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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

159.レオシュ、17歳

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 ルカーシュとダーシャが結婚してから、アデーラとレオシュは離れの棟に増設された三階で暮らしている。レオシュはアデーラの部屋を訪ねることはあるが、アデーラは普通に母親としてレオシュの部屋を見て、汚れていたら片付けていた。
 ルカーシュは自分のことはなんでも自分でするのだが、レオシュは甘えたなところがあって、アデーラにしてもらいたがる。部屋を片付けるのもその一環だとアデーラは理解していた。
 普段通りレオシュの部屋を片付けていると、ベッドの下に何か押し込まれているのに気付いた。アデーラが埃を取るためにベッドの下からそれを取り出してみると、男性同士の睦み合いが描かれた本で驚いてアデーラはそれを落としてしまった。
 レオシュを受け入れる方法を考えたときに、アデーラはエリシュカに相談した。エリシュカはアデーラに男性同士での愛し合い方を医学的な側面からも真面目に書いた本をくれた。その本を読んでアデーラはレオシュといつか結ばれるのかと考えていた。
 恐る恐る拾った本には、際どい場所までもしっかりと書かれていて、男性同士が絡み合う絵が何枚もある。後ろから攻める男性の中心が、しっかりと雌猫のような格好をしている男性の双丘の狭間に入っているのが分かる。

「レオシュ、こんな本を……」

 読みながらもこくりと喉を鳴らしたアデーラに、レオシュが部屋に戻って来た。慌てて本を隠そうとするが、急ぎ過ぎて本を落としてしまう。
 ばさりと際どい絡み合いの絵が描かれたページが開かれて落ちた本が、アデーラとレオシュの真ん中にある。

「ママ、これ、見たの?」
「いや、えっと……こういうものを見たくなるというのも、レオシュの普通の成長だからね。私はレオシュが大人になっていることを確かめただけで……」
「興奮した?」
「へ?」

 こんな本を母親に見られたのだから恥ずかしがるかと思っていたレオシュの予想外の問いかけに、アデーラは思い切り間抜けな声を出してしまった。際どい絵を見てもアデーラは興奮していない。どちらかといえば、引いている。

「興奮とか、しないよ」
「そうなんだよ。私も、それ、ママとエッチなことがしたいって思ってたら、王立高等学校の友達がくれたんだけど、全然興奮しないの」
「ま、待って! 私とエッチなことがしたいとか、軽々しく口にしてるわけ!?」
「だって、したいんだもん。ママを抱きたい」

 真正面から言われてしまってアデーラは狼狽える。心臓がばくばくと鳴っていて、際どい絵を見たときよりもずっと自分がおかしくなっているのがアデーラには自覚があった。

「だ、抱きたいって、わ、私を?」
「うん! ママを抱きたいってずっと思っているよ」

 アデーラの男性としての機能は役に立たないし、アデーラには体内に子宮と卵巣があるのだから、抱かれるのはアデーラの方になるのだろうが、もうすぐ17歳になるというのに細くて小さくて可愛らしいレオシュが、ごつくてデカくて厳ついアデーラを抱くというのが想像ができない。
 抱き締めるのならば分かる。アデーラはレオシュのことが可愛くて、この年になっても抱きしめたくなるし、レオシュはそれを許してくれる。膝の上にも乗って来るし、アデーラがレオシュをコアラのように体に張り付けて抱っこすることもある。
 正常な17歳の青年ならばあり得ないのだろうが、レオシュとアデーラとの関係は、男性のアデーラが母親という時点で特殊なのだからこれでいいのだとアデーラは自分に言い聞かせていた。

「ママは、その……勃たないんでしょう?」
「うん、まぁ、そうだね」

 その点に関してはあまり触れられたくないので濁すような返答になるが、レオシュはそれを聞いて目を輝かせた。

「運命だよ」
「え? 何が?」
「ママは私に抱かれるためにそうだったんだよ!」

 自信満々で言われてしまうが、そういう理由でアデーラが不能だというのもあまり歓迎したくない事実だった。
 レオシュを魔女の森に導いたのは、魔女の森の老木の下に囚われていた魔女だった。魔女と獣人の国の王家との繋がりを取り戻したいと彼女が考えていたのならば、ルカーシュとダーシャの間に子どもが生まれたことでそれは達成されているはずだ。何より、彼女の呪いも魔法の効果ももうなくなっている。

「なくなっているはず……レオシュ、ポーチの中の宝石を見せて」
「いいよ」

 レオシュにポーチの裏地に縫い付けた宝石を見せてもらって、アデーラはまだそれが魔力を帯びていることに気付く。魔法をかけた魔女が死んでしまっても、魔力を込めた宝石は残るようだ。

「レオシュと私が運命かどうかは分からないけれど、そういう関係になるとしたら、レオシュが成人してからだよ」
「残り一年だね」
「それはそうだけど……」
「私はお兄ちゃんみたいに聞き分けがよくないから、18歳になったらすぐにママを抱くよ」

 覚悟してね?
 可愛い顔で言われてアデーラは心臓が跳ねるのが分かる。レオシュのことを意識しているのは間違いなかった。レオシュはアデーラをずっと好きと言ってくれていて、アデーラはそちらに心が傾きそうになっている。

「18歳になってから言いなさい」
「今から予約しておかないと、ママはモテるから心配なんだよ!」

 レオシュの言葉をアデーラは笑って済ませた。
 部屋に戻ってからアデーラはレオシュの言ったことが頭をぐるぐると駆け巡って落ち着かなかった。

「18歳になったら、レオシュは私を抱く……」

 レオシュのお誕生日は目前である。もう一年、それを待てばレオシュは本気でアデーラに迫ってくる。
 レオシュが本気でアデーラを口説いたらアデーラは断ることなどできない。アデーラにとってレオシュは生涯欠かすことのできない相手になっていた。
 レオシュと恋愛関係になってしまったら、アデーラの方が長く生きるので、レオシュを先に亡くして千切れるほどに泣くことになる。分かっているのだが、アデーラはレオシュを拒むことができそうになかった。
 レオシュのお誕生日の祭典で、レオシュは貴族たちに挨拶をした。

「この秋が終わり、冬が過ぎ、春が来れば、私にとって王立高等学校最後の年が来ます。王立高等学校で学べることを全て吸収し、国のために役立てるように勉強していきたいと思います」

 その暁には、とレオシュが続ける。

「王立高等学校を卒業すれば、私は母として私を育ててくれたアデーラと結婚します。アデーラは私にとって人生になくてはならない存在です。アデーラに育てられたおかげで、この17歳の日を迎えることができました。見守って下さった皆様にも感謝いたします」

 アデーラとの結婚をしっかりと宣言している辺りレオシュは抜け目がない。アデーラは壇上にも上らなかったし、発言もしなかったが、貴族たちの目がアデーラに向いていることは分かっていた。

「次期国王陛下の伴侶は男性になりますか」
「子どもはルカーシュ殿下から養子をもらうと言っていましたね」
「レオシュ殿下の決められたことに文句は言えません」

 文句を言いたそうな顔も幾つかあったが、それを押し退けてバジンカとマルケータがレオシュに駆け寄って来る。

「レオシュ様、お誕生日おめでとうございます」
「再来年の春にはレオシュ様も結婚なさるのですね」
「あんなに小さかったレオシュ様がこんなに立派になって」
「リリアナも天国で喜んでいると思います」

 バジンカもマルケータもアデーラのことは知っているので、レオシュがアデーラと結婚すると宣言したことに関して何の疑問も抱いていないようだった。それだけレオシュはアデーラにべったりだったことをバジンカもマルケータも知っているのだ。
 祭典の次の日は離れの棟でレオシュのお誕生日が祝われた。
 バジンカもマルケータも来て、エリシュカもブランカも来ているお誕生日会で、レオシュはエリシュカにこっそりと聞いていた。

「ママを抱くにはどうすればいいのかな?」

 心得ているとばかりにエリシュカがアデーラに渡したのと同じ本と、何かが入った小瓶を渡したのは見ていたが、アデーラはそれを見なかったことにした。
 レオシュが成人するまで残り一年。
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