つぐちゃんと真珠さん

秋月真鳥

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20.真珠の悩み

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 血管の浮いたグロテスクな中心を月神の小さな口が咥えて、必死に舐めている。
 その光景を思い出すだけで真珠は股間がいきり立つような感覚に襲われた。
 いけないと分かっていながら、シャワーを浴び終えた後の月神に自身を埋めて眠ろうとしたが、そのまま抱いてしまったし、朝も月神を責め立ててしまった。

 体の柔らかい月神はかなり無理な体勢をさせても真珠を受け入れられる。後ろから責め立てながら顔だけこちらを向かせてキスをする瞬間の陶酔感はどうしようもない。
 真珠は月神に溺れていた。

 三十六歳の健全な男性なのだから、これまでに女性とそういう関係になったことがないわけではない。誰と抱き合っても、興奮することすらなかった。性欲はあるからただ吐き出すだけで、キスをすることもなく、相手の体に必要以上に触れることもない行為に、相手が満足していたのかどうかも分からない。
 真珠自身、達したところで虚しいだけだった。

 それが月神になると全身を舐めたいし、キスをしたいし、男ならば絶対に口に入れたくない自分の白濁まで舐め取って唾液と混ぜて月神の中に塗り込みたいと思ってしまう。
 月神の全てを真珠のものにしたくてたまらない。
 天使のように大事に思っていた月神が、自分を愛してくれて、受け入れてくれる奇跡に真珠は完全に溺れていた。

 朝食を終えて、今日は一日家にいる月神のためにもお弁当を作って冷蔵庫に入れて、ソファの上でぐったりしている月神を抱き締めてキスをする。

「行ってきます、月神さん」
「行ってらっしゃい、真珠。お弁当は僕が作りたかった……」
「お昼には月神さんを思い出して食べます。同じお弁当ですよ」
「真珠の血肉は僕が作りたかった……」

 拗ねたように可愛いことを言う月神にもう一度キスをすると、ソファの上にそっと横たえる。朝食も腰が立たなくて、ソファで真珠が月神を膝の上に抱きかかえて全部食べさせてあげた。
 月神を甘やかすことができて、真珠は心から満たされていた。

 職場に行くと先日の市議会の生放送の件で真珠が処分を受けたのは広まっているのだろう、職員たちの視線が真珠に集まる。安増は謹慎期間なので、仕事に出て来ていない。

 気にせずにデスクについて仕事をしていると、月見山から声をかけられた。

「安増の件で、話したいことがあるんだが、後で時間をもらってもいいか?」
「今聞きましょう。何ですか?」
「実は、あいつ、後ろ盾がなくなって、借りていた高級マンションを追い出されてるんだよ」

 そういうことだったのか。
 安増の住所が月見山と同じ場所になっていたが、追い出された安増を月見山が受け入れたのだろう。

「俺の家は広いし、部屋も余ってるから、住ませてやってるんだが、今後は安増のことは俺がしっかりと監視する」
「月見山さんなら安心ですね」
「ゆくゆくは、け、結婚しようって話も出てて……」
「月見山さん、本気ですか?」

 あんな素行の悪い相手と結婚しようだなんて正気ではないと月見山を凝視してしまった真珠に、月見山は真剣に頷く。

「安増の運命の相手が俺だったんだ」
「なんてことでしょう……」

 華奢で可愛い雰囲気の男性が好きな安増の運命の相手が、筋骨隆々とした獣人の月見山だった。それはお気の毒にと言っていいのか、お幸せにと言っていいのか。
 できることならば、安増はこれまでの報いを受けて幸せになどならないで欲しかったが、運命の相手が月見山で、安増がこれから抱かれる運命を味わうのならば、それはそれで報いになっているのかもしれないと真珠は考え直す。

「安増のこと、しっかりと繋ぎ止めてくださいね」
「そのつもりだ」

 仕事も真面目で、人柄もいい月見山がどうして安増となんかと思ってしまわなくはないが、安増を止めることができるのならばそれはそれでいい。月見山に抱かれて安増は男として役に立たなくなってしまえばいいのだ。それが一番の報いになる。

 話を聞き終えて仕事に戻った真珠の首筋には、噛み破った傷は消えているが、月神の噛んだ痕が残っている。無意識に噛み痕を指で辿ってため息を吐く真珠に、周囲の職員がざわめいているような気がする。

「課長、色っぽい……」
「色気全開じゃないですか」
「やっぱり、旦那さんに抱かれているのね」

 なんだか騒がしい気もしていたが、真珠はそれを気にしないことにした。

 お弁当を食べるときには月神の笑顔が浮かんでくる。月神も今頃家でお弁当を食べているのだろうか。
 考えると真珠も自然と笑みが零れるのだった。

 それにしても、眠る前に月神が言ったことは真珠の胸に刺さっていた。
 吸血鬼と伴侶は寿命が長いので生殖能力が低く、子どもができるということはほとんどあり得ないのだが、それでも気にはなる。
 月神が子どもを妊娠したら、真珠よりも子どもを愛するようになるのではないだろうか。

 幼い頃から家族に愛された記憶がないだけに、真珠は自分が子どもを愛せるかどうか不安になっていた。

「やっぱり、避妊……」

 口から漏れている単語に真珠は気付いていない。

「課長、避妊してもらってないの!?」
「課長が産休で抜けられると『遺跡管理課』はどうなるんだ!?」
「課長の旦那さん、頼むよ!」

 ざわめきが大きくなっていることにも、真珠は深く思考に陥りすぎて気付いていなかった。

 月神とは最初から避妊具コンドームなしで交わっていた。今更避妊具を付けて、真珠は行為に満足できるのだろうか。
 それ以前に、月神はこれから忙しくなるから、行為自体ができなくなるかもしれない。
 月神を抱くときには完全に溺れて理性など飛んで行ってしまっているので、真珠は手加減ができる自信がなかった。月神の意識を飛ばせないとか、明日に響かせない抱き方をするなんてことができるはずがない。
 それならば、最初から我慢して月神に触れないようにするのが大事だった。

 月神が可愛すぎるから問題なのだ。
 抱きたくて、全て自分のものにしたくてたまらなくなる。

 避妊の問題と、月神を抱き潰してしなわないようにしなければいけないという問題。

 仕事帰りに、真珠はドラッグストアに行って避妊具のコーナーを見てみた。
 女性と致すときには必ずつけていたし、つけなくてもいいと言われても、絶対につけないという選択肢はなかった。妊娠が怖かったし、何よりも、皮膜越しにしか相手に触れ合いたくないという気持ちが強かったのだ。
 月神の場合には、逆で、薄い皮膜一枚でも隔てられていると我慢ができない。

 それでもサイズの合う避妊具を手に取って真珠はレジに向かった。

 避妊具の入れ物が筒状になっていて、その太さで中心の太さと合わせるタイプの避妊具だったので、レジに置くと店員が目を丸くしているのが分かる。
 真珠自身も客観的に見ると自分の中心がこれだけ太く大きく逞しいのかと考えてしまう。
 こんなものを月神は咥えようとして、小さな口に入らずに先端だけ咥えて、根元を扱いて真珠に御奉仕してくれた。その光景を思い出すだけで中心に血が集まる気がする。
 太くて逞しいものが月神の小さなお尻に入っているのかと思うと、それだけで興奮する。
 これから禁欲生活に入らなければいけないはずなのに、高まってくる自分を抑えるために気合を入れていると、レジ打ちをしている店員が真っ青な顔で「ひっ!」と悲鳴を上げたような気がした。
 それだけ恐ろしい顔をしていたのかもしれない。
 そんなことは気にせずに、買った避妊具を鞄の中に入れて、真珠はドラッグストアから出た。

「あ、あかね……やっぱり……」
「男同士だと濡れないから、どうしてもローションはいるだろ? それに、避妊具も必要だろ?」
「俺、無理だよ……」
「俺だって、そんなに乗り気ではないんだよ。でも、俺はお前の運命の相手なんだろう?」

 駐車場で車に乗り込もうとすると、月見山と安増が車から降りて来るのを見て、素早く真珠は座席に滑り込んだ。
 どうやら二人は二人で初夜を迎えるようだ。
 安増が月見山に調教されて、男として使い物にならなくなるように。
 真珠はそっと祈っていた。
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