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十一章 研究課程最後の年
14.辺境伯領の顛末をカールロ様とスティーナ様に話す
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オクサラ辺境伯領はトゥーレ様とアルベルト様が統治することになって、わたくしはイルミ様を連れてヘルレヴィ領に戻った。
「トゥーレ様、辺境伯領を正しい道に導いてください」
「心得ています、イルミ様」
イルミ様に言われて頭を下げるトゥーレ様も髪を剃っている。隣りで深く頭を下げているアルベルト様も側頭部や後頭部は髪の毛が生え始めている気がするが、頭頂部に生えていないような感じはするが、それでも堂々と頭を晒し、わたくしたちに頭を下げていた。
「アイラ様とイルミ様には大変ご迷惑をおかけしました。父の言うなりになっていたといっても恥ずかしい限りです。今後は心を入れ替えてトゥーレ様と共に辺境伯領を豊かにしていきます」
「信じていいのですか?」
「私はトゥーレ様に辺境伯になってもらって、それを支える形にしたいと思います」
オクサラ辺境伯が、アンティラ辺境伯になるのをわたくしは目の前で見たことになる。
「レンニ殿下に関しては、国外に行かれると逆に面倒なことになりそうなので、辺境伯領に羊毛の加工工場を作って、そこで働かせて借金を返させます」
「これからは異国に対する軍備は必要ですが、そちらに裂く資金を減らして、辺境伯領の中で工業が成立するようにしていきたいと思います」
トゥーレ様とアルベルト様のしっかりとした考えにわたくしはこの二人ならば大丈夫なのではないだろうかと思っていた。手を取り合って寄り添い合う細身のトゥーレ様と長身でがっしりとしたアルベルト様は、とてもお似合いである。
同性同士の結婚を歓迎しない風潮のある辺境伯領も、領主が男性同士のカップルとなれば変わってくるだろう。
トゥーレ様とアルベルト様に見送られて、わたくしはイルミ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様と移転の魔法でヘルレヴィ家に戻った。
最初にしなければいけないことはカールロ様とスティーナ様に説明をすることだった。お昼前だったのでカールロ様とスティーナ様はお昼ご飯に子どもたちを呼びに子ども部屋に来て、わたくしたちの不在に気付いたようだった。サラ様にスティーナ様がお乳を上げている間に、カールロ様はわたくしたちを探していたようだった。
コートを着ているわたくしたちの姿にカールロ様は子ども部屋から廊下に出て来る。
「お帰り、マウリ、ミルヴァ、エミリア、ダーヴィド、アイラ様。お散歩に行っていたのかな? もうこんなに寒いのに」
「いいえ、カールロ様、スティーナ様に聞いていただきたいことがあります」
「失礼いたします。アンティラ家のイルミで御座います」
イルミ様が前に出て来るとカールロ様も辺境伯領に関する話だと察したようだ。応接室にイルミ様を通して、わたくしとマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様も連れていく。
授乳を終えたスティーナ様が応接室にやってきた。
「オクサラ辺境伯……もう元オクサラ辺境伯か。元オクサラ辺境伯が、レンニ殿下に集まっているお金を軍備の増強に使っているって聞いて、私、居ても立ってもいられなくなっちゃったんだ」
「まーとエミリアと一緒に辺境伯領に飛んで行ったの」
「私がアイラ様を乗せて、みーがダーヴィドを乗せていたんだ」
説明するマウリ様とミルヴァ様の話をカールロ様もスティーナ様も真剣に聞いている。続きをイルミ様が話そうと口を開きかけたところで、ダーヴィド様が鼻息荒く身を乗り出して来た。
「わたしがおりていったら、きっちょうだっていわれたんだよ。わたし、きっちょうだった!」
「ダーヴィド、それはちょっと違うんじゃないかな」
「それで、わたし、わるいやつをやっつけて、めでたしめでたしだったんだよ」
「ダーヴィド、わたくしのお膝においでなさい。とても活躍したのですね。先にイルミ様のお話を聞いてから、ダーヴィドのお話を聞いてもいいですか?」
「はい、おかあさま!」
カールロ様は苦笑しているが、スティーナ様は落ち着いてダーヴィド様の話を否定せずに膝の上に抱き上げた。否定されなかったのでダーヴィド様は文句を言うこともなくスティーナ様に抱っこされて、イルミ様の話を聞く体勢になった。
「わたくし、アルベルト様の婚約者として辺境伯領にトゥーレ様と共に滞在していました。元オクサラ辺境伯が何人もの妾と爛れた生活をしていること、領民を全く顧みていないことを感じ、できるだけ早急に動かねばこの冬にまた凍死者が大量に出ると感じたのです」
辺境伯領は羊毛の生産が盛んで、遊牧民族も多い。それだけに国境を守る軍備が必要なのは確かだったが、飢えて冬を越せないものたちがいることは大問題だった。燃料が買えなければ家のあるものでも凍死してしまうし、家のないものならばさらに厳しいことになる。
天幕を張って生活をする遊牧民族の部族の中では、元オクサラ辺境伯のやり方に納得がいかず、離反していったものもいるという。
「アイラ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様が来てくださると分かり、わたくしは獣の本性となって元オクサラ辺境伯と戦いました。アルベルト様はその姿を見て、これまで元オクサラ辺境伯の言いなりだったことを悔いて、トゥーレと共に辺境伯領を治める決意をしたのです」
「アルベルト様とトゥーレ様は辺境伯領に羊毛の加工工場を作ると言っていました。レンニ殿下は異国に放つと逆に危険なので、工場で働かせてこれまでの借金を返させるとも」
「カールロ様、スティーナ様、どうかわたくしの従弟のトゥーレ様が治める辺境伯に援助をお願いします」
「交易も再開してください」
イルミ様とわたくしの説明を聞いていたカールロ様とスティーナ様が、疑問を投げかけてくる。
「元オクサラ辺境伯と言いましたが、彼はどうなったのですか?」
「奥方が連れて行きました。自分の屋敷から出さずに閉じ込めておくつもりのようです」
「アルベルト様は本当に信用できるのか?」
「アルベルト様は、辺境伯の地位を自分ではなくわたくしの従弟のトゥーレ様にと仰いました。トゥーレ様も以前はわたくしと決闘騒ぎを起こしましたが、心を入れ替えて領民のために働くいい領主になると思われます」
スティーナ様とカールロ様の疑問にすらすらと答えるイルミ様に、お二人も納得したようだった。
「分かった、辺境伯領との交易を再開しよう」
「援助も致しましょうね。これから辺境伯領を建て直して行かなければいけません」
「それで、オクサラ辺境伯領ではなく、アンティラ辺境伯領になるのかな?」
「ヒルダ女王陛下の任命が必要ですが、正式な辺境伯領の後継者であるアルベルト様は、トゥーレ・アンティラ様に領主の座を譲り、配偶者として共に領地を治めることを望んでいます」
「配偶者としてか。アルベルト様はトゥーレ様のことを想っていたのか」
「同性同士の結婚を認めていない辺境伯領ではつらかったでしょうね」
アルベルト様が最初から女性ではなく男性がお好きな方だったのならば、同性での結婚を認めない辺境伯領で、父親に結婚前から妾を持てと言われて、女性を宛がわれ、イルミ様という婚約者もいて、イルミ様の高等学校卒業と同時に結婚が決まっていたら、とてもつらく苦しかっただろう。それでアルベルト様がわたくしに心変わりをしたふりをしたことも、隣国の姫君と結婚しようとして王族にアレルギー反応が出て、それをカールロ様とスティーナ様のせいにしたことも、許されることではないが、同情はする。
わたくしとイルミ様の話を聞いて、カールロ様もスティーナ様も辺境伯領を助けるつもりになっている。
「ダーヴィド、待たせましたね。あなたの冒険を聞かせてください。エミリアも、話してくれますか?」
「おかあさま、わたし、きっちょうで、わるいやつをやっつけたんだよ」
「わたくし、アイラ様が目の前で立派に宣言しているのを見たわ」
「そうだったのか。二人とも誰にも言わずにいなくなってはいけないよ」
「ごめんなさい、おとうさま。こんどから、ちゃんというね」
「わたくしもちゃんと言うわ」
優しく語り掛けられて話し出すダーヴィド様とエミリア様の言葉も、スティーナ様とカールロ様はちゃんと受け止めていた。
辺境伯領の領主がトゥーレ様になって、任命式が行われるのは、もう少し先のこと。
「トゥーレ様、辺境伯領を正しい道に導いてください」
「心得ています、イルミ様」
イルミ様に言われて頭を下げるトゥーレ様も髪を剃っている。隣りで深く頭を下げているアルベルト様も側頭部や後頭部は髪の毛が生え始めている気がするが、頭頂部に生えていないような感じはするが、それでも堂々と頭を晒し、わたくしたちに頭を下げていた。
「アイラ様とイルミ様には大変ご迷惑をおかけしました。父の言うなりになっていたといっても恥ずかしい限りです。今後は心を入れ替えてトゥーレ様と共に辺境伯領を豊かにしていきます」
「信じていいのですか?」
「私はトゥーレ様に辺境伯になってもらって、それを支える形にしたいと思います」
オクサラ辺境伯が、アンティラ辺境伯になるのをわたくしは目の前で見たことになる。
「レンニ殿下に関しては、国外に行かれると逆に面倒なことになりそうなので、辺境伯領に羊毛の加工工場を作って、そこで働かせて借金を返させます」
「これからは異国に対する軍備は必要ですが、そちらに裂く資金を減らして、辺境伯領の中で工業が成立するようにしていきたいと思います」
トゥーレ様とアルベルト様のしっかりとした考えにわたくしはこの二人ならば大丈夫なのではないだろうかと思っていた。手を取り合って寄り添い合う細身のトゥーレ様と長身でがっしりとしたアルベルト様は、とてもお似合いである。
同性同士の結婚を歓迎しない風潮のある辺境伯領も、領主が男性同士のカップルとなれば変わってくるだろう。
トゥーレ様とアルベルト様に見送られて、わたくしはイルミ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様と移転の魔法でヘルレヴィ家に戻った。
最初にしなければいけないことはカールロ様とスティーナ様に説明をすることだった。お昼前だったのでカールロ様とスティーナ様はお昼ご飯に子どもたちを呼びに子ども部屋に来て、わたくしたちの不在に気付いたようだった。サラ様にスティーナ様がお乳を上げている間に、カールロ様はわたくしたちを探していたようだった。
コートを着ているわたくしたちの姿にカールロ様は子ども部屋から廊下に出て来る。
「お帰り、マウリ、ミルヴァ、エミリア、ダーヴィド、アイラ様。お散歩に行っていたのかな? もうこんなに寒いのに」
「いいえ、カールロ様、スティーナ様に聞いていただきたいことがあります」
「失礼いたします。アンティラ家のイルミで御座います」
イルミ様が前に出て来るとカールロ様も辺境伯領に関する話だと察したようだ。応接室にイルミ様を通して、わたくしとマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様も連れていく。
授乳を終えたスティーナ様が応接室にやってきた。
「オクサラ辺境伯……もう元オクサラ辺境伯か。元オクサラ辺境伯が、レンニ殿下に集まっているお金を軍備の増強に使っているって聞いて、私、居ても立ってもいられなくなっちゃったんだ」
「まーとエミリアと一緒に辺境伯領に飛んで行ったの」
「私がアイラ様を乗せて、みーがダーヴィドを乗せていたんだ」
説明するマウリ様とミルヴァ様の話をカールロ様もスティーナ様も真剣に聞いている。続きをイルミ様が話そうと口を開きかけたところで、ダーヴィド様が鼻息荒く身を乗り出して来た。
「わたしがおりていったら、きっちょうだっていわれたんだよ。わたし、きっちょうだった!」
「ダーヴィド、それはちょっと違うんじゃないかな」
「それで、わたし、わるいやつをやっつけて、めでたしめでたしだったんだよ」
「ダーヴィド、わたくしのお膝においでなさい。とても活躍したのですね。先にイルミ様のお話を聞いてから、ダーヴィドのお話を聞いてもいいですか?」
「はい、おかあさま!」
カールロ様は苦笑しているが、スティーナ様は落ち着いてダーヴィド様の話を否定せずに膝の上に抱き上げた。否定されなかったのでダーヴィド様は文句を言うこともなくスティーナ様に抱っこされて、イルミ様の話を聞く体勢になった。
「わたくし、アルベルト様の婚約者として辺境伯領にトゥーレ様と共に滞在していました。元オクサラ辺境伯が何人もの妾と爛れた生活をしていること、領民を全く顧みていないことを感じ、できるだけ早急に動かねばこの冬にまた凍死者が大量に出ると感じたのです」
辺境伯領は羊毛の生産が盛んで、遊牧民族も多い。それだけに国境を守る軍備が必要なのは確かだったが、飢えて冬を越せないものたちがいることは大問題だった。燃料が買えなければ家のあるものでも凍死してしまうし、家のないものならばさらに厳しいことになる。
天幕を張って生活をする遊牧民族の部族の中では、元オクサラ辺境伯のやり方に納得がいかず、離反していったものもいるという。
「アイラ様とマウリ様とミルヴァ様とエミリア様とダーヴィド様が来てくださると分かり、わたくしは獣の本性となって元オクサラ辺境伯と戦いました。アルベルト様はその姿を見て、これまで元オクサラ辺境伯の言いなりだったことを悔いて、トゥーレと共に辺境伯領を治める決意をしたのです」
「アルベルト様とトゥーレ様は辺境伯領に羊毛の加工工場を作ると言っていました。レンニ殿下は異国に放つと逆に危険なので、工場で働かせてこれまでの借金を返させるとも」
「カールロ様、スティーナ様、どうかわたくしの従弟のトゥーレ様が治める辺境伯に援助をお願いします」
「交易も再開してください」
イルミ様とわたくしの説明を聞いていたカールロ様とスティーナ様が、疑問を投げかけてくる。
「元オクサラ辺境伯と言いましたが、彼はどうなったのですか?」
「奥方が連れて行きました。自分の屋敷から出さずに閉じ込めておくつもりのようです」
「アルベルト様は本当に信用できるのか?」
「アルベルト様は、辺境伯の地位を自分ではなくわたくしの従弟のトゥーレ様にと仰いました。トゥーレ様も以前はわたくしと決闘騒ぎを起こしましたが、心を入れ替えて領民のために働くいい領主になると思われます」
スティーナ様とカールロ様の疑問にすらすらと答えるイルミ様に、お二人も納得したようだった。
「分かった、辺境伯領との交易を再開しよう」
「援助も致しましょうね。これから辺境伯領を建て直して行かなければいけません」
「それで、オクサラ辺境伯領ではなく、アンティラ辺境伯領になるのかな?」
「ヒルダ女王陛下の任命が必要ですが、正式な辺境伯領の後継者であるアルベルト様は、トゥーレ・アンティラ様に領主の座を譲り、配偶者として共に領地を治めることを望んでいます」
「配偶者としてか。アルベルト様はトゥーレ様のことを想っていたのか」
「同性同士の結婚を認めていない辺境伯領ではつらかったでしょうね」
アルベルト様が最初から女性ではなく男性がお好きな方だったのならば、同性での結婚を認めない辺境伯領で、父親に結婚前から妾を持てと言われて、女性を宛がわれ、イルミ様という婚約者もいて、イルミ様の高等学校卒業と同時に結婚が決まっていたら、とてもつらく苦しかっただろう。それでアルベルト様がわたくしに心変わりをしたふりをしたことも、隣国の姫君と結婚しようとして王族にアレルギー反応が出て、それをカールロ様とスティーナ様のせいにしたことも、許されることではないが、同情はする。
わたくしとイルミ様の話を聞いて、カールロ様もスティーナ様も辺境伯領を助けるつもりになっている。
「ダーヴィド、待たせましたね。あなたの冒険を聞かせてください。エミリアも、話してくれますか?」
「おかあさま、わたし、きっちょうで、わるいやつをやっつけたんだよ」
「わたくし、アイラ様が目の前で立派に宣言しているのを見たわ」
「そうだったのか。二人とも誰にも言わずにいなくなってはいけないよ」
「ごめんなさい、おとうさま。こんどから、ちゃんというね」
「わたくしもちゃんと言うわ」
優しく語り掛けられて話し出すダーヴィド様とエミリア様の言葉も、スティーナ様とカールロ様はちゃんと受け止めていた。
辺境伯領の領主がトゥーレ様になって、任命式が行われるのは、もう少し先のこと。
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