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2019年7月 微生物学基本コース
99 気分は衛生的手洗い
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「中々上手くなってきたじゃないか。今日初めて習って45秒はかなり早いぞ」
「そうですか? 正直、まだ順番すら頭に入ってないんですけど……」
2019年7月6日、土曜日。時刻は朝10時頃。
今月の土曜日の午前中はマレー先輩が行うグラム染色を見学させて貰うことになっていて今日はその第1回だった。
そろそろ買い換えたい白衣を着て講義実習棟4階の大実習室に入り、先輩に渡されたマスクと手袋を着用して器具・試薬の説明を受けた後は手袋を外して衛生的手洗いの指導を受けていた。
先輩が実演してみせたのを見よう見まねでやってみたが、少ない行程といっても初学者には複雑で中々手早く済ませられない。
「うちの教室で教える分には洗う順番を決めているが、実際に臨床の現場で衛生的手洗いをやる時は結構アバウトで少しぐらい順番が前後しても問題はない。大事なのは決まった手順を守れているかじゃなくてちゃんと両手の隅々まで洗えているかだから、その点も考えて練習を繰り返してくれ」
「分かりました。臨床現場でも使う手技っていいますけどこれなら自宅でも練習できそうですね」
臨床現場で必要になる手技には縫合や採血など医療機器を用いるものが多いが、衛生的手洗いに関しては流水と石鹸さえあれば実践できるように思えた。
「その通り。9月の試験では衛生的手洗いも当然問われるから、2回生は手技試験が近づくと普段の生活にも衛生的手洗いを取り入れるのが一般的だ。まあ、それが終わればあっさり忘れるんだけどな……」
「やっぱりそうですか……」
2回生の僕にしても1回生前半の教養科目の記憶は既に薄れており、これから改めて学ぶ機会がなければそのまま忘却の彼方になりそうではある。
教養科目で学んだ内容に比べると大学受験で勉強したことの方が強く記憶に残っているが、これは再試のある大学の定期試験に比べて大学入試は基本的に一発勝負だからかも知れない。
「といってもこういう手技は身体で覚えるものだから、一度忘れたって復習すればすぐに思い出す。それでも4回生のOSCEの前にすぐ思い出せるよう今から丹念に練習しておいて損はないぞ」
「確かにそうですね。友達にも伝えておきます」
まだ2回生なのでCBTやOSCEといった国家試験について真剣に考えている学生は少ないが、それでも今習っていることが国試でも役に立つという情報は有用だろう。
「いい心がけだ。それでは今から実際にグラム染色をやってみる。近くで見たって感染する危険性はほぼないが、ガスバーナーの火を使ったりするから一応離れた場所で見ていてくれ」
そう言うとマレー先輩は新しい手袋を装着し、僕も同じく装着した上で実験テーブルから距離を取った。
「言い忘れていたが、グラム染色の作業はやって貰えないけど染色後の顕微鏡観察は白神君にも見て欲しいんだ。各種の細菌の染色像は参考書にも載っているがやっぱり自分の目で見ると面白いぞ。それでいいか?」
「もちろん、ぜひ見てみたいです。よろしくお願いします」
「任せろ!!」
そうしてマレー先輩は白金耳と呼ばれる金属の棒を手に取り、試験管に入った生理食塩水を新品のスライドグラスに1滴垂らした。
寒天培地に細菌が培養されたシャーレを左手で掴み右手で蓋を取ってから白金耳で細菌をすくい取り、スライドグラス上の水滴に混ぜ込んで乳濁液状に広げるという手順が極めて迅速かつ丁寧に行われ、先輩の表情も真剣そのものだった。
過度に緊張させないようテーブルから距離を取り目線は真っすぐに先輩の手元を見つめつつ、僕は人生で初めて見るグラム染色を注視していた。
「そうですか? 正直、まだ順番すら頭に入ってないんですけど……」
2019年7月6日、土曜日。時刻は朝10時頃。
今月の土曜日の午前中はマレー先輩が行うグラム染色を見学させて貰うことになっていて今日はその第1回だった。
そろそろ買い換えたい白衣を着て講義実習棟4階の大実習室に入り、先輩に渡されたマスクと手袋を着用して器具・試薬の説明を受けた後は手袋を外して衛生的手洗いの指導を受けていた。
先輩が実演してみせたのを見よう見まねでやってみたが、少ない行程といっても初学者には複雑で中々手早く済ませられない。
「うちの教室で教える分には洗う順番を決めているが、実際に臨床の現場で衛生的手洗いをやる時は結構アバウトで少しぐらい順番が前後しても問題はない。大事なのは決まった手順を守れているかじゃなくてちゃんと両手の隅々まで洗えているかだから、その点も考えて練習を繰り返してくれ」
「分かりました。臨床現場でも使う手技っていいますけどこれなら自宅でも練習できそうですね」
臨床現場で必要になる手技には縫合や採血など医療機器を用いるものが多いが、衛生的手洗いに関しては流水と石鹸さえあれば実践できるように思えた。
「その通り。9月の試験では衛生的手洗いも当然問われるから、2回生は手技試験が近づくと普段の生活にも衛生的手洗いを取り入れるのが一般的だ。まあ、それが終わればあっさり忘れるんだけどな……」
「やっぱりそうですか……」
2回生の僕にしても1回生前半の教養科目の記憶は既に薄れており、これから改めて学ぶ機会がなければそのまま忘却の彼方になりそうではある。
教養科目で学んだ内容に比べると大学受験で勉強したことの方が強く記憶に残っているが、これは再試のある大学の定期試験に比べて大学入試は基本的に一発勝負だからかも知れない。
「といってもこういう手技は身体で覚えるものだから、一度忘れたって復習すればすぐに思い出す。それでも4回生のOSCEの前にすぐ思い出せるよう今から丹念に練習しておいて損はないぞ」
「確かにそうですね。友達にも伝えておきます」
まだ2回生なのでCBTやOSCEといった国家試験について真剣に考えている学生は少ないが、それでも今習っていることが国試でも役に立つという情報は有用だろう。
「いい心がけだ。それでは今から実際にグラム染色をやってみる。近くで見たって感染する危険性はほぼないが、ガスバーナーの火を使ったりするから一応離れた場所で見ていてくれ」
そう言うとマレー先輩は新しい手袋を装着し、僕も同じく装着した上で実験テーブルから距離を取った。
「言い忘れていたが、グラム染色の作業はやって貰えないけど染色後の顕微鏡観察は白神君にも見て欲しいんだ。各種の細菌の染色像は参考書にも載っているがやっぱり自分の目で見ると面白いぞ。それでいいか?」
「もちろん、ぜひ見てみたいです。よろしくお願いします」
「任せろ!!」
そうしてマレー先輩は白金耳と呼ばれる金属の棒を手に取り、試験管に入った生理食塩水を新品のスライドグラスに1滴垂らした。
寒天培地に細菌が培養されたシャーレを左手で掴み右手で蓋を取ってから白金耳で細菌をすくい取り、スライドグラス上の水滴に混ぜ込んで乳濁液状に広げるという手順が極めて迅速かつ丁寧に行われ、先輩の表情も真剣そのものだった。
過度に緊張させないようテーブルから距離を取り目線は真っすぐに先輩の手元を見つめつつ、僕は人生で初めて見るグラム染色を注視していた。
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