魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

文字の大きさ
63 / 183
魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

61.ルカーシュとレオシュの祖父母

しおりを挟む
 ヘルミーナ一家が子爵夫妻と会う場所は、ルカーシュとレオシュの祖父母の家に決まった。ヘルミーナを子爵夫妻の養子にするのを決めたのはルカーシュとレオシュの祖父母なので、そうなってもおかしくはなかった。
 ヘルミーナ一家の方もアデーラとダーシャとルカーシュとレオシュと一緒に公爵家のお屋敷に行くことができるので、その点は安心しただろう。
 移転の魔法で向かった公爵家のお屋敷は、王都から遠く離れていた。オルシャーク公爵の治めるオルシャーク領まで出向くことにはなったが、アデーラとダーシャにとっては魔法があるので移動はそれほど苦痛でもなかった。

「れっしゃにのりたいな」
「今回は時間がないから、今度乗ろうね」
「れっしゃ、おおきくてかっこいいんだろうな」

 レオシュは列車に乗ることを期待していたが、列車に乗って王都からオルシャーク領に行くには半日はかかってしまう。それだけの時間、ヘルミーナとヘドヴィカとイロナとフベルト、アデーラとダーシャとルカーシュとレオシュが列車に乗っているのは、あまり現実的ではなかったので、可愛いレオシュの頼みだったが、アデーラは魔法で行くことを選んだ。

「れっしゃ、のりたかったな」
「また今度にしようね」
「こんどって、いつ?」
「いつかなぁ」

 具体的な日にちを言えないアデーラに、レオシュは若干不満そうな顔をしていたが、しばらくアデーラの膝の上に抱っこされて撫でられていた。

「まほうでいけるなんて、すごいな! ちがうりょうちに、いっしゅんでいけちゃうんだぜ!」

 目を煌めかせているフベルトの姿を見て、レオシュがぴょんとアデーラの膝から降りる。もう不満そうな顔はしていない。

「だーのまほうだよ」
「私はいつまで『だー』なのかしら」
「だーは、だーだよ?」

 文句を言うダーシャに、レオシュはすました顔で答えている。

「おじい様とおばあ様に会うんだよ。ダーシャお母さんのこと、いつまでも『だー』ってよんでたら、赤ちゃんと思われちゃうかもしれない」

 ルカーシュに言われてレオシュはびくりと肩を震わせる。「赤ちゃん」という単語がレオシュの心に響いたようだ。

「れー、あかちゃんじゃない!」
「それなら、ダーシャお母さんのことはなんて言うの?」
「だー……かあさん」
「おかあさん、だよ?」
「だーおかあさん! これでいい?」

 大きな声で言って主張するレオシュに、ルカーシュがにっこり笑ってレオシュを撫でている。ルカーシュもレオシュに自分の意志をしっかりと貫けるようになったことをアデーラは驚きながら見ていた。
 特別に刺繍した綺麗な服をレオシュに着せて、ルカーシュは自分でボタンも細々と上手に留めて着替えて、アデーラとダーシャも余所行き用の服を着る。普段からダーシャは豪華なドレスを着ているが、今日は黒地に紫のレースのマーメードラインのドレスを着ていた。アデーラも黒いシャツと黒いパンツを着る。
 魔女にとっては黒という色が正式な色なので、アデーラもダーシャも黒い服を着ていてもレオシュもルカーシュもイロナもフベルトも気にはしない。
 ヘルミーナもアデーラの作ったワンピースを着ているし、ヘドヴィカもアデーラの作ったシャツとスカートを着ているし、イロナもフベルトもアデーラの作った服を着ていた。
 準備ができるとダーシャが移転の魔法を紡ぐ。
 飛んだ先はオルシャーク領のお屋敷の庭に続く門の前だった。王都よりも温暖なオルシャーク領は雪が降る気配がなく、この季節でも庭に冬薔薇が咲いていた。

「ママ、おはな! おはながさいてる!」
「オルシャーク領は暖かいからね」
「ママにあげたい!」
「勝手に取っちゃダメだよ」

 アデーラが門の中に走り込もうとするレオシュを止める。手を繋いでゆっくりと庭を歩いて行くと、来訪者の気配に使用人が玄関を開けて待っていた。

「私は魔女のアデーラ。レオシュとルカーシュの親です」
「私が、魔女のダーシャ。アデーラと同じく、レオシュとルカーシュの母親よ」

 母親と主張する勇気はなかったが、親であることは確かなのではっきりとアデーラが告げると、代わりにダーシャが母親だと主張してくれる。男の魔女と女の魔女の二人にルカーシュとレオシュが養育されていることは、二人の祖父母も聞き及んでいるだろう。

「奥様と旦那様は応接室でお待ちです」
「ペツィナ子爵もお待ちです」

 ペツィナ子爵というのがヘルミーナを養子に迎えてくれた夫婦のようだった。応接室まで長い廊下を歩いて行く。王宮もかなり広かったが、この屋敷も相当広い。オルシャーク領を治める公爵として、オルシャーク夫妻は存分に力を持っているのだろう。
 応接室に行くと、黄色っぽい虎の獣人の男女と、山猫の獣人の男女が待っていた。虎の獣人はルカーシュとレオシュを見て息を飲んでいる。

「あなた、リリアナにそっくりですよ」
「こんなに可愛い子たちが……」

 感極まっている二人に、アデーラとダーシャが挨拶をする。

「アデーラ・カサロヴァーです。初めまして」
「ダーシャ・ソイコヴァーよ。レオシュとルカーシュの母親で、魔女だわ」

 名乗るアデーラとダーシャに、虎の獣人も名乗って来る。

「バジンカ・オルシャークです。ルカーシュ様とレオシュ様の母親、リリアナの父です」
「マルケータ・オルシャーコヴァーです。ルカーシュ様とレオシュ様の母親のリリアナの、母です」

 バジンカがルカーシュとレオシュの祖父で、マルケータがルカーシュとレオシュの祖母のようだった。アデーラにくっ付いて緊張して尻尾をたわしのように膨らませているレオシュと対照的に、ルカーシュが照れながら前に出る。

「ルカーシュ・ブラーハです。おじい様、おばあ様、初めまして」
「まだ7歳なのにこんなに立派にご挨拶ができるんですか?」
「ルカーシュ様は、なんて賢い」

 おずおずと手を伸ばすバジンカとマルケータに、ルカーシュは近寄っていく。

「様なんて、言わないでください。僕は、おじい様とおばあ様のまごです」
「いいえ、私たちはあなたの祖父母と言えるようなことは何もできていない」
「宰相の圧に負けて、口出しすることができず、領地も離れていたので、ルカーシュ様をお守りすることができませんでした」

 手を伸ばせば撫でられる距離にいるのに、バジンカとマルケータは伸ばしかけた手を降ろしてしまう。撫でてもらえなかったルカーシュは寂しそうに耳を垂れさせている。

「おじい様とおばあ様は、ヘルミーナ先生が僕のかていきょうしになれるように、じんりょくしてくださったと聞いています。ヘルミーナ先生にべんきょうを習って、僕、毎日とてもたのしいんです!」

 明るく言うルカーシュにバジンカとマルケータがペツィナ子爵夫妻の方を見た。ペツィナ子爵夫妻は大人しく控えている。

「ペツィナ子爵には跡継ぎがおりませんでした。私たちの遠縁で、オルシャークの家門全体の利益となると説得してヘルミーナ殿を養子に迎えてもらいました」
「国王陛下からお話が来たときには驚きましたが、私たちはリリアナが亡くなってから、ルカーシュのために何もしてやれなかった。これくらいしかしてやれることがなかったのです」

 心底悔いている様子のバジンカとマルケータに、ルカーシュは気付いたようだ。水色の目を煌めかせてマルケータの顔を見上げる。

「おばあ様も、自分のことを『私』と言うのですね」
「お恥ずかしい……。王都と違ってオルシャーク領は田舎でしょう? 自分のことを『わたくし』という風習が私にはなくて……」
「母上も、自分のことを『私』と言っていたと聞きました。僕が自分のことを『僕』と言うのは、母上が『どうして女性だけが自分のことを「わたくし」と言わなければいけないのか』とおこって、僕に自由をあたえたかったからなんです」

 水色の目を煌めかせながら言うルカーシュにマルケータが青い目を大きく見開く。

「リリアナがそんなことを言ったのですね……。あの子はオルシャーク領で本当に自由に奔放に育ちました。私たちも活き活きとしたリリアナが本当に大好きだった……」
「リリアナ……」

 亡き娘を思い出して涙するマルケータとバジンカに、ルカーシュがポケットからハンカチを取り出す。綺麗にアデーラの刺繍が施されたハンカチを差し出されて、バジンカとマルケータは驚いている。

「これは厄除けの蔦模様と、破魔の瞳」
「こんな小物にまで刺繍を施していただいて、ルカーシュ様は大事にされているのですね」

 ルカーシュにとっては幼い頃からずっと使っているものなので普通に差し出しただけだが、貴族であるバジンカとマルケータはその価値にすぐに気付いたようだ。

「この服も、ポーチも、ぜんぶアデーラお母さんが作ってくれました」

 全身を見せるようにゆっくり一回りして見せるルカーシュに、バジンカとマルケータの目がますます丸く見開かれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

処理中です...