オメガの大公閣下の溺愛

秋月真鳥

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リオネル(攻め)視点

9.番になった後で

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 番になった後で、カリスはリオネルへの甘さを隠さなくなった。
 ヒートの三日目の夜に、抱き合った後でカリスはリオネルと風呂に入り、リオネルが首のガーゼを取り替えて髪を乾かし、ベッドに入った。ベッドの中でカリスがリオネルを抱き締めて囁く。

「初めて出会ったときから、かわいいと思っていた」
「わたしを、ですか?」
「そうだ。おれにオメガの本能なんてないと思っていたのに、かわいくてかわいくて、リオネルをおれのものにしたくてたまらなかった」

 直球で告げられる告白に、リオネルは両頬を両手で押さえて照れてしまう。
 初めて会ったときからカリスもリオネルに運命を感じてくれていたのだ。

「わたしと閣下は運命の番なのではないでしょうか?」
「そうかもしれない。出会った瞬間に、守りたくて、大切にしたくて、庇護欲がわいて仕方がなかった」

 番のオメガを囲い込むアルファはよく知られているが、その逆だというのは聞いたことがない。それでも、カリスがリオネルを一目見た瞬間から「かわいい」と思って、守りたくなって、自分のものにしたくなったという告白は、リオネルにとっては心地よいものだった。

「わたしも閣下の素顔を見たとき、この尊い方に生涯仕えたいと思いました。生涯おそばにいたい、例え閣下が誰かのものになってしまっても、一番近くでお支えしたいと思っていました」

 リオネルの告白に、ガーゼの上から自分のうなじに触れてカリスが小さく謝る。

「すまない、こんな性急にことを運んでしまって」
「謝られることはないです。わたしは閣下の番になれて幸せです」
「次のヒートが十年先かもしれないと思ったら、今番になっておかなければ、リオネルを手に入れられないと思ってしまった」

 言われてリオネルは気付く。
 カリスはこの十年ヒートを起こしていないのだ。次のヒートが十年先になってもおかしくはなかった。
 十年でも二十年でもリオネルは待てる自信はあったが、カリスの年齢からすれば、子どもを望むのであれば早いうちに番になっておいた方がよかったのだろう。番になればオメガのヒート周期も変わると聞いているし、リオネルのアルファのフェロモンでカリスのヒートを促進させることができるかもしれない。

「次のヒートは十年後かもしれない……」
「その可能性も大いにあるな」
「それでは、わたしは十年後まで閣下を抱くことができないのですか?」

 それは無理だと絶望的になるリオネルに、カリスが思わずといった様子で吹き出した。さらりと長いカリスの髪がリオネルの肌の上を流れ落ちていく。

「ヒートのとき以外はおれを抱けないか?」
「いいえ! 毎日でもお抱き致したいです!」
「毎日か……体力は持つだろうが、毎日は困るな」
「閣下の都合のいいときに抱かせていただければと思います!」

 腹に力を込めて威勢よく答えるリオネルに、カリスがその頬を撫でる。甘いフェロモンの名残に、リオネルが目を細めれば、カリスがリオネルの唇に軽く口付けてきた。

「どうしてくれる。もうおれはお前を手放せないぞ?」
「手放さないでください。ずっとおそばに置いてください」
「番を持たないオメガは短命だと昔から言われていた。兄上からは早く番を持つようにと何度も言われた。だが、おれは誰にも触れられたくなかった。自分がオメガだということを認められなかった」

 十二歳の時点でカリスは成人男性の平均程度の身長があったという。誰もがカリスはアルファだと思っていた。第二の性を調べたらカリスがオメガだということが発覚して、国王陛下はそれを隠すことに決めたという。

「兄上はおれがアルファだったらよかったと思っていたのだとずっと信じていた。オメガとしてリオネルと結婚すると告げたとき、あんなに喜んでもらえるとは思わなかった」
「閣下は閣下です。アルファでもオメガでも関係ありません」

 アルファの中のアルファといわれてきたカリスの振る舞いも、鬼神のごとき戦いぶりも、普段の穏やかで大らかな貴い身分と思えない騎士たちとの気安い触れ合いも、全てカリスがオメガだからといって何も変わることはなかった。なにより、リオネルの気持ちもカリスがアルファであろうとも、オメガであろうとも全く変わらない。
 オメガであったことで結婚が容易になったし、国王陛下からも認められたということは大きかったが、カリスがアルファで、リオネルが抱かれる立場であったとしても、リオネルのカリスへの気持ちは変わることはなかった。

「リオネルは番を解除しようと思えばいつでもできる。おれと別れたいと思ったら、いつでもそうしてくれて構わない」
「何を仰るのですか! わたしは閣下を運命の番と思っております! そうでなくても、閣下だけを愛しております! 閣下以外の相手を抱くなど考えられません! 閣下の方こそ、わたしと別れたいと思っても、もう番になってしまったので方法はありませんよ?」

 本当のところ、カリスが別れると決めたら、ヒートのときの苦しみなど関係なく、リオネルを切り捨てることができるのだろうが、カリスはリオネルを「かわいい」と思ってくれている。
 成人男性として、一人のアルファとして、「かわいい」と思われてかわいがられるのはどうかとは思うのだが、カリスが甘やかしてくれるのだったらリオネルはそれに全力で甘えていこうと思っている。

「あぁ、リオネル、かわいい。おれのリオネル」
「はい、閣下のリオネルです」
「手放すことなどできるわけがない。おれはリオネルがかわいくてかわいくてたまらない」

 長い腕に強く抱き締められて、豊かな胸筋に顔を埋める形になって、リオネルはその弾力に身を任せる。力を入れていないときの筋肉は本当に柔らかく、カリスの胸はいい匂いがするし最高に心地よかった。

「愛する閣下。どうか、ずっとわたしをおそばに置いてください」
「リオネル」
「愛しています、閣下。閣下だけを永遠に愛しています」
「おれも愛している、リオネル」

 愛しい相手からやっと愛の告白を受けて、リオネルはカリスの背中に腕を回してしっかりと抱き着いた。

 それからは何の問題もなくリオネルとカリスは領地での生活を続けられるようになった。
 冬が来て、領地の尖ったような木々が葉をつけたまま雪に埋もれて、農民たちも農地を休ませる時期になる。
 寒さに弱いリオネルは、カリスに着ぶくれさせられていた。セーターを着てジャケットを纏っても、寒さが消えないリオネルだが、夜はカリスの腕に抱き締められているし、昼間はリオネルのために執務室の暖炉が燃やされて、暖かくなっているし、カリスの愛情を感じずにはいられなかった。

 カリスのヒートは次いつ来るか分からないが、前回のヒートでは妊娠していなかったと分かるとリオネルは気落ちしたが、カリスは気にしていない様子だった。

「元々子どもは望めないと思っていた。リオネルには悪いが、子どもを抱かせてやることはできないかもしれない」
「わたしに謝ることなどありません」
「もし、子どもが欲しいなら……」
「愛人は持ちませんよ! わたしは閣下以外に勃ちませんからね!」

 はっきりと口にすると、カリスが優美な黒に近い濃い赤の目を見開いて驚いている。

「愛人と言おうとしたのではない。養子を、と言おうとしたのだ」
「そうでしたか。失礼いたしました」
「リオネルと育てる子どもはかわいいだろう。だが、リオネルの子どももかわいいだろうな。悩ましい。リオネルに子どもができないものか」
「わたしの子どもは無理かもしれませんが、養子でわたしは十分幸せですよ」
「そうか。リオネル、おれのオメガ性が弱いせいですまないな」

 申し訳なさそうに眉を下げるカリスに、リオネルはそんなことを言う必要はないのだと何度でも伝える。カリスのオメガ性が弱かったからこそ、リオネルに出会うまでカリスは誰とも番うことがなかったのだし、アルファと肩を並べて、いや、アルファ以上に雄々しく強く戦っていたのだから、リオネルはカリスがオメガ性の弱いオメガであってよかったと思っていた。

「そんな閣下だからこそ愛したのです」
「リオネル……お前は本当にかわいい」

 もう耐えきれないとばかりに執務室の椅子から立ち上がって抱き締められて、リオネルはカリスの胸に顔を埋める。カリスの甘い香りがリオネルの鼻腔をくすぐって、今すぐにでも抱きたくなる気持ちを、リオネルはぐっと抑えていた。
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