魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

64.魔法植物大品評会

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 ヘルミーナが子爵家の養子に入るまでは、フベルトとイロナとヘドヴィカとヘルミーナは平民で、擦り切れた古着を着ており、着替えもなく、とても質素な暮らしをしていた。
 魔法植物大品評会に行くということが決まって、フベルトはレオシュに話していた。

「かあちゃんは、ずっとふーたちに、『がまんさせてごめんね』っていってたんだ」

 欲しいものがあっても買うことができず、その日の食事にも困るような生活をフベルトたちは送っていた。フベルトが欲しいものがあってヘルミーナに強請るたびに、ヘルミーナは「我慢させてごめんね、それは買えないのよ」とフベルトに言い聞かせていた。フベルトも家の事情を理解して、そのうちにヘルミーナに強請ることはなくなった。

「ふーもほしかった。おいしいごはんも、おいしいおやつも。でも、ふー、しってた。かあちゃんが、ふーたちにたべさせるためにごはんをがまんしたり、ふーたちのふくをかうためにじぶんのふくをかってなかったのを」

 幼いなりにフベルトは家の状況を知っていた。知っていたからこそ、ヘルミーナに無理なことは言わないようにずっと我慢していた。

「れーのママ、おいしいごはんつくってくれる。おやつもつくってくれる。オモチャも、えほんも、ぬいぐるみもいっぱいかってくれる」
「ふー、れーくんのことがうらやましかった。きれいなふくをきて、おいしいものをいっぱいたべて、まいにちにこにこしてて」
「ふーくん、れー、いやなこだった?」

 「ごめんなさい」と頭を下げるレオシュに、フベルトが手を振って否定する。

「そうじゃないよ。れーくんがわるいんじゃないもの」

 この場合、いけないのが誰か考えたらアデーラは国王陛下に行きついてしまう。父親を亡くした家庭が不足なく暮らして行けるようにするのも、国の役目なのではないだろうか。それを怠ったがために、フベルトは悲しい思いをして、ヘルミーナは食事も碌に食べられず、服も手に入れられない生活が続いていた。

「れーくんとしんゆうになってから、かあちゃんはるーくんのかていきょうしになって、うちはきぞくになった。かあちゃんから、ふー、いわれたんだ。『こんどから、ほしいものがあったら、わたしにきいてみてください』って」
「ほんとう!? ふーくん、かってもらえるの?」
「かってもらえるかどうかは、かあちゃんがかんがえるけど、がまんしないで、いつでもいっていいっていわれたんだよ!」
「ふーくん、カブ!」
「うん、ふー、カブがほしいって、いってみる!」

 国立図書館でフベルトは蕪のマンドラゴラに興味を示していた。蕪のマンドラゴラを買ってもらうためにフベルトはヘルミーナにおねだりすることを決めたようだった。
 魔法植物大品評会に連れて行くのはアデーラとダーシャなのだから、当然アデーラとダーシャが代金は支払うつもりだったが、ヘルミーナも自分で稼げるようになって自分の息子に欲しいものを買ってあげたいのかもしれない。そこまで考えが至らなかったことにアデーラは反省した。
 魔法植物大品評会の日、王都の郊外の会場にアデーラとレオシュとルカーシュと、ヘルミーナとヘドヴィカとイロナとフベルトは、ダーシャの移転の魔法で連れて行ってもらった。会場には裕福な貴族がたくさんいる。貴族たちは着ているものや装飾品で一目で分かった。貴族以外にも平民のお金持ちも来ているようだ。
 チケットを買って会場に入ると、会場は異様な熱気に包まれていた。
 壇上に蕪や人参や大根が上がってくると、声援が上がる。

「赤ちゃんも嫉妬するバブみ!」
「その白さ、雪より白いよ!」
「バレリーナも歯噛みするその曲線美!」
全身鎧プレートメイル着てるのかい!」

 何を言っているのかよく分からないが、会場は盛り上がりを見せて、レオシュとフベルトが水色と緑の目を爛々と輝かせて壇上を見詰めている。

「腹筋がチョコレートよりバッキバキだよ!」
「胸にドラゴン乗せてんのかい!」

 よく意味が分からないのは自分だけかとアデーラがダーシャを見ると、ダーシャも不思議そうな顔をしている。ヘルミーナもヘドヴィカも目を丸くしていた。
 壇上ではマンドラゴラたちが自分を格好よく見せるためにポージングをしている。そのポーズもなんだか筋肉を誇示するような格好で、アデーラは戸惑ってしまう。

「すげー! れーもする!」
「ふーも!」

 テンションが上がっているレオシュとフベルトはポージングを真似しているが、ルカーシュとイロナは困惑している。

「ダーシャお母さん、あれ、なに?」
「お母さん……これがふつうなの?」

 魔法植物大品評会においてはこれが普通なのかもしれないが、初めて来たアデーラとダーシャとヘルミーナとヘドヴィカとイロナとルカーシュにとっては信じられない光景だった。
 壇上には艶々と光るよく育ったムチムチの身体を披露するマンドラゴラ。その笑顔がどうしてもアデーラには受け入れられない。
 困惑している間に品評会は終わって、賞を取ったマンドラゴラが発表されて、そこから高値が付けられて競りになっていく。
 どのマンドラゴラを買えばいいのか分からないでいるアデーラの元に、声が聞こえて来た。

「マンドラゴラが逃げたー! 捕まえてくれー!」

 ぴょんぴょんと大量のひとの足の間を抜けていくマンドラゴラにレオシュとフベルトが飛びかかる。捕まえたマンドラゴラは大根と蕪だった。

「ママー! れーのダイコンさん!」
「かあちゃーん! ふーのカブさん!」
「え? レオシュ、その大根さんがいいの?」
「フベルト、その蕪に決めたのですか?」
「うん! れー、このダイコンさんがいい!」
「ふー、このカブさんほしいなー!」

 二人とも大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラを抱き締めて嬉しそうにしているので、アデーラとヘルミーナは追いかけて来ていた農家の出品者と交渉することにした。

「この大根を売ってくれませんか?」
「私には蕪を」
「いいんですか? この大根と蕪は、脱走癖があって、逃げ回るから品評会にも出せなかったんですよ」

 逃げ回っていたので品評会に出せずに、賞も貰っていないという大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラだが、二匹とも艶々としてとても元気そうだ。体もムチムチと育ちすぎていなくて、ちょうどいい感じがする。

「この大根を息子が気に入っているのです。飼い方を教えてくれますか?」
「うちの畑の大根と蕪は、近くに神殿があるからか、すごく育ちがいいんですよ。抜いた後は栄養剤は必要だけど、なければ、自分たちで土に埋まって栄養を蓄えます。そんなに手間もいりません」

 ただし、と農家の出品者が告げる。

「家に大人しくしてないので、庭で飼った方がいいかもしれません。庭からも脱走する可能性があります」
「庭からも……多分、それはないでしょうね」

 アデーラとダーシャの住む離れの棟とヘルミーナの住む離れの棟の庭は繋がっていて、その周囲には柵が張り巡らされて、魔法のかかった蔦が生えている。マンドラゴラたちがどれだけすばしっこいとしても、魔法のかかった蔦までは抜けられないだろう。
 代金を払ってアデーラとヘルミーナが、大事に大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラを抱いているレオシュとフベルトに声をかける。

「その子はレオシュのものになったよ」
「フベルト、あなたの蕪さんになりましたよ」
「やったー! ありがとう、ママ!」
「うれしい! ありがとう、かあちゃん!」

 大喜びで飛び跳ねているレオシュとフベルトの手から大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラは逃げ出さなかった。
 レオシュとフベルトに新しい家族ができた。
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