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七章 高等学校最後の年

13.パペットは不評

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 おやつの後にマウリ様とミルヴァ様の武器を見せるということで、その日のおやつは黙々と終わってしまって、カールロ様とスティーナ様を含めた家族全員が子ども部屋に集まっていた。わくわくして待っているマウリ様とミルヴァ様の手に、剣を渡す。お二人の身長の半分ほどもある剣だが、重さはそれほど感じなかった。
 手渡されてマウリ様が目を輝かせている。ミルヴァ様は手に持ってポーズをとっている。

「刀身と柄を繋ぐ場所に角がはまっているんだな」
「握りに巻いてある革は角の色に合わせてあるのですね」

 マウリ様とミルヴァ様に見せてもらったカールロ様とスティーナ様がそれぞれに感想を言っている。
 柄は金属で作られていて、握る部分にはマウリ様は緑色、ミルヴァ様は赤の革が巻かれていて、刃と柄を繋ぐ部分にはそれぞれ緑色と赤の角が埋め込まれている。刃は透明の魔法水晶でできていて、刃の部分をぐるりと覆う金属のカバーがついていた。

「このカバーを付けたまま、アイラ様が襲われたら相手をなぐって倒せばいいんだね」
「わたくしも、本物の騎士になったような気分だわ」
「格好いい剣だよね」
「お揃いの素敵な剣だわ」

 剣の出来上がりにマウリ様もミルヴァ様も大満足のようでわたくしは安心した。

「まーにいさま、わたくしにももたせて」
「みーねぇね、わたくち、もちたい」

 フローラ様とエミリア様が羨ましそうにしていると、マウリ様もミルヴァ様も快く剣を二人に持たせてあげる。剣を握ったフローラ様とエミリア様の鼻の穴が広がって、誇らし気な顔になっている。

「わたくしもおおきくなったら、こんなけんがほしいわ」
「わたくちも、ほちい!」
「あい!」

 ライネ様も触りたがっているので、エミリア様とフローラ様が剣を見せている。刃で切れないようにカバーも付いているし、重いものではないので危険もなかった。透明な刀身を見せながらカバーをつけるという製法を使っているのは、刃に使った魔法水晶の美しさを見せるためだろう。その美しさにわたくしは見惚れていた。

「カバーが外れるのは、大事な家族や自分の命が危なくなったときだけだそうです」
「少し大きいけど、マウリとミルヴァが成長することを考えて作ってくださったんだろうな」
「エリーサ様にお礼を申し上げないと」

 カールロ様とスティーナ様はエリーサ様にお礼状を書くつもりのようだった。エリーサ様がドラゴンの角を加工してみたいと言って自ら申し出たとはいえ、これだけ素晴らしい剣をいただいているのだ、お礼をしないわけにはいかない。
 マウリ様とミルヴァ様も顔を見合わせて話し合っていた。

「わたくしたちもお礼状を書きましょう」
「うん、いっぱいいっぱい、ありがとうございますって書くよ」
「それがいいわ、まー」

 誰に強制されたわけでもなく自発的にお礼状を書くことに気付いたマウリ様とミルヴァ様にわたくしは成長を感じてしまう。お二人がお礼状を書くのを見守ろうとしたら、エミリア様が青いお目目で無邪気にわたくしを見上げて来た。

「アイラさまのぶきは?」
「わたくしの武器ですか……」
「そうだった、アイラ様も作ってもらったんだよね」
「わたくし見たいですわ」
「わたくしもみたい!」
「みー! みー!」

 エミリア様もマウリ様もミルヴァ様もフローラ様もライネ様も見たいと言っている。仕方なく肩掛けのバッグからパペットを取り出した。
 潰れたウシガエルの背中に小さな翼がついて、額に角が生えたようなパペット。左右で色が違って、緑色と赤が半分ずつになっている。目は虚ろでボタンで留めてあるので、瞳孔が糸でバツ印になっている。

「ぎゃー!? ばげものー!?」
「ぎゃー!? びええええ!」

 パペットを見た瞬間、エミリア様が立ち尽くして泣き始めた。ライネ様も驚いて泣き喚いている。

「エミリアとライネをなかせた! わたくし、ゆるさない!」
「フローラ様、これがわたくしの武器なのです」
「なんですって!? てきじゃないの!?」

 素早く子猫に擬態したホワイトタイガーの姿になって全身の毛を逆立てて、パペットに対してフシャーと威嚇するフローラ様をわたくしは止める。フローラ様はパペットをわたくしの手から受け取って、ものすごく複雑そうな顔をしている。
 泣いているエミリア様とライネ様はお漏らしをしてしまったので、ヨハンナ様とマルガレータさんが着替えさせて、抱っこしてあやしている。

「これは、どんなバケモノなの?」
「ドラゴンだそうです……」
「うそっ!? まーにいさまとねえさまはこんなじゃないわ!?」

 パペットを見て叫ぶフローラ様に、マウリ様とミルヴァ様も反応している。

「アイラ様、これはなに?」
「ウシガエルかしら?」
「えっと……ドラゴンだそうです」
「えぇ!?」

 エリーサ様の作ったパペットをドラゴンと思う相手は誰もいないようだった。わたくしの目が悪いのではないと理解する。

「わたしも、みーも、こんなに首が短くないよ」
「顔もつぶれていないわ! わたくし、こんなじゃない」
「わたくしもそう思うのですが、エリーサ様はドラゴンだと仰っていました」
「エリーサ様、ドラゴンをちゃんと見たことがないのかな?」
「わたくしとまーが今度見せに行かないといけないわね」

 マウリ様とミルヴァ様に何度もエリーサ様は会っているが、ドラゴンの姿を見たかどうかは分からない。この国では獣の本性を持つものは、あまりその本性を見せないことがよいとされているからだ。
 自分の本性を隠して相手を油断させるために、また、相手を警戒させないために、自分の本性は隠しておく。それがこの国のマナーなのだ。獣の本性を持つもの同士では、何となく相手の本性を察することができるようだが、マウリ様とミルヴァ様は幼少期にトカゲに擬態していたし、フローラ様もホワイトタイガーではなく子猫に擬態しているように、幼少期は擬態して本性が分かりにくくもしている。
 強い本性を持つ子どもが狙われて攫われたり、戦争時には将来の戦力になると見込まれて暗殺の目標とされることが多かった名残だろう。
 マウリ様とミルヴァ様も無事にこの年まで生きられたからこそ、ドラゴンとしての本性を大々的に見せることができている。

「お礼状を書いて来ました」
「父上、母上、待って。私もエリーサ様に書きたいの」
「わたくしも書きたいですわ」
「いい心がけだな。もう少し待っていよう」

 一度執務室に戻ったスティーナ様とカールロ様がお礼状をしたためて帰って来た。わたくしに移転の魔法で届けるようにお願いしようとしているのだろう。わたくしは封筒を受け取って、マウリ様とミルヴァ様がお礼状を書き上げるのを傍で立って待っていた。

「ドラゴンのことについて、ヘルレヴィ家に伝わる古い文献でスティーナと調べたよ」
「最初の角は10歳前後に生え変わると書いてありました。マウリとミルヴァは9歳です。ちょうど10歳くらいで新しい角が生えて来るのではないでしょうか」

 高等学校に行っている間に、カールロ様とスティーナ様はヘルレヴィ家に伝わる文献でドラゴンのことを調べたようだ。ヘルレヴィ家は昔からドラゴンの生まれる唯一の家系だったので、文献も残っているのだろう。
 10歳前後で生え変わる角が、9歳で抜けてこれから生えてくるのならば、ドラゴンの正常な成長に添っているようでわたくしは安心する。

「マウリ様とミルヴァ様は正常に成長しているだけなのですね」
「そのようです。角が取れたときには心臓が止まるかと思いました」
「何もおかしなことではなくて本当によかったよ」

 スティーナ様もカールロ様も安心しているようだった。わたくしもその文献を読んでドラゴンの成長について勉強しなければいけないと思っていた。マウリ様とミルヴァ様の身体にこれからどんなことが起きていくのかは、魔法医になる身としても知っておかなければいけない。

「わたくしは、ドラゴンも診られる魔法医にならなくてはいけません」
「アイラ様がそうおっしゃってくださると安心します」
「わたくしが将来産むかもしれない赤ちゃんも、ドラゴンかもしれませんからね」

 自分で言ってしまってからわたくしは少し気が早かったかと赤面する。マウリ様はまだ9歳でわたくしも17歳で、結婚できるまでにはまだ九年の年月がある。

「俺の孫がドラゴンか……それはいいな」
「カールロったら、気が早いですよ」
「ミルヴァの子どももドラゴンかもしれない」

 わたくしと同じくカールロ様も気が早いようだ。

「もうダーヴィドも1歳か」

 エリーサ様から武器をもらった日、ダーヴィド様は1歳の誕生日を迎えていた。
 ケーキはダーヴィド様の食べられる簡単なスポンジケーキだったが、ダーヴィド様はそれを食べて嬉しそうにしていた。

「だーたん、おめでとう」

 エミリア様がダーヴィド様にお祝いを言うと、ダーヴィド様はケーキに夢中で聞いていない。それでも心和む光景にわたくしは微笑んでそれを見ていた。
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