを植える畑が一つ、南瓜頭犬とスイカ猫を植える畑が一つ、栄養剤になる薬草を植える畑が一つできていて、保管庫と調合室も入れて広大なヘルレヴィ家のお屋敷の庭の三分の一を占めるようになっていた。
ヘルレヴィ家の畑で作られるマンドラゴラや南瓜頭犬やスイカ猫は、ヘルレヴィ領の栽培地で育てられるマンドラゴラや南瓜頭犬やスイカ猫の栽培方法の実験のための場所でもあったのだが、栽培方法が伝わって確立しつつある今年からは、目的が少し変わって来た。
「エロラせんせいにあげるんだよね」
「いっぱい、『おおきくなぁれ』しようね、まー」
「うん、みー。おおきくなぁれ、おおきくなぁれ!」
マウリ様とミルヴァ様が畑の畝に向かって両手を胸の前で組んでお祈りしている横で、マウリ様の大根マンドラゴラとミルヴァ様の人参マンドラゴラも踊っている。
「びぎゃ!」
「びょえ!」
マウリ様とミルヴァ様のお祈りがよかったのか、大根マンドラゴラと人参マンドラゴラの踊りがよかったのか、それともどっちともなのか、畑のマンドラゴラも南瓜頭犬もスイカ猫も栄養剤用の薬草たちも、芽が出るのが早かった。
芽が出ると害虫駆除や雑草抜きも忙しくなってくる。せわしなく畑仕事をして、わたくしは高等学校に行って、マウリ様とミルヴァ様はサロモン先生の授業を受けているうちに、マウリ様とミルヴァ様のお誕生日が近くなっていた。
マウリ様とミルヴァ様のお誕生日はヘルレヴィ領を挙げて祝われる。ラント領からわたくしの両親とクリスティアンも来ることになっていて、マウリ様もミルヴァ様もそれを心待ちにしていた。
「ちちうえ、わたし、おたんじょうびにアイラさまとおどりたい!」
「わたくしもクリスさまとおどりたいわ!」
マウリ様とミルヴァ様のお願いを聞いて、お誕生日にはダンスも行われることになった。音楽隊が手配されて大広間に集まる。
バイオリン、ビオラ、フルートなど、演奏する楽器を持って集まってくれた音楽隊の音楽に合わせて、わたくしはマウリ様と、ミルヴァ様はハンネス様とダンスの練習をした。
お誕生日の前日にはラント領からわたくしの両親とクリスティアンがやってきた。馬車から降りたクリスティアンに、庭で散歩しながら待っていたミルヴァ様が走って行って抱き付く。
「ミルヴァ様ー!」
「クリスさまー!」
「びぎゃー!」
「ぎょえー!」
再会を喜んで、ミルヴァ様の人参マンドラゴラとクリスティアンの蕪マンドラゴラもしっかりと抱き締め合っていた。
「びにゃー!」
玄関からルームシューズに履き替えて廊下を歩いていると、珍しくエミリア様のスイカ猫のスイちゃんがエミリア様のベビーベッドを離れて廊下に出ていた。わたくしたちを見るとスイカ猫のスイちゃんは蔓の尻尾をピンと立てて、先に立って歩き出す。
何事かと思っていたら、エミリア様が子ども部屋の椅子に座って、ばんばんとテーブルを叩いていた。
「アイラ様、今呼びに行こうと思っていたところでした。エミリア様に離乳食を食べていただくので、補助食をくださいますか?」
目の前に離乳食があるのに口に運ばれない理不尽に怒っているエミリア様を宥めるのが精いっぱいで、オルガさんはわたくしを呼びに来る余裕がなかったようだ。そこでスイカ猫のスイちゃんが気を利かせてくれたのだろう。
肩掛けの小さなバッグから補助食の入った容器を渡すと、オルガさんがお礼を言ってエミリア様に食べさせる。大きなお口を開けて離乳食と補助食が運ばれて来るのを待っているエミリア様は、もうミルクは飲んでいなかった。スティーナ様に甘えたいときには母乳を飲むのだが、それ以外で哺乳瓶でミルクを飲むことはなくなって、代わりに離乳食をもりもりと食べている。
補助食も食べているので栄養が足りないということはなく、むしろ健康的にむちむちと肉付きがよくなっていた。
「まー! んまっ! まんまっ!」
お代わりを欲しがるエミリア様に「もう食べ過ぎです」と伝えるオルガさんも大変そうだが、食べ過ぎるとお腹を壊すこともあるので加減は大事だった。
「マウリ様とミルヴァ様ももう7歳なのですね」
「初めてラント家にやってきた2歳の頃が懐かしいな」
2歳から4歳までマウリ様とミルヴァ様と一緒に暮らして、ミルヴァ様とはその後も二年近く一緒に暮らした母上と父上は感慨深そうだった。
マウリ様とミルヴァ様のお誕生日当日も畑仕事は欠かせない。早朝に起きて畑仕事を終えてから、シャワーを浴びて着替えて、朝食を食べる。昼食はパーティーの最中であまり食べられないかもしれないので、朝にしっかり食べておくことにした。
フローラ様とハンネス様とヨハンナ様とサロモン先生は離れの棟で食事をしている。食卓には父上と母上とクリスティアンが招かれて、ミルヴァ様がクリスティアンに誇らし気に言っていた。
「わたくし、なすもたべられるのよ」
「わたし、きのこ、たべられる!」
対抗しながらミルヴァ様とマウリ様がぱくりと茄子とキノコを口に入れる。
「僕もトマト、食べられるよ!」
負けずにクリスティアンもちょっと涙目になりながらトマトを口に入れていた。
お誕生日のパーティーでは音楽隊の演奏に合わせてダンスが始まる。
「ミルヴァ様、おどってください」
「はい、クリスさま」
ミルヴァ様を誘うクリスティアンにミルヴァ様は喜んで手を差し伸べていた。
「アイラさま、おどりましょう」
「踊りましょう、マウリ様」
新年のパーティーでは妙な男性が割って入って来たが、今日はそんなことはなくて、マウリ様とダンスを楽しむことができた。
ワルツが終わると、子どもたちとマンドラゴラの円舞が始まる。
フローラ様はハンネス様と手を繋いで、蕪マンドラゴラのローランと人参マンドラゴラのジンちゃんも加わって、マウリ様とマウリ様の大根マンドラゴラのダイコンさんと、ミルヴァ様とミルヴァ様の人参マンドラゴラのニンジンさんと、クリスティアンとクリスティアンの蕪マンドラゴラのカブさんも踊りに加わる。
「たーも! たーも、すゆ!」
ターヴィ様も加わったところで、わたくしはエーリク様に声をかけられていた。
「アイラ様、ターヴィがニーノをほしがるんです。ターヴィにも、マンドラゴラをくれませんか?」
大事に自分の人参マンドラゴラのニーノちゃんを抱いているエーリク様は、ニーノちゃんをわたくしに見せて来た。ところどころ、噛み付いたような跡がある。
「かまれても平気なマンドラゴラにしてください」
ターヴィ様は噛み癖があるようだった。
今年のマンドラゴラが収穫出来たらターヴィ様にも分けると約束をすると、エーリク様は納得して離れて行った。
「アイラさま、わたしのダンス、みてた?」
息を切らせてマウリ様がわたくしのところにやってくる。アイスティーをテーブルから取ってマウリ様に渡すと、ごくごくと喉を鳴らして飲み干していた。
「円舞も楽しそうですね」
「アイラさまもおどったらいいよ」
「わたくしもですか?」
アイスティーを飲み終わったマウリ様に手を引かれてわたくしは円舞の中に入って行った。一人だけ体格が違うのでおかしいかと思ったけれど、手を繋ぐマウリ様の嬉しそうな顔を見ているとそれもどうでもよくなる。
7歳になったマウリ様とミルヴァ様と、わたくしは円舞を踊ってお誕生日を祝ったのだった。
畝を作った畑にわたくしとマウリ様とヨハンナ様で種を植えていって、ミルヴァ様とハンネス様とフローラ様が水をかける。サロモン先生は植える種を分別して渡してくれたり、植えた場所にプレートを挿して何を植えたか分かるようにしてくれていた。
わたくしがヘルレヴィ家に来て三年、作った畑はかなりの広さになっていた。
マンドラゴラを植える畑が一つ、南瓜頭犬とスイカ猫を植える畑が一つ、栄養剤になる薬草を植える畑が一つできていて、保管庫と調合室も入れて広大なヘルレヴィ家のお屋敷の庭の三分の一を占めるようになっていた。
ヘルレヴィ家の畑で作られるマンドラゴラや南瓜頭犬やスイカ猫は、ヘルレヴィ領の栽培地で育てられるマンドラゴラや南瓜頭犬やスイカ猫の栽培方法の実験のための場所でもあったのだが、栽培方法が伝わって確立しつつある今年からは、目的が少し変わって来た。
「エロラせんせいにあげるんだよね」
「いっぱい、『おおきくなぁれ』しようね、まー」
「うん、みー。おおきくなぁれ、おおきくなぁれ!」
マウリ様とミルヴァ様が畑の畝に向かって両手を胸の前で組んでお祈りしている横で、マウリ様の大根マンドラゴラとミルヴァ様の人参マンドラゴラも踊っている。
「びぎゃ!」
「びょえ!」
マウリ様とミルヴァ様のお祈りがよかったのか、大根マンドラゴラと人参マンドラゴラの踊りがよかったのか、それともどっちともなのか、畑のマンドラゴラも南瓜頭犬もスイカ猫も栄養剤用の薬草たちも、芽が出るのが早かった。
芽が出ると害虫駆除や雑草抜きも忙しくなってくる。せわしなく畑仕事をして、わたくしは高等学校に行って、マウリ様とミルヴァ様はサロモン先生の授業を受けているうちに、マウリ様とミルヴァ様のお誕生日が近くなっていた。
マウリ様とミルヴァ様のお誕生日はヘルレヴィ領を挙げて祝われる。ラント領からわたくしの両親とクリスティアンも来ることになっていて、マウリ様もミルヴァ様もそれを心待ちにしていた。
「ちちうえ、わたし、おたんじょうびにアイラさまとおどりたい!」
「わたくしもクリスさまとおどりたいわ!」
マウリ様とミルヴァ様のお願いを聞いて、お誕生日にはダンスも行われることになった。音楽隊が手配されて大広間に集まる。
バイオリン、ビオラ、フルートなど、演奏する楽器を持って集まってくれた音楽隊の音楽に合わせて、わたくしはマウリ様と、ミルヴァ様はハンネス様とダンスの練習をした。
お誕生日の前日にはラント領からわたくしの両親とクリスティアンがやってきた。馬車から降りたクリスティアンに、庭で散歩しながら待っていたミルヴァ様が走って行って抱き付く。
「ミルヴァ様ー!」
「クリスさまー!」
「びぎゃー!」
「ぎょえー!」
再会を喜んで、ミルヴァ様の人参マンドラゴラとクリスティアンの蕪マンドラゴラもしっかりと抱き締め合っていた。
「びにゃー!」
玄関からルームシューズに履き替えて廊下を歩いていると、珍しくエミリア様のスイカ猫のスイちゃんがエミリア様のベビーベッドを離れて廊下に出ていた。わたくしたちを見るとスイカ猫のスイちゃんは蔓の尻尾をピンと立てて、先に立って歩き出す。
何事かと思っていたら、エミリア様が子ども部屋の椅子に座って、ばんばんとテーブルを叩いていた。
「アイラ様、今呼びに行こうと思っていたところでした。エミリア様に離乳食を食べていただくので、補助食をくださいますか?」
目の前に離乳食があるのに口に運ばれない理不尽に怒っているエミリア様を宥めるのが精いっぱいで、オルガさんはわたくしを呼びに来る余裕がなかったようだ。そこでスイカ猫のスイちゃんが気を利かせてくれたのだろう。
肩掛けの小さなバッグから補助食の入った容器を渡すと、オルガさんがお礼を言ってエミリア様に食べさせる。大きなお口を開けて離乳食と補助食が運ばれて来るのを待っているエミリア様は、もうミルクは飲んでいなかった。スティーナ様に甘えたいときには母乳を飲むのだが、それ以外で哺乳瓶でミルクを飲むことはなくなって、代わりに離乳食をもりもりと食べている。
補助食も食べているので栄養が足りないということはなく、むしろ健康的にむちむちと肉付きがよくなっていた。
「まー! んまっ! まんまっ!」
お代わりを欲しがるエミリア様に「もう食べ過ぎです」と伝えるオルガさんも大変そうだが、食べ過ぎるとお腹を壊すこともあるので加減は大事だった。
「マウリ様とミルヴァ様ももう7歳なのですね」
「初めてラント家にやってきた2歳の頃が懐かしいな」
2歳から4歳までマウリ様とミルヴァ様と一緒に暮らして、ミルヴァ様とはその後も二年近く一緒に暮らした母上と父上は感慨深そうだった。
マウリ様とミルヴァ様のお誕生日当日も畑仕事は欠かせない。早朝に起きて畑仕事を終えてから、シャワーを浴びて着替えて、朝食を食べる。昼食はパーティーの最中であまり食べられないかもしれないので、朝にしっかり食べておくことにした。
フローラ様とハンネス様とヨハンナ様とサロモン先生は離れの棟で食事をしている。食卓には父上と母上とクリスティアンが招かれて、ミルヴァ様がクリスティアンに誇らし気に言っていた。
「わたくし、なすもたべられるのよ」
「わたし、きのこ、たべられる!」
対抗しながらミルヴァ様とマウリ様がぱくりと茄子とキノコを口に入れる。
「僕もトマト、食べられるよ!」
負けずにクリスティアンもちょっと涙目になりながらトマトを口に入れていた。
お誕生日のパーティーでは音楽隊の演奏に合わせてダンスが始まる。
「ミルヴァ様、おどってください」
「はい、クリスさま」
ミルヴァ様を誘うクリスティアンにミルヴァ様は喜んで手を差し伸べていた。
「アイラさま、おどりましょう」
「踊りましょう、マウリ様」
新年のパーティーでは妙な男性が割って入って来たが、今日はそんなことはなくて、マウリ様とダンスを楽しむことができた。
ワルツが終わると、子どもたちとマンドラゴラの円舞が始まる。
フローラ様はハンネス様と手を繋いで、蕪マンドラゴラのローランと人参マンドラゴラのジンちゃんも加わって、マウリ様とマウリ様の大根マンドラゴラのダイコンさんと、ミルヴァ様とミルヴァ様の人参マンドラゴラのニンジンさんと、クリスティアンとクリスティアンの蕪マンドラゴラのカブさんも踊りに加わる。
「たーも! たーも、すゆ!」
ターヴィ様も加わったところで、わたくしはエーリク様に声をかけられていた。
「アイラ様、ターヴィがニーノをほしがるんです。ターヴィにも、マンドラゴラをくれませんか?」
大事に自分の人参マンドラゴラのニーノちゃんを抱いているエーリク様は、ニーノちゃんをわたくしに見せて来た。ところどころ、噛み付いたような跡がある。
「かまれても平気なマンドラゴラにしてください」
ターヴィ様は噛み癖があるようだった。
今年のマンドラゴラが収穫出来たらターヴィ様にも分けると約束をすると、エーリク様は納得して離れて行った。
「アイラさま、わたしのダンス、みてた?」
息を切らせてマウリ様がわたくしのところにやってくる。アイスティーをテーブルから取ってマウリ様に渡すと、ごくごくと喉を鳴らして飲み干していた。
「円舞も楽しそうですね」
「アイラさまもおどったらいいよ」
「わたくしもですか?」
アイスティーを飲み終わったマウリ様に手を引かれてわたくしは円舞の中に入って行った。一人だけ体格が違うのでおかしいかと思ったけれど、手を繋ぐマウリ様の嬉しそうな顔を見ているとそれもどうでもよくなる。
7歳になったマウリ様とミルヴァ様と、わたくしは円舞を踊ってお誕生日を祝ったのだった。
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