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2019年11月 生化学発展コース
207 気分はヒーローショー
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「これで終わりだ、高位ヤサイ人!!」
「ぐあああああっ!!」
宇宙空間から転送されるという設定のパワードスーツを身にまとったヒーロー「ヴィーガンナーサイト」は、段ボールを加工して作られた大剣を振りかざすと目の前の異次元人を斬りつけた。
人類を食物連鎖の下位に置くため人間社会に完全菜食主義思想を浸透させヴィーガンになれない人々は処刑されるディストピアを作り上げた異次元人である高位ヤサイ人はヴィーガンナーサイト=植木菜人の活躍により全滅し、世界は人類の手に取り戻された。
「いよいよ終わったんだな、長い戦いが……」
「ああ。だが、歪みきった世界を元に戻すにはまた長い時間が必要になる。ヒーローとしての使命は終わるが、俺の戦いは続くんだ」
変身を解いた(=舞台裏に回って衣装を着替えた)菜人は彼の戦いをバックアップしてきたCIA捜査官ベイジーにそう伝え、物語はスピーカーから流れるエピローグと共に幕を閉じた。
「何というか……子供たちが集まってくれて良かったですね」
「うーん、正直これは失敗作だと思う」
「いやまあ、そんなことは」
2019年11月16日、土曜日。時刻は朝10時過ぎ。
朝から畿内医大の大学祭を訪れた僕は開場から間もない9時半に始まった屋外ステージでの舞台公演を見ていた。
隣ではマレー先輩も立ったまま演劇を鑑賞していて、未就学児および小学生とその保護者ぐらいしか残っていなかったプレハブの客席から人々が黙々と去っていくのを見て残念そうにしている。
畿内医大では例年11月中旬に第二キャンパスのグラウンド全面を使用して大学祭が開催され、この日はほとんどの部活が出店を開いている。
運動部はほとんど必ず大規模な飲食物の出店を開き文化部も6月の火祭と異なり大学祭では出店を開く所が多かったが、文芸研究会は例によって部員数が少ないので出店には関与していなかった。
その代わりにグラウンドに隣接する競技場に開設された展示場には部誌『風雲』を設置・配布しており、演劇部が現在上演している屋外ステージでの舞台公演の脚本も文芸研究会の部員が書いていた。
今回の大学祭の演劇は二本立てで、先ほどまで上演されていたのはマレー先輩の脚本によるヒーローショー「ヴィーガンナーサイト」。
事前に脚本を読ませて貰った時点では大変面白い話に見えたのだが屋外開催のヒーローショーとするには世界観が複雑すぎたらしく、最後まで見ていた子供たちも単にヒーローのアクションを見に来ただけだったように思えた。
「去年やった『背後霊! ツキ子さん』は割と受けが良かったから、俺も来年は元の路線に戻してみるよ」
「何かそれものすごく面白そうなのでまた脚本見せて欲しいです」
「了解だ。おっと、そろそろ白神君の演劇が始まるぞ」
マレー先輩がそう言うとすぐにステージ上のスピーカーから演劇部の女子学生によるアナウンスが流れ、二本立ての演劇の後編となる「青春カケゴト論」の上演が始まった。
この演劇は僕が先月提出した舞台の脚本に基づいていて、人生で初めて書いた脚本なのでどれだけの人に見て貰えるかは楽しみであり心配でもあった。
屋外ステージには高校の教室を模して大道具が置かれており、写真部員にして演劇部でも活動しているヤミ子先輩が伊達眼鏡をかけて先生役を務めていた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は学級担任を務める一花はちかと申します。今日から皆さんには青春を賭け事に費やして頂きます」
教壇に立つ担任の一花はちか先生は入学したばかりの生徒たちに驚くべき使命を伝える。
「皆さんには今から1人につき10000ペセカの電子マネーが与えられます。3年生の終わりまでに賭け事で13000ペセカを稼ぐことができれば卒業が認められ、附属大学に進学できます。また、16000ペセカを稼ぐことができればその時点で飛び級での卒業も認められます。進級時と留年時には全員に1000ペセカが支給されますが、それ以外でペセカを増やすには賭け事しかありません。人生の勝者となるために、ここで戦い方を学んでください」
物語の舞台は近未来の日本の東京都にある私立丁半学園高校で、ここは学費が無料である代わりに賭け事で勝利し続けないと卒業できないという特殊なシステムの学校だ。
卒業できれば同様に学費無料の丁半学園大学に進学できるが高校3年生の終わりまでに13000ペセカを稼げなければその生徒は留年となり、2回留年しても卒業できなければ退学となってしまう。
生徒同士の賭け事には「1日の勝負は10回まで」「1回に賭けていい金額は100ペセカまで」「挑まれた勝負は必ず受けなければならない」といった様々なルールがあり、16000ペセカを稼いで飛び級で卒業するまではいくら勝っていても安心できない仕組みになっていた。
このような特殊な高校に集まった貧困家庭の生徒たちは互いに賭け事で争い、時に協力し時には衝突しながらも他者を出し抜く術を身に着けていく。
主人公の少年は最終的に一番の親友を蹴落として13000ペセカを稼いで卒業し、その親友は留年するというビターな結末を迎えた。
「先生、俺はこうまでして大卒資格を得るべきだったんでしょうか?」
卒業式で一花はちか先生にそう尋ねた主人公に対して彼女は微笑みを浮かべると、
「そう思えること自体が、あなたが成長したという証拠です」
短く答えて、そこで舞台は幕を閉じる。
「ぐあああああっ!!」
宇宙空間から転送されるという設定のパワードスーツを身にまとったヒーロー「ヴィーガンナーサイト」は、段ボールを加工して作られた大剣を振りかざすと目の前の異次元人を斬りつけた。
人類を食物連鎖の下位に置くため人間社会に完全菜食主義思想を浸透させヴィーガンになれない人々は処刑されるディストピアを作り上げた異次元人である高位ヤサイ人はヴィーガンナーサイト=植木菜人の活躍により全滅し、世界は人類の手に取り戻された。
「いよいよ終わったんだな、長い戦いが……」
「ああ。だが、歪みきった世界を元に戻すにはまた長い時間が必要になる。ヒーローとしての使命は終わるが、俺の戦いは続くんだ」
変身を解いた(=舞台裏に回って衣装を着替えた)菜人は彼の戦いをバックアップしてきたCIA捜査官ベイジーにそう伝え、物語はスピーカーから流れるエピローグと共に幕を閉じた。
「何というか……子供たちが集まってくれて良かったですね」
「うーん、正直これは失敗作だと思う」
「いやまあ、そんなことは」
2019年11月16日、土曜日。時刻は朝10時過ぎ。
朝から畿内医大の大学祭を訪れた僕は開場から間もない9時半に始まった屋外ステージでの舞台公演を見ていた。
隣ではマレー先輩も立ったまま演劇を鑑賞していて、未就学児および小学生とその保護者ぐらいしか残っていなかったプレハブの客席から人々が黙々と去っていくのを見て残念そうにしている。
畿内医大では例年11月中旬に第二キャンパスのグラウンド全面を使用して大学祭が開催され、この日はほとんどの部活が出店を開いている。
運動部はほとんど必ず大規模な飲食物の出店を開き文化部も6月の火祭と異なり大学祭では出店を開く所が多かったが、文芸研究会は例によって部員数が少ないので出店には関与していなかった。
その代わりにグラウンドに隣接する競技場に開設された展示場には部誌『風雲』を設置・配布しており、演劇部が現在上演している屋外ステージでの舞台公演の脚本も文芸研究会の部員が書いていた。
今回の大学祭の演劇は二本立てで、先ほどまで上演されていたのはマレー先輩の脚本によるヒーローショー「ヴィーガンナーサイト」。
事前に脚本を読ませて貰った時点では大変面白い話に見えたのだが屋外開催のヒーローショーとするには世界観が複雑すぎたらしく、最後まで見ていた子供たちも単にヒーローのアクションを見に来ただけだったように思えた。
「去年やった『背後霊! ツキ子さん』は割と受けが良かったから、俺も来年は元の路線に戻してみるよ」
「何かそれものすごく面白そうなのでまた脚本見せて欲しいです」
「了解だ。おっと、そろそろ白神君の演劇が始まるぞ」
マレー先輩がそう言うとすぐにステージ上のスピーカーから演劇部の女子学生によるアナウンスが流れ、二本立ての演劇の後編となる「青春カケゴト論」の上演が始まった。
この演劇は僕が先月提出した舞台の脚本に基づいていて、人生で初めて書いた脚本なのでどれだけの人に見て貰えるかは楽しみであり心配でもあった。
屋外ステージには高校の教室を模して大道具が置かれており、写真部員にして演劇部でも活動しているヤミ子先輩が伊達眼鏡をかけて先生役を務めていた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は学級担任を務める一花はちかと申します。今日から皆さんには青春を賭け事に費やして頂きます」
教壇に立つ担任の一花はちか先生は入学したばかりの生徒たちに驚くべき使命を伝える。
「皆さんには今から1人につき10000ペセカの電子マネーが与えられます。3年生の終わりまでに賭け事で13000ペセカを稼ぐことができれば卒業が認められ、附属大学に進学できます。また、16000ペセカを稼ぐことができればその時点で飛び級での卒業も認められます。進級時と留年時には全員に1000ペセカが支給されますが、それ以外でペセカを増やすには賭け事しかありません。人生の勝者となるために、ここで戦い方を学んでください」
物語の舞台は近未来の日本の東京都にある私立丁半学園高校で、ここは学費が無料である代わりに賭け事で勝利し続けないと卒業できないという特殊なシステムの学校だ。
卒業できれば同様に学費無料の丁半学園大学に進学できるが高校3年生の終わりまでに13000ペセカを稼げなければその生徒は留年となり、2回留年しても卒業できなければ退学となってしまう。
生徒同士の賭け事には「1日の勝負は10回まで」「1回に賭けていい金額は100ペセカまで」「挑まれた勝負は必ず受けなければならない」といった様々なルールがあり、16000ペセカを稼いで飛び級で卒業するまではいくら勝っていても安心できない仕組みになっていた。
このような特殊な高校に集まった貧困家庭の生徒たちは互いに賭け事で争い、時に協力し時には衝突しながらも他者を出し抜く術を身に着けていく。
主人公の少年は最終的に一番の親友を蹴落として13000ペセカを稼いで卒業し、その親友は留年するというビターな結末を迎えた。
「先生、俺はこうまでして大卒資格を得るべきだったんでしょうか?」
卒業式で一花はちか先生にそう尋ねた主人公に対して彼女は微笑みを浮かべると、
「そう思えること自体が、あなたが成長したという証拠です」
短く答えて、そこで舞台は幕を閉じる。
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