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十章 マウリ様とミルヴァ様の高等学校入学
28.王都に行けない代わりに
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ハンネス様とクリスティアンの卒業式も終わってわたくしとマウリ様とミルヴァ様も夏休みに入る。夏休みは毎年王都のマイヤラ家に滞在していたが、今回はサラ様が生後一か月にもならないので、スティーナ様とカールロ様とわたくしとマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様で話し合いが行われた。
「今年の夏休みはわたくしはヘルレヴィ家から動くつもりはないのですが、マウリとミルヴァとエミリアとダーヴィドとアイラ様とカールロで、マイヤラ家に行ってきますか?」
「母上、私もサラと一緒に過ごしたい!」
「サラがこんなに小さいのは今だけだから、わたくしもしっかりとサラと一緒にいたいわ」
「おじいさまとおばあさまは、サラにあいたくないかしら」
「おかあさま、わたし、いいことをおもいついたの!」
マイヤラ家に行く気がないことを告げるマウリ様とミルヴァ様に、エミリア様が疑問を口にして、ダーヴィド様が元気に手を上げた。
「何かな、ダーヴィド?」
「おじいさまとおばあさまに、ヘルレヴィけにきてもらったら、どうかな?」
4歳のダーヴィド様の考えとは思えないくらいそれは名案だった。マイヤラ家でヘルレヴィ家一家は過ごせないけれど、マイヤラ大公夫妻には会いたい。そうなると来ていただくのが一番いい気がする。
「アイラ様、俺から両親に手紙を書くから、両親を迎えに行ってもらってもいいかな?」
「喜んで行かせてもらいます」
「おじいさまとおばあさまと、みずうみにピクニックにいきたいよ。いちごちゃんもいっしょに」
ダーヴィド様はマイヤラ大公夫妻と湖にピクニックに行くつもりだった。いちごちゃんの背中にはもうエミリア様は乗れないけれど、ダーヴィド様はギリギリ乗れるかもしれない。
狭い池で我慢しているいちごちゃんもたまには広い場所で思い切り泳ぎたいだろう。
マイヤラ大公夫妻からはヘルレヴィ家に来ることに了承する手紙が来て、わたくしは大公夫妻を迎えに王都のマイヤラ家に行った。わたくし一人で行くのは緊張したが、大公夫妻はわたくしを暖かく迎えてくれた。
「ヘルレヴィ家に招いてもらえるなんて嬉しいですね」
「新しい孫の顔も早く見たいものです」
大公夫妻を連れてわたくしがヘルレヴィ家に帰ってきたら、ダーヴィド様とエミリア様が大公夫妻に飛び付いて喜んでいた。
「おじいさま、おばあさま、いらっしゃいませ」
「わたしのいちごちゃん、せなかにのれるんだよ。おじいさまとおばあさまにもみせてあげるね」
「ありがとう、ダーヴィド」
「先に赤ちゃんの顔を見てもいいですか?」
いちごちゃんに夢中なダーヴィド様に微笑みながらも大公夫妻はベビーベッドに寝ているサラ様を覗き込んでいた。サラ様はすやすやと深い眠りについている。
「カールロと同じ栗色の髪ですね」
「カールロよりも髪の色が少し赤みが強いかもしれませんね」
「お目目は何色でしょう」
「眠っているのに起こしては可哀想ですよ」
起きているサラ様の目の色を見たがっているマウリ様のお祖父様に、マウリ様のお祖母様が優しく止めている。
「スティーナが動けないのでこちらに来てもらって悪かった」
「いえ、ちょうどよかったですよ」
「王都では面倒なことが起きていますから、巻き込まれたくなかったのですよ」
マイヤラ大公夫妻の言葉にカールロ様が真剣な眼差しになる。
「ヒルダ殿下が成人なさって高等学校を卒業しましたが、王太子殿下はヒルダ殿下に王位を譲ることに反対しています」
「国王陛下はヒルダ殿下への王位継承を強行しようとしていますね」
「それに、私も巻き込まれかけていて」
王位継承権を返上しているが、大公殿下は王太子殿下の兄君にあたる。ヒルダ殿下で反対されるのならば、元々は王太子だった大公殿下を担ぎ上げようという一派がいるらしい。
「恐らくは、王太子殿下の王位継承はほとんどの貴族も宰相家も反対していますから、ヒルダ殿下に次期国王は決定するでしょう」
「そんな大事な時期に王都を離れてよかったのですか?」
「面倒ごとはまっぴらだから王位継承権を返上したのです。私は平和に暮らしたいのですよ」
大公殿下の気持ちも分からなくはない。国王になどなってしまえば、好きなひととも結婚できないし、家庭も王位に縛られることになる。
「私は妻に惚れて結婚したいがために王位を返上したような人間です。元々国王になる器ではなかったのですよ」
大公殿下の穏やかな言葉とは裏腹に、わたくしは王都で起きていることに心配が募っていた。
マイヤラ大公夫妻がやってきて、わたくしたちは湖へピクニックに出かけた。スティーナ様はサラ様と留守番をして、カールロ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様で出かけた。ヴァンニ家の方々も誘いたかったけれど、ヨハンナ様がスティーナ様と同じく出産後一か月経っていないのでわたくしたちは我慢したのだった。
いちごちゃんを湖に連れて来ると、ダーヴィド様が背中に乗って浅い場所を泳いでいく。いちごちゃんの背中に乗っているダーヴィド様は誇らし気な表情だった。
「おじいさま、おばあさま、わたくし、ようせんせいのこどもになるの」
「よう先生とは、ヨウシア・メリカント様ですか?」
「そうなの。おやくそくをしていてね、わたくしがこうとうがっこうにはいるとしになったら、ようしになっていいっていわれているの」
「エミリアが養子に行くと寂しくなりますね」
「だいじょうぶよ。おじいさまとおばあさまは、かわらずわたくしのおじいさまとおばあさまだわ」
去年に会ったときから変わったことをエミリア様が話していくが、それがダーヴィド様には気に入らなかったようだ。いちごちゃんから降りて、大公夫妻のところに走って行く。
「わたしがいちごちゃんにのるのを、みててほしいの!」
「だーちゃん、わたくしもおじいさまとおばあさまとおはなししたいわ」
「わたしがいちごちゃんにのってるときは、おはなししないでほしいの!」
泣き出してひっくり返って暴れるダーヴィド様をカールロ様が抱き留める。
「ダーヴィド、お前だけのお祖父様とお祖母様じゃないんだぞ?」
「いやー! わたしをいちばんにみてほしいのー!」
泣いて暴れるダーヴィド様にわたくしがどのように声をかけようか悩んでいると、マウリ様とミルヴァ様が話しかける。
「わたくしもお祖父様とお祖母様とお話ししたいのよ」
「お祖父様とお祖母様はダーヴィドだけじゃなくて、私とエミリアとみーとサラのお祖父様とお祖母様でもあるんだよ。ダーヴィドは、お祖父様とお祖母様がサラのことを見ているときでも、そうやって泣くのかな?」
「わたし……いやなおにいさまになっちゃう」
「サラに我慢させるのが嫌なお兄様だったら、エミリアに我慢させるのも嫌な弟だよ?」
「わたし、いやなおとうとだった! えーねえさま、ごめんなさい」
マウリ様に諭されてダーヴィド様は気付いたようだった。頭を下げて謝るダーヴィド様にエミリア様がハンカチを出して涙と洟を拭いてあげる。
「じゅんばんにしましょうね、だーちゃん」
「はい、えーねえさま」
「いまはわたくしがおじいさまとおばあさまとおはなししたから、つぎは、だーちゃんがみてもらうばんね」
「おじいさま、おばあさま、みてて!」
またいちごちゃんに乗って湖で遊び始めたダーヴィド様は、見てもらった後に大公夫妻がマウリ様とミルヴァ様と話していても泣いて怒ることはなかった。
「私たち高等学校の二年生になるんだよ」
「入学式にはお祖父様とお祖母様を呼べなくてごめんなさい」
「すごく人数が多かったんだよね」
「みんなに見て欲しかったから」
ハンネス様とフローラ様とライネ様とサロモン先生とヨハンナ様に来ていただいた入学式のことをマウリ様とミルヴァ様が話している。サンルームでヴァンニ家の一家が過ごしたことも話し終えると、また大公夫妻はいちごちゃんに乗るダーヴィド様を見て手を振っていた。
穏やかな夏の日、強い日差しに照らされながらわたくしたちは湖のほとりでお弁当を食べて、ヘルレヴィ家に帰ったのだった。
「今年の夏休みはわたくしはヘルレヴィ家から動くつもりはないのですが、マウリとミルヴァとエミリアとダーヴィドとアイラ様とカールロで、マイヤラ家に行ってきますか?」
「母上、私もサラと一緒に過ごしたい!」
「サラがこんなに小さいのは今だけだから、わたくしもしっかりとサラと一緒にいたいわ」
「おじいさまとおばあさまは、サラにあいたくないかしら」
「おかあさま、わたし、いいことをおもいついたの!」
マイヤラ家に行く気がないことを告げるマウリ様とミルヴァ様に、エミリア様が疑問を口にして、ダーヴィド様が元気に手を上げた。
「何かな、ダーヴィド?」
「おじいさまとおばあさまに、ヘルレヴィけにきてもらったら、どうかな?」
4歳のダーヴィド様の考えとは思えないくらいそれは名案だった。マイヤラ家でヘルレヴィ家一家は過ごせないけれど、マイヤラ大公夫妻には会いたい。そうなると来ていただくのが一番いい気がする。
「アイラ様、俺から両親に手紙を書くから、両親を迎えに行ってもらってもいいかな?」
「喜んで行かせてもらいます」
「おじいさまとおばあさまと、みずうみにピクニックにいきたいよ。いちごちゃんもいっしょに」
ダーヴィド様はマイヤラ大公夫妻と湖にピクニックに行くつもりだった。いちごちゃんの背中にはもうエミリア様は乗れないけれど、ダーヴィド様はギリギリ乗れるかもしれない。
狭い池で我慢しているいちごちゃんもたまには広い場所で思い切り泳ぎたいだろう。
マイヤラ大公夫妻からはヘルレヴィ家に来ることに了承する手紙が来て、わたくしは大公夫妻を迎えに王都のマイヤラ家に行った。わたくし一人で行くのは緊張したが、大公夫妻はわたくしを暖かく迎えてくれた。
「ヘルレヴィ家に招いてもらえるなんて嬉しいですね」
「新しい孫の顔も早く見たいものです」
大公夫妻を連れてわたくしがヘルレヴィ家に帰ってきたら、ダーヴィド様とエミリア様が大公夫妻に飛び付いて喜んでいた。
「おじいさま、おばあさま、いらっしゃいませ」
「わたしのいちごちゃん、せなかにのれるんだよ。おじいさまとおばあさまにもみせてあげるね」
「ありがとう、ダーヴィド」
「先に赤ちゃんの顔を見てもいいですか?」
いちごちゃんに夢中なダーヴィド様に微笑みながらも大公夫妻はベビーベッドに寝ているサラ様を覗き込んでいた。サラ様はすやすやと深い眠りについている。
「カールロと同じ栗色の髪ですね」
「カールロよりも髪の色が少し赤みが強いかもしれませんね」
「お目目は何色でしょう」
「眠っているのに起こしては可哀想ですよ」
起きているサラ様の目の色を見たがっているマウリ様のお祖父様に、マウリ様のお祖母様が優しく止めている。
「スティーナが動けないのでこちらに来てもらって悪かった」
「いえ、ちょうどよかったですよ」
「王都では面倒なことが起きていますから、巻き込まれたくなかったのですよ」
マイヤラ大公夫妻の言葉にカールロ様が真剣な眼差しになる。
「ヒルダ殿下が成人なさって高等学校を卒業しましたが、王太子殿下はヒルダ殿下に王位を譲ることに反対しています」
「国王陛下はヒルダ殿下への王位継承を強行しようとしていますね」
「それに、私も巻き込まれかけていて」
王位継承権を返上しているが、大公殿下は王太子殿下の兄君にあたる。ヒルダ殿下で反対されるのならば、元々は王太子だった大公殿下を担ぎ上げようという一派がいるらしい。
「恐らくは、王太子殿下の王位継承はほとんどの貴族も宰相家も反対していますから、ヒルダ殿下に次期国王は決定するでしょう」
「そんな大事な時期に王都を離れてよかったのですか?」
「面倒ごとはまっぴらだから王位継承権を返上したのです。私は平和に暮らしたいのですよ」
大公殿下の気持ちも分からなくはない。国王になどなってしまえば、好きなひととも結婚できないし、家庭も王位に縛られることになる。
「私は妻に惚れて結婚したいがために王位を返上したような人間です。元々国王になる器ではなかったのですよ」
大公殿下の穏やかな言葉とは裏腹に、わたくしは王都で起きていることに心配が募っていた。
マイヤラ大公夫妻がやってきて、わたくしたちは湖へピクニックに出かけた。スティーナ様はサラ様と留守番をして、カールロ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様で出かけた。ヴァンニ家の方々も誘いたかったけれど、ヨハンナ様がスティーナ様と同じく出産後一か月経っていないのでわたくしたちは我慢したのだった。
いちごちゃんを湖に連れて来ると、ダーヴィド様が背中に乗って浅い場所を泳いでいく。いちごちゃんの背中に乗っているダーヴィド様は誇らし気な表情だった。
「おじいさま、おばあさま、わたくし、ようせんせいのこどもになるの」
「よう先生とは、ヨウシア・メリカント様ですか?」
「そうなの。おやくそくをしていてね、わたくしがこうとうがっこうにはいるとしになったら、ようしになっていいっていわれているの」
「エミリアが養子に行くと寂しくなりますね」
「だいじょうぶよ。おじいさまとおばあさまは、かわらずわたくしのおじいさまとおばあさまだわ」
去年に会ったときから変わったことをエミリア様が話していくが、それがダーヴィド様には気に入らなかったようだ。いちごちゃんから降りて、大公夫妻のところに走って行く。
「わたしがいちごちゃんにのるのを、みててほしいの!」
「だーちゃん、わたくしもおじいさまとおばあさまとおはなししたいわ」
「わたしがいちごちゃんにのってるときは、おはなししないでほしいの!」
泣き出してひっくり返って暴れるダーヴィド様をカールロ様が抱き留める。
「ダーヴィド、お前だけのお祖父様とお祖母様じゃないんだぞ?」
「いやー! わたしをいちばんにみてほしいのー!」
泣いて暴れるダーヴィド様にわたくしがどのように声をかけようか悩んでいると、マウリ様とミルヴァ様が話しかける。
「わたくしもお祖父様とお祖母様とお話ししたいのよ」
「お祖父様とお祖母様はダーヴィドだけじゃなくて、私とエミリアとみーとサラのお祖父様とお祖母様でもあるんだよ。ダーヴィドは、お祖父様とお祖母様がサラのことを見ているときでも、そうやって泣くのかな?」
「わたし……いやなおにいさまになっちゃう」
「サラに我慢させるのが嫌なお兄様だったら、エミリアに我慢させるのも嫌な弟だよ?」
「わたし、いやなおとうとだった! えーねえさま、ごめんなさい」
マウリ様に諭されてダーヴィド様は気付いたようだった。頭を下げて謝るダーヴィド様にエミリア様がハンカチを出して涙と洟を拭いてあげる。
「じゅんばんにしましょうね、だーちゃん」
「はい、えーねえさま」
「いまはわたくしがおじいさまとおばあさまとおはなししたから、つぎは、だーちゃんがみてもらうばんね」
「おじいさま、おばあさま、みてて!」
またいちごちゃんに乗って湖で遊び始めたダーヴィド様は、見てもらった後に大公夫妻がマウリ様とミルヴァ様と話していても泣いて怒ることはなかった。
「私たち高等学校の二年生になるんだよ」
「入学式にはお祖父様とお祖母様を呼べなくてごめんなさい」
「すごく人数が多かったんだよね」
「みんなに見て欲しかったから」
ハンネス様とフローラ様とライネ様とサロモン先生とヨハンナ様に来ていただいた入学式のことをマウリ様とミルヴァ様が話している。サンルームでヴァンニ家の一家が過ごしたことも話し終えると、また大公夫妻はいちごちゃんに乗るダーヴィド様を見て手を振っていた。
穏やかな夏の日、強い日差しに照らされながらわたくしたちは湖のほとりでお弁当を食べて、ヘルレヴィ家に帰ったのだった。
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