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本編
30.滝川さんの新しい守護獣たち
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夕方には家に辿り着いていた私は、まずお風呂に入って、ハンモックで寛いだ。
日常的にハンモックの中にいる私にとっては、旅行中はソファもなく、ベッド以外で寛げる場所もなかったのが一番つらかった。
ハンモックで揺られながら、お腹の上にポルカドットスティングレイというエイの一種の大きなぬいぐるみを乗せて、そこにタブレット端末を立てかけて滝川さんにメッセージを送る。
『無事に帰り付きましたよー』
『お疲れさまでした。今回は本当にありがとうございました』
『こちらこそ、ありがとうございました。お陰ですごく楽しかったです』
鶏さんを開放するという目的があって行った旅行だったが、二日目で無事に鶏さんは解放されて、三日目は観光ができたし、最終日は観劇もできて最高の四日間だった。
『また晩ご飯の後に通話しましょうね。私は少し休みます』
『ゆっくり休んでください。私の守護獣については、そのときに』
滝川さんの守護獣が気になっていたが、どうしても私は疲れていて眠かった。
ハンモックにはまったままで、私はタブレット端末をサイドテーブルに置いて、タオルケットを被って目を閉じた。
次に目が覚めたのは、母が私を呼んでいる声が聞こえてのことだった。
「晩ご飯よー」
「はーい! すぐ行きます」
リビングに降りていくと、母の手料理がテーブルに並んでいる。帰って来たのだと実感しながら、私は両親にお土産を渡して、晩ご飯を食べた。
既にお風呂には入っていたので、後は滝川さんの準備が整うのを待つだけだ。
食後の食器の片付けを終えた私は、部屋で滝川さんからのメッセージを待っていた。
机の上にはタロットクロスを敷いて、タロットカードを混ぜて準備している。
滝川さんからメッセージが入ったのは三十分ほど後のことだった。
『通話、いいですか?』
『準備万端です』
タブレット端末もタブレット立てに立ててある。
通話ボタンを押すと、画面いっぱいに眩しいものが見えた。
「近い! デカい! 多い!」
『私の周り、どうなってます?』
「羽の生えた馬と、角の生えた馬と、鬣と爪の生えたトカゲが、ぎゅうぎゅう詰めで滝川さんにくっ付いてます!」
どれもデカいし、三匹という多さだし、画面に近いので、滝川さんの顔がほとんど見えなくなっている。
そのことを伝えると、滝川さんがぴしりと眉間に皺を寄せた。
『うちにいるのなら、それ相応の大きさになりなさい!』
言われて、三匹ともびくりと震えて、子猫くらいの大きさになる。
「えぇー!? 大きさが変えられるの!?」
『千早さんの猫さんは大きさが変わるって言っていたから、変えられるのかと思って』
「あぁ、そうでしたね」
私は可愛い子猫よ。
そんな顔で膝の上に乗っている猫さんは、巨大になれるのだった。あれは豹かライオンくらいの大きさがあるのではないだろうか。
『守護獣、劇場で拾って来たんですよね。ちょっと、見てもらえますか』
「見てみます」
タロットカードを私はよく混ぜて、三枚並べた。
スリーカードという簡単なスプレッドだ。
一枚目は、ソードの六だった。
意味は、途上。
ベーシックなタロットカードの絵柄では船に乗る人々が描かれていて、旅や移動を意味することもある。
『あの子は無事に旅立てたようね。よく頑張ったわ』と猫さんが私を労ってくれる。
「まずは、鶏さんが旅立ったことが出てますね。無事に行くべき場所に移動したみたいな感じかな」
『それはよかったです。よかったんですけど、今の状況はなんぞ?』
滝川さんにも今の状況は理解できていないようだ。
二枚目のカードは、カップの三。
意味は、共感だ。
ベーシックなタロットカードの絵柄では、三人のひとが祝杯をあげている場面が描かれている。
『三匹は、出会えて嬉しいって思ってるわね。ずっと守護する相手に出会えなかったみたい』と猫さんの声が聞こえた。
「三匹とも、滝川さんに出会えて嬉しいって思ってますね。守護する相手に出会えなかったみたいです」
『私の背中は避難所じゃないです! それに、こいつら、何歳なんですか!?』
滝川さんが気になることはそれのようだが、まずはカードを読み説いていく。
最後のカードは、ペンタクルの八だった。
意味は、修行。
『三匹とも修行しないと、何もできない状態みたいね。守護獣としては見かけは立派だけど、スキル不足だわ』と猫さんが言う。
「三匹ともスキル不足で修行しないと何もできない状態みたいです」
『なんか、嫌な予感がするぞ? 私の背後は保育園か?』
滝川さんの言葉に、カードを追加で捲ってみると、ソードの二が出た。
意味は、葛藤なのだが、それより私はその絵柄が気になった。
ソードの二の絵柄は、トカゲなのだ。
「ただのトカゲですって言ってる気がします」
『鬣生えてるのが?』
「よく分からないけど」
更にカードを捲ると、ペンタクルの七が出て来る。
意味は、成長。
見直しが必要だという意味もあったはずだ。
『その子たちは成長しないとどうしようもないわね。多分、とても幼いわ』と猫さんの決定打が出た。
「幼い、そうです」
『やっぱりかー!? 私の背中は、保育園か、学童保育なのかー!?』
「なんで子どもばかり滝川さんのところに来るんでしょうね」
『私、子ども好きじゃないんですけどね』
ため息をついている滝川さんに、私がタロットカードを捲ると、節制のカードが出た。
意味は、反応だ。
他者からの影響を積極的に取り入れるという意味もあった気がする。
『あなたたち二人は影響し合っているのよ。魂がとても近いというのかしら。魂が姉妹みたいな状態なの。だから、お互いに好きなものが相手の元に現れているのだと思うわ』という猫さんの言葉で、私は答えを得た気がした。
「私と滝川さんは魂の姉妹みたいなものなんだそうで、お互いに影響し合っているそうです」
『つまり、千早さんの好きなものが私のところに来て、私の好きなものが千早さんのところに行くってことですか?』
「そうだと思います。だから、猫さんが私のところに来てくれたんですよ」
猫さんが私のところに来たのは何故なのか。
その理由が私にはやっと分かった。
猫さんが私のところに来てくれた頃には滝川さんとは出会っていなかったけれど、いつかは魂の姉妹として出会う運命だったのだろう。それを見越して猫さんは私のところにやって来た。
「私、鳥が好きじゃないですか。子どもも大好きで。実は、競馬場に行って馬に一目ぼれしたこともあったり。爬虫類も結構好きなんですよね」
『鶏! 馬! トカゲ! しかも、子ども! 全部当てはまる!』
滝川さんがタブレット画面の向こうで叫んでいる。
『遠慮しないで、千早さんのところに行ってくれればいいのに。私、子どもの扱いなんて分からない』
「その子たち、劇場で拾って来たんですよね。もしかして、推しの関係者では!?」
『えぇ!? そうなんですか!?』
「すごい輝きを放っていますよ」
しかも、本人たちは『馬です』とか『トカゲです』とか言っているけれど、ペガサスとユニコーンとドラゴンにしか見えない。
劇団は夢を届ける場所。
幻獣がいてもおかしくはない。
『推しの関係者の子ども……ますます、無碍には扱えない!』
両手で顔を覆った滝川さんに私は苦笑する。
「滝川さん、やっぱり子ども好きなんじゃないですか?」
『違います』
「そんなこと言って」
『想像してください。この馬さんたちの前で馬刺しを食べたとします。その後に、この馬さんが「実は六歳でした」とか言い出したらどうします?』
「罪悪感で寝込みますね」
滝川さんの言葉に私は真顔になってしまった。
劇場で光り輝くペガサスらしきものと、ユニコーンらしきものと、ドラゴンらしきものを拾ってきてしまった滝川さん。
これから、この三匹をどうすればいいのか、まだ全く分からない。
『子どもなら、親御さんの元に帰してあげたいですけど』
「また、一からやり直しですか」
『千早さん、手を貸してください』
お願いされて、私は快く「はい」と返事をしていた。
滝川さんと私のちょっと不思議な日々は、まだまだ続くようだ。
日常的にハンモックの中にいる私にとっては、旅行中はソファもなく、ベッド以外で寛げる場所もなかったのが一番つらかった。
ハンモックで揺られながら、お腹の上にポルカドットスティングレイというエイの一種の大きなぬいぐるみを乗せて、そこにタブレット端末を立てかけて滝川さんにメッセージを送る。
『無事に帰り付きましたよー』
『お疲れさまでした。今回は本当にありがとうございました』
『こちらこそ、ありがとうございました。お陰ですごく楽しかったです』
鶏さんを開放するという目的があって行った旅行だったが、二日目で無事に鶏さんは解放されて、三日目は観光ができたし、最終日は観劇もできて最高の四日間だった。
『また晩ご飯の後に通話しましょうね。私は少し休みます』
『ゆっくり休んでください。私の守護獣については、そのときに』
滝川さんの守護獣が気になっていたが、どうしても私は疲れていて眠かった。
ハンモックにはまったままで、私はタブレット端末をサイドテーブルに置いて、タオルケットを被って目を閉じた。
次に目が覚めたのは、母が私を呼んでいる声が聞こえてのことだった。
「晩ご飯よー」
「はーい! すぐ行きます」
リビングに降りていくと、母の手料理がテーブルに並んでいる。帰って来たのだと実感しながら、私は両親にお土産を渡して、晩ご飯を食べた。
既にお風呂には入っていたので、後は滝川さんの準備が整うのを待つだけだ。
食後の食器の片付けを終えた私は、部屋で滝川さんからのメッセージを待っていた。
机の上にはタロットクロスを敷いて、タロットカードを混ぜて準備している。
滝川さんからメッセージが入ったのは三十分ほど後のことだった。
『通話、いいですか?』
『準備万端です』
タブレット端末もタブレット立てに立ててある。
通話ボタンを押すと、画面いっぱいに眩しいものが見えた。
「近い! デカい! 多い!」
『私の周り、どうなってます?』
「羽の生えた馬と、角の生えた馬と、鬣と爪の生えたトカゲが、ぎゅうぎゅう詰めで滝川さんにくっ付いてます!」
どれもデカいし、三匹という多さだし、画面に近いので、滝川さんの顔がほとんど見えなくなっている。
そのことを伝えると、滝川さんがぴしりと眉間に皺を寄せた。
『うちにいるのなら、それ相応の大きさになりなさい!』
言われて、三匹ともびくりと震えて、子猫くらいの大きさになる。
「えぇー!? 大きさが変えられるの!?」
『千早さんの猫さんは大きさが変わるって言っていたから、変えられるのかと思って』
「あぁ、そうでしたね」
私は可愛い子猫よ。
そんな顔で膝の上に乗っている猫さんは、巨大になれるのだった。あれは豹かライオンくらいの大きさがあるのではないだろうか。
『守護獣、劇場で拾って来たんですよね。ちょっと、見てもらえますか』
「見てみます」
タロットカードを私はよく混ぜて、三枚並べた。
スリーカードという簡単なスプレッドだ。
一枚目は、ソードの六だった。
意味は、途上。
ベーシックなタロットカードの絵柄では船に乗る人々が描かれていて、旅や移動を意味することもある。
『あの子は無事に旅立てたようね。よく頑張ったわ』と猫さんが私を労ってくれる。
「まずは、鶏さんが旅立ったことが出てますね。無事に行くべき場所に移動したみたいな感じかな」
『それはよかったです。よかったんですけど、今の状況はなんぞ?』
滝川さんにも今の状況は理解できていないようだ。
二枚目のカードは、カップの三。
意味は、共感だ。
ベーシックなタロットカードの絵柄では、三人のひとが祝杯をあげている場面が描かれている。
『三匹は、出会えて嬉しいって思ってるわね。ずっと守護する相手に出会えなかったみたい』と猫さんの声が聞こえた。
「三匹とも、滝川さんに出会えて嬉しいって思ってますね。守護する相手に出会えなかったみたいです」
『私の背中は避難所じゃないです! それに、こいつら、何歳なんですか!?』
滝川さんが気になることはそれのようだが、まずはカードを読み説いていく。
最後のカードは、ペンタクルの八だった。
意味は、修行。
『三匹とも修行しないと、何もできない状態みたいね。守護獣としては見かけは立派だけど、スキル不足だわ』と猫さんが言う。
「三匹ともスキル不足で修行しないと何もできない状態みたいです」
『なんか、嫌な予感がするぞ? 私の背後は保育園か?』
滝川さんの言葉に、カードを追加で捲ってみると、ソードの二が出た。
意味は、葛藤なのだが、それより私はその絵柄が気になった。
ソードの二の絵柄は、トカゲなのだ。
「ただのトカゲですって言ってる気がします」
『鬣生えてるのが?』
「よく分からないけど」
更にカードを捲ると、ペンタクルの七が出て来る。
意味は、成長。
見直しが必要だという意味もあったはずだ。
『その子たちは成長しないとどうしようもないわね。多分、とても幼いわ』と猫さんの決定打が出た。
「幼い、そうです」
『やっぱりかー!? 私の背中は、保育園か、学童保育なのかー!?』
「なんで子どもばかり滝川さんのところに来るんでしょうね」
『私、子ども好きじゃないんですけどね』
ため息をついている滝川さんに、私がタロットカードを捲ると、節制のカードが出た。
意味は、反応だ。
他者からの影響を積極的に取り入れるという意味もあった気がする。
『あなたたち二人は影響し合っているのよ。魂がとても近いというのかしら。魂が姉妹みたいな状態なの。だから、お互いに好きなものが相手の元に現れているのだと思うわ』という猫さんの言葉で、私は答えを得た気がした。
「私と滝川さんは魂の姉妹みたいなものなんだそうで、お互いに影響し合っているそうです」
『つまり、千早さんの好きなものが私のところに来て、私の好きなものが千早さんのところに行くってことですか?』
「そうだと思います。だから、猫さんが私のところに来てくれたんですよ」
猫さんが私のところに来たのは何故なのか。
その理由が私にはやっと分かった。
猫さんが私のところに来てくれた頃には滝川さんとは出会っていなかったけれど、いつかは魂の姉妹として出会う運命だったのだろう。それを見越して猫さんは私のところにやって来た。
「私、鳥が好きじゃないですか。子どもも大好きで。実は、競馬場に行って馬に一目ぼれしたこともあったり。爬虫類も結構好きなんですよね」
『鶏! 馬! トカゲ! しかも、子ども! 全部当てはまる!』
滝川さんがタブレット画面の向こうで叫んでいる。
『遠慮しないで、千早さんのところに行ってくれればいいのに。私、子どもの扱いなんて分からない』
「その子たち、劇場で拾って来たんですよね。もしかして、推しの関係者では!?」
『えぇ!? そうなんですか!?』
「すごい輝きを放っていますよ」
しかも、本人たちは『馬です』とか『トカゲです』とか言っているけれど、ペガサスとユニコーンとドラゴンにしか見えない。
劇団は夢を届ける場所。
幻獣がいてもおかしくはない。
『推しの関係者の子ども……ますます、無碍には扱えない!』
両手で顔を覆った滝川さんに私は苦笑する。
「滝川さん、やっぱり子ども好きなんじゃないですか?」
『違います』
「そんなこと言って」
『想像してください。この馬さんたちの前で馬刺しを食べたとします。その後に、この馬さんが「実は六歳でした」とか言い出したらどうします?』
「罪悪感で寝込みますね」
滝川さんの言葉に私は真顔になってしまった。
劇場で光り輝くペガサスらしきものと、ユニコーンらしきものと、ドラゴンらしきものを拾ってきてしまった滝川さん。
これから、この三匹をどうすればいいのか、まだ全く分からない。
『子どもなら、親御さんの元に帰してあげたいですけど』
「また、一からやり直しですか」
『千早さん、手を貸してください』
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