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第3部 天然女子高生のための超そーかつ

第81話 ハゲタカジャーナル

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「う~~トイレトイレ」

 今、トイレに行こうと職員室前の廊下を早歩きしている私、野掘真奈はマルクス高校に通うごく一般的な女子高生。強いて違う所を挙げる余裕もなく私は普段使わないトイレに入り――

「コスモ君、いつもありがとうねえ。君への感謝を伝えるために、今日は高級なワックスを買ってきたんだよ。本当に大好きだよ」
「教頭先生、こんな所で一体何を……」
「君は1年生の野掘さん!? ここは男性用トイレだよ!?」
「ギャーごめんなさい!!」

 間違えて男性職員用のトイレに入ってしまったと分かった私は、自分の髪をいじりながら独語どくごしていたマルクス高校教頭の琴名ことな枯之助かれのすけ先生に謝ると慌てて女性用トイレに入り直した。

 用を済ませてトイレから出ると教頭先生もちょうど出てきた所で、先生は気まずそうな表情だったので廊下の隅で事情を聞いてみることにした。


「先生、さっき自分の髪の毛に話しかけられてましたよね……?」
「ああ、別に私は気がおかしくなった訳じゃないんだ。私が薄毛はくもうで悩んでいるのは見れば分かることと思うけど、ただ髪を失うのは嫌だから色々と対策をしているんだよ。先ほどのは『髪からの伝言』という学説で、ヒトの髪の毛はそれぞれ感情を持っているからポジティブな言葉を投げかければ抜けにくくなるらしいんだ。ちゃんとオンラインジャーナルに論文が載ってるんだよ」
「いやいやいや、そんなの絶対あり得ませんって! 大体オンラインジャーナルって言ってもそれハゲタカジャーナルじゃないんですか? 科学的根拠に乏しい論文を信用するとろくなことないですよ」
「やっぱりそうなのか。マイナスイオン育毛法とかイナズマクラスター頭皮マッサージとか他のやり方でことごとく失敗してきたから、今度は大丈夫だと思ったんだけどね……」

 教頭先生が薄毛で悩んでいることはうちの高校の生徒なら誰でも知っていたが、現在進行形で怪しげな育毛法に騙されていたらしい。

「私も素人なので科学的根拠がどうこうと語れる立場じゃないですけど、本当に心配なら皮膚科のお医者さんとか専門家に聞いてみてはどうですか? 今時はAGA男性型脱毛症専門の外来があるクリニックもあるらしいですよ」
「病気じゃないから気が進まなかったけど、専門の外来があるなら試しに受診してみるよ。野掘さん、今日はハゲタカジャーナル? の危険性を教えてくれてありがとう」

 教頭先生はそう言うと職員室に戻っていき、ともかく先生を疑似科学の被害から救えてよかったと思った。


 その翌週、新宿区内の皮膚科クリニックで……

「という訳で専門家の先生に助けて頂きたいのです。私の薄毛を治療する方法には何がありますでしょうか?」
「あなたの場合は手遅れですので諦めてください。メンズウィッグの処方を検討しますね」


「野掘さん、最近職員室の前のトイレから教頭先生の泣き声が聞こえてくるんだけど、何かあったのかしら?」
「大人の男性は色々大変なんでしょう……」

 廊下で会った際に質問してきた2年生の金原かねはら真希まき先輩に、私は大体の事情を察しつつそう答えたのだった。


 (続く)
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