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2019年7月 微生物学基本コース
92 気分は焼肉
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2019年7月1日、月曜日。時刻は夜の19時頃。
「おっ、そこのフワとタンナンコツはもう焼けてるぞ。横のカルビも一緒に取って食べてみてくれ」
「OKです。…………旨いっ!」
僕は微生物学教室所属の研究医生である物部微人先輩、通称マレー先輩と2人で焼肉を食べていた。
先輩オススメの部位であるフワ(牛の肺)はその名の通りフワフワとした食感で、独特の歯ごたえに牛肉の味がしみ込んでいて絶品だった。
同様にオススメのタンナンコツ(豚の声帯)は対照的に硬くてコリコリとした食感でそれでいて厚さは薄いのでとても食べやすい。
香ばしい風味を感じながらこんがりと焼かれた灼熱カルビ(脂身が豊富に乗ったこの店特有のカルビ)もタレに浸けて口に運んだ。
「よし、次はリップとハナハナを焼こう。灼熱カルビはまだ残ってるな」
「ありがとうございます。先輩あんまり食べられてないようなので次は僕が焼きますよ」
「いや、この店で上手く焼くのは初心者には難しいぞ。まあ一回試してみてもいいだろう」
そう言うと先輩はトングを渡してくれたので、僕は見よう見まねで七輪に載った焼き網の中央にリップ(豚の唇)とハナハナ(豚の鼻)を置きその周囲を取り囲むように灼熱カルビを置いた。
リップやハナハナは比較的脂分が少ない一方、灼熱カルビは非常に脂分が多い。灼熱カルビを中央に置いてしまうと脂が融け出して一気に炎が上がってしまうが、かといってリップやハナハナだけでは炭火の勢いが中々強くならない。
灼熱カルビを燃料として利用しつつ適度な激しさの炎で脂分の少ない部位を焼くのがこの店「灼熱のホルモン」で焼肉を美味しく食べるコツだという。
先ほど焼き上がったフワとタンナンコツはすぐに食べ終わり、今は七輪の炭火も落ち着いているようなので僕はキャベツを一口かじると先輩に話しかけた。
「いやー、今日はこんなに素晴らしいお店に連れてきてくださってありがとうございます。ここまで美味しい肉を食べたのは久々ですよ」
「ああ、気にすることはないさ。元はと言えば白神君がこの前の新歓飲み会に来られなかったから、どこかで一緒に飯を食いたかったんだ」
「あの時は本当にすみませんでした……」
ちょうど1か月前の今頃にも僕は文芸研究会の飲み会に参加して1回生の佐伯君と共に新入部員としてご馳走して頂いていた。
あの飲み会はあくまで一部の部員が個人的に開催したイベントであり、文芸研究会の公式イベントとしての新歓飲み会は6月下旬に予定されていた。
そこでは現役部員が多く集まるし、文芸研究会部長にして微生物学教室の教授である松島先生も参加される。ちなみに役職名が紛らわしいがこの大学の部活における部長とは高校までの部活における顧問に相当する立場であり、高校までの部活における部長は主将、副部長は主務と呼ばれる。
僕としても新歓飲み会にはぜひ参加したかったのだがヤッ君先輩が安堂に暴行を受けて入院したばかりだったせいでちょうど飲み会の予定時刻に警察の事情聴取(二度目)を受ける羽目になってしまい、出頭を拒否する訳にもいかず結局は参加できなかった。
ヤッ君先輩が暴行を受けた現場に僕がいたことは関係者以外には秘密となっており警察に出頭するからという理由は当然話せないので、マレー先輩には個人的な急用のため参加できなくなったと伝えざるを得なかった。
せっかく誘って頂いた新歓飲み会を直前にキャンセルしてしまい自分に責任はないとはいえ先輩には本当に申し訳ないことをしたと落ち込んでいたのだが、マレー先輩は「それなら来週2人で焼肉でも食べに行かないか」と仏様のように優しい言葉をかけてくださったのだった。
明日の7月2日の放課後はマレー先輩と共に微生物学教室を訪れ、松島教授から基本コース研修の初回オリエンテーションを受けることになっている。
今月は先輩に学生研究の指導を受けることになるが学生研究員同士として交流するのはお互い今月が初めてなので、今のうちに親交を深めておきたいとまで先輩は仰ってくれた。
今日の飲食費も全額おごってくれるらしく同じ部活の先輩とはいえここまでお世話になっていいのだろうかと心配になるほどだった。
「今月と再来月は微生物学教室で君を指導するから今日はそれについても軽く打ち合わせをしたい。まあそれは明日からでも何とかなるから、とりあえず肉を食って盛り上がろう。アルコールは頼んであげられなくて申し訳ない」
「いえいえ、こんなに美味しい焼肉ならお酒なんて要らないですよ」
「そうかそうか……あっ、やばいぞ白神君。早くカルビを取るんだ」
「おっと、すぐ除けますね」
先ほどから焼いていた灼熱カルビの脂が融け出して炎の勢いが強くなり、僕は素早くカルビを取り皿に取るとこんがりと焼き上がったリップとハナハナをお互いの皿に取り分けた。
僕らが今来ているこの店「灼熱のホルモン」は近畿圏を中心に本州と四国でチェーン展開されている焼肉店で、ここ皆月店は畿内医大の最寄り駅である阪急皆月市駅から歩いて1分という非常に便利な場所にある。
店の外壁には大きな看板を出しているが入り口は非常に分かりにくく、段差を踏み越えた先にある狭くて薄暗い階段を上った2階に店舗を構えている。
店の前まで来ても1階の洋菓子屋しか目に入らず、現地集合と言われたら僕も困っただろう。
食べ放題コースは価格が安い順に35品、80品、120品と分けられており、今日はもちろん35品コース(税込約2500円)をご馳走になっていたが最も安いこのコースでも普通の焼肉店にはないような希少部位を何種類も食べることができる。
チェーン店というとどうしてもメニューが最大公約数的、悪く言えば凡庸になるイメージがあるがこの店に関してはそのようなジレンマとは無縁らしい。
「おっ、そこのフワとタンナンコツはもう焼けてるぞ。横のカルビも一緒に取って食べてみてくれ」
「OKです。…………旨いっ!」
僕は微生物学教室所属の研究医生である物部微人先輩、通称マレー先輩と2人で焼肉を食べていた。
先輩オススメの部位であるフワ(牛の肺)はその名の通りフワフワとした食感で、独特の歯ごたえに牛肉の味がしみ込んでいて絶品だった。
同様にオススメのタンナンコツ(豚の声帯)は対照的に硬くてコリコリとした食感でそれでいて厚さは薄いのでとても食べやすい。
香ばしい風味を感じながらこんがりと焼かれた灼熱カルビ(脂身が豊富に乗ったこの店特有のカルビ)もタレに浸けて口に運んだ。
「よし、次はリップとハナハナを焼こう。灼熱カルビはまだ残ってるな」
「ありがとうございます。先輩あんまり食べられてないようなので次は僕が焼きますよ」
「いや、この店で上手く焼くのは初心者には難しいぞ。まあ一回試してみてもいいだろう」
そう言うと先輩はトングを渡してくれたので、僕は見よう見まねで七輪に載った焼き網の中央にリップ(豚の唇)とハナハナ(豚の鼻)を置きその周囲を取り囲むように灼熱カルビを置いた。
リップやハナハナは比較的脂分が少ない一方、灼熱カルビは非常に脂分が多い。灼熱カルビを中央に置いてしまうと脂が融け出して一気に炎が上がってしまうが、かといってリップやハナハナだけでは炭火の勢いが中々強くならない。
灼熱カルビを燃料として利用しつつ適度な激しさの炎で脂分の少ない部位を焼くのがこの店「灼熱のホルモン」で焼肉を美味しく食べるコツだという。
先ほど焼き上がったフワとタンナンコツはすぐに食べ終わり、今は七輪の炭火も落ち着いているようなので僕はキャベツを一口かじると先輩に話しかけた。
「いやー、今日はこんなに素晴らしいお店に連れてきてくださってありがとうございます。ここまで美味しい肉を食べたのは久々ですよ」
「ああ、気にすることはないさ。元はと言えば白神君がこの前の新歓飲み会に来られなかったから、どこかで一緒に飯を食いたかったんだ」
「あの時は本当にすみませんでした……」
ちょうど1か月前の今頃にも僕は文芸研究会の飲み会に参加して1回生の佐伯君と共に新入部員としてご馳走して頂いていた。
あの飲み会はあくまで一部の部員が個人的に開催したイベントであり、文芸研究会の公式イベントとしての新歓飲み会は6月下旬に予定されていた。
そこでは現役部員が多く集まるし、文芸研究会部長にして微生物学教室の教授である松島先生も参加される。ちなみに役職名が紛らわしいがこの大学の部活における部長とは高校までの部活における顧問に相当する立場であり、高校までの部活における部長は主将、副部長は主務と呼ばれる。
僕としても新歓飲み会にはぜひ参加したかったのだがヤッ君先輩が安堂に暴行を受けて入院したばかりだったせいでちょうど飲み会の予定時刻に警察の事情聴取(二度目)を受ける羽目になってしまい、出頭を拒否する訳にもいかず結局は参加できなかった。
ヤッ君先輩が暴行を受けた現場に僕がいたことは関係者以外には秘密となっており警察に出頭するからという理由は当然話せないので、マレー先輩には個人的な急用のため参加できなくなったと伝えざるを得なかった。
せっかく誘って頂いた新歓飲み会を直前にキャンセルしてしまい自分に責任はないとはいえ先輩には本当に申し訳ないことをしたと落ち込んでいたのだが、マレー先輩は「それなら来週2人で焼肉でも食べに行かないか」と仏様のように優しい言葉をかけてくださったのだった。
明日の7月2日の放課後はマレー先輩と共に微生物学教室を訪れ、松島教授から基本コース研修の初回オリエンテーションを受けることになっている。
今月は先輩に学生研究の指導を受けることになるが学生研究員同士として交流するのはお互い今月が初めてなので、今のうちに親交を深めておきたいとまで先輩は仰ってくれた。
今日の飲食費も全額おごってくれるらしく同じ部活の先輩とはいえここまでお世話になっていいのだろうかと心配になるほどだった。
「今月と再来月は微生物学教室で君を指導するから今日はそれについても軽く打ち合わせをしたい。まあそれは明日からでも何とかなるから、とりあえず肉を食って盛り上がろう。アルコールは頼んであげられなくて申し訳ない」
「いえいえ、こんなに美味しい焼肉ならお酒なんて要らないですよ」
「そうかそうか……あっ、やばいぞ白神君。早くカルビを取るんだ」
「おっと、すぐ除けますね」
先ほどから焼いていた灼熱カルビの脂が融け出して炎の勢いが強くなり、僕は素早くカルビを取り皿に取るとこんがりと焼き上がったリップとハナハナをお互いの皿に取り分けた。
僕らが今来ているこの店「灼熱のホルモン」は近畿圏を中心に本州と四国でチェーン展開されている焼肉店で、ここ皆月店は畿内医大の最寄り駅である阪急皆月市駅から歩いて1分という非常に便利な場所にある。
店の外壁には大きな看板を出しているが入り口は非常に分かりにくく、段差を踏み越えた先にある狭くて薄暗い階段を上った2階に店舗を構えている。
店の前まで来ても1階の洋菓子屋しか目に入らず、現地集合と言われたら僕も困っただろう。
食べ放題コースは価格が安い順に35品、80品、120品と分けられており、今日はもちろん35品コース(税込約2500円)をご馳走になっていたが最も安いこのコースでも普通の焼肉店にはないような希少部位を何種類も食べることができる。
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