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第3部 天然女子高生のための超そーかつ

第82話 グリーンウォッシュ

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「今度の土曜日は午後からケインズ女子高校との練習試合ですけど、先輩方は全員参加でしたよね?」

 ある日の練習前、私、野掘のぼり真奈まなは今週土曜日に開催される硬式テニス部の練習試合の出欠確認を行っていた。

「わたくしはもちろん参加しますけど、約1名は欠席ですわね」
「また再試ですね?」「説明する前に言わないでよ!!」

 硬式テニス部所属の2年生である赤城あかぎ旗子はたこ先輩は1シーズンに最低3~4回は再試にかかっているが、堀江ほりえ有紀ゆき先輩の話によると今回はよりにもよって練習試合の日が再試当日と重なってしまったらしい。

「うちははたこが再試にかかるん自体はええけど、他にも来れへん部員おるからこれ以上人数減ると困るで。何とかならへんの?」
「うーん、流石の私でも再試そのものをなくすのは……」

 同じく2年生の平塚ひらつか鳴海なるみ先輩が尋ねた内容には現実味がないものの、はたこ先輩はまだ諦めきれないらしく頭を抱えていた。

「そうだ! 今の世の中いちばん強いのはエコ思想だから、テストなんて生産性のないイベントは存在を否定しちゃえばいいんだよ! 早速先生に直談判するよ!!」

 はたこ先輩はエコというよりもエゴに基づいた発言を繰り出すと硬式テニス部の部室から走り去っていき、私は今回もまた面倒なことになりそうだと思った。


 その翌日……

「まなちゃんまなちゃん! 答案用紙を再試のために印刷するのは森林伐採につながるって先生に言ったら再生紙だから大丈夫って言い返されたけど、それはグリーンウォッシュですって言い張ったら論破できたんだよ!!」
「は、ははは……」

 はたこ先輩に論破されるような先生がこの学校にいるとは思えないが、ともかく再試はなしにできたらしかった。

「あら赤城さん、ここにいたのね。約束通り練習試合の日の再試はやめにしたわよ」
「ありがとうございます! 練習試合全力で頑張ります!!」

 部室に入ってきたのは硬式テニス部の顧問である国語科の金坂かなさかえいと先生で、先生はなぜか部室にテキストを持ってきていた。

「その前に今から再試ね。グリーンウォッシュっていう批判を受けずに済むよう、今回から再試は全て口頭試問で行います。このまま面談室に行きましょうね~」
「嫌だあああああああそんなの聞いてないいいいいいいい」

 いつものように連行されていくはたこ先輩を見て、私は口頭試問による再試は確かにエコだと思った。


 (続く)
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