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九章 オクサラ辺境伯とヴァンニ家の動向
25.エミリア様の6歳のお誕生日と歌劇団の千秋楽
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マウリ様とミルヴァ様のお誕生日ではパーティーの後でわたくしたちは艶々の苺の乗ったケーキを食べてお祝いをした。家族に祝われてマウリ様もミルヴァ様もとても嬉しそうだった。
マウリ様とミルヴァ様も12歳という特別な年齢を迎えたが、エミリア様も今回のお誕生日は特別だった。
「わたくし、6さいになるわ」
「エミリア、幼年学校に入学する年だね」
「立派に育ってくれましたね」
マウリ様とミルヴァ様が幼年学校を卒業する年ならば、エミリア様の方は幼年学校に入学する年だった。
「昔は乳幼児死亡率が高くて幼年学校に行ける年まで生きられる子どもの数は本当に少なかった」
「それを考えると、エミリアが健康で6歳という年齢を迎えてくれたことがわたくしは本当に嬉しくてたまらないのですよ」
代わる代わるカールロ様とスティーナ様に抱き締められるエミリア様を羨ましがって、ダーヴィド様が両腕を広げて待機している。カールロ様とスティーナ様はダーヴィド様のことも抱き締めた。
スティーナ様にダーヴィド様が抱っこされているのを見て、エミリア様がきゅっと唇を真一文字に結んだ。難しい表情は何か考えているのだろう。
「どうしましたか、エミリア」
「わたくし、もう、だっこされないわ」
「え!? エミリア、もう抱っこされてくれないのか?」
エミリア様の宣言にショックを受けているのはカールロ様だった。抱っこされないと言われて伸ばした両手でエミリア様を抱っこしようとして、カールロ様は拒否されている。
「だって、もう6さいだもの。だっこされるのはおかしいわ。わたくし、おねえさまになったのよ」
自分で言いながらもカールロ様そっくりの青い目を潤ませているエミリア様に、マウリ様がそっと近付いていく。
「エミリアは偉いね。6歳でそんなことを考えて」
「まーあにうえ?」
「私が抱っこされない方がいいのか真剣に考えたのは10歳のときだったよ」
「そうなの!?」
マウリ様の話にエミリア様が驚いている。
「すごく悩んで、アイラ様に抱っこはされないって宣言したけど、寂しくて悲しくて、すごくつらかったんだ」
「まーあにうえはどうしたの?」
「ヨウシア様に相談した。そしたら、何歳になっても抱っこされたいって思う限りは抱っこされていいんだよって言われたよ」
それまでも何度もミルヴァ様に抱っこされるのはおかしいのではないかと言われていたこと、そのたびにわたくしが抱っこされてもいいと答えていたことをマウリ様はエミリア様に語って聞かせる。
「アイラ様が抱っこしても嫌じゃなくて、私も抱っこされたかったら、何歳になっても抱っこされていい。エミリアも抱っこされたくて、父上や母上が抱っこが嫌じゃなかったら、抱っこされていいんだよ」
優しいマウリ様の言葉にエミリア様の目が潤んでくる。両腕を伸ばしてエミリア様はカールロ様に飛び付いた。
「やっぱり、わたくし、だっこされたい! ちちうえ、だっこして」
「よかった、エミリア。俺もエミリアを抱っこしたかった」
「ちちうえ、だいすき!」
「俺もエミリアが大好きだよ」
しっかりと抱っこされてエミリア様の悩みは解決した。
ネヴァライネン家のターヴィ様が中心が赤で外側が黄色のグラデーションになっているチューリップを持ってネヴァライネン家からやってきた。チューリップの花束を受け取ってエミリア様は優雅にお礼を言っている。
「ターヴィさま、ありがとうございます」
「ヨウシア様にお願いされました。エミリア様も幼年学校に入学する年になりましたね」
「ようねんがっこうにはいかないで、サロモンせんせいからおべんきょうをならうけれど、6さいになったのよ」
「おめでとうございます。私は7さいになりました」
「ターヴィさまとわたくしは、1さいちがいなのね」
ターヴィ様の特別な年は去年だったようだ。フローラ様は毎年ターヴィ様のお誕生日に行っているから、今年もターヴィ様を祝ったのだろう。
「ターヴィとエミリアはお似合いね」
「フローラ姉上ったら、からかわないでください」
「ターヴィさまは、わたくしとおにあいだったら、いやなの?」
「いやではないです。エミリア様はとても可愛いし」
真っ赤になって照れているターヴィ様は男の子らしくてとても可愛らしい。微笑んでみているとマウリ様がわたくしのシャツの裾を引っ張った。強く引かれるわけではないが、マウリ様は言いたいことがあるときにわたくしのスカートやシャツを握ることがある。
「マウリ様、どうしましたか?」
「ターヴィ様に一緒にご挨拶しよう。歌劇団の千秋楽に行くでしょう」
「そうでしたね。ご挨拶しましょう」
マウリ様と手を繋いでターヴィ様の前に立つと、ターヴィ様はエミリア様と手を繋いでいた。
「今度歌劇団の千秋楽に一緒に行きますね。どうぞよろしくお願いします」
「私はかげきだんの公演に行きたかったんです。おさそいいただきありがとうございます」
「私も一緒だから、楽しく見ようね」
「はい、マウリ様もよろしくお願いします」
まだ7歳だというのにターヴィ様はとても丁寧に挨拶ができる。そのことにわたくしは驚いていたけれど、マウリ様の気さくで明るい喋り方も大好きだったので、マウリ様はわたくしと話すときはそのままでいて欲しいと思っていた。
お誕生日のケーキを食べて、カードゲームをして遊ぶ。エミリア様もカードゲームの仲間に入れるようになっていた。わたくしとハンネス様がそれぞれエミリア様とターヴィ様について、ルールを教えながらゲームを進めていく。
マウリ様とミルヴァ様とフローラ様とターヴィ様とエミリア様のカードゲームは白熱した戦いを繰り広げていた。
カードゲームの間、ライネ様とダーヴィド様は大根マンドラゴラのダイちゃんと南瓜頭犬のボタンと一緒に踊って遊んでいた。
エミリア様のお誕生日が終わって数日後に、歌劇団の千秋楽の日が来た。ターヴィ様はあらかじめヘルレヴィ家に来ておいて、そこから馬車に乗って音楽堂まで出かけた。
チケットで指定された席に座る前に、わたくしはエミリア様と、マウリ様はターヴィ様とお手洗いに行った。公演の途中ではお手洗いに行けないので、先に済ませておきたかったのだ。
女性用のお手洗いには長蛇の列ができていたが、マウリ様もターヴィ様もわたくしたちがお手洗いを済ますまで待っていてくれた。
席について劇が始まるのを待つ。
今回の劇は妖精のいたずらで、妖精の女王や貴族やその婚約者が従者に恋をしてしまって、大騒ぎになるのを最終的に夢として妖精が全員を眠らせて、恋の魔法を解くという物語だった。
ヨウシア様は妖精役で黄色いひらひらとした衣装を纏っていた。エミリア様は同じ布で作られた黄色い花の髪飾りをつけて観劇に来ている。
「アイラさま、わたくし、おのどがかわいたかも」
「水筒がありますよ。お水を少しだけ飲みますか?」
「おてあらいにいきたくならないかしら?」
「少しだけなら平気ですよ」
緊張しているエミリア様に水筒を渡すと、一口だけ中の冷たいお水を飲んでいた。幕が開いてミュージカルが始まる。
幕が下りるまでの時間はあっという間だった。
妖精のヨウシア様が舞台の端から端まで走り回って魔法をかけていくシーンがとても心に残った。
拍手をしているわたくしたちの前にヨウシア様や歌劇団の役者さんたちが出て来る。
「本日で今回の公演も千秋楽となります。最後まで皆様にお楽しみいただけていたら幸いです。私たちはこれから練習に入り、次は秋の公演を目指します。最後は皆様と一緒に、今回の公演の歌を歌ってお別れしたいと思います」
パンフレットに歌詞カードが入っていると言われてわたくしはパンフレットを広げる。入っていた歌詞カードをマウリ様とエミリア様とダーヴィド様と一緒に見る。
全員で歌って終わる千秋楽。
エミリア様はとても満足そうな顔をしていた。
ヨウシア様の衣装の布で作った黄色い花の髪飾りはエミリア様の宝物になった。
マウリ様とミルヴァ様も12歳という特別な年齢を迎えたが、エミリア様も今回のお誕生日は特別だった。
「わたくし、6さいになるわ」
「エミリア、幼年学校に入学する年だね」
「立派に育ってくれましたね」
マウリ様とミルヴァ様が幼年学校を卒業する年ならば、エミリア様の方は幼年学校に入学する年だった。
「昔は乳幼児死亡率が高くて幼年学校に行ける年まで生きられる子どもの数は本当に少なかった」
「それを考えると、エミリアが健康で6歳という年齢を迎えてくれたことがわたくしは本当に嬉しくてたまらないのですよ」
代わる代わるカールロ様とスティーナ様に抱き締められるエミリア様を羨ましがって、ダーヴィド様が両腕を広げて待機している。カールロ様とスティーナ様はダーヴィド様のことも抱き締めた。
スティーナ様にダーヴィド様が抱っこされているのを見て、エミリア様がきゅっと唇を真一文字に結んだ。難しい表情は何か考えているのだろう。
「どうしましたか、エミリア」
「わたくし、もう、だっこされないわ」
「え!? エミリア、もう抱っこされてくれないのか?」
エミリア様の宣言にショックを受けているのはカールロ様だった。抱っこされないと言われて伸ばした両手でエミリア様を抱っこしようとして、カールロ様は拒否されている。
「だって、もう6さいだもの。だっこされるのはおかしいわ。わたくし、おねえさまになったのよ」
自分で言いながらもカールロ様そっくりの青い目を潤ませているエミリア様に、マウリ様がそっと近付いていく。
「エミリアは偉いね。6歳でそんなことを考えて」
「まーあにうえ?」
「私が抱っこされない方がいいのか真剣に考えたのは10歳のときだったよ」
「そうなの!?」
マウリ様の話にエミリア様が驚いている。
「すごく悩んで、アイラ様に抱っこはされないって宣言したけど、寂しくて悲しくて、すごくつらかったんだ」
「まーあにうえはどうしたの?」
「ヨウシア様に相談した。そしたら、何歳になっても抱っこされたいって思う限りは抱っこされていいんだよって言われたよ」
それまでも何度もミルヴァ様に抱っこされるのはおかしいのではないかと言われていたこと、そのたびにわたくしが抱っこされてもいいと答えていたことをマウリ様はエミリア様に語って聞かせる。
「アイラ様が抱っこしても嫌じゃなくて、私も抱っこされたかったら、何歳になっても抱っこされていい。エミリアも抱っこされたくて、父上や母上が抱っこが嫌じゃなかったら、抱っこされていいんだよ」
優しいマウリ様の言葉にエミリア様の目が潤んでくる。両腕を伸ばしてエミリア様はカールロ様に飛び付いた。
「やっぱり、わたくし、だっこされたい! ちちうえ、だっこして」
「よかった、エミリア。俺もエミリアを抱っこしたかった」
「ちちうえ、だいすき!」
「俺もエミリアが大好きだよ」
しっかりと抱っこされてエミリア様の悩みは解決した。
ネヴァライネン家のターヴィ様が中心が赤で外側が黄色のグラデーションになっているチューリップを持ってネヴァライネン家からやってきた。チューリップの花束を受け取ってエミリア様は優雅にお礼を言っている。
「ターヴィさま、ありがとうございます」
「ヨウシア様にお願いされました。エミリア様も幼年学校に入学する年になりましたね」
「ようねんがっこうにはいかないで、サロモンせんせいからおべんきょうをならうけれど、6さいになったのよ」
「おめでとうございます。私は7さいになりました」
「ターヴィさまとわたくしは、1さいちがいなのね」
ターヴィ様の特別な年は去年だったようだ。フローラ様は毎年ターヴィ様のお誕生日に行っているから、今年もターヴィ様を祝ったのだろう。
「ターヴィとエミリアはお似合いね」
「フローラ姉上ったら、からかわないでください」
「ターヴィさまは、わたくしとおにあいだったら、いやなの?」
「いやではないです。エミリア様はとても可愛いし」
真っ赤になって照れているターヴィ様は男の子らしくてとても可愛らしい。微笑んでみているとマウリ様がわたくしのシャツの裾を引っ張った。強く引かれるわけではないが、マウリ様は言いたいことがあるときにわたくしのスカートやシャツを握ることがある。
「マウリ様、どうしましたか?」
「ターヴィ様に一緒にご挨拶しよう。歌劇団の千秋楽に行くでしょう」
「そうでしたね。ご挨拶しましょう」
マウリ様と手を繋いでターヴィ様の前に立つと、ターヴィ様はエミリア様と手を繋いでいた。
「今度歌劇団の千秋楽に一緒に行きますね。どうぞよろしくお願いします」
「私はかげきだんの公演に行きたかったんです。おさそいいただきありがとうございます」
「私も一緒だから、楽しく見ようね」
「はい、マウリ様もよろしくお願いします」
まだ7歳だというのにターヴィ様はとても丁寧に挨拶ができる。そのことにわたくしは驚いていたけれど、マウリ様の気さくで明るい喋り方も大好きだったので、マウリ様はわたくしと話すときはそのままでいて欲しいと思っていた。
お誕生日のケーキを食べて、カードゲームをして遊ぶ。エミリア様もカードゲームの仲間に入れるようになっていた。わたくしとハンネス様がそれぞれエミリア様とターヴィ様について、ルールを教えながらゲームを進めていく。
マウリ様とミルヴァ様とフローラ様とターヴィ様とエミリア様のカードゲームは白熱した戦いを繰り広げていた。
カードゲームの間、ライネ様とダーヴィド様は大根マンドラゴラのダイちゃんと南瓜頭犬のボタンと一緒に踊って遊んでいた。
エミリア様のお誕生日が終わって数日後に、歌劇団の千秋楽の日が来た。ターヴィ様はあらかじめヘルレヴィ家に来ておいて、そこから馬車に乗って音楽堂まで出かけた。
チケットで指定された席に座る前に、わたくしはエミリア様と、マウリ様はターヴィ様とお手洗いに行った。公演の途中ではお手洗いに行けないので、先に済ませておきたかったのだ。
女性用のお手洗いには長蛇の列ができていたが、マウリ様もターヴィ様もわたくしたちがお手洗いを済ますまで待っていてくれた。
席について劇が始まるのを待つ。
今回の劇は妖精のいたずらで、妖精の女王や貴族やその婚約者が従者に恋をしてしまって、大騒ぎになるのを最終的に夢として妖精が全員を眠らせて、恋の魔法を解くという物語だった。
ヨウシア様は妖精役で黄色いひらひらとした衣装を纏っていた。エミリア様は同じ布で作られた黄色い花の髪飾りをつけて観劇に来ている。
「アイラさま、わたくし、おのどがかわいたかも」
「水筒がありますよ。お水を少しだけ飲みますか?」
「おてあらいにいきたくならないかしら?」
「少しだけなら平気ですよ」
緊張しているエミリア様に水筒を渡すと、一口だけ中の冷たいお水を飲んでいた。幕が開いてミュージカルが始まる。
幕が下りるまでの時間はあっという間だった。
妖精のヨウシア様が舞台の端から端まで走り回って魔法をかけていくシーンがとても心に残った。
拍手をしているわたくしたちの前にヨウシア様や歌劇団の役者さんたちが出て来る。
「本日で今回の公演も千秋楽となります。最後まで皆様にお楽しみいただけていたら幸いです。私たちはこれから練習に入り、次は秋の公演を目指します。最後は皆様と一緒に、今回の公演の歌を歌ってお別れしたいと思います」
パンフレットに歌詞カードが入っていると言われてわたくしはパンフレットを広げる。入っていた歌詞カードをマウリ様とエミリア様とダーヴィド様と一緒に見る。
全員で歌って終わる千秋楽。
エミリア様はとても満足そうな顔をしていた。
ヨウシア様の衣装の布で作った黄色い花の髪飾りはエミリア様の宝物になった。
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