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魔女(男)とこねこ(虎)たん
57.レオシュの4歳のお誕生日
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レオシュのお誕生日は最初から国王陛下の介入なく、ブランカとエリシュカの家で祝うことに決まっていた。それが少し変わったのは、フベルトの言葉からだった。
「れーくんのおたんじょうび、ふーもおいわいしたいなぁ」
「れーのおたんじょうび、ふーくんもおいわいしてくれるの?」
「でも、れーくん、おばあちゃんのところにいくんだろ?」
聞かれてレオシュが返答に困ってアデーラのところに駆けて来た。獣人であるフベルトが魔女の森に入ることは容易ではない。魔女の森は閉じられた空間で、アデーラの家は店として客人を招くために魔女の森の入口に建てられていたのでかろうじて来客があったし、レオシュも保護することができたのだが、魔女の森の中に魔女以外が入ることは原則として許されていなかった。
レオシュとルカーシュはアデーラとダーシャの息子で、ブランカとエリシュカの孫だと認められているので入ることを許されていたが、魔女の森には魔女の一族以外が入ることができない。
アデーラはレオシュに聞いてみた。
「エリシュカ母さんとブランカ母さんの家には行けなくなるけど、この棟でお祝いをする?」
「えーばぁばとぶーばぁばは?」
「招待すれば来てくれると思うよ」
「しょうたいする! れー、おてまみかく!」
フベルトとお誕生日を祝うことを望むレオシュはエリシュカとブランカにお手紙を書いて招待状を作ることにした。
「にぃに、じをかいてくれる?」
「いいよ。なんてかく?」
「『えーばぁば、ぶーばぁば、れーのおたんじょうびにきてください』ってかいて」
「わかったよ」
レオシュがクレヨンでアデーラの顔を描いた横に、ルカーシュが鉛筆でレオシュの言う通りの言葉を書いていく。出来上がったお手紙は、ダーシャが魔法でエリシュカとブランカの元に飛ばしてくれた。返事はすぐに帰って来た。
「にぃに、なんてかいてあるの? よんで!」
「『おいしいたべものをいっぱいもっていきます』ってかいてあるよ」
「やったー! まっまー! えーばぁばとぶーばぁば、きてくれるってー!」
走ってアデーラに報告しに来たレオシュをアデーラはしっかりと抱き締めた。
次の問題は国王陛下を呼ぶかどうかだった。
「レオシュ、ちちうえもレオシュの4さいをいわいたいとおもうよ」
「れー、ちちーえ、きらい! いらない!」
説得に失敗したルカーシュは悲しい顔でダーシャに抱き付いている。
「れーくんのおじさん、ふー、すきだな」
「え? ふーくん、ちちーえ、すきなの!?」
「ふー、パパいないもん。れーくんのおじさん、ふーのオムツかえてくれたし、おしりふいてくれたし、えほんもよんでくれたよ」
フベルトの説得はレオシュの心を動かしたようだ。ダーシャに抱き付いているルカーシュのところに歩いて行って、ルカーシュの手をレオシュが握る。
「にぃに、ちちーえ、きてもいいよ」
「ほんとう、レオシュ!?」
「うん。にぃに、かなしませて、ごめんなさい」
謝るレオシュにルカーシュがしっかりとレオシュを抱き締めて喜んでいる。レオシュにも譲ることができるようになったのだとアデーラは成長を感じていた。
レオシュのお誕生日には、国王陛下も来て、ヘルミーナもヘドヴィカもイロナもフベルトも来て、エリシュカとブランカも来てくれた。
ブランカはポーチから大量の食材を取り出してキッチンに立つ。鶏肉とジャガイモと人参と玉ねぎを炒めて、水を入れて煮て、スパイスで味付けをしたカレーの香りに、レオシュもフベルトも鼻をひくひくさせている。
「おいしそうなにおいがする!」
「はやくたべたい!」
待ちきれない様子のレオシュとフベルトはさっさと手を洗って椅子に座っていた。
「お誕生日なんだから、これだけじゃ終わらないわよ」
ブランカはキッチンで唐揚げを揚げている。ご飯の上にたっぷりとカレールーをかけて唐揚げを添えて、上に半熟卵を割った、豪華なカレーが出てきて、レオシュとフベルトとルカーシュとイロナの目の色が変わった。スプーンを刺しこんでから、ルカーシュはそれだけではないことに気付く。
「チーズだ! チーズがはいってるよ!」
「おいしい! ぶーばぁば、おいひい!」
スプーンに付いたチーズが蕩けて長く伸びているのをルカーシュが見ている間に、レオシュはスプーンを持って掻き込んでいる。半熟卵とチーズと混ざったカレーに唐揚げまで添えてあって、あまりの豪華さにアデーラも驚いていた。ジューシーな熱々の唐揚げが、カレーのルーを纏ってとても美味しい。
「アップルパイも焼くから、お腹いっぱいにならないでよ?」
「アップルパイ、なぁに、まっま?」
「林檎で作ったパイのケーキかな」
「アップルパイにはアイスクリームを添えるわよ!」
張り切っているブランカがやりすぎではないのかとアデーラは思っていたが、せっかくのレオシュのお誕生日でレオシュが大喜びしているので止めることができない。
「これはなに? はじめてたべた」
「ふーもはじめて」
「私も初めてだわ。少し辛いけど、とっても美味しい」
イロナもフベルトもヘドヴィカも、初めてのカレーに驚いている。
「これはカレーっていう食べ物だよ。アデーラもダーシャも小さい頃からこれが大好きでね」
「カレー……私も初めて食べました」
「私もです」
エリシュカの説明にヘルミーナも国王陛下も食べながら感動している。アデーラもここまで豪華にされたカレーを食べるのは初めてだったのでしっかりと味わって食べた。
カレーの後には焼き立ての熱々のアップルパイにアイスクリームを添えたものが出て来る。レオシュもかなりお腹がいっぱいのはずなのに、林檎の歯ごたえを残したサクサクのアップルパイとアイスクリームを吸い込むように食べていた。ルカーシュもフベルトもイロナもヘドヴィカも、大人たちも、一欠けらも残さずに食べてしまった。
お腹がいっぱいになりすぎたレオシュはアデーラに抱っこされて動けなくなっているし、フベルトはヘルミーナに抱っこされて動けなくなっている。
ルカーシュもイロナも食べ過ぎて、子ども部屋の床に座り込んでいた。
「レオシュは絵本が大好きだって聞いてたからね、こういうものを持って来たよ」
豪華な食事がブランカからのお誕生日プレゼントだったが、エリシュカからもお誕生日プレゼントがあった。それは紙芝居だった。
紙芝居をまだ見たことのないルカーシュとレオシュとイロナとフベルトは興味津々で紙芝居を覗き込んでいる。
「最初に順番通りに並んでいるか確かめて、こっちの絵を子どもに見せて、裏に書いてある物語を大人が読むんだよ。やってみな」
「は、はい」
説明を受けて紙芝居を手渡されたのは国王陛下だった。国王陛下が読むことになってレオシュは若干顔を顰めているが、動けないのでアデーラに抱っこされたままでじっとしている。
紙芝居の順番を確かめて、国王陛下が読み始めた。
たどたどしい読み方だが、ルカーシュとイロナとフベルトは夢中になっている。アデーラの腕の中で、レオシュも紙芝居を水色の目でじっと見つめていた。
「色んな紙芝居を持って来てるから、たくさん読んでもらうんだよ」
「ありがとう、エリシュカおばあさま」
「えーばぁば、ありがとう」
紙芝居を国王陛下が読み終わると、ルカーシュとレオシュはエリシュカにお礼を言っていた。読んだのは自分なのにお礼を言われない国王陛下は不満そうだが、そろりとヘルミーナに近付いている。
「私の読み方がよくなかったのかもしれない」
「そんなことはありませんわ、国王陛下」
「ヘルミーナ殿、私に読み方を教えてくれるか?」
「音読の仕方ですね。私でよければ」
ヘルミーナに教えを請う国王陛下も、レオシュやルカーシュ、フベルトやイロナとの生活で変わって来たのかもしれない。
楽しい誕生日を過ごしたレオシュはお腹がいっぱいになりすぎて動けなくなっていたが、それでもブランカとエリシュカを抱っこされたまま見送って、手を振っていた。
「れーくんのおたんじょうび、ふーもおいわいしたいなぁ」
「れーのおたんじょうび、ふーくんもおいわいしてくれるの?」
「でも、れーくん、おばあちゃんのところにいくんだろ?」
聞かれてレオシュが返答に困ってアデーラのところに駆けて来た。獣人であるフベルトが魔女の森に入ることは容易ではない。魔女の森は閉じられた空間で、アデーラの家は店として客人を招くために魔女の森の入口に建てられていたのでかろうじて来客があったし、レオシュも保護することができたのだが、魔女の森の中に魔女以外が入ることは原則として許されていなかった。
レオシュとルカーシュはアデーラとダーシャの息子で、ブランカとエリシュカの孫だと認められているので入ることを許されていたが、魔女の森には魔女の一族以外が入ることができない。
アデーラはレオシュに聞いてみた。
「エリシュカ母さんとブランカ母さんの家には行けなくなるけど、この棟でお祝いをする?」
「えーばぁばとぶーばぁばは?」
「招待すれば来てくれると思うよ」
「しょうたいする! れー、おてまみかく!」
フベルトとお誕生日を祝うことを望むレオシュはエリシュカとブランカにお手紙を書いて招待状を作ることにした。
「にぃに、じをかいてくれる?」
「いいよ。なんてかく?」
「『えーばぁば、ぶーばぁば、れーのおたんじょうびにきてください』ってかいて」
「わかったよ」
レオシュがクレヨンでアデーラの顔を描いた横に、ルカーシュが鉛筆でレオシュの言う通りの言葉を書いていく。出来上がったお手紙は、ダーシャが魔法でエリシュカとブランカの元に飛ばしてくれた。返事はすぐに帰って来た。
「にぃに、なんてかいてあるの? よんで!」
「『おいしいたべものをいっぱいもっていきます』ってかいてあるよ」
「やったー! まっまー! えーばぁばとぶーばぁば、きてくれるってー!」
走ってアデーラに報告しに来たレオシュをアデーラはしっかりと抱き締めた。
次の問題は国王陛下を呼ぶかどうかだった。
「レオシュ、ちちうえもレオシュの4さいをいわいたいとおもうよ」
「れー、ちちーえ、きらい! いらない!」
説得に失敗したルカーシュは悲しい顔でダーシャに抱き付いている。
「れーくんのおじさん、ふー、すきだな」
「え? ふーくん、ちちーえ、すきなの!?」
「ふー、パパいないもん。れーくんのおじさん、ふーのオムツかえてくれたし、おしりふいてくれたし、えほんもよんでくれたよ」
フベルトの説得はレオシュの心を動かしたようだ。ダーシャに抱き付いているルカーシュのところに歩いて行って、ルカーシュの手をレオシュが握る。
「にぃに、ちちーえ、きてもいいよ」
「ほんとう、レオシュ!?」
「うん。にぃに、かなしませて、ごめんなさい」
謝るレオシュにルカーシュがしっかりとレオシュを抱き締めて喜んでいる。レオシュにも譲ることができるようになったのだとアデーラは成長を感じていた。
レオシュのお誕生日には、国王陛下も来て、ヘルミーナもヘドヴィカもイロナもフベルトも来て、エリシュカとブランカも来てくれた。
ブランカはポーチから大量の食材を取り出してキッチンに立つ。鶏肉とジャガイモと人参と玉ねぎを炒めて、水を入れて煮て、スパイスで味付けをしたカレーの香りに、レオシュもフベルトも鼻をひくひくさせている。
「おいしそうなにおいがする!」
「はやくたべたい!」
待ちきれない様子のレオシュとフベルトはさっさと手を洗って椅子に座っていた。
「お誕生日なんだから、これだけじゃ終わらないわよ」
ブランカはキッチンで唐揚げを揚げている。ご飯の上にたっぷりとカレールーをかけて唐揚げを添えて、上に半熟卵を割った、豪華なカレーが出てきて、レオシュとフベルトとルカーシュとイロナの目の色が変わった。スプーンを刺しこんでから、ルカーシュはそれだけではないことに気付く。
「チーズだ! チーズがはいってるよ!」
「おいしい! ぶーばぁば、おいひい!」
スプーンに付いたチーズが蕩けて長く伸びているのをルカーシュが見ている間に、レオシュはスプーンを持って掻き込んでいる。半熟卵とチーズと混ざったカレーに唐揚げまで添えてあって、あまりの豪華さにアデーラも驚いていた。ジューシーな熱々の唐揚げが、カレーのルーを纏ってとても美味しい。
「アップルパイも焼くから、お腹いっぱいにならないでよ?」
「アップルパイ、なぁに、まっま?」
「林檎で作ったパイのケーキかな」
「アップルパイにはアイスクリームを添えるわよ!」
張り切っているブランカがやりすぎではないのかとアデーラは思っていたが、せっかくのレオシュのお誕生日でレオシュが大喜びしているので止めることができない。
「これはなに? はじめてたべた」
「ふーもはじめて」
「私も初めてだわ。少し辛いけど、とっても美味しい」
イロナもフベルトもヘドヴィカも、初めてのカレーに驚いている。
「これはカレーっていう食べ物だよ。アデーラもダーシャも小さい頃からこれが大好きでね」
「カレー……私も初めて食べました」
「私もです」
エリシュカの説明にヘルミーナも国王陛下も食べながら感動している。アデーラもここまで豪華にされたカレーを食べるのは初めてだったのでしっかりと味わって食べた。
カレーの後には焼き立ての熱々のアップルパイにアイスクリームを添えたものが出て来る。レオシュもかなりお腹がいっぱいのはずなのに、林檎の歯ごたえを残したサクサクのアップルパイとアイスクリームを吸い込むように食べていた。ルカーシュもフベルトもイロナもヘドヴィカも、大人たちも、一欠けらも残さずに食べてしまった。
お腹がいっぱいになりすぎたレオシュはアデーラに抱っこされて動けなくなっているし、フベルトはヘルミーナに抱っこされて動けなくなっている。
ルカーシュもイロナも食べ過ぎて、子ども部屋の床に座り込んでいた。
「レオシュは絵本が大好きだって聞いてたからね、こういうものを持って来たよ」
豪華な食事がブランカからのお誕生日プレゼントだったが、エリシュカからもお誕生日プレゼントがあった。それは紙芝居だった。
紙芝居をまだ見たことのないルカーシュとレオシュとイロナとフベルトは興味津々で紙芝居を覗き込んでいる。
「最初に順番通りに並んでいるか確かめて、こっちの絵を子どもに見せて、裏に書いてある物語を大人が読むんだよ。やってみな」
「は、はい」
説明を受けて紙芝居を手渡されたのは国王陛下だった。国王陛下が読むことになってレオシュは若干顔を顰めているが、動けないのでアデーラに抱っこされたままでじっとしている。
紙芝居の順番を確かめて、国王陛下が読み始めた。
たどたどしい読み方だが、ルカーシュとイロナとフベルトは夢中になっている。アデーラの腕の中で、レオシュも紙芝居を水色の目でじっと見つめていた。
「色んな紙芝居を持って来てるから、たくさん読んでもらうんだよ」
「ありがとう、エリシュカおばあさま」
「えーばぁば、ありがとう」
紙芝居を国王陛下が読み終わると、ルカーシュとレオシュはエリシュカにお礼を言っていた。読んだのは自分なのにお礼を言われない国王陛下は不満そうだが、そろりとヘルミーナに近付いている。
「私の読み方がよくなかったのかもしれない」
「そんなことはありませんわ、国王陛下」
「ヘルミーナ殿、私に読み方を教えてくれるか?」
「音読の仕方ですね。私でよければ」
ヘルミーナに教えを請う国王陛下も、レオシュやルカーシュ、フベルトやイロナとの生活で変わって来たのかもしれない。
楽しい誕生日を過ごしたレオシュはお腹がいっぱいになりすぎて動けなくなっていたが、それでもブランカとエリシュカを抱っこされたまま見送って、手を振っていた。
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