オメガの大公閣下の溺愛

秋月真鳥

文字の大きさ
20 / 30
カリス(受け)視点

5.カリスとリオネルの結婚式

しおりを挟む
 結婚式の衣装合わせをしていると、リオネルの様子がおかしい。
 カリスの姿を見つめて、小さく呟いている。

「閣下がわたしのものに……」

 王族しか纏えないワインレッドのマントを纏って、純白の騎士服を着た姿のカリスは、長く伸ばした黒に近い濃い赤の髪に同色の目の威圧感あるアルファらしい見た目をしているだろう。
 それがオメガだということがリオネルにはまだ信じられていないのかもしれない。
 冗談で緊張を解してやろうとにっと笑うと、リオネルの耳に囁く。

「リオネルのカリスだが?」
「閣下!? いけません!?」

 びくっと体を震わせて、両手で顔を覆って蹲ってしまったリオネルに、悪戯が過ぎたかと反省しつつも、カリスはリオネルに告げる。

「結婚するのだ、これくらいは慣れてほしいものだ」
「閣下に慣れるなど恐れ多いです」
「リオネルほどではないが、それなりに見られる格好だろう?」
「閣下はこの上なく美しいです」

 外見の美しさは誰からも言われているが、自分が王弟で大公で第一王位継承権を持っていて、騎士団長の地位まで持っているから、誰もが怖がって口にしているのだろうと思っていた。
 リオネルも心にもないことを言っているのかもしれない。

 カリスは普通のオメガのように華奢で小柄で内から輝くような美しさもなければ、かわいさもない。
 カリスにとってはリオネルはかわいくて仕方がないのだが、客観的に見れば、立派な体躯の成人した端正な顔立ちのアルファだ。

 どちらが不相応かといえば、カリスに違いなかった。

 大公の伴侶になることをリオネルは恐れているのかもしれない。

「リオネル、何も恐れるものはない。おれが守ってやる」

 リオネルのことは一生守る。
 そう決めているカリスに、リオネルは奇妙な顔をしていた。

 多忙なアデルバルトから結婚式前日に手紙が届いて、カリスの第二性であるオメガだということを結婚を機に公表すると書いてあって、カリスはついにこの日が来てしまったのかと覚悟する。
 オメガだと公表されたら、次期国王になることはできなくなる。リオネルと離縁した後も騎士団に復帰することは難しくなるだろう。

 カリスがオメガということを隠して、国のために騎士団長として仕えていたことは、アデルバルトにとってもずっと気にかかっていたことのようだった。
 オメガとしての幸せを掴んでほしいという兄の気持ちは分かるのだが、リオネルはどう思うだろう。

 翌日の結婚式の控室で、カリスはリオネルに打ち明けた。

「兄上はおれの結婚を機に、おれがオメガであることを公表するつもりだ」
「閣下はそれでいいのですか?」

 それでいいのかと言われて、カリスは少し考える。
 アデルバルトはカリスがリオネルと番になって子どもを作ることを想定しているのかもしれないが、カリスとリオネルはそういう関係にはならない。
 ただ、いつまでも隠しておけることではないので、いつかは公表しなければならないとカリスも分かっていた。

「騎士団も離れるし、結婚すればおれが妊娠することもあるだろうと兄上はお考えのようだ。なにより、アルファ同士の結婚ということでリオネルに愛人を勧めて来るような輩が現れないとも限らないからな。公表しておくに越したことはない」
「わたしは愛人などいりません」
「リオネルならそう言うと思っていた。愛人を持ってもいいと言ってやりたいところだが、おれの地位を考えると、リオネルが愛人を持つことは危うい。おれと結婚している間は我慢してほしい」
「我慢ではありません。本当に閣下以外いらないのです」

 冷静に答えて、リオネルには不自由をさせることを伝えると、リオネルははっきりとカリス以外いらないと言ってくる。
 そんなに忠誠心を持たなくてもいいのにと思ってしまうが、結婚期間中にリオネルが愛人を持てば、リオネルの立場が危うくなる。カリスがリオネルに財産を生前贈与することも難しくなるだろう。
 リオネルに我慢を強いるのは申し訳ないが、了承してくれているようで安心した。
 リオネルの方からカリスに問いかけてくる。

「閣下、契約結婚の期間はどれくらいを考えておられるのでしょう?」
「おれに子どもができなければ、兄上も三年もすれば離縁を許してくれるだろう。そのときにはリオネルには騎士団に復帰してもらって、元大公の伴侶という地位を使って好ましい相手以外は断るようにすればいい」

 はっきりと契約期間を決めていなかったと気付いて、三年と口にすれば、リオネルが縋るような目をしてくる。

「別れたくないと言ったらどうなりますか?」

 想定外の言葉だったが、カリスは大公なのでその伴侶という地位をリオネルが気に入ってそばにいたがるということは考えられない話ではなかった。
 カリスもリオネルには戦場から離れて自分の領地で静かに平穏に暮らしてほしいと思っている。
 リオネルが望むだけ領地で心を癒しても構わない。

「確かに、大公の伴侶という地位は魅力的かもしれない。その地位にずっといたいというのならば、おれは構わないよ」
「何年でも閣下のおそばに置いてくれますか?」
「リオネルが嫌にならない限りは」

 リオネルのために発言すれば、リオネルが安堵しているような気配がする。
 それでいいのかと、カリスは確認する。

「結婚期間が長くなれば、おれも次の結婚を望まれる年ではなくなるから助かるが、リオネルはそれでいいのか?」
「ずっと閣下のおそばにいたいのです」
「もう騎士団は辞めるのだぞ。おれが大公であったとしても関係はない。上官の命令だから聞くなどと考えなくていいのだよ?」
「命令だからではありません。閣下をお慕いしているからです」

 カリスと結婚している間はリオネルは他の相手を作れない。
 番になることはないと分かっているが、リオネルにとってあまりにも不自由すぎないかと思うのだが、リオネルは必死にカリスを慕っているとまで言う。
 そこまで忠誠心を示してくれなくても、カリスがリオネルをかわいいと思って庇護しなくなる未来はないし、リオネルの幸せのためには何でもするつもりでいるのだが、それはリオネルには伝わっていないようだった。

 時間が来たのでカリスはリオネルに手を差し出し、エスコートして結婚式場である王宮の大広間に行く。
 国王であり兄であるアデルバルトの前に出ると、アデルバルトが声を張り上げる。

「我が弟、カリスよ。そなたにはオメガの身でありながら騎士団長を務めさせ、長年苦労をさせてきた」
「苦労とは思っておりません」
「これからはオメガとしての幸せを追求していってほしい」

 これで、カリスがオメガであったことが周囲に知れた。
 ざわめく貴族たちや騎士たちに、アデルバルトがざわめきを鎮めるように宣言する。

「わたし、アデルバルトの名において、我が弟カリス・ヴェルナートと、この国の英雄リオネル・ラウゼンの結婚をここに認める。カリス、リオネルを愛し、共に生きることを誓うか?」
「誓います」
「リオネル、カリスを愛し、共に生きることを誓うか?」
「誓います」

 誓いの言葉を述べると、アデルバルトはカリスとリオネルに促した。

「誓いの口付けを」

 ここで口付けなかったら、結婚が無効になってしまう。口付けたふりをして逃れようかと思ったが、リオネルからぶわりと強いフェロモンが放たれて、カリスは耐えきれず触れるだけのキスをした。
 リオネルの唇は乾いていて、柔らかく、温かかった。
 驚いている様子のリオネルに気を取られていると、貴族たちの中から祝いの声が上がる。

「大公閣下、おめでとうございます!」
「大公閣下、万歳! 英雄殿、万歳!」

 カリスはそれを受けてにこやかに手を振り返していた。

 結婚誓約書にサインをして披露宴の会場に移ると、各テーブルに葡萄酒を注いで挨拶をしなければいけなくなる。
 アデルバルトと王妃のテーブルに一番に行けば、二人は涙ぐんでカリスとリオネルを見つめていた。

「ずっと結婚を拒んでいたカリスが、ついにアルファを受け入れる気になっただなんて……」
「アルファだからではありません。リオネルだからです」
「仲がよろしいこと。お熱いですわね」

 リオネルだから結婚しようと思った。
 その言葉に嘘はなかった。
 リオネルだから愛しいと思った。ずっとずっとかわいいと思い続けてきた。自分のものにしたくてたまらなかった。
 それなのに、貴族たちはリオネルに嫌味を言う。

「奴隷上がりの騎士などと結婚するとは、大公閣下ともあられるお方が嘆かわしい」
「大公閣下がオメガだったなど、信じられません」
「大公閣下をアルファのフェロモンでねじ伏せたのではないですか?」

 嫌味を口にする貴族たちをカリスが黙らせようとする前に、リオネルが口を開いていた。

「閣下はわたしごときのフェロモンでどうにかなるお方ではありませんよ」

 リオネルは強い。
 カリスが守らなくても自分で自分を守れる。
 それでも、口うるさい貴族たちを黙らせておきたくて、カリスはリオネルの腰に手を回した。これ見よがしに抱き寄せると、悲鳴が上がる。

「おれがリオネルがかわいすぎて、ついに手を出したのが露見してしまったな」
「閣下!?」
「そんなに恥ずかしがることはない。おれたちはもう夫夫ふうふなのだから、愛し合っていてもおかしくはない」

 カリスが見せつけるようにリオネルに頬ずりをすれば、もう嫌味をいう輩はいなくなっていた。
 全てのテーブルに挨拶をして、席に着くと、カリスは葡萄酒の入ったグラスを持ち上げて声を張り上げる。

「今日はおれのために集まってくれて感謝する。兄上からはずっと結婚して騎士団を退くように言われていたが、リオネルと出会い、共に戦ううちにやっと心が決まった。これからは領地でリオネルと共に静かに暮らしていこうと思っている。この結婚がこの国に幸をもたらさんことを。乾杯!」

 乾杯の声を上げると、全員が立ち上がってグラスを持ち上げた。

 これで、カリスとリオネルは正式に結婚をしたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記

天田れおぽん
BL
 ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。  だけどオズワルドには初恋の人がいる。  でもボクは負けない。  ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ! ※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。 ※他サイトでも連載中 2026/01/28 第22話をちょっとだけ書き足しました。

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ぽて と むーちゃんの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...