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18.安増一族の末路
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その日の仕事は午前中は遺跡の見学の付き添いだった。
有名舞台監督が舞台のために遺跡の知識を得たいというのだ。
新人訓練用の遺跡を案内しようとして集合場所に行けば、主演男優と共に月神がいた。舞台の内容はマイフェアレディのような感じで、月神は主演男優に礼儀作法を教えられる少女の役だったようだ。
遺跡を案内して回った後に、月神とお昼の休憩でお弁当を一緒に食べた。
お弁当の中身は同じもので、真珠は心が満たされるのを感じていた。
月神との幸せな時間を過ごした後で、役所に戻ると『遺跡管理課』の職員がざわめいていた。
「安増さんの関係者がこちらに来ています。安増さんにあのような処分を下したやつを出せと言っています」
「そうですか」
かかった。
内心でほくそ笑みながら真珠はスマートフォンの録音アプリを立ち上げて、いつでも録音ができるようにしておいた。
「あなたが深雪の上司ですか。ふざけたことをしてくださいましたね」
「ふざけたこととは何ですか? 安増さんは職務中に一般市民を誘ってホテルに連れ込み、職務放棄をしようとしたのですよ」
「その程度のことで謹慎処分と減給処分は重すぎます! どうせ、その相手も金が欲しくて騒いでいるだけでしょう」
「いいえ、その一般市民が私に知らせてくれてことなきを得ました。金目当てはなかったことは明確です」
「何を言っているんですか。そんなこと分からないでしょう?」
話の通じないスーツ姿の真珠くらいの年齢に見える相手は、吸血鬼なので相当年上だろう。安増一族のお偉方が出て来たに違いないのだ。
「深雪は金目当ての輩にたかられただけです!」
「そう言って通報者を貶めるのはやめなさい。安増さんが職務放棄をしていたことは確かなのです」
「何かの間違いです! あなたは誰に口をきいているのか分かっているのですか?」
「どういう意味ですか?」
「安増一族を敵に回そうと考えているんですね? 職務放棄していたかどうだったかなんてどうでもいいんですよ。金さえ払えば、誰でも黙るんですからね! あなたじゃ話にならないようだ。上司を出しなさい。上司にいくら払えばいいんですか?」
録音した。
完璧に真珠は安増一族のお偉方の言っていることを録音していた。
「これまでもそうやってお金で解決して、安増さんをのさばらせてきたのですね?」
「持たざる者が何を言っているのですか。深雪は高貴な安増の血を引く吸血鬼なのです。処分を即刻取り消しなさい」
「それは同意と受け取りますよ?」
「だから何なのですか! 金をもらって誰も満足していたはずです!」
核心を得た。
三つ揃いのスーツの胸ポケットに入れているスマートフォンの録音アプリは働き続けている。
「あなた方にはあんな素行不良の人物を役所に入れたことを、後悔していただきますよ」
「話ができるものを呼びなさい」
「必要ありません。お引き取り下さい。安増さんは、役所でこのままの処分で働いてもらいます」
「冗談じゃない! 深雪はこんなところに置いておけません!」
「あなたが口を出すことではないです!」
睨み付けると相手の目が赤く輝いている。吸血鬼の力で真珠を操ろうとしているのかもしれないが、真珠には月神の伴侶だという力があった。相手は安増一族のお偉方かもしれないが、真珠も安増一族の血を引く強い吸血鬼なのだ。その伴侶である真珠も月神の力に守られていた。
「私の威嚇が聞かないだと……」
「そうやって被害者を脅して来たんですね。あなた方のやり口は分かりました。ますます安増さんの処分を覆すことはできません」
「何を言っているんだ! 深雪はここを辞めさせる!」
安増一族のお偉方が真珠の胸倉を掴み上げた瞬間、走り込んで来た小さな影があった。華奢な体に眩しい白いシャツに首筋には真珠の噛み痕がある、月神だ。
お偉方と真珠の間に入ると、月神は一喝した。
「真珠に触れるな!」
いつもの高く甘い声ではなくて、天から降ってくるような神々しい怒声に、安増一族のお偉方がびくりと肩を震わせて手を引く。
真珠の前に立って、月神は赤く光る眼で安増一族のお偉方を見上げて睨み付けていた。
「お引き取り下さい! 二度とここには来ないでください!」
真珠が月神の伴侶ではなかったらものすごい威圧を受けていただろう。
「こいつ……吸血鬼……。しかも、かなり力の強い……」
「僕とやり合いたいんですか? 戦いには自信はありませんが、愛する真珠を守るためなら受けて立ちますよ!」
月神の目が赤く強く光っている。
同じ吸血鬼でありながらも、その威圧には耐えられなかったのか、安増一族のお偉方も舌打ちをして引き上げて行った。
「月神さん……助けに来てくれたのですか?」
「真珠が何か困っているような気がして……」
吸血鬼と伴侶の繋がりは濃いと言われているが、真珠の窮地を月神は察知して助けに来てくれたのだ。
あまりのことに真珠は感動してしまう。
「やっぱり、男前……」
「そ、そうですか? 真珠の方が格好よかったですよ?」
「いいえ、月神さんはものすごく格好よかったです。男前でした。助けてくださってありがとうございました」
華奢な月神の手を握ってお礼を言うと、頬を赤く染めて目を伏せている。
「真珠にそんなことを言われるなんて……真珠、格好いいし、素敵だし、キスしたい」
また月神の思考が駄々漏れになっている。可愛いので止めないのだが、流石に役所の中ではキスはできない。唇に指先を当ててから、その指先を月神の唇に当てると、月神が飛び上がる。
「ぴゃ!? 真珠!?」
「帰ったら覚悟してくださいね。月神さんが可愛すぎるのがいけないんですからね」
「は、はい」
顔を真っ赤にして頷く月神に、真珠は危険のないようにタクシーで帰るように言って、真珠は送り出した。
役所のデスクに戻ってから、真珠はスマートフォンのアプリを立ち上げた。
月神の音声が入っているところはカットして、編集した録音音声を、真珠は市民派の市会議員に送ったのだった。
数日後の市議会の生放送で、一人の議員が発言した。
『市役所勤務の職員が、服務規定違反の件について、録音データを入手しました』
――深雪は金目当ての輩にたかられただけです!
――そう言って通報者を貶めるのはやめなさい。安増さんが職務放棄をしていたことは確かなのです。
――何かの間違いです! あなたは誰に口をきいているのか分かっているのですか?
――どういう意味ですか?
――安増一族を敵に回そうと考えているんですね? 職務放棄していたかどうだったかなんてどうでもいいんですよ。金さえ払えば、誰でも黙るんですからね! あなたじゃ話にならないようだ。上司を出しなさい。上司にいくら払えばいいんですか?
――これまでもそうやってお金で解決して、安増さんをのさばらせてきたのですね?
――持たざる者が何を言っているのですか。深雪は高貴な安増の血を引く吸血鬼なのです。処分を即刻取り消しなさい。
――それは同意と受け取りますよ?
――だから何なのですか! 金をもらって誰も満足していたはずです!
安増一族は議員にもいるはずだ。注目を受けた安増一族の議員は青ざめて立ち上がっている。
『この音声は安増議員のものと思われますが、市役所職員を恫喝したのは真実ですか?』
『それは私とは関係ない!』
『関係ないかどうかは、これからの取り調べで明らかにしていきましょう』
安増一族の議員は、あの日役所にやってきたスーツ姿のお偉方ではないか。彼は議員だったのだという情報も真珠には入っていた。
生放送で流された市議会の様子を、真珠と月神は昼食を食べながら二人で見ていた。
「これで、安増一族は終わりましたね」
「真珠、すごいです。市議会にも知り合いがいるんですね」
「役所勤めも長いですからね」
二人で作った昼食を食べながら真珠と月神は市議会の中継を見たのだった。
その翌日から安増が真珠を見るたびに顔色を悪くして倒れそうになったり、逃げ出しそうになるのを、月見山が抱き締めて宥めているのを真珠は何度も見た。
安増の住所がいつの間にか月見山と同じになっているし、何かあったのだろうが、真珠はそれを追求しないことにした。
真面目で仕事のできる月見山が安増の収まるところになったのならば、それはそれでいいだろう。
正直、安増のしたことを思えば月見山と幸せになることは許しがたかったが、月見山が安増のストッパーとなってくれるのならば、真珠の苦労が減る。
真珠は安増一族の崩壊の音を聞いて内心ほくそ笑んでいた。
有名舞台監督が舞台のために遺跡の知識を得たいというのだ。
新人訓練用の遺跡を案内しようとして集合場所に行けば、主演男優と共に月神がいた。舞台の内容はマイフェアレディのような感じで、月神は主演男優に礼儀作法を教えられる少女の役だったようだ。
遺跡を案内して回った後に、月神とお昼の休憩でお弁当を一緒に食べた。
お弁当の中身は同じもので、真珠は心が満たされるのを感じていた。
月神との幸せな時間を過ごした後で、役所に戻ると『遺跡管理課』の職員がざわめいていた。
「安増さんの関係者がこちらに来ています。安増さんにあのような処分を下したやつを出せと言っています」
「そうですか」
かかった。
内心でほくそ笑みながら真珠はスマートフォンの録音アプリを立ち上げて、いつでも録音ができるようにしておいた。
「あなたが深雪の上司ですか。ふざけたことをしてくださいましたね」
「ふざけたこととは何ですか? 安増さんは職務中に一般市民を誘ってホテルに連れ込み、職務放棄をしようとしたのですよ」
「その程度のことで謹慎処分と減給処分は重すぎます! どうせ、その相手も金が欲しくて騒いでいるだけでしょう」
「いいえ、その一般市民が私に知らせてくれてことなきを得ました。金目当てはなかったことは明確です」
「何を言っているんですか。そんなこと分からないでしょう?」
話の通じないスーツ姿の真珠くらいの年齢に見える相手は、吸血鬼なので相当年上だろう。安増一族のお偉方が出て来たに違いないのだ。
「深雪は金目当ての輩にたかられただけです!」
「そう言って通報者を貶めるのはやめなさい。安増さんが職務放棄をしていたことは確かなのです」
「何かの間違いです! あなたは誰に口をきいているのか分かっているのですか?」
「どういう意味ですか?」
「安増一族を敵に回そうと考えているんですね? 職務放棄していたかどうだったかなんてどうでもいいんですよ。金さえ払えば、誰でも黙るんですからね! あなたじゃ話にならないようだ。上司を出しなさい。上司にいくら払えばいいんですか?」
録音した。
完璧に真珠は安増一族のお偉方の言っていることを録音していた。
「これまでもそうやってお金で解決して、安増さんをのさばらせてきたのですね?」
「持たざる者が何を言っているのですか。深雪は高貴な安増の血を引く吸血鬼なのです。処分を即刻取り消しなさい」
「それは同意と受け取りますよ?」
「だから何なのですか! 金をもらって誰も満足していたはずです!」
核心を得た。
三つ揃いのスーツの胸ポケットに入れているスマートフォンの録音アプリは働き続けている。
「あなた方にはあんな素行不良の人物を役所に入れたことを、後悔していただきますよ」
「話ができるものを呼びなさい」
「必要ありません。お引き取り下さい。安増さんは、役所でこのままの処分で働いてもらいます」
「冗談じゃない! 深雪はこんなところに置いておけません!」
「あなたが口を出すことではないです!」
睨み付けると相手の目が赤く輝いている。吸血鬼の力で真珠を操ろうとしているのかもしれないが、真珠には月神の伴侶だという力があった。相手は安増一族のお偉方かもしれないが、真珠も安増一族の血を引く強い吸血鬼なのだ。その伴侶である真珠も月神の力に守られていた。
「私の威嚇が聞かないだと……」
「そうやって被害者を脅して来たんですね。あなた方のやり口は分かりました。ますます安増さんの処分を覆すことはできません」
「何を言っているんだ! 深雪はここを辞めさせる!」
安増一族のお偉方が真珠の胸倉を掴み上げた瞬間、走り込んで来た小さな影があった。華奢な体に眩しい白いシャツに首筋には真珠の噛み痕がある、月神だ。
お偉方と真珠の間に入ると、月神は一喝した。
「真珠に触れるな!」
いつもの高く甘い声ではなくて、天から降ってくるような神々しい怒声に、安増一族のお偉方がびくりと肩を震わせて手を引く。
真珠の前に立って、月神は赤く光る眼で安増一族のお偉方を見上げて睨み付けていた。
「お引き取り下さい! 二度とここには来ないでください!」
真珠が月神の伴侶ではなかったらものすごい威圧を受けていただろう。
「こいつ……吸血鬼……。しかも、かなり力の強い……」
「僕とやり合いたいんですか? 戦いには自信はありませんが、愛する真珠を守るためなら受けて立ちますよ!」
月神の目が赤く強く光っている。
同じ吸血鬼でありながらも、その威圧には耐えられなかったのか、安増一族のお偉方も舌打ちをして引き上げて行った。
「月神さん……助けに来てくれたのですか?」
「真珠が何か困っているような気がして……」
吸血鬼と伴侶の繋がりは濃いと言われているが、真珠の窮地を月神は察知して助けに来てくれたのだ。
あまりのことに真珠は感動してしまう。
「やっぱり、男前……」
「そ、そうですか? 真珠の方が格好よかったですよ?」
「いいえ、月神さんはものすごく格好よかったです。男前でした。助けてくださってありがとうございました」
華奢な月神の手を握ってお礼を言うと、頬を赤く染めて目を伏せている。
「真珠にそんなことを言われるなんて……真珠、格好いいし、素敵だし、キスしたい」
また月神の思考が駄々漏れになっている。可愛いので止めないのだが、流石に役所の中ではキスはできない。唇に指先を当ててから、その指先を月神の唇に当てると、月神が飛び上がる。
「ぴゃ!? 真珠!?」
「帰ったら覚悟してくださいね。月神さんが可愛すぎるのがいけないんですからね」
「は、はい」
顔を真っ赤にして頷く月神に、真珠は危険のないようにタクシーで帰るように言って、真珠は送り出した。
役所のデスクに戻ってから、真珠はスマートフォンのアプリを立ち上げた。
月神の音声が入っているところはカットして、編集した録音音声を、真珠は市民派の市会議員に送ったのだった。
数日後の市議会の生放送で、一人の議員が発言した。
『市役所勤務の職員が、服務規定違反の件について、録音データを入手しました』
――深雪は金目当ての輩にたかられただけです!
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――どういう意味ですか?
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――だから何なのですか! 金をもらって誰も満足していたはずです!
安増一族は議員にもいるはずだ。注目を受けた安増一族の議員は青ざめて立ち上がっている。
『この音声は安増議員のものと思われますが、市役所職員を恫喝したのは真実ですか?』
『それは私とは関係ない!』
『関係ないかどうかは、これからの取り調べで明らかにしていきましょう』
安増一族の議員は、あの日役所にやってきたスーツ姿のお偉方ではないか。彼は議員だったのだという情報も真珠には入っていた。
生放送で流された市議会の様子を、真珠と月神は昼食を食べながら二人で見ていた。
「これで、安増一族は終わりましたね」
「真珠、すごいです。市議会にも知り合いがいるんですね」
「役所勤めも長いですからね」
二人で作った昼食を食べながら真珠と月神は市議会の中継を見たのだった。
その翌日から安増が真珠を見るたびに顔色を悪くして倒れそうになったり、逃げ出しそうになるのを、月見山が抱き締めて宥めているのを真珠は何度も見た。
安増の住所がいつの間にか月見山と同じになっているし、何かあったのだろうが、真珠はそれを追求しないことにした。
真面目で仕事のできる月見山が安増の収まるところになったのならば、それはそれでいいだろう。
正直、安増のしたことを思えば月見山と幸せになることは許しがたかったが、月見山が安増のストッパーとなってくれるのならば、真珠の苦労が減る。
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