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十二章 研究院入学と辺境伯領再建
27.エミリア様のタルトと歌劇団の公演
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エミリア様のタルトが運ばれて来ると、サラ様もティーア様も興奮した様子でソファによじ登る。ダーヴィド様もライネ様もハンネス様もフローラ様もソファに座ったところで、エミリア様がサムエル様とウルスラ様の方を見て口を開いた。
「わたくし、キノコブタをもらってとても嬉しかったの。サムエル様とウルスラ様にお礼をしたかったんだけど、わたくし一人では無理で、まー兄上とみー姉上とアイラ様に手伝ってもらって、苺のタルトを作りました。サムエル様、ウルスラ様、本当にありがとうございました!」
大きな声でお礼を言うエミリア様に、サムエル様とウルスラ様がとても驚いている。
「この綺麗なタルトをエミリアちゃんたちが作ったのか」
「とても美味しそうですね」
「曾孫に大事なものを上げるのはお礼なんていらないものじゃないのか」
「わたくしが嬉しかったから、お礼をしたかったの! 一生懸命作ったから、食べてください」
頭を下げるエミリア様に、サムエル様とウルスラ様は嬉しそうにタルトのお皿を受け取った。カスタードもちょうどいい硬さで流れ出ていないし、固まり切ってもいない。甘酸っぱい苺と濃厚なカスタードとさくさくのタルト生地が絶妙に美味しく出来上がっていた。
「おいちっ!」
「んまっ! んまっ!」
「もういっちょ!」
「おかーり!」
ものすごい勢いで吸い込んで食べてしまったサラ様とティーア様が、お口の周りをカスタードと苺で汚してお代わりを要求しているが、タルトは人数分しかない。
「お代りはないのよ。もう食べたでしょ?」
「もういっちょ!」
「おかーり!」
「もう、サラもティーアも食いしん坊なんだから」
笑いながらエミリア様がタルトの苺を一個サラ様にあげると、ハンネス様がティーア様に苺を一個上げて、マウリ様とミルヴァ様がサラ様とティーア様に苺をそれぞれあげて、フローラ様とわたくしも苺を一個ずつあげると、お代りはなかったがサラ様とティーア様のお皿の上は苺がいっぱいになっていた。
「あいがちょ!」
「おいちーね」
たくさんの苺をもらえてにこにこでサラ様とティーア様は手掴みでそれを食べていた。
お茶の時間が終わると、ヨウシア様がサムエル様とウルスラ様にチケットの入った封筒を渡す。
「エミリアちゃんたちと同じ日にチケットを取っています。僕の歌劇団の公演をぜひ見に来てください」
「チケットをもらっていいのか!?」
「嬉しいですわ。このひとったら、チケットを買えなくて悔しがっていたのですよ」
「その話はしなくていい!」
サムエル様はヨウシア様の歌劇団の公演のチケットを確保しようとしていたようだ。ヨウシア様の歌劇団のチケットは人気なのですぐに売り切れてしまう。チケットを確保できなくて気落ちしていたところに差し出されたチケットに、サムエル様は驚きながらもそれを受け取っていた。
「サムエル様と一緒に見られるのね。嬉しいわ」
「エミリアちゃん、会場で会えるといいな」
「席は近い場所にしておきましたから」
喜んでサムエル様のチケットを覗き込むエミリア様に、サムエル様も微笑んでいる。ヨウシア様もちゃんと席は考えてくれているようだった。
「サムエル様に子ども劇団の演目を見て欲しかったわ」
「子ども劇団? そんなことをしたのか?」
「はー兄上がリーダーになってくれて、わたくしとふー姉上とらいちゃんとだーちゃんと、まー兄上とみー姉上で、辺境伯領でお芝居をしたの。大変だったけど、みんな褒めてくれて、すごく楽しかったわ」
「辺境伯領でのお芝居か。エミリアちゃんは色んなことをしているんだな」
「わたくし、大きくなったらよう先生の歌劇団で歌姫になるの」
将来の夢を語るエミリア様の青い瞳は輝いている。その輝きをサムエル様もウルスラ様も眩しそうに見つめていた。
「エミリアの母のスティーナ・ヘルレヴィです。わたくしの娘を可愛がってくださってありがとうございます」
「エミリアの父のカールロ・マイヤラです。キノコブタをくださったり、エミリアを大事に思ってくださって感謝しています」
エミリア様がサムエル様とウルスラ様から離れたときに、スティーナ様とカールロ様がサムエル様とウルスラ様に挨拶をする。ヘルレヴィ領の領主夫婦ということもあって、サムエル様もウルスラ様も姿勢を正していた。
「サムエル・ハールスです。孫のオスカリとエミリアちゃんが縁を結ぶことを許してくださってありがとうございます」
「ウルスラ・ムルトマーですわ。わたくしたちにとっても、曾孫のようなとても大事な存在です」
「ハールス様は……いえ、オスカリ様と呼んだ方がいいですね。オスカリ様はわたくしたちに言ってくださいました。親子の縁を切らせるつもりはない、親が増えるだけだと」
「私たちとエミリアとの縁もずっと繋がっていきます。どうか、私たちと子どもたちのことも家族だと思っていただければ嬉しいです」
「この年でこんなに家族が増えるだなんて……」
「本当にありがたいことです」
サムエル様はスティーナ様とカールロ様の言葉に涙ぐんでいるようだった。ウルスラ様も目を潤ませている。オスカリ先生と絶縁状態で、実の息子は異国に行ってしまって、ずっとサムエル様もウルスラ様も孤独だったのだろう。
同性しか愛せないオスカリ先生のことを認められなかったのも、曾孫の顔が見られないという現実を受け入れられなかったのかもしれない。それが今はエミリア様の存在によってサムエル様とウルスラ様と、オスカリ先生は和解して、ヘルレヴィ家の人々とも家族のような関係になりつつある。
「マウリ様があのとき、オスカリ先生に、大事なひとを紹介していないことを指摘したおかげですね」
「私の言葉でサムエル様とウルスラ様と、オスカリ先生が仲直りできたんなら、すごく嬉しいよ」
「まーはとても立派だったわ」
わたくしからもミルヴァ様からも褒められて、マウリ様は頬を赤くして照れていた。
歌劇団の公演は千秋楽の日のチケットをもらっていた。エミリア様が千秋楽の挨拶を聞きたいと言っていたのをヨウシア様が覚えていてくれたのだろう。
音楽堂につくと、入口でサムエル様とウルスラ様が待っていた。
「音楽堂がどんなところか見ておきたくてね」
「楽しみで早く来すぎたんでしょう。ずっと今日を待っていたのですよ」
「そ、そんなことは……」
くすくすと笑うウルスラ様にサムエル様は顔を赤くしている。
音楽堂の中にはいるとわたくしたちの席が前で、サムエル様とウルスラ様の席は一つ後ろだった。
「ふー姉上、席を替わって。わたくし、サムエル様の前に座りたいの」
「いいわよ、エミリア。それなら、一つ席をずらして、父上に端っこに行ってもらってもいいかしら?」
「構いませんよ、フローラ。私がカールロ様の隣りに移動すればいいんですね」
「お願い、父上」
サムエル様とウルスラ様の近くに座りたいエミリア様のために若干席をずれたりはしたものの、問題なくわたくしたちは観劇をすることができた。
街で起きる事件を解決する探偵の物語。わたくしはこの物語を見て、探偵という職業があるのだと初めて知った。
スキャンダルに巻き込まれそうになった貴族の令嬢を救い、貴族の屋敷から宝石を盗む怪盗を捕まえて、殺人事件が起きれば名推理で犯人を探し当てる。
探偵という新しい職業の物語にわたくしは夢中になっていた。
「今回の春公演にお越しいただき誠にありがとうございます。今年もサイロ・メリカント村の歌劇団は秋公演を予定しております。秋公演に向けて、歌劇団員一同、力を合わせて頑張っていきたいと思います。どうぞ、秋公演もよろしくお願いします」
ヨウシア様の挨拶が終わって、わたくしたちは手が痛くなるまで拍手をした。
「すごかった! わたしも、すいりする!」
「だーちゃん、どんな推理をするの?」
「えーっと、もうすぐ、チューリップのはながさくでしょう」
「うん、春だからね」
すっかり探偵の物語が気に入ってしまったダーヴィド様は、すぐにでも探偵ごっこを始めそうだった。
年が小さいのでチケットのいらなかったサラ様とティーア様は、泣いたり暴れたりしなかったが、公演の途中で寝てしまった。
「エミリアちゃん、また会おうね」
「はい、サムエル様、ウルスラ様。ヘルレヴィ家にも遊びに来てね」
「ヘルレヴィ家にもお邪魔してよろしいのですか?」
「歓迎しますよ」
別れ際に名残惜しそうなサムエル様とウルスラ様に、エミリア様はヘルレヴィ家に誘っている。歓迎するというカールロ様の言葉に、そのうちサムエル様とウルスラ様がヘルレヴィ家に訪ねて来るのもあり得るのではないかとわたくしは思っていた。
「わたくし、キノコブタをもらってとても嬉しかったの。サムエル様とウルスラ様にお礼をしたかったんだけど、わたくし一人では無理で、まー兄上とみー姉上とアイラ様に手伝ってもらって、苺のタルトを作りました。サムエル様、ウルスラ様、本当にありがとうございました!」
大きな声でお礼を言うエミリア様に、サムエル様とウルスラ様がとても驚いている。
「この綺麗なタルトをエミリアちゃんたちが作ったのか」
「とても美味しそうですね」
「曾孫に大事なものを上げるのはお礼なんていらないものじゃないのか」
「わたくしが嬉しかったから、お礼をしたかったの! 一生懸命作ったから、食べてください」
頭を下げるエミリア様に、サムエル様とウルスラ様は嬉しそうにタルトのお皿を受け取った。カスタードもちょうどいい硬さで流れ出ていないし、固まり切ってもいない。甘酸っぱい苺と濃厚なカスタードとさくさくのタルト生地が絶妙に美味しく出来上がっていた。
「おいちっ!」
「んまっ! んまっ!」
「もういっちょ!」
「おかーり!」
ものすごい勢いで吸い込んで食べてしまったサラ様とティーア様が、お口の周りをカスタードと苺で汚してお代わりを要求しているが、タルトは人数分しかない。
「お代りはないのよ。もう食べたでしょ?」
「もういっちょ!」
「おかーり!」
「もう、サラもティーアも食いしん坊なんだから」
笑いながらエミリア様がタルトの苺を一個サラ様にあげると、ハンネス様がティーア様に苺を一個上げて、マウリ様とミルヴァ様がサラ様とティーア様に苺をそれぞれあげて、フローラ様とわたくしも苺を一個ずつあげると、お代りはなかったがサラ様とティーア様のお皿の上は苺がいっぱいになっていた。
「あいがちょ!」
「おいちーね」
たくさんの苺をもらえてにこにこでサラ様とティーア様は手掴みでそれを食べていた。
お茶の時間が終わると、ヨウシア様がサムエル様とウルスラ様にチケットの入った封筒を渡す。
「エミリアちゃんたちと同じ日にチケットを取っています。僕の歌劇団の公演をぜひ見に来てください」
「チケットをもらっていいのか!?」
「嬉しいですわ。このひとったら、チケットを買えなくて悔しがっていたのですよ」
「その話はしなくていい!」
サムエル様はヨウシア様の歌劇団の公演のチケットを確保しようとしていたようだ。ヨウシア様の歌劇団のチケットは人気なのですぐに売り切れてしまう。チケットを確保できなくて気落ちしていたところに差し出されたチケットに、サムエル様は驚きながらもそれを受け取っていた。
「サムエル様と一緒に見られるのね。嬉しいわ」
「エミリアちゃん、会場で会えるといいな」
「席は近い場所にしておきましたから」
喜んでサムエル様のチケットを覗き込むエミリア様に、サムエル様も微笑んでいる。ヨウシア様もちゃんと席は考えてくれているようだった。
「サムエル様に子ども劇団の演目を見て欲しかったわ」
「子ども劇団? そんなことをしたのか?」
「はー兄上がリーダーになってくれて、わたくしとふー姉上とらいちゃんとだーちゃんと、まー兄上とみー姉上で、辺境伯領でお芝居をしたの。大変だったけど、みんな褒めてくれて、すごく楽しかったわ」
「辺境伯領でのお芝居か。エミリアちゃんは色んなことをしているんだな」
「わたくし、大きくなったらよう先生の歌劇団で歌姫になるの」
将来の夢を語るエミリア様の青い瞳は輝いている。その輝きをサムエル様もウルスラ様も眩しそうに見つめていた。
「エミリアの母のスティーナ・ヘルレヴィです。わたくしの娘を可愛がってくださってありがとうございます」
「エミリアの父のカールロ・マイヤラです。キノコブタをくださったり、エミリアを大事に思ってくださって感謝しています」
エミリア様がサムエル様とウルスラ様から離れたときに、スティーナ様とカールロ様がサムエル様とウルスラ様に挨拶をする。ヘルレヴィ領の領主夫婦ということもあって、サムエル様もウルスラ様も姿勢を正していた。
「サムエル・ハールスです。孫のオスカリとエミリアちゃんが縁を結ぶことを許してくださってありがとうございます」
「ウルスラ・ムルトマーですわ。わたくしたちにとっても、曾孫のようなとても大事な存在です」
「ハールス様は……いえ、オスカリ様と呼んだ方がいいですね。オスカリ様はわたくしたちに言ってくださいました。親子の縁を切らせるつもりはない、親が増えるだけだと」
「私たちとエミリアとの縁もずっと繋がっていきます。どうか、私たちと子どもたちのことも家族だと思っていただければ嬉しいです」
「この年でこんなに家族が増えるだなんて……」
「本当にありがたいことです」
サムエル様はスティーナ様とカールロ様の言葉に涙ぐんでいるようだった。ウルスラ様も目を潤ませている。オスカリ先生と絶縁状態で、実の息子は異国に行ってしまって、ずっとサムエル様もウルスラ様も孤独だったのだろう。
同性しか愛せないオスカリ先生のことを認められなかったのも、曾孫の顔が見られないという現実を受け入れられなかったのかもしれない。それが今はエミリア様の存在によってサムエル様とウルスラ様と、オスカリ先生は和解して、ヘルレヴィ家の人々とも家族のような関係になりつつある。
「マウリ様があのとき、オスカリ先生に、大事なひとを紹介していないことを指摘したおかげですね」
「私の言葉でサムエル様とウルスラ様と、オスカリ先生が仲直りできたんなら、すごく嬉しいよ」
「まーはとても立派だったわ」
わたくしからもミルヴァ様からも褒められて、マウリ様は頬を赤くして照れていた。
歌劇団の公演は千秋楽の日のチケットをもらっていた。エミリア様が千秋楽の挨拶を聞きたいと言っていたのをヨウシア様が覚えていてくれたのだろう。
音楽堂につくと、入口でサムエル様とウルスラ様が待っていた。
「音楽堂がどんなところか見ておきたくてね」
「楽しみで早く来すぎたんでしょう。ずっと今日を待っていたのですよ」
「そ、そんなことは……」
くすくすと笑うウルスラ様にサムエル様は顔を赤くしている。
音楽堂の中にはいるとわたくしたちの席が前で、サムエル様とウルスラ様の席は一つ後ろだった。
「ふー姉上、席を替わって。わたくし、サムエル様の前に座りたいの」
「いいわよ、エミリア。それなら、一つ席をずらして、父上に端っこに行ってもらってもいいかしら?」
「構いませんよ、フローラ。私がカールロ様の隣りに移動すればいいんですね」
「お願い、父上」
サムエル様とウルスラ様の近くに座りたいエミリア様のために若干席をずれたりはしたものの、問題なくわたくしたちは観劇をすることができた。
街で起きる事件を解決する探偵の物語。わたくしはこの物語を見て、探偵という職業があるのだと初めて知った。
スキャンダルに巻き込まれそうになった貴族の令嬢を救い、貴族の屋敷から宝石を盗む怪盗を捕まえて、殺人事件が起きれば名推理で犯人を探し当てる。
探偵という新しい職業の物語にわたくしは夢中になっていた。
「今回の春公演にお越しいただき誠にありがとうございます。今年もサイロ・メリカント村の歌劇団は秋公演を予定しております。秋公演に向けて、歌劇団員一同、力を合わせて頑張っていきたいと思います。どうぞ、秋公演もよろしくお願いします」
ヨウシア様の挨拶が終わって、わたくしたちは手が痛くなるまで拍手をした。
「すごかった! わたしも、すいりする!」
「だーちゃん、どんな推理をするの?」
「えーっと、もうすぐ、チューリップのはながさくでしょう」
「うん、春だからね」
すっかり探偵の物語が気に入ってしまったダーヴィド様は、すぐにでも探偵ごっこを始めそうだった。
年が小さいのでチケットのいらなかったサラ様とティーア様は、泣いたり暴れたりしなかったが、公演の途中で寝てしまった。
「エミリアちゃん、また会おうね」
「はい、サムエル様、ウルスラ様。ヘルレヴィ家にも遊びに来てね」
「ヘルレヴィ家にもお邪魔してよろしいのですか?」
「歓迎しますよ」
別れ際に名残惜しそうなサムエル様とウルスラ様に、エミリア様はヘルレヴィ家に誘っている。歓迎するというカールロ様の言葉に、そのうちサムエル様とウルスラ様がヘルレヴィ家に訪ねて来るのもあり得るのではないかとわたくしは思っていた。
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