1 / 30
リオネル(攻め)視点
1.契約結婚
しおりを挟む
リオネルは売られた子どもだった。
この国では十二歳で第二性の検査を行うのだが、アルファと診断されたリオネルは、人身売買組織に売られた。アルファを後継者などの使える駒として買う貴族もいるが、それ以外で、強靭なアルファを闇の剣闘士として戦わせて賭ける輩もいる。
リオネルは剣闘士として売られてしまった。
必死に剣を取り、自分の身を守るために迫りくる同じ年くらいの少年を倒したとき、やり遂げた気持ちよりも、恐怖しかなかった。あの子は傷の手当てをされるのだろうか。あの子はこれから生きていけるのだろうか。
ひとの心配ができているうちはよかった。
まだアルファとはいえ少年だったリオネルの美しさに、客が相手をさせろと言い出すのは時間の問題で、剣闘士の仕事がないときには、客の相手をさせられて、殴ってもいい、蹴ってもいい、乱暴にしてもいい相手としてリオネルは弄ばれた。
地獄のような日々が終わりを告げたのは、剣闘士として働き始めて一年が過ぎようとしていたころだった。アルファとしてもまだ未成熟な体付きのリオネルは、その日は傷を負っていて剣闘士として戦いに出られない代わりに客の相手をするように言われていた。
貴人は顔を隠していることが多く、その日の相手をする貴人も顔を隠していた。
隠していたが隠しきれないオーラのようなものがあって、リオネルはそれに圧倒されていた。
貴人とその連れの数人だけになると、貴人はリオネルに手を差し伸べて、手袋越しにリオネルの頬を撫でた。その頬は数日前に客に殴られて腫れていたままだった。
「こんな幼い子になんてことを……痛くはないか?」
「痛くはありません」
痛いなどと言えばもっと相手を煽ってしまうことがあるので、淡々と答えると、貴人はリオネルの上半身を脱がせてきた。これからされることを思うとぞっとするが、リオネルが耐えていると、貴人はリオネルの怪我を確かめているようだ。
「こんなにも痩せこけて……今すぐこの闘技場は摘発する。待機させている騎士たちを突入させろ」
「は! 閣下!」
何が起きているか分からないが、丁寧に服を着せ直されたリオネルは、貴人の肩に担がれて闇の闘技場から保護された。その後、闇の闘技場は摘発されて、奴隷たちは全員解放されて、奴隷商も捕まったと聞いた。
リオネルを見たこともないような豪華な屋敷に連れ帰ってから、その貴人は顔を見せた。
黒に近いような濃い赤の目に、同じく黒に近いような濃い赤の髪。
見たことのない色彩に驚いていると、貴人は名乗ってくれた。
「おれは、カリス・ヴェルナート。お前の名前を聞いてもいいか?」
「リオネル・ラウゼンと申します」
よく分からないがこの貴人はとても若いのにものすごい地位を持っているのではないかと、平伏しようとするリオネルの両脇に手を挿し入れて、カリスはリオネルを立たせた。
そのままソファに座らせられそうになってリオネルは慌てる。
「わたしは汚れています」
「構わない。気になるのなら、抱っこしてやろう」
「抱っこ!? ひゃっ!?」
膝に抱き上げられて、リオネルは動けなくなってしまう。鍛え上げられた太ももの上に体を乗せているのは緊張するが、カリスはとてもいい匂いがした。香水でもつけているのだろう。
とんでもないことをされているのではないかと思ったが、カリスは平然としている。
「選択肢をいくつか与えよう。騎士学校に入って騎士になるか、貴族の養子になるか、元いたところに帰るか……」
「元の場所には戻さないでください! お願いします!」
「それでは、騎士学校に入るか?」
「騎士学校に入れば、あなた様にご恩が返せますか?」
その問いかけに、カリスが苦笑する。
「恩など感じなくていい。今後自分がどうすればうまく生きていけるかを考えるといい」
「あなた様は騎士団に所属しておられるのでしょう?」
「さすがに頭はよく回るようだな。その通りだ。この年だが、兄上の命により騎士団を率いている」
見たところカリスは背丈も高く筋骨隆々としているが、顔立ちは優雅で美しく、年は二十歳を超えるか超えないかくらいに見える。そんな若さで騎士団を率いているのだ、ただ者ではないのはリオネルも感じ取っていた。
未成熟だがそれなりに育っている体を膝の上に抱き上げられているが、客たちのようないやらしい感じは全くしない。ただリオネルを子どもだと思って労ってくれている気配だけを感じる。
この方のおそばにいたい。
リオネルは強く思った。
この方の力になれる男になりたい。
体付きや身長から、カリスもアルファだろう。堂々とした姿には憧れしかない。
「騎士学校に行きます。ですが、わたしには帰る場所かありません」
「そうだな。騎士学校には宿舎はあるが、長期休みには帰る場所も必要か。そうだ、リオネル、うちに帰ってくるか?」
信じられないことを提案された気がするが、リオネルはそれに乗りたくてたまらなかった。カリスと共に過ごす日が少しでも長ければいい。
「そうさせてください」
「おれは歳の離れた兄上以外に親しいものがいなくてな。リオネル、お前をうちの子として迎えよう」
「子……それは年が近すぎるのではないですか?」
「リオネルは幾つだ?」
「十三です」
「おれは二十一……それほど近くもないと思うのだが」
「近いです!」
ここでこの方の養子になってはいけない。
それはリオネルの中に強くあった。
この方と肩を並べて戦うには、養子になってしまっては難しい。
養子は丁重に断ったが、カリスは不機嫌になることもなく、リオネルが騎士学校の長期休暇にはこの屋敷に戻ってきていいと約束してもらった。
風呂に入れられて、きれいなパジャマを着せられて、リオネルは知る。
カリス・ヴェルナートがこの国の大公であり、国王陛下の唯一の弟であることを。
王弟、カリスは、まだ子のいない国王陛下に次ぐ王位継承権の持ち主だった。
そんな相手の膝の上に乗せられて言葉を交わしてしまった。
しかも、騎士学校の休暇にはカリスの屋敷に帰ってくる許可まで得た。
「おれが後見人となる。リオネルを頼む」
騎士学校の入学の折りには、カリスがリオネルを送っていったから、騎士学校は大騒ぎになっていた。
カリスの名を汚さぬように、リオネルは騎士学校で飛び級をして十六歳で卒業した。
それからカリスの騎士団に配属されて、カリスの身を守っているうちに、隣国との戦争が始まり、出陣したカリスと共に戦うこと六年、二十二歳になったリオネルは、カリスと共に隣国の最後の砦を落とし、隣国を降伏させた英雄として王都に戻ってきた。
リオネルは若いながら騎士団の副団長になっており、カリスは変わらず騎士団長で、華々しく凱旋を遂げた。
それからが、大変だったのだが。
「リオネル、また茶会の招待状が来ているぞ?」
「お手を煩わせて申し訳ありません、閣下!」
カリスは元から社交界で非常に人気があるのだが、ほとんどの誘いを簡単に断ってしまえる。カリスは大公閣下で、騎士団の団長で、王弟である。思い通りにならないことがない。
それでも、カリスは誘いを断るときには丁寧に断りの手紙を出しているし、相手に失礼のないようにしている。
リオネルもカリスを見習って丁寧な断りの手紙を書くし、相手に失礼のないようにしているつもりなのだが、リオネルとカリスは立場が違いすぎた。
所詮、リオネルは奴隷上がりでカリスの地位があってこそ、副団長までのし上がれたのだが、平民以下の出身だということは知られている。
国王陛下がカリスとリオネルをこの度の戦争の英雄とし、勲章を授けるといっているのだが、それでもリオネルの卑しい出自が変わるわけではない。
奴隷上がりのくせに、という視線は今も消えずに付きまとう。
リオネルに大量に届く見合いの吊り書きを見ずにお断りしているのだが、それがリオネルの評判を落とすことにも繋がっている。
リオネルに振られたオメガや令嬢が、リオネルを陥れようとしてくるのだ。
挙句の果てには、和平のために隣国が差し出してくる王女とリオネルを結婚させようなんて話まで持ち上がってきている。
独身のカリスが最初は狙われていたのだが、カリスは未だ子のいない国王陛下にとっては大事な弟であるし、その意志を無視して無理やりに結婚させるなどということはできないと世論も味方に付いている。
それに対して、リオネルは奴隷上がりの平民以下の身分の出身で、隣国のどんな我が儘な王女が来ても問題はないだろうと思われているのだ。
大量の吊り書きに隣国の王女との縁談、そして、茶会への誘い。
遠慮なく騎士団の執務室に届けられるそれを、同室で騎士団長のカリスが気付いていないはずはない。
ため息をつくたびにカリスに心配をかけているのは理解している。
誰かと結婚した方が、周囲を納得させられるのだろうとはリオネルも思っていた。
だが、リオネルにはたった一人、命を懸けても構わない相手がいる。
その相手がいるのに、他の相手に愛を囁くことなんてできない。
何より、奴隷時代に客の相手をさせられていたせいで、リオネルは他人との接触を好まないようになっていた。
そのことはカリスも知っているはずだ。
今日何度目かのため息をつきながら、カリスに申し訳なく思いつつ断りの手紙を書いていると、カリスがリオネルに声をかけてきた。
「リオネル、おれと結婚するか?」
「閣下!?」
意中の相手から申し出た求婚の言葉に、リオネルは飛び上がるほど驚いた。
カリスは続ける。
「リオネルは好きでもない相手からの求婚に困り果てている。おれは、生涯結婚するつもりはないが、兄上はおれに結婚して子どもを持てとうるさい。お互いに結婚して数年経って離縁すれば、周囲も落ち着くんじゃないか?」
「契約結婚ということですか、閣下?」
「そうなるかな」
結婚したいと思ったことがなかったわけではない。
カリスのことが好きすぎて、感情が暴走しそうになったことは多々ある。
必死に我慢してきたが、カリスの方から結婚を申し込まれるとは思わなかった。
カリスはアルファで、リオネルもアルファ。
周囲が納得しないかもしれないが、カリスの地位をもってすれば、うるさい連中など黙らせられるのかもしれない。
「わたしで、よろしいのですか?」
「リオネルこそ、おれでいいのか?」
「わたしは、閣下のことをお慕いしています」
「上官からだと断りにくいものか」
「いえ、そうではなくて、閣下を間違いなくお慕いしております」
「まぁいい。リオネルがいいのならば、手続きを進めよう」
リオネル、二十二歳。
八つ年上のこの世で一番愛しい相手と契約結婚することになった。
この国では十二歳で第二性の検査を行うのだが、アルファと診断されたリオネルは、人身売買組織に売られた。アルファを後継者などの使える駒として買う貴族もいるが、それ以外で、強靭なアルファを闇の剣闘士として戦わせて賭ける輩もいる。
リオネルは剣闘士として売られてしまった。
必死に剣を取り、自分の身を守るために迫りくる同じ年くらいの少年を倒したとき、やり遂げた気持ちよりも、恐怖しかなかった。あの子は傷の手当てをされるのだろうか。あの子はこれから生きていけるのだろうか。
ひとの心配ができているうちはよかった。
まだアルファとはいえ少年だったリオネルの美しさに、客が相手をさせろと言い出すのは時間の問題で、剣闘士の仕事がないときには、客の相手をさせられて、殴ってもいい、蹴ってもいい、乱暴にしてもいい相手としてリオネルは弄ばれた。
地獄のような日々が終わりを告げたのは、剣闘士として働き始めて一年が過ぎようとしていたころだった。アルファとしてもまだ未成熟な体付きのリオネルは、その日は傷を負っていて剣闘士として戦いに出られない代わりに客の相手をするように言われていた。
貴人は顔を隠していることが多く、その日の相手をする貴人も顔を隠していた。
隠していたが隠しきれないオーラのようなものがあって、リオネルはそれに圧倒されていた。
貴人とその連れの数人だけになると、貴人はリオネルに手を差し伸べて、手袋越しにリオネルの頬を撫でた。その頬は数日前に客に殴られて腫れていたままだった。
「こんな幼い子になんてことを……痛くはないか?」
「痛くはありません」
痛いなどと言えばもっと相手を煽ってしまうことがあるので、淡々と答えると、貴人はリオネルの上半身を脱がせてきた。これからされることを思うとぞっとするが、リオネルが耐えていると、貴人はリオネルの怪我を確かめているようだ。
「こんなにも痩せこけて……今すぐこの闘技場は摘発する。待機させている騎士たちを突入させろ」
「は! 閣下!」
何が起きているか分からないが、丁寧に服を着せ直されたリオネルは、貴人の肩に担がれて闇の闘技場から保護された。その後、闇の闘技場は摘発されて、奴隷たちは全員解放されて、奴隷商も捕まったと聞いた。
リオネルを見たこともないような豪華な屋敷に連れ帰ってから、その貴人は顔を見せた。
黒に近いような濃い赤の目に、同じく黒に近いような濃い赤の髪。
見たことのない色彩に驚いていると、貴人は名乗ってくれた。
「おれは、カリス・ヴェルナート。お前の名前を聞いてもいいか?」
「リオネル・ラウゼンと申します」
よく分からないがこの貴人はとても若いのにものすごい地位を持っているのではないかと、平伏しようとするリオネルの両脇に手を挿し入れて、カリスはリオネルを立たせた。
そのままソファに座らせられそうになってリオネルは慌てる。
「わたしは汚れています」
「構わない。気になるのなら、抱っこしてやろう」
「抱っこ!? ひゃっ!?」
膝に抱き上げられて、リオネルは動けなくなってしまう。鍛え上げられた太ももの上に体を乗せているのは緊張するが、カリスはとてもいい匂いがした。香水でもつけているのだろう。
とんでもないことをされているのではないかと思ったが、カリスは平然としている。
「選択肢をいくつか与えよう。騎士学校に入って騎士になるか、貴族の養子になるか、元いたところに帰るか……」
「元の場所には戻さないでください! お願いします!」
「それでは、騎士学校に入るか?」
「騎士学校に入れば、あなた様にご恩が返せますか?」
その問いかけに、カリスが苦笑する。
「恩など感じなくていい。今後自分がどうすればうまく生きていけるかを考えるといい」
「あなた様は騎士団に所属しておられるのでしょう?」
「さすがに頭はよく回るようだな。その通りだ。この年だが、兄上の命により騎士団を率いている」
見たところカリスは背丈も高く筋骨隆々としているが、顔立ちは優雅で美しく、年は二十歳を超えるか超えないかくらいに見える。そんな若さで騎士団を率いているのだ、ただ者ではないのはリオネルも感じ取っていた。
未成熟だがそれなりに育っている体を膝の上に抱き上げられているが、客たちのようないやらしい感じは全くしない。ただリオネルを子どもだと思って労ってくれている気配だけを感じる。
この方のおそばにいたい。
リオネルは強く思った。
この方の力になれる男になりたい。
体付きや身長から、カリスもアルファだろう。堂々とした姿には憧れしかない。
「騎士学校に行きます。ですが、わたしには帰る場所かありません」
「そうだな。騎士学校には宿舎はあるが、長期休みには帰る場所も必要か。そうだ、リオネル、うちに帰ってくるか?」
信じられないことを提案された気がするが、リオネルはそれに乗りたくてたまらなかった。カリスと共に過ごす日が少しでも長ければいい。
「そうさせてください」
「おれは歳の離れた兄上以外に親しいものがいなくてな。リオネル、お前をうちの子として迎えよう」
「子……それは年が近すぎるのではないですか?」
「リオネルは幾つだ?」
「十三です」
「おれは二十一……それほど近くもないと思うのだが」
「近いです!」
ここでこの方の養子になってはいけない。
それはリオネルの中に強くあった。
この方と肩を並べて戦うには、養子になってしまっては難しい。
養子は丁重に断ったが、カリスは不機嫌になることもなく、リオネルが騎士学校の長期休暇にはこの屋敷に戻ってきていいと約束してもらった。
風呂に入れられて、きれいなパジャマを着せられて、リオネルは知る。
カリス・ヴェルナートがこの国の大公であり、国王陛下の唯一の弟であることを。
王弟、カリスは、まだ子のいない国王陛下に次ぐ王位継承権の持ち主だった。
そんな相手の膝の上に乗せられて言葉を交わしてしまった。
しかも、騎士学校の休暇にはカリスの屋敷に帰ってくる許可まで得た。
「おれが後見人となる。リオネルを頼む」
騎士学校の入学の折りには、カリスがリオネルを送っていったから、騎士学校は大騒ぎになっていた。
カリスの名を汚さぬように、リオネルは騎士学校で飛び級をして十六歳で卒業した。
それからカリスの騎士団に配属されて、カリスの身を守っているうちに、隣国との戦争が始まり、出陣したカリスと共に戦うこと六年、二十二歳になったリオネルは、カリスと共に隣国の最後の砦を落とし、隣国を降伏させた英雄として王都に戻ってきた。
リオネルは若いながら騎士団の副団長になっており、カリスは変わらず騎士団長で、華々しく凱旋を遂げた。
それからが、大変だったのだが。
「リオネル、また茶会の招待状が来ているぞ?」
「お手を煩わせて申し訳ありません、閣下!」
カリスは元から社交界で非常に人気があるのだが、ほとんどの誘いを簡単に断ってしまえる。カリスは大公閣下で、騎士団の団長で、王弟である。思い通りにならないことがない。
それでも、カリスは誘いを断るときには丁寧に断りの手紙を出しているし、相手に失礼のないようにしている。
リオネルもカリスを見習って丁寧な断りの手紙を書くし、相手に失礼のないようにしているつもりなのだが、リオネルとカリスは立場が違いすぎた。
所詮、リオネルは奴隷上がりでカリスの地位があってこそ、副団長までのし上がれたのだが、平民以下の出身だということは知られている。
国王陛下がカリスとリオネルをこの度の戦争の英雄とし、勲章を授けるといっているのだが、それでもリオネルの卑しい出自が変わるわけではない。
奴隷上がりのくせに、という視線は今も消えずに付きまとう。
リオネルに大量に届く見合いの吊り書きを見ずにお断りしているのだが、それがリオネルの評判を落とすことにも繋がっている。
リオネルに振られたオメガや令嬢が、リオネルを陥れようとしてくるのだ。
挙句の果てには、和平のために隣国が差し出してくる王女とリオネルを結婚させようなんて話まで持ち上がってきている。
独身のカリスが最初は狙われていたのだが、カリスは未だ子のいない国王陛下にとっては大事な弟であるし、その意志を無視して無理やりに結婚させるなどということはできないと世論も味方に付いている。
それに対して、リオネルは奴隷上がりの平民以下の身分の出身で、隣国のどんな我が儘な王女が来ても問題はないだろうと思われているのだ。
大量の吊り書きに隣国の王女との縁談、そして、茶会への誘い。
遠慮なく騎士団の執務室に届けられるそれを、同室で騎士団長のカリスが気付いていないはずはない。
ため息をつくたびにカリスに心配をかけているのは理解している。
誰かと結婚した方が、周囲を納得させられるのだろうとはリオネルも思っていた。
だが、リオネルにはたった一人、命を懸けても構わない相手がいる。
その相手がいるのに、他の相手に愛を囁くことなんてできない。
何より、奴隷時代に客の相手をさせられていたせいで、リオネルは他人との接触を好まないようになっていた。
そのことはカリスも知っているはずだ。
今日何度目かのため息をつきながら、カリスに申し訳なく思いつつ断りの手紙を書いていると、カリスがリオネルに声をかけてきた。
「リオネル、おれと結婚するか?」
「閣下!?」
意中の相手から申し出た求婚の言葉に、リオネルは飛び上がるほど驚いた。
カリスは続ける。
「リオネルは好きでもない相手からの求婚に困り果てている。おれは、生涯結婚するつもりはないが、兄上はおれに結婚して子どもを持てとうるさい。お互いに結婚して数年経って離縁すれば、周囲も落ち着くんじゃないか?」
「契約結婚ということですか、閣下?」
「そうなるかな」
結婚したいと思ったことがなかったわけではない。
カリスのことが好きすぎて、感情が暴走しそうになったことは多々ある。
必死に我慢してきたが、カリスの方から結婚を申し込まれるとは思わなかった。
カリスはアルファで、リオネルもアルファ。
周囲が納得しないかもしれないが、カリスの地位をもってすれば、うるさい連中など黙らせられるのかもしれない。
「わたしで、よろしいのですか?」
「リオネルこそ、おれでいいのか?」
「わたしは、閣下のことをお慕いしています」
「上官からだと断りにくいものか」
「いえ、そうではなくて、閣下を間違いなくお慕いしております」
「まぁいい。リオネルがいいのならば、手続きを進めよう」
リオネル、二十二歳。
八つ年上のこの世で一番愛しい相手と契約結婚することになった。
99
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記
天田れおぽん
BL
ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。
だけどオズワルドには初恋の人がいる。
でもボクは負けない。
ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ!
※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。
※他サイトでも連載中
2026/01/28 第22話をちょっとだけ書き足しました。
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ぽて と むーちゃんの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる