魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

116.アデーラとダーシャの秘密

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 戸惑っているアデーラの腹筋に包まれたお腹に手を翳してエリシュカが言う。

「あたしが手を翳すことによって、相手の身体をスキャンできることは知っているだろう?」

 エリシュカが魔法医としての地位を築いたのもその能力があってこそ。体内に隠された病もエリシュカは手を翳すことで見つけ出すことができた。

「ブランカが男の子を生んだとき、あたしはあんたの身体を隅から隅まで調べた。女性しか生まれない魔女の中に生まれた男の子だったから、病気を持っているかもしれないという危惧もあったからね」
「私の体には、何か異変があったのかな?」

 アデーラの問いかけにエリシュカは真剣な表情になる。

「結論として、病気は持っていなかった。ただ、あたしはあんたの体の中に、卵巣と子宮を見つけている」
「え!?」

 卵巣と子宮があるということは、アデーラがただの男性ではないことを示している。ブランカはずっとアデーラに子どもが産めると繰り返していたが、エリシュカのスキャンした結果を知っていたからだろう。
 卵巣と子宮があるのならば、確かにアデーラは子どもを産める可能性が高い。

「年頃になって、あんたの男性としての機能が働かないって話を聞いたときも、あたしは驚かなかった。アデーラ、あんたは男性だけど魔女、男性だけど女性なのさ」
「両性具有ってことになるのかな?」

 長身で身体は厳つく筋肉に覆われたアデーラが両性具有だなんてことを誰が考えるだろう。アデーラ自身一度もその可能性を覚えたことはなかった。

「魔女は数年に一度魔力が下がって体調を崩す。それは女性の機能と密接に繋がりがあって、子どもを産むための準備をしている期間なんだ」
「私も数年に一度体調を崩すことがある」
「アデーラにもその期間があると聞いて、あたしはアデーラが子どもを産めると確信している」
「私もよ」

 エリシュカとブランカに言われても実感のないアデーラと、話をずっと聞いていたダーシャ。ダーシャの方が落ち着きを取り戻している。

「私に魔女の森の外で出産をしろっていうことは、母さんたちは私がルカーシュに申し込まれているって知っていたの?」
「ルカーシュの目はずっとダーシャしか映していない。それには気付いていたよ」
「ダーシャもルカーシュを愛おしく思っているんじゃない?」
「それは息子としてよ。伴侶としては、考えられない」

 否定するダーシャにエリシュカとブランカが穏やかに問いかける。

「それはあんたの本当の気持ちなのかい?」
「本当はルカーシュの気持ちにずっと気付いていて、受け止めるか迷っていたのではないの?」

 エリシュカとブランカ、二人の母親に諭すように問いかけられてダーシャは俯いている。その唇が僅かに戦慄いたのをアデーラは見た。

「先に死んでしまうもの……」
「ダーシャ?」
「愛したとしても、ルカーシュは獣人で私は魔女。ルカーシュは私を置いて死んでいってしまうのよ?」

 耐えられないと呟くダーシャに、エリシュカとブランカが静かに言う。

「先に死んでしまうものは愛せないのかい?」
「寿命の長さが違うから、ダーシャはルカーシュに出会ったことを後悔しているの?」

 息子として愛したとしても、いつかはルカーシュの方が先に死んでしまう。それを分かっていてアデーラもダーシャもレオシュとルカーシュを養子にした。幼い兄弟が親から育児放棄されていて放っておけないというのはあったが、レオシュとルカーシュが愛しく可愛かったからだというのは間違いない。

「ルカーシュを愛しているわよ」
「それならば、なぜ?」
「ルカーシュが大人になって同じ熱量で私を求めたら、きっと私は頷いてしまう。それが私には怖いのよ」
「ルカーシュが先に死ぬから?」
「そうよ。いけない?」

 獣人と魔女の寿命はどうしても覆せない。ダーシャの気持ちがアデーラには痛いほど分かった。ダーシャがどうしてもルカーシュを愛することに踏み切れない躊躇いが伝わって来る。

「まだゆっくりでいいよ」
「ルカーシュと出会った時点で、ダーシャの未来は決まっていたようなものだからね」

 可愛く愛しい息子に求められれば応じずにはいられなくなる。エリシュカとブランカはそう言っているようだった。
 衝撃の事実を胸に離れの棟に戻ると、レオシュとルカーシュがアデーラとダーシャのところに駆け寄って来る。アデーラとダーシャが戻るまでは、ヘルミーナもイロナとフベルトを連れてダーシャとアデーラの棟にいてくれたようだ。

「お腹が空いたでしょう。ヘルミーナさん、フベルトくん、イロナちゃん、晩ご飯を食べていくといいよ」
「やったー! アデーラさんのご飯だ!」
「お母さん、食べて行ってもいいでしょう?」
「仕方がないですね。アデーラ様、ありがとうございます」

 キッチンに逃げ込むようにして入ったアデーラをレオシュが追いかけて来る。

「ママ、手伝うよ。何を作るの?」
「今日は天丼にしようかな」

 海老と、小柱と三つ葉と、茄子と、玉ねぎと、サツマイモと、アスパラガスに衣をまとわせてからりと揚げる。挙げてバットの上に乗せていたら、レオシュが問いかけた。

「ママも、ダーシャお母さんも、怖い顔してる。お兄ちゃんも心配してるよ。魔女の森で何があったの?」
「それは……あつっ!」

 動揺して油の中に具材を落としてしまって大きく油が跳ねた。腕の内側を火傷したアデーラにレオシュが素早くアデーラの手を掴んで、流水に腕をつけさせる。冷たい水に晒されて火傷はほとんど赤い色もないくらいになった。

「ママの気を散らせてごめんなさい……」
「いいんだよ。すぐに流水につけてくれてありがとう」
「ママ、大丈夫?」
「レオシュのおかげで大丈夫だよ」

 答えながらレオシュを見て、アデーラはその甘い高い声が少し低くなっている気がしていた。喉仏も少し出ている気がする。
 レオシュが大人の男性になる。意識すると落ち着かなくなるアデーラに、レオシュが油の火を止めた。

「着替えてきていいよ、ママ」
「あ、そうだね。着替えて来る」

 袖を降ろしたままで流水に腕をつけたのでアデーラの袖はびしょ濡れになっている。こういうときに袖を捲ると皮膚がはがれることがあるので、そのまま流水につけるということをレオシュはいつの間にか学んでいた。
 エリシュカが教えたのだろうか。頼りになるレオシュの姿にアデーラは胸がざわついてしまう。
 着替えて戻ってきて、アデーラは天丼の仕上げをして晩ご飯を食べた。
 順番にお風呂に入って、パジャマに着替えるときにアデーラは腕の内側を確認したが、薄っすらと赤くなっているだけで、それほど酷い火傷にはなっていなかった。
 安堵しながらベッドに入るとレオシュが遠慮なくアデーラの胸に頭を乗せて来る。

「レオシュ、そろそろ一人で寝ないの?」
「ママは私が嫌いになっちゃったの!?」
「そんなわけはないでしょう」

 答えるとレオシュがにっこりと笑う。

「ママは言ったよ。私が一緒に寝たくなくなるまでは、一緒に寝てもいいって」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ったの! ちょっとニュアンスは違ったかもしれないけど」

 レオシュに言われるとアデーラも言ったような気がしてくる。

「高等学校に行く頃には一人で寝られるのかなぁ」

 アデーラの呟きを聞いていないように、レオシュは目を閉じてアデーラの胸に顔を埋めて寝たふりをしている。可愛いホワイトタイガーの耳と黒と銀の混じる髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜてもレオシュは寝たふりを辞めない。
 レオシュの耳の匂いを嗅いで、吸い込んでからアデーラも目を閉じた。
 ダーシャは今頃どんな気持ちで眠りについているのだろう。ルカーシュはどんな気持ちでダーシャを見ていたのだろう。
 アデーラとダーシャの中で、レオシュとルカーシュには言えないことができてしまった。
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