少年は大きなネコを愛でる

秋月真鳥

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6.ニコラとのデート

 ニコラの怪我が良くなってから護衛が傍についていればジェルマンとニコラは外出をする許可をもらった。護衛はそれとなく風景に溶け込みつつ側にいるようなので、二人きりのお出かけとなる。
 ことの発端はニコラが見ていた動画だった。
 ユキヒョウが自分の尻尾を咥えてじゃれている動画をニコラはお気に入りに入れて何度も見ていた。
「そのユキヒョウなら近くの動物園で実物が見られますよ?」
 動物園の名前を検索してジェルマンが教えると、あまり他のことに興味のないように見えるニコラの菫色の目が輝いた。
「本物が、見られるの?」
「他にもキリンや象もいますよ。ライオンも、虎も」
「ユキヒョウだけでいい」
 そうやって断った後でニコラはしばらく黙って考えていた。何を考えているのか分からないがもの言いたげな様子にジェルマンはニコラが喋り出すまで待つ。
「キリンと象を見てもいいよ。ジェルマンは、好きなんでしょう?」
 初めの頃に食べることに関心のないニコラの食欲をどうにかしてわかせようと一緒にクッキーを作ったことがあった。そのときにジェルマンは自分が好きな動物を適当に「キリンと象」と口にしてクッキー型を手に取ったのだ。もう2年も前の話でニコラは6歳だったのにそれを覚えていてくれている。
「ペンギンも、好きなんですよ」
「じゃあ、ペンギンも見ようね」
 嬉しくて微笑みを零したジェルマンにニコラは真剣な面持ちで答えた。
 動物園に行く日は小学校が休みの週末で、スーツ姿の護衛が車を運転していた。ジェルマンが攫われた日以来、小学校の送り迎えも護衛が車を運転してジェルマンはいらないのではないかと思うのだが、「行ってらっしゃい」のハグをして送り出し、「お帰りなさい」のハグをして迎えないとニコラの機嫌が悪いのでそれが可愛くて車には毎日乗っていた。
 後部座席でニコラが小さな手でジェルマンの手を握る。感情の起伏の少ない子どもだと思っていたが、ジェルマンと目が合うとニコラは花が咲き零れるように笑うようになった。
「最初はどこから見る?」
「動物園の園内地図を貰わないといけませんね」
「ジェルマンの好きなキリンと象とペンギンを先にしてもいいよ」
 8歳の少年にデートをエスコートされている。しかも動物を見る順番を譲っても良いという言葉にジェルマンは不意に胸を突かれたような気がした。
 そもそも身体だけの関係の相手とはデートをしたことがないし、高級レストランで食事を奢らせても相手は一番高いコースを見栄で奢るだけで、ジェルマンの意志を尊重したアルファなどいなかった。
 動物園で自分が見たいユキヒョウのところに一番に行くのではなく、ジェルマンの意思を尊重してジェルマンの見たいとニコラが思い込んでいるキリンと象とペンギンを先にしてくれる。紳士的な振る舞いに頬が熱くなる。
 駐車場に車を停めて護衛は少し離れた場所から着いてきて、ジェルマンはニコラと二人分のチケットを買った。園内地図も受け取ると一番近いのは象の檻のようだった。その奥にペンギンのプールがあって、ユキヒョウや虎など肉食動物エリアがあって、一番奥が草食動物エリアでキリンの檻だ。
「遠回りになりますけど、良いんですか?」
「いいよ、行こう」
 手を繋いでまず象の檻から見て回る。広い柵の中で歩いている象は大きくてジェルマンも実物を見るのは久しぶりだった。
「小学校の課外授業以来ですね。大きい」
「大きいものが好きなの? キリンも背が高いよね?」
「いや……実はキリンと象が好きだって言ったのは適当に目立つ動物だったから名前をだしただけなんですが」
 そこで言葉を切ってジェルマンは悠々と歩く巨大なアフリカゾウを見上げた。
「ニコラ様と見ていると、好きになったかもしれません」
 繋いだ小さな手が手が汗ばんで暖かい。引き続きペンギンのプールを見て、肉食獣エリアを迂回して、草食獣エリアでキリンを見る。首と脚の長いキリンには赤ん坊が産まれたばかりという張り紙があった。母親キリンの後ろからちょこちょこと子どものキリンがついてきている。
「可愛いですね、ニコラ様」
「あのね、その『様』っていうのだけど、やめられない?」
「へ?」
「僕は婚約者には『ニコラ』って呼んで欲しい」
 キリンを見たままで顔を赤くして言う8歳のニコラにジェルマンまで恥ずかしくなってくる。
「に、ニコラ」
「うん、だいすき、ジェルマン」
 見上げてにこっと笑ったニコラに「男」を感じてしまって、ジェルマンは狼狽えていた。
 ユキヒョウの檻の前に来るとニコラのテンションが上がったのが分かった。柵に張り付くようにしてじっと見ている。高い棚の上に駆け上がったり、そこでのんびりと寝そべったり、ユキヒョウはマイペースだ。
 寝そべっているユキヒョウが尻尾を咥えたのを見て、ニコラが声を上げた。
「見て、動画と同じ!」
「可愛いですね」
 ユキヒョウよりも興奮しているニコラが可愛くて堪らないのだが、そんなことは口に出せない。三十分はニコラはユキヒョウの檻の前で飽きずにユキヒョウの動きを見ていた。
 初めてのデートの帰りにジェルマンはユキヒョウのぬいぐるみを買った。レジに並ぼうとしていると、象の小さなマスコットを持っているニコラと目が合う。
「僕がカードで払うからいいよ」
「そういうわけにはいきません。ニコラへのプレゼントですから」
「そ、そうなの?」
 当然ジェルマンの分も払うつもりでいてくれたニコラに嬉しく思いながらもジェルマンは自分の財布からお金を出してユキヒョウのぬいぐるみを買った。包んでもらわなくて良いというニコラはユキヒョウのぬいぐるみを抱いて車に乗り、ジェルマンはニコラに貰った象のマスコットをポケットに大事に入れて持ち帰った。


 お風呂に入るニコラの髪を洗うのも慣れてきたが、ジェルマンは服を着たままでそれを行っていた。オメガの身体は快楽に弱くアルファを求めてしまうことがあったので、まだ精通も来ていないニコラにジェルマンの欲を押し付けたくはなかった。
 そう思うのと裏腹にニコラは少しずつ育ってくる。
 10歳になったニコラの股間につい目が行ってしまって、ジェルマンはうっかりとシャワーのお湯を思い切り頭から被ってしまった。
「す、すみません」
「風邪を引くから脱いだら?」
「そういうわけには」
 髪を洗い終えていたので脱衣所に出てバスタオルで拭いていると、ニコラが脱衣所に出て来る。まだバスタブでしっかり温まっていないだろうにジェルマンを心配したのだろう。
「着替えがある?」
「このまま部屋まで行くので平気です」
「取って来るね」
 素早く下着とパジャマを着たニコラがジェルマンの部屋まで行って着替えを取ってきてくれた。そのまま脱衣所に居座られて裸を見られてもおかしくはない状況だった。少しジェルマンもそれを期待したのかもしれない。
 しかし、ニコラは着替えを渡すと素早く廊下に出て、中のジェルマンに廊下から声をかけた。
「シャワー浴びてしまって良いと思うよ。僕は寝室に行ってるから」
 寝室に行っていると言っても、ニコラとジェルマンは一緒に寝るわけではない。眠るまで本を読むニコラの枕元にいたりすることはあるのだが、ニコラはジェルマンに無理に共に寝ることを強要しなかった。
 シャワーを浴びながらニコラの脚の間を思い出してしまう。
 少しだけれど下の毛が生え始めていたような気がする。そろそろニコラも精通を迎える時期が近付いてきているのだろうか。それが気になってそわそわしてうっかりと手を洗うつもりがシャワーを出してしまってずぶぬれになったのだ。
 まだ未成熟なニコラの中心。
 あれがアルファらしく逞しく育つ日を心待ちにしている自分がいることをジェルマンは認めざるを得なかった。もう4年も誰にも抱かれていない身体は、そろそろ限界に近付きかけている。
 ここを埋めるものが欲しい。
 触れた後孔はぬるりと滑って濡れていた。指を差し込んで出し入れしても、ジェルマンが欲しいものとは違って満足することができない。
 熱い吐息を吐くだけで絶頂に至れないジェルマンがなんとか着替えてニコラの寝室に行くと、ニコラはジェルマンが二年前に贈った大きなユキヒョウのぬいぐるみを抱いて眠っていた。
「お休みなさい」
 額にそっとキスをしてニコラの香りを胸に吸い込んだジェルマンは、今夜はなかなか眠れそうになかった。
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