魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

115.魔女の森の真実

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 王立高等学校が冬休みになって、ルカーシュとイロナも離れの棟に一日中いるようになった。ルカーシュとイロナももう14歳になっているので、自分たちで宿題をしたり、庭で雪の観察をしたりして過ごすので、アデーラは手を取られることなく、店舗で仕事ができた。
 以前の客層は貴族ばかりだったが、最近は客層が変わって来たとアデーラは感じていた。平民の客もぽつぽつと店舗に訪れるようになっている。

「孫の生後百日のお祝いをしたいのです。ベビードレスを作っていただけますか?」
「心を込めて作らせていただきます」

 孫のためにベビードレスを求める老夫婦や、子どものために守護の魔法のかかった刺繍の入った小物を買っていく夫婦も増えて来た。ダーシャのお茶のカウンターも賑わっていた。

「トカゲの獣人の姐さんが開いてるバーが有名なんだよ」
「あそこに行くと、親身に悩みを聞いてくれるんだ」

 トカゲの獣人と聞いてアデーラはかつてこの店舗を荒らしたトカゲの獣人の男性を思い出したが、同一人物かどうかはよく分からなかった。

「私のお茶も悪くないわよ?」
「魔女様のお茶は最高だよ」
「疲れが取れるし、元気になるし」

 ダーシャが微笑めば、お茶のカウンターに来ている男性たちが声を上げる。最近、ダーシャ目当てで来る客も増えてきていることにアデーラは気付いていた。

「ダーシャは、自分の子どもを持つ気はないのかな?」

 客足が途切れたときにふとアデーラが問いかけると、ダーシャが笑う。

「ルカーシュとレオシュが育つまでは自分の子どもは持たないわ。もう二人も息子がいるからね」
「ルカーシュも14歳で、レオシュも11歳だよ」
「まだまだ子どもじゃない」

 笑っているダーシャが何を考えているのか、アデーラには薄っすら分かるような気がしていた。
 ダーシャはこれまでに何度もルカーシュに真剣に結婚を申し込まれている。ルカーシュは5歳のときにダーシャに王宮から救われてから、ずっとダーシャのことを想っているのだ。

「ルカーシュのことはどうするつもり?」
「私は魔女よ。ルカーシュのお妃様にはなれないわ」

 魔女は男性と交わって魔女の森に帰って出産をする。子どもは相手の男性の特徴を持たずに、魔女の特徴だけを持って生まれる。
 魔女の森に帰らないと魔女は出産をできないのだと言われているが、本当のところはどうなのだろう。魔女の森で出産をするから相手の特徴のない、魔女の特徴だけを持った女の子が生まれるのではないだろうか。
 その辺りを知っている人物がいないか、アデーラが考えていると、ダーシャから問いかけられる。

「アデーラこそ、レオシュのこと、どうするつもり?」
「え? レオシュは……勘違いしてるだけだと思うよ」
「アデーラも私のこと言えないじゃない。レオシュのこと、真剣に考えてないのね」

 ダーシャに言われてアデーラは黙り込んでしまった。
 ある意味ダーシャはルカーシュのことを真剣に考えているからこそ、その求愛に答えられない。ルカーシュは獣人の国の皇子で、将来は国王か補佐になる。そのお妃が魔女ではまずいだろうし、生まれてくる子どもがルカーシュの特徴を一切持たない女の子だというのもよくはないことだろう。

「本当に魔女は相手の特徴を持たない女の子しか産めないのだろうか」

 アデーラの呟きにダーシャが表情を険しくする。

「エリシュカ母さんなら、何か知っているかもしれないわ」

 ダーシャの言葉に、アデーラはエリシュカの元を訪ねる決意をした。
 店舗を一時閉めて、子どもたちのことはヘルミーナにお願いして、アデーラとダーシャは魔法で魔女の森まで飛ぶ。
 魔女の森ではエリシュカとブランカの家にエリシュカはアデーラとダーシャを待っていてくれた。

「話があるんだね」
「ずっと気になっていたことなんだ。私はどうして男の姿で生まれて来たんだろう」
「魔女の森で出産をする魔女は、必ず女の子しか生まなくて、その女の子は相手の特徴を持たない。これは覆せないの?」

 アデーラとダーシャの言葉にエリシュカは重々しく口を開いた。

「多分、アデーラが男性として生まれて来たのは、魔女の森にも変革のときがきているってことなんだろうと、あたしとブランカは話してた」
「変革のとき? どういうこと?」
「エリシュカ母さんは何か知っているの?」

 アデーラとダーシャの問いかけに、エリシュカが頷く。ブランカがお茶を持ってきて、全員にティーカップを渡してエリシュカの隣りに座った。

「魔女の歴史を調べてみたんだが、これまでに男性が生まれたことはない。魔女の森で生まれている魔女はみんな、女性で、子どもの父親の特徴を持っていなかった。これがどういうことか分かるかい?」


 エリシュカの問いかけにアデーラもダーシャも答えることができない。答えは分かりそうなのに、上手く言葉にできない。

「魔女は男性と交わっても、相手の遺伝子を取り込んでいないのさ。生まれてくるのは全部自分のコピー。あたしとダーシャを見てみるといい。色彩も顔立ちも、なにもかも同じだろう?」

 魔女の出産にはそんな秘密が隠されていた。

「魔女がこの森に住み着いたときに、他の血を入れれば魔法の力が薄れていくことに気付いた。それで、魔女は自分たちがこの森で出産するときには、相手の血を受け入れず、自分のコピーを生み出すように魔法をかけたのさ」
「私たちは、それ以来ずっと続いているコピーなの?」
「そうなるね。でも、コピーには限界がある。魔法の力を守ることはできても、ずっとコピーを続けていくと、遺伝子が劣化していくことは否めない」
「遺伝子が劣化するとどうなるんだ?」
「正常な子どもが生まれなくなる。子ども自体が生まれなくなるかもしれない。それを知らせたのが、アデーラ、あんたの誕生だとあたしは思っている」

 エリシュカに名前を出されてアデーラは驚いていた。
 女性の中でたった一人の男性の魔女として、アデーラは心のどこかでいつも疎外感を覚えていた。エリシュカもブランカも他の姉妹とアデーラを分け隔てなく育ててくれていたが、アデーラは自分が男性であることを意識しない日はなかった。

「魔女の森にかけられている魔法は、既に呪いの域に入っているということよ。それを打ち破るためにアデーラは生まれたの」
「私の存在が呪いを打ち破る?」
「アデーラは男だけど魔女よ。アデーラと一緒に行動するダーシャも魔女の森を出ている。二人とも、魔女の森に戻らずに出産をしなさい。例え魔力は低くなっても、私たちはそうしないとこれ以上血を残していけない」

 魔法の力を維持するために魔女は自分たちの遺伝子をコピーして自分と全く同じ存在を産んできた。それが今変わろうとしている。
 魔女の森で子どもを産むのが魔女の掟とされているが、その掟を破るようにとブランカはアデーラとダーシャに言っていた。

「アデーラは魔女の森に警鐘を鳴らすべく男性として生まれて来た。だが、アデーラには魔女なのだから産む力があるとあたしは思っている」
「私もよ。アデーラ、新しい道を開くのは大変かもしれないけれど、魔女の一族に他の種族の血を混ぜるの。そうしないと、魔女の繁栄は終わってしまうわ」

 魔法の力が混血によって弱まるとしても、エリシュカとブランカは魔女の血を残すことが大事だと判断していた。

「私には産むことができる……」
「私も、魔女の森以外で出産すれば、相手の遺伝子を持った子どもを産めるかもしれない」

 アデーラが生まれたときから魔女の森の掟に疑問を持って、調べ続けていたエリシュカが今、アデーラとダーシャに重要な情報を伝えた。
 魔女が今後も血を残していくためには、魔女の森で出産をするという掟を破るものがいなくてはいけない。その先駆けになれとエリシュカとブランカは、アデーラとダーシャに言っている。
 にわかには受け入れがたい情報にアデーラもダーシャも戸惑っていた。
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